第81話変わりゆくもの

「ゲホッ…はぁ はぁ はぁ」



口から大量の血を吐きながらも、地面に剣を突き刺し、倒れまいと踏ん張る聖騎士ボルグ。


しかし、傍から見れば既に満身創痍でいつ死んでしまってもおかしくはない。


鎧は至る所が砕け、ひしゃげてしまっており、壊れるのも時間の問題だ。鎧の下に着ていたであろう服は血で真っ赤に染まっており、元の色が分からない。


対して聖騎士前に立つ人物――セリムは、かすり傷一つない。息などの乱れもなく、今にも倒れてしまいそうな聖騎士と無傷のセリム…このことから戦闘ではなく一方的なものであると予想できる。


ボルグとて聖騎士だ。日頃からの訓練、実戦での経験と幾つもの戦いを経てきた。


しかし、こうも一方的なものは初めてだった。何とか反撃するもまったく通用しない。それどころか回避され、反撃される始末。防御に徹しても防御を超える攻撃にダメージは増える一方だった。


それでも二の足で立ち、決してセリムの問いかけに応えないのは騎士としての矜持故か…


だとすれば、ボルグの王国への忠誠心の高さには感服させられる。



「…な、ぜ… 私を、ころさ、ない…」



止めを刺す機会はいくらでもあった。


現にこうして今もボルグは隙だらけだ。


セリムは一撃加えた後は何もせずずっとボルグを見つめるだけだった。一撃を与える毎に話したくなったか?と問いかけていた。



「さっさと情報を吐けよ…そしたら殺してやるからよ」


「っ、王国…の情報をきさ、まに… っが!」



何回問うても、教える気がない!と言う返答ばかり… さすがに我慢の限界だった。


紫電の雷槍ライトニング・ピアスで右足を貫いた。何とか剣を支えに立っているが、顔には苦悶の表情が色濃く表れている。



「…お前の意見なんか聞いてねぇんだよ」



感情のない瞳で見下ろす。身体からは魔力が放出されており、感情とは裏腹に時間が立つ程放出される魔力も殺気も膨れ上がっていた。


もし殺気が可視化出来るならばきっと、周囲の空気が激しく縦揺れし、振動でゴオォォォと音が鳴っていることだろう。


さしもの聖騎士も殺気、攻撃がまったく通用しないという絶望、怪我の3つが合わさり顔色が青を通り越して白い。



「…これが最後だ。さっさと吐け」



殺気は一切消さず、寧ろ高めながら最後通告する。



「っ…何遍もっ…」



言わせるな!と拒絶の反応を示そうとしたボルグだったが、右側から鮮血が上がる。ピチャピチャと顔にふりかかった。


前方を見れば、何か物体を投擲した姿で残心しているセリムの姿がある。



目を離さず観察していた筈が何が起こったのか理解出来ない。


だが、直後後ろで響く倒木音と目の前に落下してきた自身の腕を見て気付かされた。



「ぐっあぁぁ」




状況を理解したボルグ。しかし、痛みに顔を顰め額には脂汗を大量に浮かべている。徐々に近付きつつあるセリムのことに気付かない。




ーーーーーー




「はぁ はぁ はぁ」



遠くを見通すことの出来るスキルを持ったメルケルを先頭に、ザイドリッツ、アーサーが続く。


当初は、メルケルしか煙を視認できなかったが今は二人とも確認できていた。急ぎ状況の確認をすべく向かっている。



「もうすぐ着く。もし戦闘になっても喧嘩だけはやめてくれよ」



それだけが心配だ、とメルケルが振り返りつつ声を掛ける。


アーサーはこいつから絡んできてんだよっ!と隣を走るザイドリッツを指さす。対してテメェからだろうがっ!とアーサーを指さしお互いにやんのか!?とメンチを切りあっている。


その光景にため息を吐きつつもAランク冒険者として、幾つもの戦いを経験してきた二人なら弁えるべき所は分かっているだろうと、未だ後ろで騒がしい二人の声を聞き流しながら煙の上がる場所へと走っていった。


