第252話 Sister's Cry⑥
背後から固く、冷たく、そして身体が震えるほどの“恐怖”が現れる。
声一つ出せないほどの圧迫感にオルノ伯爵と愛理が振り向くと、そこに立っていたのは少年と夫妻が一組。
彼らの背後には多数の騎士も控えていた。
「邪魔だ。場所を空けろ」
通り抜けることは簡単だというのに、優斗はゲイル王国の騎士達へ命令する。
そして彼の声音は強制だと言っても差し支えなかった。
慌てて場所を空けるゲイル王国の騎士達を優斗は一瞥もせず、マルスとエリスを愛奈のところへ向かわせる。
愛奈も両親が目の前に現れたことで、ようやく恐怖に怯えていた心が少し和らいだ。
「……おとーさん、おかーさん」
二人が前に立ったことで、フィオナも愛奈を振り返らせて向かい合わせる。
エリスとマルスは視線を同じ高さにするため腰を屈めた。
「今日ね、私達はアイナのことを色々と知ったわ」
娘がどこで召喚されて、どのような扱いをされていたのか。
なんとなくではなく、はっきりと知った。
テーブルに座っている女性が愛奈を産んだことも理解している。
「だけどね、私達は今もアイナのことを大切な娘だと思ってる。アイナがどこの国に召喚されていようと、血が繋がってなかろうと私達の娘に変わりはないって思ってる」
優斗が連れて帰ってきてから、そうしようと決めたから。
そして月日が経つにつれて、当たり前のように抱いた想いがある。
「だってお母さんとお父さんはアイナのことを愛してる。最愛の娘だって胸を張って言えるわ」
親となる。
血の繋がりがない少女を娘として扱う。
そう決めて半年が経った。
一緒に過ごす日々を親子となるために過ごした。
だからこそ言えるのだ。
出会って、好きになって、大好きになって、愛していったから。
実の娘であるフィオナと差異無く、変わりなく、同じように。
親としての愛をエリスもマルスも、もう一人の愛娘に注いできたから。
「……っ」
愛奈のことを何も知らずに親となってくれたマルスとエリス。
そして娘の事情を知ったあとも変わらず愛娘だと言い切った両親。
それが嬉しくて、嬉しくて、愛奈の目から涙が零れ落ちる。
「どうしてアイナが泣きそうな顔をするのかな? お父さん達にとってアイナは、何よりも輝いている宝石だというのに」
マルスはハンカチで娘の涙を拭いながら笑みを浮かべる。
「アイナはお父さんとお母さんのこと、大好きかい?」
「だいすきなの……っ」
「じゃあ、お父さん達と一緒だ」
どこにでもある家族と変わらない。
単純明快な親子関係だ。
しかしトラスティ家のやり取りを許してはいけない者もいる。
「それはそれは、間違っていますとも! 貴女はエリ様の娘であるユズキ・アイナ様ですよ!」
慌ててオルノ伯爵が口を挟む。
これ以上、向こうの都合が上手く回るように喋らせてはいけない。
愛奈の怯えように加えて、愛奈自身からこちらを否定されてしまっては事実すら霞む。
だからオルノ伯爵は“どうして声を張り上げることが出来た”のかも理解しないまま、トラスティ親子を否定する。
「所詮は偽りの関係! 大事だ大切だ愛してると虚言を並べても茶番! 本当の母親には――」
「――ちがうのっ!!」
と、その時だった。
愛奈はフィオナの膝から立ち上がり、ぎゅうっと服を握りしめながら精一杯に言い返す。
父と母から受け取ってきた愛情を誰かに否定させてはいけない。
「おとーさんとおかーさんと、ちはつながってないけど……っ! かんけいないの!」
なぜなら今日、フィオナと約束した。
姉妹揃って頑張ろうって大好きな姉と一緒に決めた。
「あいなのパパとママは、おとーさんとおかーさんなのっ!」
そして愛奈は知っている。
こういう時、どうすればいいのかを。
優しい兄が出会った時に教えてくれた。
『嫌なことは嫌だと言ってほしい』
耐えるのではなく、堪えるのではなく、叫ぶ。
