第56話神敵スキルの謎

いきなり理解不能な言葉に問い返さずにはいられないセリム。



「どうゆう事だ?」


「言葉のままの意味だが、そうだな…」



そこまで言うと少し考えるように間を取ってから「先程話した話を

覚えているか?」と話し始める。



「君を探すためにいくつか街を回ってきたって事は言った筈だが、その過程で

 ソート村、君の出生地にも情報集めとして立ち寄った訳だ」


「それで?」


「村の事は実際に自分の目で確認した方がいいだろう。私から言えることが

 あるとすれば、村は酷い有様だった、と言う事だ」



どうゆう意味だ?と眉間にしわを寄せ考える。具体的な事は何一つ言わず

自身の目で確認しろと言うネルファ。そもそもネルファの情報に関しては

信用し得るものなのか分からないこともあり素直に頷くことは出来なかった。



「なぜ今更そんなこと言う? そもそも戦闘前に言葉を濁した理由を教えろ」


「そのことか、それに関しては悪かったな。少々やりすぎだったかもしれん」



頬のあたりを人差し指でポリポリとかきながら申し訳なさそうに視線をそらす。



「君の力を見てみたかったと言うのが理由だ。神敵者は見つかれば確実に狩られる

 側になり、戦う相手は強者ばかりだ。君は年齢も幼くそちら側人間の分類としては

 強いが、こちら側バケモノとしては弱い。だから少し怒らせて力を出させようと

 したんだが…」



「まさかあそこまでとはね」と若干バツの悪そうな顔をする。それを聞き自分が

ネルファの掌の上だったことを知り一気に気勢がそがれるのを感じていく。



「あんたの行動の意味は理解した。だがそれで、あんたの言葉を信用したわけじゃない」


「そうだろうな、もし私の言葉が嘘だった場合、君は犯人を倒す機会を

 失うわけだからな」



ネルファの言った通り仮にネルファのが嘘をついていて、セリムが気付かず信じて

しまった場合、ここで何の約束も無しに別れてしまえばもう会う事もなくなって

しまうだろう。その事を分かっているからこそいまだに怒りを内にとどめていた。



「1つだけ私の居場所を知る方法…契約して相互の位置を把握する方法があるが

 それがあれば私の居場所は君にいつでも把握できる。やるか?」


「それがあんたに有利に働かない保証があんのか?」


「やはり疑うか、なら君がやりたまえ」



そう言うとネルファは何やらブツブツと独り言をつぶやき、掌を上に向けて

突き出す。すると何もなかった掌の上に突如として巻物のようなスクロールと

採血するための注射が現れる。それから簡単に使い方を説明し、ネルファは

自身の腕に針を刺すと血を抜き取りそれをそのままセリムへと投げ渡す。



「さて、使い方は今教えた通りだ。やってみるといい」



先程の事もありどうしても疑い深くなってしまうセリム。他に手がないのは

分かってはいるのだがどうしても使うのに躊躇いが生じる。しかし、それを

振り切りスクロールを開く。スクロールには2つの円と訳の分からない

文字が描かれていた。紙を折った時のちょうど上半分、その空間の中央に円が

描かれその周りを文字が縁に沿う形で囲んでいる。下半分も同じ作りだ。



「上の円に血を垂らせばいいんだよな」


「垂らしたら、下の枠には私の血をいれれば後は勝手に契約がなされる」



紙を地面に置きまずは自身の血を、次にネルファの血を注射器から垂らす。

するとすぐに変化が現れる。垂らした血が紙に吸い込まれていき文字が赤く光り

出す。かと思ったらすぐに光は消え去りスクロール上から円、文字全てが消えていた。



「これで終わりだ。体のどこかに契約の印として刻印があるはずだが…」



あまりにも簡単に契約が完了したことに拍子抜けしつつも刻印を探す。

が中々見つからず、襟を引っ張ったりズボンをまくったりする。



「手だ、手袋を外せば分かる」


「分かってんなら最初に言えよ」



逆切れをしつつも手袋を外していく。すると右の手の甲に赤い模様が

浮かんでいた。特に痛みなどもあるわけではなく軽く手を閉じたり開いたりして

他に何か影響がないかの確認する。



「これが刻印なのか?」


「そうだ、そこを意識して魔力を流せば契約した相手の居場所が分かる。

 これで私が嘘をついていた場合、いつでも殺しに来れると言うわけだ」



「良かったな」とまるで他人事のようにい言い放つ。嘘をついていないから

出来る事だろう。契約の効力を確かめる為に刻印へと魔力を流す。すると確かに

感覚としてネルファの位置が把握できることを確認する。

確認できたこともあり体内にとどめていた怒気はしぼんでいく。



「確認が終わったらこっちへ来たまえ。少しこれからの事について話そう

 じゃないか」



その言葉の直後、またブツブツと独り言らしきものを言うネルファ。すると

木と地面と空以外何もない寂しい空間に場違いなテーブルセット一式が出現する。

その光景を見た瞬間セリムは、以前アーサーに受けた説明を思い出していた。



『傲慢スキルとは声だけであらゆることを可能にするスキル』だと…



「随分とあんたの神敵スキルは使い勝手がいいらしい」


「ん? あぁ、そうでもない。色々と制限はあるから一概に使いやすいとは

 言えないな。それよりもこっちに来たらどうだ?」



手招きをして早く来るように促してくるのに従い痛む体で椅子へと腰を掛ける。



「唐突で悪いが、神敵スキルとは何なのか知っているかな?」


「何なのかって…神を貶めるスキルの相称じゃないのか」



以前読んだ家にあった本の内容を思い出しながら答える。それに対しネルファは

「まぁ、そうだろうな」と何か別の意味があるかのような言い方をする。



「これは神を貶めるスキルなんかじゃない。神敵スキルとは人間たちが犯しては

 いけない罪を犯した代償、神からの呪いだ」


「呪い?」


「そうだ。過去の人間が犯した罪によって神敵者と言う者が生まれ、その全ての

 者たちの運命が変えられた」


「それが大罪スキルか…」



ネルファが言うには、神敵スキルとは神がこの世界を呪った所為で発生したもので

あるらしい。それを生み出させる原因を作ったのが人と言う事だ。神の呪いで

生み出されたのは7つのスキル、それが大罪スキルと呼ばれるものだ。

だがここで1つの疑問が生まれる。神が世界に撒いた呪いの数は7つ。それに対して

神敵スキルは現在確認されているので8つと言う事だ。しかもその8つ目のスキルを

自身が所持しているのだ。


神敵スキルを所持する条件としては神を憎むことだとネルファが言っていたなと

思い出す。



(もし、もしも俺の考えが正しければ俺は生前に呪ったのが原因。だとすれば

 この世界の呪いとは関係ないのか?)