一騒動言い争いがあってから数分と立たない内に三人は目的の地、煙が上がる場所へと辿り着いた。


周囲を見渡すと激しい炎に包まれた、家屋らしき建物。腰を抜かし動けないでいるのか地面に座っている村人。


そしてその村人たち全員の視線が真っ赤な炎に包まれた場所の前に立つ白い服を着た人物に向いていることに気付く。


白服の人物に向く村人の目が恐怖や畏怖といったいずれもいい感情ではないことを感じ取る。


血と肉の焼けるような嫌な匂いが充満していることからここで誰かが殺されたのを知り、戦いになるだろうと顔を見合わせた。


三人は、上級冒険者らしく一瞬にして気持ちを切り替え、鋭い目付きになると闘志を漲らせた。


ある程度距離を保ちつつ、白髪の白服といった全身白一色の人物に近づいていく。三人を代表してアーサーが少し強めの言葉使いで誰何する。



「お前、そこで何をしている? ゆっくりとこっちを向け!」



一度で言うことを聞いてはくれないだろうと思っていた面々だったが、思いに反して白ずくめの人物はゆっくり振り返った。


それにより先ほどまでは背に隠れて見えなかったものが見えてしまい動揺が走る。



「…っ!?」



切り落とされたのか四肢の全てが欠損している鎧を着た人物。鎧は大部分が壊されるかヒビが入っており、大量の血が付着している。


鎧を着ている人物の心臓部分からは白ずくめの人物の真っ赤に染まった腕が突き出ており、事切れていることが分かった。


ザイドリッツとメルケルの二人は惨い殺され方をされた人物に眉間に皺をよせ、警戒心を露にする。


その中で唯一聖騎士であったアーサーだは、鎧の人物が聖騎士であることを鎧の形状から見い出していた。地面に落ちている四肢、及び剣を見つけ剣聖騎士団であると詳細を把握していく。


聖騎士とは王国を守護する存在であり、聖騎士を殺害すると言う事は王国に対して宣戦布告するということと言える。


元聖騎士だったアーサーは誰よりもそのことを理解している。そしてそれが激しく動揺を呼んだ。


考えに気が向いていて振り向いた人物が誰なのか気付けていなかったからだ。



「…そう言えばあんたも聖騎士だったな、アーサー」



声を掛けられ聖騎士へと向いていた意識が切り替わる。



「誰だ、お前?」



以前とはまったく髪色が違う。表情も感情が抜け落ちたような冷たくなっている。目も色彩は薄くなったのか茶色だったのが灰色に変わっている。


その為、当初は訝し気な顔をしていたアーサーだったが、背丈や見た目の年齢、自身を知っていること、一月近く前にいなくなった存在が目の前の人物の特徴一致する点があった。


まさか…と言う思いが胸中を過った。



「…お前…セリム、か?」



あまりの変わりように確信が持てなかった。


ボルグだったものから腕を抜きとると、未だ轟轟と燃ゆる炎に向けて死体を投げ入れた。それから口を開く。


あまりにも自然な動作で人を処理していく。その様は、これが単なる作業であり何とも思っていないと告げていた。



「…あぁ、久しぶりと言うべきか?」



言葉自体は普通だったが声音が、感情が、冷たい。


一切熱のこもっていない無機質なものであり、それだけに酷く温度差のある言葉に違和感を覚えた。


信じられない…信じたくはなかった事実を突き付けられたアーサーは、一月という期間にセリムに何があったのかと考える。


ザイドリッツやメルケルが知り合いか?と視線を投げかけてくるのもまったく気づけないほど思考の海に没していた。



「あんたらがここに何の用かは知らないが、俺はやらなければならない事がある…だから退け」



それだけ言うと緑生い茂る木々へと姿を消そうとする。


が、そこへ待ったの声がかかり面倒くさそうに振り返るセリム。



「セリム…お前、自分が何をしたのか分かっているのか?」



問われたセリムは感情のない冷たい目でアーサーを見つめ返すと、何を怒っているんだと思いながら口を開く。



「…何? そんなもの決まってるだろう。…ゴミ掃除だ」


「お前、何言ってんだ…」


「それはこっちのセリフだ。ゴミを処分するのは当たり前のことだろう? 教わんなかったのか?」



狂気に染まった発言。場に得体の知れない緊張感が生まれる。


完全に話が噛み合わず、このままじゃ無意味な問答を繰り返すと思ったアーサーは「何があった?」と問いかけた。



「何もない。そう、俺にはもう何もなくなった。何も無い世界など価値がない。だから俺を地獄に落とした奴らを殺す。俺から何もかも奪った奴らを殺す。その手始めに王都全てを破壊し、その後はこの世界を尽く壊す。それだけの話しだ」