我慢する必要はどこにもない。
なぜなら愛奈は、その場所を――家族を得ているのだから。
「だからあいなのなまえは、あいな=あいん=とらすてぃなの!!」
どうしても両親のことを『パパ』と『ママ』と呼べなかった、もう一つのトラウマ。
故に愛奈が大きな声で告げたことが意味するのは、愛理に対する完全な決別に他ならない。
同時、謀ったかのように優斗がアリーが座っている椅子の背に手を掛け、オルノ伯爵へと声を掛ける。
「アリシア王女の相手も相当に辛かっただろう?」
最初から最後まで主導権を握り、巧みに罠を張る人間を相手取るなんて誰であれやりたくない。
だが現状、相手取るに最悪な人間が笑みを零し、
「安心しろ。ここから先、この一件は全てを僕が請け負うから気楽に構えていい」
一体、何を安心すればいいのか理解できない。
まだ誰であるかも名乗っていないのに、雰囲気も何もかもがおかしい人間と相対するなど頷きたくもない。
だが優斗は相手の反応など一切気にすることなく、ぐるりと周囲を見回した。
「それなりに人数を連れてきたから、ここでは人が入りきらないな。外にいる連中も含めて、隣にある鍛錬場へ行け。こちらもすぐに行く」
これ以上は愛奈に会わせないと言ったも同然の言葉。
当然、オルノ伯爵にとっては受け入れざる発言だが、
「僕が誰なのか分かっているなら、ここは素直に外へ出ろ。もし知らないとほざくのなら――」
怖気しか感じない嗤いと共に優斗は一言、告げる。
「――今、無理矢理に教えるのも一興だな」
アリシア=フォン=リライトとは、また違うやり取り。
他の選択を選ぶことなど許されない選択肢。
つまりは――拒否を認めない強制的な命令。
「……まあ、まあ、いいでしょう。それで貴方様が会話を選ぶのであれば、従いましょう」
とはいえ従順になってしまえば、どうしようもない。
オルノ伯爵は一つの楔を打ち込もうとする。
暴力を回避したのだから、当然のことそちらは会話で決着を付けるのだろう、と。
だから立ち上がって優斗の指示通りに騎士も愛理も外に出し、自分も鍛錬場に通じる扉に手を掛けて外へ出た。
エリスはそんな彼らの様子を見て、震えるほどに拳を握りこんだ。
「…………っ!」
ふざけるな、と思えば思うほどに強くなってしまう。
愛奈はお前達の欲望を満足させる道具ではない。
一人の人格を持った、大切な自分の娘だ。
「ねえ、ユウト。私はアイナを幸せにする。それが親としての役目だと思ってるわ」
もっと笑顔にしてあげたい。
たくさんのプレゼントを贈りたい。
「ゲイル王国なんかにアイナは渡せないのよ」
素晴らしい日々を与えたいと思っているから。
最愛の娘を誰が渡してなるものか。
「分かってます、義母さん。だから――」
「――だから私が立ち向かうわ」
エリスから突如として出た言葉に耳を疑った。
予想だにしない義母の意思に、優斗は困惑した様子を見せる。
「義母さん? どうして……」
この場は優斗に任されている。
理由は単純で、愛奈は優斗の妹であり助けたからこその責任があるからだ。
だが、
「私はね、貴方に家族のことを『大魔法士』としてお願いしたくないのよ」
自分の選択がどれほど愚かしいのかも理解している。
ここにいる人間の中で誰よりも凄く、強く、立場と権力を持ち、愛奈のことを守れるのか知っている。
誰が適任かをちゃんと分かっている。
しかしエリスが頼んでしまうことは、今までずっと保ってきた『義息子として接する』という決まりを破ろうとしているも同然だ。
例え本人が自らやると言ったとしても関係ない。
彼女にとって子供達に上下はなく、差異はない。
等しく愛している義息子と娘達だ。
「頼ったほうがいいことも分かってる。だけど私は……大魔法士として在る貴方に『私の娘を助けて』とは言えない」
王様でさえ優斗に今回の件は全てを任せている。
