第100話訓練

「ゲホッ ゲホッ オエェ」



四つん這いになり激しく咳き込む音と共に、吐瀉物と血を撒き散らす少女。


身体は泥と汗に塗れており、お世辞にも綺麗な状態とは言えない。加えて少し前にも吐いた痕なのか、元は白く清潔感のあったシャツが赤く染まっている。今も吐き出した血が飛び散る。しかし吐き気は収まらず尚も嘔吐く。



「はぁ はぁ はぁ 大、丈夫、か?」



心配そうな声で語りかけて来たのは同じく元は清潔感のあったであろう白服を、血や汗それから泥などによって染め上げた男性だった。


顔を上げてみてみれば男性の顔には疲労が溜まっているのかどこかやつれたような感じがあるのがわかる。



「…はい。大、丈夫、です…」



そう言って立ち上がろうとする少女――ルインであったが、どうみても大丈夫には見えなかった。男性同様…それよりも疲労が蓄積し顔色も悪い。それも致し方ないことだろう。男性に比べルインは歳も体躯もまだまだ成長途中なのだ。



「肩、貸すよ」



息切れが収まってきた男性がルインの脇を掴み支えながら立ち上がらせると木陰へと連れて行く。



「少し休憩したほうがいい。このままじゃ潰れる」


「…」



返事を返すのもしんどいのか木にもたれかかりながら瞼を閉じていく――


そうしてここへ来た時のことを思い出していた。





~~~~~~





それは一週間ほど前のこと――


声からしてその人は男であろうということがなんとなく分かるくらいで、歳も顔も何もかもが不明の人物。その人に獣爪ビーストヴォルフのところから"条件"を飲む代わりに買われた。それから連れてこられたのが今いる場所。


獣爪ビーストヴォルフアジトの転移魔法陣から移動した先は周囲全てを森で囲まれた場所だった。そこには不自然にぽっかりと開いた場所があり、そこに移動していた。


誰かが伐採したであろう木のあととして切り株があちこちにあり、足場もあまり整地されておらずゴツゴツしている。


木々が邪魔で見るのには苦労するが、下を見渡せば獣王国を見ることができることからここが山などの高所だというのが分かる。


開けた森の中には端の方に数十人が寝泊りできる建物が建てられていた。ただそれは生活を快適にする家具などが置かれているわけでもなく最低限のものだけが置かれた、言わば軍人などが使う拠点のようなものと言えた。


プライベート空間などはなく、唯一男女で部屋が分かれている程度のものだ。


部屋には二段ベッドが数個ありそこで毎日を送ることになる。食事や掃除は当番制が採用されており、なんだか更生施設のようなイメージを抱かせるかる。


白髪白仮面の男――セリムの後を追い、ルイン達奴隷一行が連れられきたのはそんなところだった。


ここは獣爪ビーストヴォルフ内に入ったばかりの新人や組織にとって不利益を働いた者たちが送られる教育施設。


ここにいる連中は全て獣爪ビーストヴォルフの関係者である。


セリムたち一行が来た時にも訓練している者が数人いたが、皆ルインに視線を向けてニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。


多方ド新人が来たとか、それが子供だからとかそういった理由で舐めくさっていたのだろう。下卑た視線を向けられたルインだったが怯むどころか逆に睨み返していた。


そんなこんなで連れてこられた一行はここでしばらくの生活を送ることの旨を説明され、"条件"の内容を詳しく説明された。



・しばらくはここで心身を鍛えること


・ある程度実力が付いたら実際にここから出て活動すること



活動内容は主に情報収集。様々な地に趣いて必要な情報を集めてくること。


無論危険な場所にも行くため戦闘を十分にこなせるようにとの言葉を放っていた。


そうして連れてこられた三人は連れてこられた当初こそ身体を休める意味で訓練はなかったものの次の日からビシバシと鍛えられた。


まず体力作り。次に戦闘訓練を永遠とこなささせられた。


早い段階から実践を踏ませるために無理矢理にモンスターと戦わせレベルを上げさせると、冒険者ギルドにて職業を取得させそこからはまた只管に体力作り→訓練→実践とループを繰り返していったのだ。


だが戦ったこともない者もおり、そう都合よく強くなれるわけでもない。毎日毎日身体をいじめ抜き続ける生活に精神が参ってしまっていた為に体調も崩しやすくなっていた。


しかし、その程度でセリムが手を緩めることも優しくなることもなかった。


かなり強引なやり方ではあったが、そんじゃそこらの冒険者がつけている装備より上等の、寧ろかなりいい性能の装備を幾つも買い与え、精神を回復させる薬などを使い無理矢理に訓練させたのだ。といってもやっているのはセリムではなくセルシュなのだが…


奴隷達が訓練している間セリムは一人手近なダンジョンに潜り只管に金を稼ぐということをしていた。


せっかく育てているのに途中で壊れてしまっては困るのだ。だからこそ与えられるものは何でも与えていた。それこそ金も装備も望むものを、必要な分だけ。


毎日訓練後には、息抜きなどに使えるようにと訓練した給金として金を渡し、自由時間を与えていた。


そうやって上手く調整することでなんとかやってはいるのだが訓練がきつく毎回三人は血反吐を撒き散らす。


男性はどうやら鳥人だったらしく獣人として優れた肉体で二人よりも疲労は少ないもののまったくないわけではなく、目に見えて疲労が溜まっていっていた。


その様子を見つつルイン自信も経験したことのない疲労を覚えていた。