「こいつ、イカレてんのか」



堂々と王都を襲う宣言に出来るわけがないと、その前に確実に殺されるだろうと誰もが簡単に予想できることをやろうとしている精神に、ザイドリッツが狂っていると苦言を呈す。



「セリム。お前…死ぬぞ」


「それは俺を心配しているのか? それともあんたらがここで俺を殺すのか?」



そう言った瞬間、セリムの目が細められ殺気が放出される。



「邪魔すんなら、手始めはあんたらってことになるぞ」



息を呑む三人。今までに感じたこともない、まさに津波と評してもなんら申し分ない程の殺気が全身を包み込むように放たれたのを感じたのだ。


額に嫌な汗が浮かんでくる。



「お前に何があってそんな風に変わっちまったのかは知らねぇ。だが、何も関係ない奴らを殺すと言ってる奴をこのまま見逃すと思っているのか…」


「そうだな。前まで関係のない奴等はどうでも良かったんだか、よく考えたら、どうでもよく思えたんだよ、だからついでに殺すことにした…まぁ、そう言う訳だがなら、邪魔すんなら、手始めにあんたらの命を頂くぞ」



瞬間セリムの姿がブレた。気付いた時には既に接近しており右手には剣が握られていた。



「っつ!?」



即座に剣を腰から抜き放ち頭上に掲げガードする。ガキィンと金属同士がぶつかる甲高い音と火花が散った。


何とか防御したのも束の間、気付いた時には先程まで上空からを斬撃を見舞ったセリムは地面におり、突きの体勢を取っていた。



(間に合わねぇ!)



初撃を防げたのは偶然といっても良かった。念のために纏衣を使用していたのと上空から振り下ろされた時の空気音に反応して、反射的に抜剣したことで防げた。


だが、二撃目は視界では捉えられるが身体がついてこない。一撃貰ったあとで反撃に転じるしかないか…と分析していると、不意に左腕が後ろから引っ張られる。体勢が逸れ、突きは空を切った。


内側に後、数㎝ズレていれば完全に腹に刺さっていた剣を見つめ、冷や汗を流すアーサー。その眼前を空気を巻き込むように回転・・する魔力の矢が二本、セリム目掛けて放たれた。



「悪い、助かった」


「そんな事はいい。それよりも何だあいつは? 速度が尋常じゃないぞ」



アーサーはザイドリッツの使う鋼糸と呼ばれる糸に腕を引っ張られる事で命拾いをした。普段は喧嘩する中だが、いざ戦闘となればそんな事関係なく助け合える、信頼のおける間柄だ。