考えれば考える程分からなくなり、考えても仕方ないかと思考を放棄し

人が犯した罪について質問をする。



「神殺しだ」



端的に一言で告げるネルファ。人が犯したことは何かは理解したが、言葉の意味が

理解できなかった。それが顔に出ていたのか「ピンとこないのも無理ないな」と

理解を示す。それもそのはずで、グラムールの目的は神殺しだと言っていたのに、

既に神は殺されていると言うのだから訳が分からなくなるのも無理はない。

ちょうどその時にネルファが何かに気づいたような態度をとる。それから

「ちょうどいいか」と呟くとまた話し始める。



「悪いがここから先は組織グラムールに入ってからではないと教えることは出来ない」


「それなら俺は聞く機会は無いかもな」



セリムにとってはグラムールに勧誘されど、入る気は今のところはまったく

もってなかった。その為に出た発言だったのだがそれをネルファは真っ向から

否定した。



「必ず君はこっちにくる、村に行けば必ずな」


「さいで…」



もう話は終わりだとばかりに話そうとしないセリムに対しネルファは再度

話しかける。



「村に行く前にもっと力を付けてから行くことを進める。そうだな"洞穴の針山"に

 "悪魔"が住んでいると言う話がある。力を付け得るにはもってこいの場所だろう」



悪魔と言う単語を聞いた瞬間、カルラの魂の欠片をべた時の記憶が蘇る。

かなり小さい欠片を喰べただけでステータスに影響が出たのだ。もし丸一匹

喰べたらと思うとどれだけ上がるのか想像できないと身震いする。



「組織に入るかどうか知らんがその針山には行かせてもらう」


「精々捕まらないように鍛えてくれ。それと、これを渡しておく」



そう言ってネルファが差し出したのはネックレスだった。十字架のような形をした

金属製の中央部分に黒く輝く小さな石がはめ込まれていた。



「これは?」


「こちらに連絡を取りたい時などに石に魔力を込めれば私に連絡がいく。

グラムールに入る時などに連絡が取れないと不便だろう」


「何かあったら使うかもな」



ローからもらったネックレスの上から首にかける。

それから要注意人物に関しての話を聞き別空間から現実へと回帰したのだった。






ゴロゴロゴロゴロ。台車に腰を下ろしアイリに押してもらいながら王城を進む。



「ったく、ハルトお前のせいで危うく無駄な戦いをする所だったんだ。反省の

 意味も込めて自分で歩け」



先程エルフの東門での出来事について言うアイリ。アルフレイム側からすれば

巨大な魔力の接近と言うだけで緊張状態へと陥ってしまう現状を鑑みれば

ハルトの行動は迷惑そのものだ。



「確かに魔力の制御を解きっぱなしだったはあされけど~、でもさぁ~

 おかげでモンスターに襲われずに済んだんじゃないのかねぇ~」


「うるさい、口答えするな。ここに置いていくぞ」


「イエス、マム! 口を閉じます」



アイリは上官でもないのだが、王城の廊下に置き去りにされるのは勘弁だと

ばかりに口を閉ざすハルト。上下関係は逆な筈なのになぜかアイリの方が主導権を

握っている。



「アーサーさん。何ですかあれ?」



突如として来訪しその事が王城へと伝えられると二人を連れてきてくれと頼まれ

今現在、一緒に元いた部屋へと向かっているのだ。ちなみに部屋へは案内して

もらっているので迷ったりはしない。そんな中招かれた二人に対し復興組の一人が

アーサに向けて質問をする。



「いやぁ、俺に聞かれてもな…親子って訳でもなさそうだけどな」



後ろを歩く二人をチラ見、耳を見ながら答えるアーサー。

一人は海人族のひれのようなものが、もう一人はエルフの長耳がついている。

その事から親子ではないと予想したのだが、傍から見ると二人は口喧嘩をする

親子に見える。無論アイリが母親で、ハルトがダメ息子だ。

何だろうなぁ~と答えが出ずにいると元の部屋へとたどり着く。中へと入ると

避難誘導へと回っていた連中が既に集まっており興味深げな視線をアーサー達の

後ろへと向けている。



「早いな」と椅子に腰を掛けながらアーサーがステイツへと話しかける。

