第32話森の調査Ⅰ
セリムがキーラとの教え合いをし始めた日、ギルドではマスターの部屋でアーサーとレイニーが話し合いをしていた。
本来ギルドマスターの部屋は人を応接するための部屋ではなく隣に応接室があるのだが、もっぱら使うのはギルドマスターの部屋だ。これは単にわざわざ移動が面倒と言う理由もあるが今回はアルスの冒険者でもあるアーサーが相手だからだと言うのもあるだろう。
紅茶の用意を受付嬢にさせ退出し終えた所でアーサーは話し出だした。
「わざわざ時間とってもらってすまんな」
そう言ったアーサーの視線はレイニーではなく、執務机に向いていた。と言うのもレイニーの執務机には書類のの山がと言うべきものがあったのだ。それを見て、まずはわざわざ時間をとってくれた事に対して一言言うのがいいだろうと思ったのだ。
「それで今日はどういった用なのかしら?」
「この前俺がセリムの事について言ったの覚えてるか?」
紅茶を口に含み考える時間を作り出す。セリムの事と言われ、少し前にアーサーが言っていたセリムを育成そして監視の意味も込めてアーサー自身が面倒をみる事ねと記憶を呼び起こす。
「育成と監視だったかしら?」
「あぁ、んで一昨日までダンジョンに潜ってきたんだ。闘技のダンジョンな」
一昨日というのは帰りに一拍野宿をしたために昨日ではなく一昨日なのだ。
「そこで何かあったの?」
「それがよ、セリムの奴素手でミノタウロスを投げ飛ばして殺しやがったんだよ」
どうだ! すごいだろとまるで我が事のように嬉しさを隠そうともせずにアーサーは言った。確かに素手でミノタウロスを殺せるのはすごい事だ。たった十五、六歳位のしかも人族でそれが出来るのは普通ならばあり得ない。だが、偶にSランクに上がる冒険者と言う者にはそう言った常識外の連中がいる為、そして人よりも長がく生きてきたレイニーだからこそ幾つかの事例を聞いたことがあったのでそこまで驚くと言う事はしなかった。
「アーサー、嬉しそうに言うのは構わないのだけれど、何の為にセリムについたのよ…」
驚く事はしなかったが呆れてはいたレイニー。はぁ、とため息とつきアーサーの回答を待つ。
「いいだろ、喜んだって。俺はレイニーと違って今までそんな奴見たことも聞いたことも無かったんだからよ」
何の悪びれもせずに言い放つアーサー。もちろんアーサーの言い分も分からないではない。レイニー自身も初めて聞いた時はすごい!と興奮したのだから。だが、自ら志願して面倒を見ると言ったのでそこはちゃんとしてほしいと思うレイニー。
「確かに興奮するのは分かるわよ。でもそう言った意味では十分貴方もすごい部類に入ると私は思うのだけれど。なにせ悪魔を二体同時に相手取った聖騎士様でしょう?」
少しいたずらっぽくからかうように言うレイニー。言い方は多少真面目さには欠けるが、悪魔を二体同時に相手取るのは実際にはすごいことなのである。
悪魔とはこの世界ではない魔力の渦巻く次元の狭間にいると言われ儀式など特別な召喚方法で呼び出すものなのだ。悪魔にはランクがあり低い順から
・
↓
・悪魔男爵《デーモンバロン
》
↓
・
↓
・悪魔公爵《デーモンプリンス
》
↓
・
と五つの階級からなっている。一番弱いとされる士爵でBランク男爵がAランクで伯爵、公爵がSランク、そして皇帝がSSランクと区分わけされている。同じSランクの悪魔でも伯爵の方がステータス面が低いため弱いとされている。この中でアーサーが倒したのは士爵と男爵だ。
「数年も前の話だろ。それに俺は十五、六の時にミノタウロスを素手で倒せるほど強くはなかったぞ」
そういやぁ、そんな事もあったなと昔を思い出すような素振りを見せるアーサー。が、このままでいると今回何を話に来たのかと言う事になってしまう為自ら話を振ったにも関わらず、「早く要件を伝えてちょうだい」と強引に話を戻すレイニー。やれやれとは思うアーサーであったが、「それもそうだな」と話を戻す。