「俺に言われても分からん。ただ言えるのは生半可なやり方じゃこっちが殺られるってことだ」



冷や汗を流しながら見つめる先には魔力で出来た矢を剣で叩き落したセリムが近づいてきていた。


攻撃をした直後の一瞬を狙って放たれた矢を、いとも容易く見切り叩き潰す反射速度、Aランク冒険者である自身を圧倒的に上回る速度。


これら二つの事実に内心ヤバいな、と表情にはださずにいるが、頬を伝う冷や汗が内心を物語っていた。



「分かったよ」



手甲刃てっこうばと呼ばれる手の甲の部分に鉱石が埋め込まれた革の手袋を嵌めながらザイドリッツは油断なく頷く。


それを待っていたかのようにセリムが動きだし、アーサーは二人に鋭い声で伝える。



「来るぞっ!」



もう一本の剣を腰から引き抜き、両手に剣を持ったアーサーはセリムを迎えうつべく走り出した。


背後には援護出来るようにザイドリッツが追随し、後方支援をメルケルが務めるという陣形。


徐々に狭まりつつある両者の距離。


五m… 四m… 三m… 二m…


そして一mとお互いの剣での攻撃範囲に入った瞬間、右手に持った剣を振り下ろす。聖剣技を使用し黄金のオーラを纏わせた剣を。


しかしセリムはそんな鈍間な攻撃など…とばかりに簡単に回避する。だが、アーサーとて初撃など最初から当たると思っていない。



「っ!」



短い呼吸と共に剣技"反射剣リヴェルベロ・ソード"を使した。


セリムに避けられ地面に当たった剣がいきなり剣身を翻し、セリムへと襲いかかる。


剣技をほとんど使用したことのないセリムは、力一杯振り下ろされたであろう剣が威力、速度共に失わず、迫る事象に一瞬感心する。が、すぐに興味が失せると回避に回った。


だが、回避先にザイドリッツが鋼糸を飛ばし進路妨害をしていた。


そのまま体当たりでもしてぶち破ろうかとも考えるが、せっかくAランク冒険者と戦えるのだ。自身の実力を確認するかと軽い気持ちで剣を受け止めた。


随分と軽い剣だな…とセリムは膂力の差を感じとった。


攻撃を防がれたアーサーは特段、悔しがる様子も無い。寧ろその程度読んでいたように今度は左手に持っていた剣で仕掛けた。


逆手に持ち代える。聖剣技"重聖天なる十字架グランド・クロス"を放たずに、剣に宿す。


黄金のオーラに魔方陣が浮かぶ剣で薙ぐように振るう。セリムは剣ではなく、柄を握る拳を掴むことで攻撃を不発に終わらせた。


即座に切り替え、鋼糸のない方、横移動する。するとアーサーの陰に隠していた鋼糸が十数本放たれる。剣や腕、足に糸が絡みつき動きを制した。



「アーサー! 固めろっ!」



ザイドリッツの叫び声に聖剣技"聖天縛鎖ホーリー・ケッテ"を発動、地面に勢い良く黄金のオーラを纏った剣を突き立てセリムを更に拘束する。


セリムの速度に攻撃が追いつかないと初撃で判断していた面々は、まず拘束することを選択した。


一瞬の隙を作り拘束、さらに拘束を重ねた。二重の拘束を施したがアーサーはまだだ…とさらにもう一本地面に剣を突き立てた。


ジャラジャラと騒々しい音が響き、セリムを三重に拘束する。全身を光の鎖で巻かれ、首から上以外は自由を奪われた。


アーサーがゆっくりとした歩調で近づいていく。


聖天縛鎖ホーリー・ケッテを使用した剣は地面に突き刺したままで、新たに二本剣を持っている。顔には油断はない。だが緊張しているのか表情は固く、口は真一文字に結ばれている。


ザイドリッツは鋼糸を外されないように肉に食い込ませる程強く引っ張る。


革の手袋とシャツの袖の間からは除く腕には血管が色濃く浮き出ており、かなりの力で引っ張られているのが分かる。口は食い縛られ、目つきは真剣そのもので細められている。


その後ろではメルケルが魔力で出来た矢をいつでも放てるようにしている。


そんな三人に対しセリムの顔には恐怖や緊張と言ったものはうかがえない。


それどころか何も浮かんでいない。いや、正確には目には感情が浮かんでいる。瞳には、酷く冷たさを感じさせる黒い炎が浮かんでいた。



己の力の無さを――


奪われた怒りを、悲しみを――


世界に対する呪いを――



それらのものを宿した瞳は、暗く黒っぽく見える。



「…セリム。お前を心配してる奴がいる」



その声は怒りでも悲しみでもなく、優しさを感じさせるものだった。



「心配?」



ハハハと渇いた笑い声を上げて一笑に伏す。



「そんなものいらねぇし、必要としてねぇんだよ。そんなことしてる暇があんなら自分の身でも心配しろ…そう伝えとけ」


「てめぇ…」


「呑気に、してんなよ…」



セリムの身体からドス黒い瘴気のようなものが放たれると聖天縛鎖ホーリー・ケッテにひびが入り始めた。


ひびは徐々に広がっていき聖なる鎖は完全に砕け散ってしまった。


アーサーが驚きの声を漏らす。何でそのスキルをセリムが…と呟きながら驚きによって力の抜けた手に再び力を込めて剣を握る。


まるで怒りを込めるように…


鎖を破壊したセリムは肉に食い込むようにして巻き付いている糸を断ち切るべく腕を動かそうとする。だが、糸がどんどん食い込んでしまい、このままでは腕が切られてしまう。


先に何かしら手を打っておけば対抗手段もあっただろうが今はない。ザイドリッツは拘束が一つになったことによる焦りが生まれていたが、肉に食い込む鋼糸を確認すると少し安堵したのか余裕が戻ってくる。