~~~~~~





「大丈夫?」



声を掛けられ瞼をあけて見ればそこには一緒にここへきた鬼人族の女性がいた。


大量の汗をかいているせいでシャツが張り付き女性としての凹凸のはっきりした肉体がくっきりと表れていた。


おっとりとした雰囲気を纏う鬼人族の女性の声は優しさに溢れているように聞こえる。ルインの磨り減った精神を少しばかり回復させていた。



「少し、休めば」



先ほどよりは楽になったこともあり、言葉がスムーズに出てくることを感じていると男性とは反対側に腰を下ろす女性。



「…奴隷から助かると思ってきたけれど、こんなんじゃどっちが良かったのか、私にはわからないわ」


「確かに、そうかもしれないな… でもあそこで死ぬよりはここの方がいいとは思うよ。ただの奴隷だったならこんな休憩時間なんて許してもらえないだろうし、ましてや訓練したあとには給金がもらえる。それも必死に働いて稼ぐよりも圧倒的に多くの金が毎日」


「そうね。その点だけ・・ならばここは最高の場所と言えるでしょうね」



渡された金は何に使おうと自由と言われており、使い切ってしまっても翌日にはまた入ってくる。装備もこれが使いたいなどと言えばそれを用意してもらえるのだ。


しばらくはここでの生活だが、訓練期間が終われば下に見える獣王国内ならばどこにでも住んで良いと金をもらえる約束まである。


普通の奴隷ならば考えられないようなサービスだ。第三者から見たならばまるで主従が逆であるかのようにも見えるかもしれない。



「ここでの訓練が終れば次は実際に活動させられる。それがどんな事をするのかなんて俺にはわからない。けど、そうなれば奴隷の身だとしても自由に近い状態が手に入る。そうすれば家族に会いに行きたいものだな」



虚空へと視線を向ける男性に相槌を打つ女性。



「そうね。ここでの暮らしは衣食住何もかもがあっていいけれど、やっぱりいつまでの奴隷でいるのは…考えものよね。自分で、自分の力で生きていきたいものね」



訓練が終わればセリムの奴隷という身ではあれど、かなりの自由が効くように説明がなされている。


もちろん危険な仕事をこなすのが前提ではあるが、結果として世界の各地へ赴くことになるだろう。そうすれば家族や大切な者たちにも会える機会があることは可能性として高い。