するとアーサーが離れたのをいいことに復興支援組の先に帰ってきていた三人は

2人の下へと駆け寄っていく。余程台車の人物が気になるのだろう。

もう一人のアーサーと一緒に居た人物はアーサーの隣へと腰を下ろしていた。


「敵ではないと報せが届いたので、すぐに戻ってこれましてね。とは言え驚き

 ましたよ。まさかアイリさんだったとは」



二人へと視線を向けながら言うステイツ。その二人と言えば今は何故か

帰る、帰らないと言う事で言い合いをしていた。ステイツの視線の先を

追いかけたアーサーも二人を眺めていたのだが、ホントなんだあいつら…と

頭を抱えていた。



「あの人達は…男性の方は知りませんが、女性の方はアイリさんです。

 と言うか男の人はあの格好で恥ずかしくないんでしょうか?」



と言うのもこの部屋に来る為に城の中を通ってきた訳だが、道中結構な人に

目撃されていた。皆一様にヒソヒソと何か話してはいたのだがハルトにそれを

気にする素振りはまったく見受けられなかった。ステイツの質問に対しアーサーは

「どうなんだろうな」とあいまいな返事を返す。拘りがあってやっているのかもと

考えると恥ずかしいだろうと他人が言っていいような気にはなれなかったのだ。



「それよりも先程からたびたび聞く名だがアイリと言う エルフの嬢ちゃんは

 有名なのか?」


「えぇ、この国で知らない人の方が少ないのではと思いますよ。

 百数年前に災厄の地から一匹の子竜が来たんです」



ステイツはそう言うとアイリと言う院物について簡単に説明してくれた。

百数年前にアルフレイム近辺に災厄に地と呼ばれる、ずっと東に言った場所に

ある所から、一匹の炎竜の幼体が国の近辺の森に居ついてしまい民は日々

怯えて過ごしていた。そこにアイリが自ら討伐を申し出見事に単独で倒し、国に

平穏を取り戻した。それによりアイリは尊敬される人物となったと言う話だった。



「そりゃ、すげーな。幼体ってもSランクだろ、それを単独で…」



はぁ~と感嘆のため息を漏らすアーサー。



「話によれば誰も行きたがらなかったんですよ。死ぬのが怖いって…そんな中

 たった一人で立ち向かい討伐したものですからこの国では英雄ですよ。

 生きた伝説と言われる人物です」


「そんな強いなら何で襲撃時にはいなかったんだ?」



さすがにもういい争いはしておらず、アイリは椅子に貼るとは相変わらず台車に座り

それぞれにくつろいでいた。そんな二人を見ながら語りだす。



「困っている人を助けたいって言って国から出て行って色んな場所で人助けを

 しているんだそうです」


「立派だな」



そこまで話終えた所で視線に気づいたのかアイリがどうかしたか?と話し掛けてくる。



「今、アイリさんの竜退治の話をしていたんですよ」


「そう言えばそんな事もあったような気がする…」


「ははは、やはり長生きしていると昔の記憶は曖昧になりますよね」



長寿な一族にしか分からない会話をし始めるステイツとアイリ。

そこにまだ30前ぽっちしか生きていない人間が混ざっていいものかと

一人どうでもいいことで真剣に悩む聖王。もし考えている内容が皆に知られれば

ばかなおっさんと言う風に呼ばれてしまうかもしれない。



「ところでアイリさん。あの男性は誰なんですか? かなり怪しいですけど」



ステイツからの質問にアイリはなんて答えようか困ったなと言う表情になる。

そこへ困った張本人が話に加わりに台車に乗っかった状態で来る。しかも台車を

押しているのはアーサーが連れてきた冒険者仲間だ。



「俺はまぁあれだよ、あれ。アイリより偉い人だぁ~」



どうだ! すごいだろうと言わんばかりに言ってのけるハルトだが部屋にいる

全ての人物はそうは思っていないと言う視線を向けている。



「何だよ、事実だぞ~」



力のない抜けた言い方も相まって全くの信憑性がない。それでもハルトは

「本当だぞ」と言い張る。

その時、突如地震のような大きな揺れが起こり街の方が騒がしくなるのだった。



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