第71話蹂躙
≪魂を喰らった事によりその全ての権利が譲渡されます≫
胸に風穴の開いたワームグリードを見下ろす。無機質な声が脳内に響き渡り、敵の命の灯を消えたことを教えてくれる。
強者を屠り、摂り込んだ事を喜ぶように身体がギシギシと歓喜の痛みを伝えてきた。
筋肉が膨張し骨が軋む。摂りこんだ力が大きければ大きいほど身体に奔る痛みは増す。
最近は痛みはおろか特に何も感じることは無かった。久々に実感出来る痛みは、己が一歩強くなったことを教えてくれている気がして自然と口元に笑みが浮かぶ。
「「「グオォォォォォ!」」」
腹の底にまで響く重低音の咆哮をあげるワーム達。何体もが一斉に上げたことにより、洞窟内は揺さぶられたかのように激しく揺れ動く。大気までも揺れているのが拍車をかけた。
揺れの中、動じた様子のないセリムにワームテイルが単独で左側面から襲いいかかった。
猛スピードで突っ込んでくるテイルを視線だけで捉えると、黒く染まった左腕を突き出す。テイルの顔面を鷲掴みにした。
顔面を掴まれたテイルは逃れようと暴れまわるが抜け出せない。幾つもある尻尾を叩きつけようと振りかぶった。
だが、その攻撃はセリムに届く数十㎝手前で力なく地へと降ろされこととなる。顔を握り潰され、命の灯火が消えたのだ。
「かかってこないのか?」
掴んでいた死体を無造作に放りながら挑発する。手からは血が滴り落ち、地面に血の池を作り上げていた。血が滴り落ち切った時、それが合図とでもいうかのように今度は一斉に襲いかかった。
全方位から襲いかかってくるワーム。拳を振り上げるもの、尻尾で叩き付けようとするもの、噛みつこうとするものと様々だ。
だが、全てを避ける。モンスターたちの間を縫うように… 擬音を付けるならばぬるりだろうか。
一定時間全てのステータスを三倍にする。発動時は
今のセリムは
どんなに敵が多かろうが殺せる敵ならばセリムにとってはただの餌。
殺し、喰らう度に強化されるセリム。片や殺される度に数を減らして戦力を失っていくワーム。
時間が経てば経つほどセリムは強くなりワームどもは数を減らしていく。数では勝っていても個の戦力が違い過ぎるために勝負にならない。
だが、
それはセリムが
ドオォンッ!
セリムを中心に衝撃波が巻き起こる。
周囲には腕がもげていたり頭がなかったり、風穴が空いていたりと様々な傷を負ったもの達が倒れていた。
全方位から襲いかかってきたワームの間を縫うように移動しながら攻撃を加えたのだ。あまりの速さにワームたちは殴られたことに気づかず、一斉に吹き飛ばされた程だ。
自身の力に思わず驚く。
驚きこそあれ、そこに嬉しさや喜びといった
(ッ…)
歯を食いしばり痛みに耐える。苦痛で顔が歪む。それをは無視するように無機質な声が頭の中に響き渡り、さらなる痛みが襲ってくる。
(このっ…)
泣き言は言わない。
弱音は吐かない。
これは自ら望んだものだから。
ワーム達とセリムの戦闘を見ていた悪魔は殺されたグリードをみて顔を顰めていた。
一つはセリムの力が今までとは比にならないくらい高まっている事に。
一つは殺られたワームが起き上がらない事に。
いくら考えても答えは出ない。先ほどのように乱魔を撃ち込んで魔力を乱しているわけでは無いのは分かる。ならばどうゆう理由でだ?と訝しむ。
そんな事を考えているとは思いもしないセリムは、ただ向かってくる敵を殺して殺して殺しまくる。
地面から伸びた手が脚を掴み拘束、地中へ引き摺りこもうとする。だが、圧倒的な力の前には無意味。
彼我の力量差を思い知らせるかのごとく、力技で足を振りぬき腕を引き千切った。その威力のまま前方の敵を蹴り飛ばす。
地面に腕を突っ込む。ワームが地中から現れるよりも大きく急速にヒビが入り地面が持ち上がる。一気に引き抜かれた手には人型ワームの
「再生がなければただの雑魚だな」
吐き捨てるように呟くと握っていた頭部をワーム達に向かって投げ捨てた。
身体を襲う痛みにも慣れ、苦痛を然程感じなくなってきた頃、辺りにいたワームは大半が死体となっていた。
