第33話森の調査Ⅱ
都市周辺での森の調査依頼の受諾を完了したセリムは、キーラと一緒にギルドから出ていく。
並んで街の中を歩いている二人。ここ最近では頻繁に目撃される姿だ。そんな二人は今フィーネに忠告を受けたことをセリムがキーラに話し、念の為にと色々準備するために森へとはまだ向かわなかったのである。
(つっても、俺は体力回復ポーションとか必要ないしな魔力ポーションに関しても同じだし…)
都市アルス周辺において、回復ポーション等なくとも単純に肉体だけのステータスでモンスターを仕留められるセリムにとっては不要なものなのだ。今まで持った事は愚か、存在すら知らなかった。キーラと魔法の教え合いをしたときに存在を初めて知ったのだ。
知らなくとも問題なかったために今まで知りえなかっただけなのだ。して、森へは行かずにポーションなどを買いに来ている。ほぼキーラの為ではあるが、一応自身の目でも見ておこうというものだ。
キーラ本人は「無くても平気よ」と言うのだが、戦いの最中に魔力切れでも起こして戦えなくなれば後衛職には厳しいだろう、前衛職と違い肉体を鍛えているわけでもないのだから。
街中を進みポーションなどが売っているアイテムショップにをみつけ入る。ドアを開けると鈴の音がカロンと一鳴りし来客を告げる。
「いらっしゃいませ」
愛想よく接客をする女性の店員さん。軽く頭をさげ挨拶を返す。挨拶されると反射的に会釈してしまうこの現象は何なんだろう。不思議に思いながらも買い物をしていく。
「すいません、体力、魔力の回復ポーションが欲しいんですけど」
「いくつずつですか?」
「えーと」
セリムは今迄にポーションと言うものを使ったことがないためどれくらい必要なのか分からずキーラに尋ねようと振り返るのだが、キーラは店内を見回していて気づいている様子はない。店内にはポーションや薬草等の見本や値札などが置いてある。
(自身で使うんだから自分で注文してほしいんだがな)
やれやれとは思いつつ適当な数を注文する。
「とりあえず、三つずつで」
それだけあれば平気か?と疑問はあったが注文した。女性店員さんが直ぐに注文の品を出してくれ、会計を済ませる。
「合計で銀貨六枚ですね」
思ったよりも高く自分には必要ないだけに痛い出費だった。つーかなんで俺が払てるんだか…そう思いながら店を出て森へと向かう。
道中、ポーションを自作できればわざわざ買わなくて済むがどうやって作るんだろう?そんな疑問が浮かぶ。自作できれば自身で使うのは勿論、売ったりも出来る為収入が増える。頭を悩ませながら門をくぐり森に入るのだった。
門をくぐるとき、セリムが初めてアルスに来た時に比べ警備兵の数が減っていた。が、それでも四人と無駄に多いとも思える数がいた。どうやらまだ、警備体制はそれほど緩められていないようだ。
今回の依頼で調査するのはモンスターの集団が存在するかどうか、存在したならば規模はどのくらいか、出来るならば集団の構成などと言うものを調べてくるという、ただ、遠くから見つけ観察してればいいそこまで難しくはないものに思える。
セリムとしては見つけ次第倒してしまうかと考えていた。どうせ報告したら討伐に乗り出すだろうから今倒してスキルを奪っておこうと考えているのである。とは言えまずは見つけなければ倒すことも出来ないため、感知系スキル+振動魔法を使い周囲一帯を調べ歩く。
二、三十分歩くと比較的まだ深くはない地点だがやはりと言うべきか大群の反応はなかった。ちらほらと数匹のモンスターは反応に引っ掛かるがそれだけである。目の前にモンスターが現れれば、集団を見つけられない苛立ちをぶつけるようにセリムが瞬殺する。それをキーラが「私にも戦わせて」と頬を膨らませて抗議するという光景があった。
さらに奥へと進む二人。そして付近にモンスターが出現した。キーラは感知系スキルを持っていなかったので先程の機嫌を直させるために指を指し方角等を教えてあげる。
「ほれ、この先にモンスターがいるぞー」
「えっ! どこよ」
嬉しそうに反応を示しセリムが指さした方を見つめる。やはりエルフなんだろう。矢など遠距離から放つのを得意にしていると言うだけあり視力は良いようで直ぐに見つける。
キーラは手を前に翳し魔力を込める。徐々に魔力が掌に集まりだし魔法が構成されていく。鋭い風の刃が生み出され、シュッという風切り音を鳴らしながら複数飛んでいく。途中にあった木々を切り刻みモンスターに当たった瞬間、モンスターは身体を幾重にも割断され息絶えた。
「大分、早くできるようになったじゃん」
「あ、当り前よ。セリムに出来て私にできない事なんてないんだから」
