第3話人生迷った時ほど答えはシンプルだったりする
はぁ。 はぁ。
息を切らし呼吸が乱れる。今俺は剣を習う前の身体づくりをしている。何故こんなことをしているのかと言うと…
数日前に父親のハンスが発した「男の子には強く育ってほしい」と言う言葉のもと、ハンスにも剣を教えたと言う人物。ーーつまりハンスは父親であり兄弟子にあたるーの所に連れていかれ剣を習うことになったのである。
やはり男としては剣戟には憧れがあったが、修行をしようと思ったのは、何よりも師匠ーローウ・タンクーーが告げられた事が原因だった。
ローウの家を訪れたのは昼を少し過ぎたあたりだった。ローウの家はソート村の端の方にある為、同じ村に家があっても結構歩いた感じがある。
「ローさん、ハンスです。」
ハンスがドアをノックし名を名乗る。木製のドアが開き、中から中年のおっさんが出てきた。短く刈りあげられた髪、剃り残しのある髭。そこまでなら普通のどこにでもいるおっさんだっただろう。
ハンスから元冒険者で結婚を機に、こっちに来て暮らしていると聞いていた。その為、然程驚きはしながったが、年齢の割には鍛えられた身体をしているのが見てとれた。ローウの事を見ているとローウが険しい目つきでこちらを見ているのに気付く。ほんの一瞬だった為ハンスは気付かなかったようだ。
「よく来たな、ハンス。約束の件だろ。しっかりしごいてやるからお前は仕事に行ってこい」
「ははは、しごきすぎないで下さいよ。まだ子供なんですから」
「心配するのは分かるが過保護すぎると息子の一人立ちが遅れるぞ」
「それは困りますね。では仕事に行ってきますのでセリムの事よろしくお願いします」
そう言ってハンスは仕事に向かった。ドアを潜りローウの家に上がらせてもらう。ふと、まだ名を名乗っていないことに気付いた。ハンスがさっき名を言ってはいたが、教えてもらう身だ。名を名乗らなければ失礼だろう。そう思い名を名乗る。
「始めまして、ローウさん。セリム・ヴェルグです、よろしくお願いします」
そしてペコリと一礼。
「赤ん坊の時に会ったことあったが、さすがに覚えてないよな。まぁ、そんな構えなくてもいいぞ。ハンスみたいにローとでも呼んでくれ」
気軽に応じてくれる気さくな感じな人だと思いながら椅子に座る。ローも椅子に座ったところでローがこちらをまた険しい目つきで見ているのに気付く。
「ローさん? 何か顔に付いてますか?」
「いや、すまん。不躾だったな」
そう言いながら頭を下げる。上げた顔は何か確信を得たとでも言っているように神妙な面持ちで、喉の奥につまっている何かを吐き出すようにゆっりと話し出した。
「セリム。俺は元々冒険者で鑑定スキルを持ってる。だからこそ分かったんだが」
一拍開けてから話すロー。
「お前のそのスキル、神敵スキルか…」
そう言われた時の俺の顔は自分でも分かる程驚愕に染まったものだった。内心でもかなり焦っていた。
(何でバレた…。いや、鑑定スキルって言ってたからそれか…だとしたら不味い。このままこの場にいればもしかしたら…)
そんな最悪の考えが頭を過る。と言うのも、神敵スキル保持者を発見した者、捕縛、殺害に協力した者には国から報奨金が出されることになっている。
(このままだと不味い、本当に不味い)
混乱した頭では同じことを繰り返してしまい、考えが纏まらない。
「その顔を見るに自覚はあったようだな…心配するなって言っても変わんないかもしんないが、俺はお前をどうこうする気はない」
「…」
「ハンスから聞いてるかもしんないが、俺は元冒険者でよ。結婚して娘も出来て順風満帆な生活だった。けど、出かけ先でモンスターに襲われてな。娘を護るのに精一杯で妻を護れなかった。妻と子供じゃ多少の違いはあるかも知れねぇが失う痛みってのを知ったんだ。それをハンスには味合わせたくないんだよ。…だが、皆が皆そうだとは限らん。スキルの事が知れれば確実に国に報告する奴は出てくる。セリム、お前だけじゃなく最悪の場合は家族までもが対象になる」
その台詞を聞いた瞬間、生前の記憶ーー事故遭遇時ーーの事が思い起こされる。何故ここで今の家族ではなく生前の最期の記憶が思い出されたのかは分からなかったが、セリムとしてもあんな苦しい思いはしたくなかったし、させたくもなかった。
ハンスもシトリアも優しく自分の事を想ってくれる大切な家族。失いたくなかった。
「護りたければ強くなるしかない。今日ここに来たのは運がいいな。セリム、お前には選択肢がある。一つ目はこの村でスキルの事がばれないことを祈りながら一生を過ごす。二つ目は強くなって最低限家族くらいは護れるようになる。この二つだ。今すぐにとは言わん。だか、早めに答えを出すことを勧める」
決断を迫ったローは立ち上がりキッチンに向かった。少し一人で考える時間をくれるのだろう。そへから数分すると戻ってきた。お盆の上にコップが二つとお茶らしきものが入った容器がのっていた。自分とセリムの前に置く。
一口飲み、口を湿らす。セリムもコップに口を付けお茶を飲んだ。一気に半分ほど飲み干してしまった。自分でも気づかぬうちに喉がカラカラになってしまっていたようだ。
滑らかになった口で考えを告げる。とはいえ答えなど悩むまでもなく出ていた。
「ローさん。 剣を教えてもらえますか?」
「…子供にずいぶんと重い決断をさせちまったな。だか、しかと覚悟は聞いた。俺にできる限り、全てを尽くしてお前を強くしてやる」
そういってローさんに頭を頭を撫でられた。それから、俺はそこまで強かった訳じゃないけどな、と自嘲気味に笑っていた。
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