「どうした? 来いよ」
ワームどもは威嚇するだけで動きを見せない。下手に動けば自身が死ぬというのがわかっているからだ。今までの戦闘において同族が全てただの一発で仕留められているのだから。
セリムとワームたちには埋めようの無い差がある。
第一次職、異端者が専用スキルだ。動者を起点に一定時間、一定範囲内での魔力を使った行為全てを無力化する効果がある。
再生は攻撃を受けてから魔力を用いて傷を修復する。その一連の動作を行えなくなってしまいワーム達は死んだのだ。
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[Cランクアップ直前ステータス]
名前:セリム・ヴェルグ
年齢:7歳≪見た目精神年齢ともに15歳≫
種族:人族
ランク :D
1次職:異端者
2次職:異端児
レベル :52
体力:15000
魔力:9900 →29700
筋力:16500→49500
敏捷:14000→42000
耐性:9600 →28800
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みてもわかるように以前のセリムですらこの高さだ。そこへワームの全てを摂りこみ、さらに強くなっている。
残り少なくなったワームたちを見ていると急速に接近する反応を下から補足した。
「来たか…」
言葉を合図にしたかのように地面からワームホールが姿を現したり。後方へと飛ぶことで距離をとるセリム。
煙と土を巻き上げながら顔を出したホールは、獲物を喰らった感じがしなかったのを察して、追撃を仕掛けてくる。
対してセリムはある程度距離をとったところで止まり、真正面から巨体のホールを迎え撃つ体勢をとった。
足を肩幅程度まで開き、受け止めるように軽く曲げた腕を前にポーズをとる。その様は何人たりともこの先には行かせない、鉄壁を思わせる気迫がある。
奇怪な声を上げながら迫りくるホールに対し、声を出さず構えたまま動かないセリム。
徐々に距離が近づき緊張感が増していく。
そして――
ボッフアァンッッ!
凄まじい衝突音が響き渡った。土煙が舞い上がり視界を閉ざす。パラパラと砂がこぼれ落ちる音だけが響く中、声があがった。相手を見下す声が。
「おいおい、ガッカリさせんなよ」
煙が晴れた先、そこにはワームホールの突き出た牙を手で掴み突進を受け止めたセリムの姿があった。
当初いた移置から数十㎝程押されて後退してはいたが、怪我などは見受けられず、表情には余裕がある。
手腕には物凄い力がかかっているであろう事を示すように血管が幾本も浮き上がり、掴んでいる牙にはヒビが入っている。既に所々砕け、欠けてしまっている。
身体を左右にくねらせ、セリムを押しつぶそうと咆哮を上げ突進を再開する。
「グワォォォ!」
低く重たい声を響かせてながら力の限りに押すワームホールだったが、セリムは一歩たりとも動かされない。
腕に力を込め裂帛の気合いを叫ぶ。牙がボロボロと崩れていく中で自身の体重の数十倍、下手したら数百倍あるホールを腕力だけで強引に持ち上げていく。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
先程まであったはずの地面の感触が急に無くなり、混乱を露にするホール。
自身の身が危険にさらされているのを察知し、身体をくねらせ暴れ回る。
だか、逃れること叶わず。そのまま身体が空に浮かぶ感覚を味わった。
セリムが投げ飛ばしたのだ。
数十mだったが、経験したことのない全身が浮く感覚。困惑と焦燥、次いで痛みが走った。何度も何度も。
衝撃波が身体の中を侵し、ダメージが蓄積されていく。しかしそれは突然終わりを迎えた。
「ハァァアッ!」
今までとは比べものにならない衝撃が身体を襲い、ホールは真っ二つに千切れ事切れた。
血と肉片の雨が降らせ、洞窟内を赤く生臭い臭気が漂った。ドシンッと音を立てて真っ二つになった胴体が落下、煙をまき散らす。
一段落ついたと息を吐き出すセリム。
