第54話邂逅
エルフの国に復興の手伝いとしてきたいたアーサーを含む冒険者一行。エルフのステイツと言う青年のおかげで予定よりも早くアルフレイムに到着したのも束の間、巨大な魔力が接近しているとの事で東門へと急行していた。
「さてと、どこのどいつだ?」
東門までステイツの転移魔法を駆使し移動したアーサーは、巨大な魔力の持ち主がどこのどいつなのか、目を細め遠方を眺めていた。すると木々が生い茂る森に人影がうっすらと見えてくる。
「何だあれっ!?」
アーサーが見つめる先の森にいた人物は、視線に気づき、見られていると随行者である人物に報告していた。
「ハルト、こっちを窺う人間がいるぞ」
「いや~そりゃ~あれじゃん」
「どれだ?」
「あれだよ、あれ」
会話なのか怪しい言葉を交わす二人組。木が生い茂り根がむき出しの地面を進むのだが、その進み方が少し?変わったものだった。
ハルトと名前を呼んだ人物は手甲、膝から下に鎧を付けている。耳はエルフ特有の尖ったものが付いており、髪はエルフにしては珍しい黒髪だ。肌は肌色なのでダークエルフではない。そして貧乳である。
「あー、つーか、アイリさん~もうちょっと振動抑えられない?尻痛いんだよ。これ痔になるか、いって…」
尻が痛いと文句を垂れる人物は先程ハルトと呼ばれた人物だ。V系のようなチャラチャラした長い赤髪をしており、エルフとはまた違った特徴的なもの、魚のえらのようなものが耳のあたりに付いている。この世界に存在する種族の一つ、海人族の特徴である。
「なら自分で歩け、この怠け者が」
アイリと呼ばれたエルフがこう言うのも無理はない。今現在ハルトは台車のようなものに乗ってアイリに押される形で進んでいるのだ。
「だって歩くの疲れるし、外出するだけで、帰ると眠くなるから出来るだけ体力は使いたくないんだよー」
「知るか! それでもお前はこの世界最強の一人かっ!」
「なら、俺は最弱でいいわぁー」
まるで母と息子が言い争うような会話をする二人。台車にゴトゴトガタガタ揺られながら進む世界最強の一角、中々にシュールな光景だ。
そんな光景を遠方から眺めるアーサー。声が聞こえない為、何を言っているのか分からないのが救いか。聞こえたとしても台車に乗った男とそれを押す女の会話はどうでもいいものの類なのだが。
(何だあれ? 敵…ではなさそうだが…)
門までの距離数十メートルまでの距離になった時、誰何する。しかし、台車に乗っている男ではなく多少はまともそうな女に話しかけた。
「お前らは誰で、ここに何の用だ?」
変な二人組に気勢を削がれるも気は抜かずに、いつでも対応できるような姿勢を保つ。
「何これ? 俺たち完全に怪しい人扱いされてない?」
「こんな物に乗ってれば誰でも思うわ」
「どうすんの? 俺は嫌だよ戦うの。 コイツ強そうだし」
「素直に理由を述べればいいだろう」
「あーそっか、確かに…」
何やらコソコソとし始める二人だったが方針が決まったのか男が答える。
「見れば分かると思うんだがアイリがね、ここの出身で…心配になってきたんだよ」
「確かに見た感じ嬢ちゃんはエルフだな」
怪しいとは思いつつも理由としては至極当然なもののーー些か来るのが遅い気はするがーー為にどうすっかとアーサーは考える。すると門の奥から四人の姿を窺っていたのか、一人の女の子が声を掛けてくる。
「アイリ…さん?」
そう言って声を掛けた女の子は、アイリを見つけるとまるで自身の母親にでも甘えるように飛び込んでいった。台車が邪魔だったのか女の子の進路上にあったハルトを台車ごとその辺にポイっと転がす。「あ、いて」と声をあげるハルトには目もくれず、女の子を受け止めるアイリ。
「おぉっ! 元気にしてたのか」
女の子を優しく受け止めるとそのまま楽しそうに会話を始める。その光景を見ていたアーサーは削がれた気勢がより一層削がれてしまい、敵じゃない事も確認できたために入国の許可を出すのだった。