こんなことは奴隷には過分なものでとても常識から外れているが、三人にとってみれば嬉しいものであった。


斯く言うルインも、訓練後に与えられた時間は自身の実家でもある孤児院を訪れていた。


連れ去られて以降無事だったこと、それから白髪白仮面の人物に買われたが無事で過ごしていること、今日の出来事を話したり聞いたりと毎日通っている。


給金に関しては必要分以外は全て孤児院に渡しており、以前よりも生活が楽になりましたとセリムにお礼を告げていたりする。


だから訓練が辛く危険な仕事だろうと言えどセリムには感謝しているのだ。


自分が頑張ればそれだけ孤児院家族のみんなが楽になれるのだと思えるから。それに力を持てればみんなを護って、もう誰ひとりとして家族を失わないようにもできる。



歪かもしれないが、今がとても充実している様な不思議な感覚にとらわれていた。



「…これは私達が選んだ道です。どんなに苦しくても頑張らないと」



自分にも言い聞かせるように呟くと訓練を再開するべく歩き出した。





~~~~~~





数時間後――


気分が回復した後は体力作りにセルシュとの模擬戦をこなし、昼近くなったために昼食をとることになった。


三人+セルシュはこの場にて唯一の建物である宿舎へと戻ってきていた。


先頭をセルシュ、次に鬼人族の女性、男性、ルインの順番でドアをくぐっていく。ドアを潜った先は皆が集まって食事を取るための大きな部屋があり、皆からは食堂などと呼ばれてる。


食堂の奥からはグツグツと今日の当番の人が料理をしている音といい匂いが漂ってくる。


最後尾にいたルインが潜ったドアを閉め食堂の方へと振り向くと、露骨に顔を顰めた。


食堂内に並べられた木製の長テーブルと椅子。その一つのに肘を付きながら座っている人物――獣爪ビーストヴォルフリーダー、チェルス・ディードに。


服装は合いも変わらずアロハシャツに短パン、ビーチサンダルという風貌だ。前面には白い仮面を付けたセリムが座っており、チェルは笑いながら何かを話している。



「いやぁ~ 儲けさせてもらったよ。ラードーンの魔石が思ったよりも高く売れてよ、入用だった他種族の魔石や奴隷なんかを一杯買えたからな」



ハハハと陽気に笑うチェル。奴隷を買ってここに来て翌日のことだ。チェルはひょっこりと顔を出してはセリムに「何か他に珍しいものないか?」や「依頼はいつ頃達成できる?」などと毎日の如く訪ねている。



「達成したらこっちから出向く。一々ここに来んな、うぜぇから」



瞬間、周囲の獣爪ビーストヴォルフの育成メンバーや罰としてここにいる者たちから殺気が発せられる。


風貌は巫山戯たものだが、セリムの前にいるのは自身が属する組織の頂点である人物なのだ。


尊敬の念を抱き、誰もがボスであるチェルに認められたいと思っているのだ。そんなボスに舐めた口を聞いたセリムに剣呑に細められた視線と共に殺気を向けるのも致し方ないものだ。

しかし、セリムはまったく堪えた様子はなく、先程までと変わらない態度を貫いていた。


周りにいた獣人たちは、その態度が自分たちを煽っているものであるとおもっているのだが、決して誰も突っかかろうとしない。


それもそのはずで、少し前に同じ様なことがあり、突っかかった獣人がいたのだ。しかし、それをセリムは容赦なく殺していた。ただ殺すだけではなく殺した後にさらに身体を引き裂きへし折り、周りで見ていた奴らに投げつけていた。



「他にこうなりたい奴はいるか?」



そんな問いかけと共に。


以降獣人たちはセリムの異常とも言える、

人を作業のように淡々と殺す様に恐怖を覚えた。結果、威嚇行動はするものの誰も突っかかることはくなったのだ。



「その辺にしろって… お前らも殺気を出すなって前にもいっただろうが。俺が怖くてビビっちまうだろうがよ」



曲がりなりにも闇組織のトップの務める人物がこの程度の殺気で怯むはずなどない。


そもそもチェルには殺気は向けられていないのだ。これはあくまで場を和ませるために冗談を言ったに過ぎないことを皆が理解していた。


周囲を見渡しながら「ほら、抑えろ」と手首だけを動かし手を上下にパタパタ揺らす。周りを沈めている中、ある一方向を向いた際に自身に殺気が向けられているのを確認する。これみよがしに大きくため息を吐いた。