しかし、その余裕は直ぐに崩された――


"鉄壁硬化"により衣類諸共自身を硬化する。腕を外側に動かす事で断ち切ろうとする。



「もう、もたねぇ…」



断ち切られまいと今まで以上に力を込めて糸を引っ張るが、その腕は徐々に外側に開かされつつあった。


拘束を解かれたら不味いとメルケルが援護射撃する。空中に向けて弓を構えると弓技"魔矢イービル"にて魔力の矢を生成、"降雨弓アルク・レーゲン"を発動した。


上空へ向けて放った矢は一本だったがセリム目掛けて降ってくる矢は指全てを合わせても足りないほどに増えている。正面を向いたままバックステップで距離を取るアーサー。


矢が着弾するのとセリムが鋼糸を断ち切るのは同時だった。



――ズドドドドドン



降り注いだ矢が地面を穿ち砕く。視界を遮るように上がった煙に三者共にの視線を向けた。



「メルケルどうだ?」


「…どうって言われてもな… 奴の力量が分かんないこの状況だと何とも、としか…」



引き千切られた鋼糸を捨てながらザイドリッツが尋ねるが、返ってきた答えはなんとも曖昧なものだった。



パンッパンッと何かをはたくような音が煙の囲まれた場から木霊する。



「これがあんたら上級冒険者の実力か? だとしたら…」



地面を踏むコツコツと音が響く。



「さぞ、がっかりだ」



煙の中から姿を現したセリムはつまらなそうに見下した目をしていた。


数十もの矢を降り注がされたというのに傷一つない。



「簡単に死ぬなよ」




手に入れた力を試すべく歩を進ませる。新しい玩具を手に入れた子供のように足取りは非常に軽い。




ーーーーーー




「ウヴゥ」



くぐもった声が漏れた。


首を掴まれ、持ち上げられた口元からは血が流れている。服には出血のあとが滲んでおり鎧も砕かれていた。


近くには気を失って倒れたまま動かないザイドリッツ、メルケルがいる。



「セリム、早くその三人を殺した方が…」



背後からカルラが忠告の声をかけてくるが一歩遅かった。中空を引き裂く音と共に一条の雷線が飛来、腕を貫通し指より一回りほど大きな穴が空いた。


撃たれた箇所が悪かったのか首を掴む力が弱まった隙に一気にアーサーは離脱した。



「アーサー」


「ッ、来るなっ!」



折れた剣を握りながら聞き覚えのある声に焦りを覚える。


ここに彼女を来させてはいけない。来させてしまえばきっとその心を痛めてしまう。


セリムが心配でここまで来たというのに当のセリムは、それを不要だと、想いを踏みにじった。そして世界を破壊するとも。


見せたくない。見せてはいけない。そんな思いが胸中を占めたが故の、絶叫にも似た叫びだった。


だが、無残にも想いは届かなかった。



「アーサー大丈夫かにゃ?」


「ッチ…来るなといっただろうが!」



半ば自棄になりながらセリムを見せてはいけないと逃げるように言う。



「誰かと思えば…久しぶりだなクロ、キー…」



言わせるかっ!と突貫するアーサー。


身体はどこもかしこも傷だらけで痛みが走るがそんなものを気にしない。



剣技"再剣・霞切ヘイズ・シアー"



折れた剣を一時的に魔力で補填し切りかかるも、躊躇なく吹っ飛ばされ地を転がる。



「さて、二度目だが…久しぶりだなクロ、キーラ」



当初は何故自分たちの名を…と不思議そうにしていたが時間とともに相手が誰なのか気付くキーラ。


驚きとともにその名を口にした。



「!…セリム…」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る