アーサーが変人と出会っていた頃、セリムは必死に頭を回転させ現状の打開策を模索していた。が、コイツ何故名前を…と焦りが生まれ思考がまとまらない。突如として現れたフードを被った人物から告げられた自身の名。それは疑問形のものではなく確信に満ちた声で告げられたものだったのがより、一層、セリムに焦りを与えていた。
馬車から顔を出すキーラ、セリムとは反対側の側面にいるベル、馬車の内部にいるクロ。その全員がこちらを何かあったのかと訝し気な表情で見ている。そんな中、セリムは感情を押し殺し、フードを被った人物を横目で捉えながら答えを返す。
「そんな名前は知らないな。人違いだ」
「嘘をつかなくてもいい。それとも他に人がいると話せないか?」
人違いだというセリムに対し、話しかけてきた人物はセリムの発言を嘘だと断じ、尚も食い下がる。
「知らねーっていってんだろ、俺に絡むな」
「そうか…」
「仕方ないか」と呟くとフードの人物はセリムの肩に右手を乗せる。瞬間、セリムとフードの人物の所だけ空間が歪み、消え去る。それを見えていた三人は消える瞬間に駆け寄り、フードの人物からセリムを引き離そうと動けたのはクロだけだった。だが健闘空しくセリムはどこかに連れていかれてしまう。
「お前、何したんにゃ!」
フシャーと猫の威嚇でもう一人いたフードの人物へと呼びかけるクロ。
「心配ありません。少しの間彼をお借りするだけですので」
敵意を向けられているにも関わらず特に慌てた様子もなく告げるられる。
「それを信じろってかにゃ? 生憎とそんな寛大な心は持ち合わせていないのにゃっ」
それを皮切りに状況が呑み込めず呆然としていたキーラ、ベルの二人も、ようやく事態を理解し、フードの人物へと視線を向ける。
「こんな急に人をさらうような奴の言う事にゃんて信じられないにゃ、ここは捕まえて吐かせるのが得策にゃ」
「二人はサポート頼むにゃん」とキーラとベルにも聞こえる様に声を張り、方針を伝える。そうして三人はセリムの行方を聞くべくフードの人物へ戦いを仕掛ける事になった。
一方、突如別の空間に連れて来られたセリム。そこは、普通に地面があり木があり空がある場所だった。広大な場所に連れて来られ、どこだここは?と問いただしたい気持ちもあったが今はそれよりも先に問わねばならないことがあった。
「何のつもりだ? あんまりふざけた真似すると‥」
そこまで言いかけた所でフードの人物は急に謝りだす。
「いきなり連れてきたのは悪いとは思うが、それは今は置いておくとしよう。お前はセリム・ヴェルグだろ、神喰(かみくい)の。ソート村で発見された
って言う8人目の神敵スキル保持者なのだろう」
「ここなら二人だけだ、他の奴に聞かれる心配もない」と先程と同じことを問うてくる。
「わざわざ、その為に場所を変えたのか…律義な奴だ。だが生憎と人違いだ」
「やれやれ、認めないか…それも仕方ないことだが」
そういったフードの人物はこれみよがしにため息を吐き、面倒だとアピールしてくる。
「別に隠さなくてもいい、私(・)は君と同じ種類の人間だ」
「同じ…だと」
その瞬間セリムの脳裏に神敵スキル保持者と言う文字が浮かび上がる。まるでそれを待っていたかのようにフードの人物は言い放つ。
「否定しないと言う事は認めたと言う事だな」
しまった!と思った時には既に遅く、セリムは完全に自身が誘導されていたことを自覚した。
「では、認めたと言う事で自己紹介から始めようか」
そういったフードの人物は被っていたフードを取った。そこには黒の長髪をポニーテールにし、金眼の縦割れした目も持つ女性が立っていた。
「私は、ネルファ・キルシュリア。神敵スキル保持者"傲慢"の持ち主だ」
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