葡萄とロベリア
@kuroboss
序章 侍蟻
この蟻は奴隷狩りをする蟻として名が知られている。奴隷狩りという野蛮なことをする蟻が侍を名乗るのはどうかと思うが、それはまぁ、置いておこう。
奴隷狩りを行うのは何も侍蟻に限ったことではない。アカヤマアリのようなヤマアリ属に属する一部の蟻も奴隷狩りを行う。ヤツが本当に恐ろしいのは、その奴隷狩りの仕方だ。
侍蟻は巣をつくらない。多くは身近にある黒山蟻の巣を乗っ取り、それを住処とする。奴隷狩りをする多くの蟻は、狩りを団体で行うが、侍蟻は違う。ヤツはたった一人で奴隷狩りを行い、その巣を乗っ取る。巣にもともと住んでいた黒山蟻も必死に応戦するが、戦闘用にデザインされた体をもつ侍蟻と、巣を繁栄させるためにデザインされた体の黒山蟻とでは勝負は目に見えている。例えるなら警察の存在しない世界で、銃を手にした銀行強盗が銀行を襲いに行くようなものだ。
そうして難なく女王蟻の元まで辿り着いた侍蟻は、女王蟻を噛み殺す。その際に、侍蟻は女王蟻の皮膚表面の細胞をなめとり、女王蟻になりすます。そこにやってきた何も知らない働き蟻は、そこにいる蟻が女王だと思い込み、いつものように世話を始める。侍蟻はこうして自分の領分を増やすのだ。いうなればヤツは殺人マシーンであり、変装の達人でもあるのだ。
僕はこの話を出世した同級生に会って、唐突に思い出した。父に聞かされた話だったと思う。子供のころは、侍蟻は悪い蟻だ、と思い込んでいたが、今はそうは思わない。優秀なヤツが、いい思いをする。ただそれだけのことだ。24歳にして学生の僕と、現社長の裕也とでは、人間としての価値が違う。これは、落ちこぼれの黒山蟻と、多彩な能力をもった侍蟻の物語。
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