「俺が来る度にそうやって毎回毎回睨まれてもなぁ~ 俺はお前がどんな風に俺を思っててもどうでもいいし、お前の孤児院のやつらにやったことを謝る気もない。こちとらあれも仕事の内だからな。それに家族?はどうせもうこの世にはいないし何したって蘇ることはないんだから諦めろよ」



悪びれもせずに殺気を向けてくるルインに告げる。


ローアがクロントに戦争を仕掛けることを、結構前に獣王から聞かされており、ブースタードラッグを大量に作るように発注があった。


そこで孤児院などからも何人も攫い、殺し薬へと変えていた。蘇生する術があったとしても薬になる時点で肉を削ぎ落とし飼っているモンスターの餌に、骨は粉末状にし、薬草などと調合してしまっているため既に蘇生など不可能だ。


謝られても腹は立つが、完全に煽る言い方をされるとなおのこと腹が立つ。



「ふざけんなっ! この人殺しっ!」


「…はぁ 俺が人殺し? ならお前たちの主はどうなんだ? こう言っちゃなんだが、俺よりも殺ってそうな雰囲気があるぞ」



いきなり話題が自分に向いたことに面倒な…と仮面の下の顔を歪める。


チェルが言い放った至極正論――人を殺す現場を観ているため――に言い返す言葉に詰まってしまう。



「…うるさいっ うるさいっ うるさい! みんなを返せっ!」



出会った当初の年齢にしてはどこか大人びた印象を受けたルインの姿はなく、叫びながら恨みを晴らそうとチェルに向かっていく様は年相応よりも若干幼く感じられる。



「いい加減聞き分けろよ。そんなことしたってどうしようもないことくらい考えればわかるだろうに… それとも家族の元に逝きたいのか?」



そう言うと近場にいた獣人が持っていた剣を奪い取る。それをルイン目掛けて横殴りに振ろうとした。


しかし剣はルインに届くことは無かった。


抜剣した直後、自身の首元に剣が突きつけられていた為に――



「折角育て上げた奴を殺させると思うか?」


(…っ)



抑揚のない声音で放たれた言葉。


仮面の所為で表情をうかがい知ることはできないが、機嫌を損ね掛かっているだろうと今までの経験から感じ取っていた。


チェルが動くよりも後に動いておきながら剣を突きつけたその速度。セルシュとチェル以外には視認できなかっただろう。ただ視認できても身体が認識速度についていかなければ見えていないのと変わらないが。



「…はぁ 冗談だ冗談。 お得意様である、あんたの大事な奴隷を殺すわけないだろう? アロハジョークってやつだよ」



チェルとしては自身の部下を既に何人も殺されており、たった一人殺すくらい問題ないだろうと思っていた。


だが、世の中は理不尽であり力無き者はどんな理不尽をも認める他ない。それは今まで自身がやってきたことでもあるため十二分に分かっていた。


ルインを殺すよりも自分の首を落とされる方が早いだろうことを理解し、渋々抜剣しかけた剣を鞘に戻す。それから剣を引いてくれとセリムに声をかけた。


途端、粒子となって消えていく剣。


ちなみに今回突きつけた剣は、以前アーサーを含めた三人と戦った際に村で殺した聖騎士たちから回収しておいた青剣だ。


消えていく剣を見ながら安堵の息を吐くチェル。急な展開についていけず思わず足を止め呆けてしまったルイン。変な空気が漂い周りがどうしたものか… と悩んでいるとドアをノックする音が響いた。


近くにいたセリムの奴隷の男性獣人がドアを開ける。そこには深緑色の外套を着て、目深にフードを被った二人組みが立っていた。


男性は見知らぬ二人組が誰かの知り合いか確かめべく背後を振り返り、皆の反応を伺う。が、誰も反応せずどちらさまか誰何しようと振り返ると、中を覗くように頭を動かしていた人物が声を上げた。



「屋敷に戻れ。話がある」



それだけ告げるとそそくさと退散してしまう二人組。


建物の中にいた者たちは皆頭の上に疑問符を浮かべ「何だアレ?」とつぶやく。唯一言葉の意味を理解できるのは話し掛けられた人物――セリムだけだった。


困惑が場を支配する中、徐に椅子から立ち上がるとドアへと向かって歩いていく。最中、チェルに声をかけられる。



「ありゃ、あんたの知り合いか?」



短い返事を返すと歩みを再開し、ドアの目の前まで来る。ドアノブに手を掛けるとセリムは口を開いた。



「チェルス、俺のいない時に奴隷に何かあったら…分かってんだろうな」


「何もしないから安心して行ってこいって」


「…セルシュ、世話は頼んだぞ」


「ん。わかっ、た」



最後まで返事を聞くこともなくドアは閉められセリムは宿舎をあとにした。