しかし親である自分が『大魔法士』として頼ってしまうと、優斗が優斗でいられる場所が無くなってしまうかもしれない。
一人の少年として過ごすべき場所を失わせる可能性を生み出すだけでも、エリスは我慢ならない。
だから義息子に頼るのではなく、自分が相対するために扉へ手を掛けて、
「任せてください、義母さん」
それでも留める声に、思わず歩もうとした足が止まった。
柔らかい表情を浮かべて、義息子がエリスの代わりに扉へ手を掛け開けようとする。
「ま、待ってユウト! 私は貴方のことを――」
「分かってますよ。理解している上で請け負うと言っているんです」
大魔法士として自分を扱いたくない。
彼女にとって優斗はたった一人の義息子だから。
そんなエリスの考えを分かっているからこそ、問題なんて一つもない。
「僕は――僕達は貴女達の愛に救われた」
エリスとマルスが二人の異世界人を救った。
「そして僕は貴女達のためなら、家族のためなら“全て”を使って障害を取り除く」
宮川優斗が持つ何もかもで、絶対に解決してみせる。
「だから義母さん。貴女は僕に頼っていいんです。義息子の僕が、義母の頼み事を聞くだけですから」
変に考えることはない。
何かを思って止まる必要もない。
「貴女に頼まれた僕が、どのような側面で相対するのかは僕が決めます」
そこで優斗はふっと笑った。
「むしろ今回なんて、大魔法士としてお願いしたところで問題ありません」
嬉しそうに笑みを零してエリスの感情を肯定する。
頼ることに対して、悔いや痛みを持つ必要がないと言わんばかりに。
「だってそうでしょう? 義母さんが『大魔法士』として僕にお願いをするってことは――それほどまでに愛奈のことを愛してる証明になるんですから」
エリスは本当に馬鹿だ。
彼女がどれだけ義母として自分に接しようとしているか、優斗は知っている。
大魔法士という二つ名を得た優斗に対し、どうでもいいと言って変わらず義息子として愛してくれていることを知っている。
だからこそ否定するわけがない。
トラスティ家の想いを叶えるためには、必須なのは自分の力だ。
であれば自身に浮かぶ感情は一つだけ。
「それを貴女の義息子であり、愛奈の兄である僕が喜ばないはずがない」
苦しむ必要も、悔やむ必要もない。
エリスが優斗に望んだことは、全て愛奈に対する愛情の証明だ。
「だから嬉しいんです。僕が救った子の両親が貴女達であることが」
連れて帰った少女に対して、親になると言ってくれた。
言った通り、親となってくれた。
「今日、僕は愛奈の兄として。そしてリライトにいる大魔法士として相対します」
テンションが上がる。
かつてないほどに高揚している。
だから自分も望もう。
「この素晴らしい日を、より良くするために」
この身に存在する全ての力を使って、徹底的に叩きのめす。
二度とこのようなことがないように。
「頼んだよ、ユウト君」
マルスも愛奈の背をゆっくりとさすりながら、義息子に全てを託す。
優斗も振り向き、しっかりと頷きを返した。
「頼まれました」
次いで声を掛けるのはアリー。
彼女はある意味、優斗にとって最大の理解者であるために伝えるべきことなどない。
「従兄様。何かを言う必要、ありますか?」
「まったくないね、従妹様」
やるべきこと、そして結果までも二人は見通している。
だからこその余裕。
「優斗。俺は愛奈を一度、王城に連れ帰るからよ。ちゃんとぶっ潰しとけ」
「当たり前。しっかりきっちり片を付けるよ」
修にとっても愛奈は妹。
故に相手への優しさなど一つもない。
「フィオナ、君も一緒に帰ってあげて」
「分かりました」
「あとは騎士と一緒に僕の妹を守ってくれてありがとう」
感謝を述べる優斗に対して、フィオナは首を横に振る。
「あーちゃんは私の妹です。だから私の妹のためにお願いしますね、優斗さん」
愛奈を守ることは彼女にとって当然のこと。
