炭酸水。
朝井ねむり
第1話
じっとりと湿気が絡み付いて、白いセーラーが肌に吸い付いた。
短いスカートだから教室で座っていると、太ももの裏が椅子に張り付いてそれもまた気持ちが悪い。
私は腰を浮かせて座り直した。
エアコンが壊れて使えないので申し訳程度についた昔使っていたらしい扇風機はその役目を全く果たさず、ただむわんと生温い風を上から吹きかけるだけだった。
現代文の吉野先生はチョークを一生懸命に黒板に叩きつけ、熱心に授業をしていたがその自己満足な熱気についていける生徒はごく僅か、ほとんどの生徒はぼうっと上の空で、シャープペンシルを指で回し続けたり、板書ではない何かを必死にノートに書き付けていたりしていた。
やっと単元の要約が終わったところで、授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
吉野先生はびっしょり汗をかいていて、それをタオルで拭って挨拶をした後そそくさと教室を出て行った。
何か飲みたい……皆が続々と帰る準備をしている中、私は水筒の麦茶をぐいっと呷った。
本でも借りて行こうかと学校の図書室に行くことにした。
ハイソックスをのばして、私は図書室へむかった。
図書室で面白そうな本は全く見つからず、結局適当に手を伸ばして取った文庫本を借りて帰ることにした。
図書室を出て、真正面の窓を見ると青紫とオレンジの淡い夕焼けが目に入る。
「綺麗だ…」
何だか胸が締め付けられて、私は駆け出した。
旧校舎の方なら、もっと見られる。
旧校舎の階段をやっと駆け上り、二階の廊下に着いた。
そこからみた夕焼けはもっと息を呑むくらい美しくて、私は咄嗟にスクールバッグから一眼レフのカメラを取り出した。
窓を開け、少しだけ身を乗り出して、無心でシャッターを切る。
薄い鮮やかな空に、オレンジが溶け出しているその夕日は何故だか涙が溢れそうだった。
その時、背後から何か聞こえた。
ピアノだ。しかしこの音は、今までに聴いたことのないとても柔らかい音だった。
聴き入ってしまった。
何だか胸がそわそわして、不思議な気持ちになった。私もこんな気持ちが残っていたのか。
何て綺麗に弾くんだろう_____
夕日を見ながらそう思った。
そう言えばこの後ろの教室は声楽部が週に一度だけ使う、旧音楽室だ。
好奇心だった。
気付かれないようにひっそりとドアを少し開けて、誰が弾いているのだろうと覗いた。
てっきり女の子であろうと思っていたが、そうではなかった。
眼鏡で、見た限り背がそれほど大きくなく、気弱そうな男子だった。
しかし目を閉じて、とても気持ち良さそうに弾いていた。
それはまさに、ピアノと静かに話すように。
私は彼とグランドピアノを見て、気付かぬうちにまた写真を撮っていた。
シャッター音が響くと、ピアノが止まった。
やってしまった。
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