ホラー単品集・赤子石

連野純也

赤子石

初めての赤ちゃんは……。

赤子石

 大学生の時につきあっていた彼氏と結婚して、二年がたつ。

 

 夫は優しくて、金銭的に恵まれてるわけではないものの、幸せだった。

 初めての赤ちゃん。

 ばたばたと準備するのに大変で、でも夫はとても喜んでくれて。

 おなかも大きくなって。

 二人分は入ってるんじゃないか、なんて冗談も言い合ったりして。

 産科病院で、何度もやってくる陣痛に耐え、ようやく――。

 

「かわいい男の子ですよ――」

 と看護師さんに抱かれた、私の赤ちゃん。

 どうして。

 

 石にしか見えないのだろう。

 

 ただの、漬物石のような、川の上流に転がっているような、石。

 

「がんばったね、おめでとう」

 義姉さんも来てくれた。私はちょっと言葉を濁す。

「――私の赤ちゃん、どこかおかしくないですか」

「えー、可愛いよ。別に変じゃないよ? どうかしたの?」

「いえ、別に……」


 もしかしたら、私だけ、石に見えているの?

 ぶるっと、震えが走る。


 私の身体は胸が張っているし、母親の態勢に、受け入れるようになっている。それはわかる。

 だけど、


 夫と義姉は、私の様子がどうもおかしいと感じている様子だ。

 おかしいのは私じゃない。

 赤ちゃんなんだ。

 どうしてみんな、わかってくれないの?


 医師が夫に話している。

「奥様はもしかしたら産褥期さんじょくき精神病かもしれません。ごく稀ですがそういう症例も――」


「違う――ちがうちがうちがうちがう」

 私は新生児ベッドに寝かせられた――置いてある石をつかんで床に叩きつけた。

 看護師の悲鳴があがる。

 

 落ちた石がひび割れた。

 黒い、ねばねばした液体が床に広がる。

 中から出てきたものはぎょろっとした一つの目。じっと私を凝視した。

 そして、はっきりと言った。

「おかしいな、ひとりだけ受信チャンネル合ってないぞ」





                    終

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