偉そうに言うが無詠唱が出来るようになったのはつい先日なのである。しかもまだ魔法発動までに多少なりとも時間がかかってしまう為一対一での使用はまだまだ難しいと言わざる得ないだろう。
「へいへい、もっと練習してくれよ。ほらあそこにもいるぞ」
おざなりに返事を返したり、再び感知引っ掛かったモンスターの位置を教えたりしながら進み続ける。すると以前セリムがカエルを湖こと爆殺した現場付近までまで辿りつく。
「ねぇ、ここって少し前に爆発したっていう湖じゃないの?」
「怖いのか? なんなら手でも握ってあげようか?」
からかうと「いいわよっ!」と怒ってスタスタと先に行ってしまう。その後を追いかけようとしたその時、不意に気配感知にモンスターが引っかかった。
「キーラっ! 戻ってこい。どこかにモンスターがいる」
急いで要件を伝えどこにいるのか周りを観察するセリム。だがどこを見回してもモンスターは見当たらなかった。なぜならそれは地面にいたのだから…
以前セリムが爆破した湖は爆発の所為で水は蒸発し生物は死に地面はかなり抉れ結構大きな穴になっていたのである。せいぜい三、四m程度の深さだが、魔力をかなり注ぎ込んだ結果である。その穴に横アナを掘りその中にモンスターがいたのだ。
発見が遅れたのは地面と言う場所を索敵範囲外にしていたのとちょうどセリム達がいた方に横穴があり見えなかったのである。モンスターも二人の存在を感知したのか、排除するためにモンスターが次々と姿を現した。
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・リザードマン
レベル:45
体力 :4400
魔力 :2600
筋力 :3500
敏捷 :3200
耐性 :2000
スキル
片手剣技 Lv3
筋力強化 LV2
体力強化 Lv2
敏捷強化 Lv4
龍鱗硬化 Lv3
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洞窟の中から姿を現したのは、リザードマンだった。水が吹き飛んでも完全ではなく、所々水溜まりのように残っている。住み処として丁度良かったのかもしれない。
リザードマンは龍を想像させる硬い鱗を持っていた。日の光を受けると緑色に光を放ち、美しくも見える。手には片手剣らしき武器を持っておりヤル気満々のようだ。龍と同じような鱗を持つリザードマンだが、龍種と言うわけではなく劣化龍種という本物の龍に比べるとパワーもスピードも固さも何もかもが低い。よってラングしてはそこまで高く設定されてはいないCランクの魔物だ。数は三匹。
「セリムは援護だけして」
キーラはセリムにピンチになると助けてもらうと言う事をどうにかしたいと表には出さないものの気にしていた。ので、今回はバシッと良いところを見せてやろうと一人で戦うことを告げる。
「分かったよ、無茶すんなよ」
本来ならまだ戦ったことが無かったので自身で倒したかったが、ここは素直に譲るセリム。セリム自身キーラが力を欲していることは知っていた。
無詠唱を習うあたりでも分かるだろう。それに加え二人での特訓が終わった後、一人で練習しているところを偶然に目撃してしまったのもありここは譲ってもいいかと思えたのである。
キーラは己の心内が緊張とセリムが任せてくれたことへの嬉しさ、期待、その諸々の感情でごちゃごちゃになっているのを自覚していた。
(大丈夫よ、私だって特訓したんだから)
キーラは特訓期間中に無詠唱に加え他にも魔法の練習をしていた。後衛職と言う事で前衛職が身に着ける身体能力強化系のスキルを有していない為ーー覚えようとすれば覚えられるが、必要性がそこまで高くないために覚えないーー、一人で戦う時にはどうするかとミノタウロスとのバトルで感じさせられたのだ。
己に言い聞かせ魔法を発動する。
「
直後、キーラの全身を覆うように風が吹き荒れ、風の繭とでも呼ぶべきものが包み込む。高速で回転する風の繭だが徐々に小さくなっていく。ある程度小さくなったところで繭を突き破るようにしてキーラが出てきた。
身体を覆うように風が吹き、包み込んでいる。風の衣とでも呼べるそれは荒々しい風を吹かせ、周囲のの木の葉を巻き上げている。
身体に風を纏う事で敏捷値を飛躍的に上げる魔法。キーラが使った魔法は己に足りないと思っていた。機動力を確保するためのものだった。常時魔力を喰うと言う欠点はあるもののキーラとは相性の良い技だと言えるだろう。
そしてキーラが暴風翼が展開されるのが終わると同時に戦闘は始まった。
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