「まさか、ワームホールを投げ飛ばすだけでも常識外れだろうに、数度殴っただけで胴体を分断するとは… 馬鹿げた力だ」
セリムが行ったのはホールを投げ飛ばした後、跳躍し数度殴り付けた、それだけである。
これを常識外れと評した悪魔のいう事はもっともだ。誰が自身よりも圧倒的に大きいものを投げ飛ばし、殴って真っ二つに出来ると言うのか…
「お褒めに預かり光栄だ、とでも言えばいいのか?」
「確かに、貴様の力は想像以上だった。
「
「好きに捉えるが良い。だがここからはワームではなく我、自らが相手をさせてもらおうか」
座っていた岩から重い腰をあげるようにゆっくりと立ち上がる。残っていたワームたちに「消えろ」と指示を出すと地面に潜り姿が見えなくなった。
悪魔のくせに律儀な奴だと思うセリム。そんな事を考えながらも地面を爆ぜさせ一直線に悪魔に接近する。
今の状態では魔法・スキルを使う事が出来ないので単純に殴って蹴る、と言った攻撃手段しかない。その為まずは接近する必要があるのだ。
並みの者では決して反応出来ない速度で迫る。一撃を叩き込むべく腕を引き絞った。ブォンと言う空気を切り裂く音と共に繰り出された一撃は――
空を切ったーー
驚きを覚えるのも束の間、身体を強引に捻り蹴りを繰り出すがこれもまた避けられ空振りに終わる。
(当たらねぇ!)
何故避けられるのか、普通ならば回避できないであろう速度な筈だ。出来るということは今の自身よりもステータス面で上なのかと嫌な考えが頭を過る。
「遠目に見ていた時も思ったが直に体験すると…なるほど、速いものだ」
速いと一見褒めているようではあるが、攻撃を避けた迷いなき動き、それを見せられた後では素直に喜ぶことなど出来ない。
「その眼、魔眼か?」
戦闘を始める前にはただ紅いだけの眼だったが、薄っすらと光り、輝きを放っているのを見て、もしかしたらと思い問うセリム。
以前見たことのある魔眼、
「人間と言う種は生き物の中で最も弱い。故に工夫し生きる。その一つが情報を集めて敵の能力を、力を見極める事だ。だが、それはあくまでも得られた情報を元に出来る手段であろう。…貴様の言う通りこれは我が持つ魔眼だ。しかし貴様ら人間の持つ悪魔の情報は少ない。魔眼もたった三種類しか判明してないのだからな」
「何が言いたい…」
「単純なことだ。貴様らの持つ情報で我を推し測れると思うな」
(回りくどい言い方をしやがって訳の分らんことを…)
数度脳内で言葉を反芻し考える。そうして、そうゆうことか!と理解する。
現在、悪魔の事について判明していることは少ない。代名詞としても名高い魔眼ですらまだ三つ程しか存在を確認されていない。よって未だ悪魔の力は未知数とされている。
悪魔の代名詞とされる魔眼ではあるが知られているものは以下の三つ。
名前や能力が判明しているのはこの三つだけだが、過去には他の魔眼の目撃例もある。しかし、能力や名前などまったく判明していない。
巻角悪魔は、これらの情報の中に存在しない力を持っているのではないかとセリムは考えた。
考えが合っているかいないかも重要ではあるが問題の本質はそこではない。
(問題はどういった能力を持っているかだ…)
先ほど襲いかかったときに使ったことから戦闘時に何らかの形で作用するものだと言うことはわかる。だが、如何せん情報が少ない。
「お前は人間を"人間風情"と言うが、その割には色々知ってんだな。弱いからこそ情報を集め戦術の幅を広げ工夫する。それは悪魔も変わらないんだな」
そこまで言うとセリムは目を細めると疑問をぶつけた。
「人間が怖いのか?」
「人間が怖い? 挑発のつもりか? 下らんことを聞く。仮にそうだとしても人間でない貴様が言った所で何も感じなければ思いもしない」
「そーかよ」
敵の観察、何かしら情報が手に入ればと会話を続けてたが特に収穫を得ることが出来ない。
態々制限時間内に行ったのが無駄になってしまったと、出来れば
神敵者vs悪魔の戦いの幕が上がった――
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