妹を守らない兄がいないように、妹を守らない姉もいない。
「おにーちゃん……」
最後に愛奈が声を掛ける。
優斗は頑張った妹に、安心できるように一つの言葉を求めた。
「そうだ、愛奈。もう一度、あの日に言ってくれたことを伝えてくれるかな?」
これから再び、優斗は妹を守る。
前と同じように、愛奈が怖いことから救い出してみせる。
「だから思い出して。伝えてくれた君が、どうなったのかを」
愛奈に教えた言葉がある。
愛奈から欲した言葉がある。
それが何なのか、気付いたからこそ愛奈の瞳は揺れた。
「……おにーちゃん」
忘れるわけがない。
一生、ずっとずっと覚えている。
頑張って伝えたから、優斗は応えてくれた。
だから前と同じように大きな声で愛奈は伝える。
「たすけてっ!」
その声を聞いた優斗は優しい笑みを妹に向けると、踵を返す。
背を向けられている愛奈は、兄の後ろ姿を見ながら口唇が震えた。
ジャルと戦った時から何も変わらない、優斗の後ろ姿。
誰よりも頼もしく、誰よりも優しさに溢れている兄の振る舞い。
この人と出会ったことが愛奈の始まり。
救ってくれた。
愛情をくれた。
家族をくれた。
幸せだと思える全てを、優斗は与えてくれた。
だから愛奈は無垢に信じていく。
自分の兄は本当に凄い人なのだと知っているから。
だから愛奈は純粋一途に望んでいく。
自分の兄のような優しい人になりたい、と。
だから――愛奈はもう一度、大きな声で叫ぶ。
「おにーちゃん、がんばってなの!」
精一杯の声援を、大好きな兄に。
そして優斗も振り向くことはしない。
ただ、その頼もしい背を愛奈に見せながら応える。
「任せなさい」
妹が望んでくれるのなら、兄である自分は何もかもをやってやろう。
なぜなら、
「愛奈のお兄ちゃんは――」
誰よりも妹に甘く、誰よりも妹に優しい、
「――愛奈のためなら何だって出来る、最強のお兄ちゃんだよ」
絶対の安心感を伴わせて、優斗は外に出る。
追従するように騎士達も続いた。
そして残ったのが修達だけになると、急に足下に魔法陣が現れる。
通常よりも巨大な魔法陣であることから、神話魔法だと察したアリーが残った面子で唯一使える人間に問い掛けた。
「えっと……修様、これは?」
「愛奈もすぐに離れたいだろうから、遠慮なく神話魔法を使うわ。おばさん、こっち来てくれ」
エリスを呼び寄せたと同時、響いたのは勇者の言霊。
『求め戻るは誓いの場所へ』
どのような魔法かも言っていないので、何人かは困惑した表情を浮かべる。
『帰ると願う所がある。帰ると切望した所がある』
その中でアリーは仕方がないと諦め、フィオナは修の気持ちを理解して納得の仕草をした。
『だから心を残すのではなく、心を置くのではなく。心と共に在ると誓った安住の地へ今こそ帰ろう』
修が右手を振るった瞬間、景色が一瞬にして変わった。
いきなりリライト城内にある謁見の間が皆の視界に現れる。
「……転移? それとも移送魔法……ということでしょうか?」
アリーの不思議そうな表情に修も首を捻る。
「よく分からんけど、簡単に言えば自宅に帰る魔法らしい。だから俺の場合、リライト城になるってこった」
とはいえ、いきなり過ぎたので何人かは口を開けてポカンとしている。
けれど数秒して、ハッと我を取り戻した騎士達は慌てて謁見の間から出て色々なところへ報告しに行った。
その場に残ったのは勇者と王女とトラスティ家。
修は愛奈に近付くと、
「まだ怖い感じはするか?」
「……ちょっと、だけ」
未だに怖いと感じる人達がいる。
一度気付いてしまったからこそ、距離を置いたところで分かる。
すると修は首を捻って王女へ確認を取った。
「もういいよな、アリー」
「ええ、構いませんわ」
「そんじゃ、もうちっと我慢な」
修が右手の中指と親指を合わせると、パチンと指を鳴らす。
すると愛奈の足元に魔法陣が広がった。