「あいつに関しては、今回の件で信用してもいいんじゃないかと俺は思うと言うか。どこの国にあんな戦える奴を送り出す所だあんだって話なんだが」
「そう、ならすぐに安心ね。今はまだ成長の途中と言う事もありただ"強い"と言う領域だけどこれから先のことを考えたら敵にした時に厄介な存在になるのは目に見えているのだから、信用できると分かっただけでも十分ね」
「そうだな、あれは将来的にSランクに踏みいる逸材だろうからな」
そう言いい手を付けてなかった紅茶を一気に飲むとアーサーは退室した。
キーラがやっとの事無詠唱が出来るようになって数日たったある日。セリムは冒険者ギルドに訪れていた。
「今日も依頼を受けるの?」
隣で問いを投げかけてきたのは何を隠そうキーラだ。ここ一週間ずっと一緒に居たせいで一緒にいるのが当たり前みたいな雰囲気が出来上がってしまっていたのだ。
(勘弁してくれよ、付いて来られちゃ高ランクモンスターの所にいけないんだからさ…)
やれやれとため息をつきながらどうやって引き離すか考えあるセリム。強引に引き離すこと自体は可能だ。ステータスに差がかなりと言ってもいいくらいにあるのだから。現に一回それをやった事があった。
どこで知ったのか宿に帰るとセリムの部屋に仁王立ちと言う如何にもキーラらしいポーズを取って居たのだ。そして思いっきり質問責めにあうと言う面倒事に巻き込まれた。その為、撒くに撒けない状態が続いていた。そんな事もあり、この頃はランクに見合った依頼を受けると言う日々を過ごさざる得なかった。
そうして今日も依頼ボード眺める。そこである依頼を発見する。
「森での調査? 調査って何すんだ?」
Eランク以外のランクの者ならば誰もが受けられると言うクエスト。都市アルス周辺の森の調査をしろと言うものだった。何でも最近森でモンスターの集団が確認されたと言う情報が入りそれの真偽を確かめる為に依頼として調査が出されていると言うものだ。
(森の調査ね、今はキーラがいるし都市周辺には強いモンスターも出ないからいいかね)
内心ではキーラの事をどうにかしたいと考えているのにキーラの事を心配して行動をするあたりセリムは案外本気で嫌がってはいないのかもしれない。
「森での調査依頼を受けるのね、さぁ行きましょう!」
「はいはい、受付に依頼受領届けだしてくるから椅子に座って待っててくれ」
「そう、早くね」
軽く返事をし受付へと行く。
「この依頼受けたいんですけど」
そう言い話しかけたのはフィーネの所の受付だ。
「久しぶりですね、セリムさん」
軽く挨拶をしフィーネにランクの確認の為のギルドカードと依頼を差し出す。
「調査依頼ですか…気を付けてくださいね」
「何かあるんですか?」
調査系の依頼を受けるのは初めてだったこともあり何か注意する事があれば聞いておこうとするセリム。
「アルス周辺の森ではランクの高いモンスターは出ないとされていますが、あくまでも可能性が低いと言うだけでまったく無い訳ではありません。調査ともなれば深い部分まで行くことになるかもしれません、その場合高ランクモンスターに遭遇するかもしれないと言う懸念がありますのでくれぐれも気を付けて下さいね」
「なるほど、ご忠告感謝します」
感謝の言葉を述べ頭を下げる。するとフィーネはいえいえと言いながら微笑んでくれる。癒されるな、こんな優しい笑顔を向けられると。
「えーと、セリムさん…? 私の顔に何かついていますか?」
癒しを求めるあまりフィーネの事を見つめてしまっていたようだ。どうやら癒しが足りていないと自覚するセリム。だって、キーラ笑わないし…
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