~~~~~~





ザッザッと地面を踏みしめながら開けた場所と森の丁度境界の位置にいる二人組にもとへ歩いていく。



「奴隷買いに行くとか言ってた癖に何やってんだよ、テメェはよ」


「…そんなことより何の用だ?」


「無視してんじゃねぇーよ、ガキが…」



舌打ちとともに被っていたフードを外し素顔を晒す。そこにはセリムの予想通りの人物――エドガーがいた。



「詳しい話は俺もまだ聞かされてねぇんだが、屋敷に全員が集まり次第ラグリアから話があんだとよ」



あんたはどうなんだ?ともう一方の外套を着た人物に視線を向けるセリム。



「私も何も聞いてないよ」


「誰かと思えばカルラか…」


「そうよ。ここまで君の魔力を追ってくるの大変だったよ。途中からいきなり魔力の跡が掻き消えて遠くにあるんだもの」


「無駄話しはいい。それよりもさっさと帰んぞ」



エドガーの言葉にカルラが頷くと空間に亀裂が入ったかのように裂け、人一人が通れるくらいの楕円形の穴が出来上がった。先にエドガーが入り、カルラに促されセリムも続いた。





~~~~~~





「どうやら私が最後のようですね。お待たせしてしまい申し訳ないですね」



手近にあった椅子へと腰を下ろしていくと「始めましょうか」と発する。



どこかの森の奥深くにある屋敷。会議室のような整えられた机や椅子があるわけではなく、今は火が灯っていないが暖炉の前にあるソファーや応接間のように組み合わさった椅子…様々なところに置かれた、もしくは自身で置いた椅子に各々適当に腰掛けている。


現在この部屋に集まっているのは七人だ。


色欲の神敵者であるラグリア・フォルネス。


数少ない吸血鬼で鬼人族のヴァイン・シリウス。


同じく鬼人族であるフォルカ・モルーガ。


海人族であるフーヴェル・シャガ。


獣人であるエドガー・ライネル。


加えて四百年前に人間国家に属し、化物の集団であるグラムールこと旧邪神教団を相手に戦い、多大な戦果をあげた伝説の人物。魔眼の魔女ことカルラ・バーミリス。


そして八つ目の神敵スキル保持者となりて神をも喰らう獣、セリム・ヴェルグ。


この七人が集っている。



「今回集まってもらったのは獣王国との共同目的でもある、クロント王国に対して戦争を仕掛けることについてです。先方から頼まれごとをされまして、それを皆さんに事後報告となりますが報告としようと思いましてね」


「それでですね、これから言うことは結構重要なことですので皆で協力して行きましょうか」



周囲から興味深そうな息遣いが漏れれ。さっさと内容を話して欲しいという顔つきがチラホラ見える。



「取り敢えず説明だけしますので質問などは最後にして下さい。では――」



そうしてラグリアは、先週獣神であるエグルから依頼された内容の詳細を説明し始めた。


決行予定日は今日から三週間後。丁度獣王祭が開催される日にクロント王国領にある港町を除いた各都市――計三ヶ所にてこれから行われる戦争の兵力になる、冒険者や騎士を殺すこと。


戦力になりそうな者やこちらに寝返りを希望するものがいれば連れてきて欲しいと言った。


特にこれから戦争の相手国となるローアは獣人の国であり、クロント内にて獣人の確保をして欲しい旨を強調した。


誘いに乗れば良し、乗らずとも戦争の影響で立場が危うくなり結局はローアにくるハメになるだろうと笑みを浮かべながら。


それから誰が三ヶ所ある内のどの都市を担当するかの話になり、既に決めてあったらしく迷うこともなく話を進められた。


ラグリアとフーヴェルで王国に最も近い都市、迷宮都市クイールを。


ヴァインとフォルカで都市アルスの隣にある商業都市ラトレイユを。


セリムとエドガーは城郭都市アルスを。


カルラは遊撃としてピンチになっているところの支援や冒険者などの運搬にと役割を分けられた。



「先程も言いましたが、出来れば戦力になりそうな者たちは殺さないで連れてきてもらえると助かります。それからアルスには後二週間もしない内に王国から派遣された騎士が到着すると思います。まぁ、これはいらないので全て殺してもらって構いませんよ」


「それから、今現在アルスにはレイニー・グレイシア、アーサー・ソリッドなどの高位冒険者は不在とのことですのでアルスは比較的簡単に落とせると思います。最後に、侵攻の仕方は各々に任せますが念のために各所に私が捕獲したモンスターを配置させますので必要になったら使ってください」



そう言って話を締めくくった。以降は質問タイムとなる。



「質問よ。都市を落とすって言っても戦力を分散させていいのかしら? アルスはともかく他の都市にはSランク冒険者が複数常駐しているんじゃなかったかしら?」


「フーヴェルさんの指摘はもっともですが、たかだかSランク程度・・・・・・・・・・の冒険者百人居ようが二百人居ようが物の数ではありませんよ」


「貴方がそう言うなら問題ないんでしょうけど、念のために聞くけど何故かしら?」



問われたラグリアは薄気味悪い笑みを浮かべるとゆっくりと口を開いた。



「それは――」

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