その様子を修は満足げに見て、
「これでもう怖くねーだろ?」
ニッ、と笑って愛奈に訊いた。
愛奈は自身が感じている怖さがさっぱり消えたことに気付き、素直に頷く。
「ありがとうなの、しゅーにい」
「いいってことよ。優斗がこれから頑張るんだから、俺も少しは愛奈にやってやりてーしな」
本来であれば、修が使った魔法はもっと早いタイミングで使うことも可能だった。
愛理が目の前にいる状況では軽減にしかならないが、それでも感じ取ってしまう分についてはどうにか出来た。
「で、そろそろ理由を話してほしいところだけど、どうなんだ?」
けれどアリーが止めた。
何かしらの考えがあったことだろうから修も従ったわけだが、理由は聞いておかないと納得はできない。
「乗り越えれば恐怖は軽減される。そう考えました」
派出所の中に入った時点で、愛奈が頑張っていることに気付いた。
だから必死に立ち向かっている妹分の姿を見て、アリーは一つの選択を選ぶ。
「再び訪れるかも分からない恐怖に、アイナちゃんを怯えさせたくなかったのですわ」
これ以上の恐怖に見舞われることはなく、何があろうとも絶対に助かる状況下。
であれば、とアリーは考えた。
愛奈にとっての極限状態を乗り越えることができれば、次に何かあったとしても大丈夫だ、と。
「従兄様も同意見だったからこそ、同じ事をやりましたし」
オルノ伯爵が言葉を発するだけの猶予を残し、愛奈が反論するための言葉を引きずり出した。
「そうしたほうがいいと思ったからこそ、わたくし達はやりました。ですが――」
正しいか、正しくないかはどうでもいい。
アリーは愛奈に近付くと、ぎゅうっと抱きしめる。
「――ごめんなさい、アイナちゃん。そして頑張ってくれて、ありがとう」
トラウマを打破し、成長できると思ったからこその選択。
けれど己の感情を納得させてはいけない。
必要なことだったから仕方ないと、肯定だけすることを許してはいけない。
しかし、
「……? アリーおねえちゃんがあいなに必要だとおもったから、やったことなの。だからだいじょうぶなの」
愛奈はきょとん、としたままだ。
自分のために我慢してやったことなのだから、怒る必要もなければ文句を言う必要もない。
愛奈ならば乗り越えられると信じてくれたことに、十分過ぎるほどの想いを感じる。
アリーは妹分のはっきりとした答えに柔らかな笑みを零し、
「ありがとう。わたくしはアイナちゃんの従妹として、身内として、貴女のことを心から誇りますわ」
さらに強く愛奈のことを抱きしめる。
ほっとしながら、安堵しながら目一杯に感謝の言葉をアリーは述べた。
そして名残惜しそうに離れたところで、修が声を掛ける。
「つーか向こうには証明しろだの何だの言っておいて、こっちは証明できない『従妹』って言葉で愛奈を守るんだからスゲーわ」
「あれは単純に引っ掛けですわ。わたくし達に証明させるのであれば、まずは向こうが証明しなければなりませんので」
あの場で証明しろと言ってしまえば、逆に問われる理由になる。
そして持っていないことなど、アリーは十分に分かっているからこそ従妹宣言。
初手で引っ掛かれば、それで良し。
もちろんスルーしても結局は証書の話に持って行ったので、結果は変わらないが。
「ちなみに個人として従妹は真実と思っていますので、告げた言葉から嘘の響きを読み取ることは不可能ですわ」
「あん? 嘘の響きがないから、大丈夫だってことか?」
「言葉に嘘を感じられないのならば、相手には真実と映るでしょう?」
視線の動き、声音、息遣い。
その全てで嘘を見抜くことは不可能。
なぜなら守るために嘘を吐いたのではなく、アリーは本当にそう思っているからだ。
「それに従妹である証書自体、ぶっちゃけユウトさんとアイナちゃんの分をわたくしは偽造していますし。証拠を出せと言われたところで問題ありません。国印が押印されているものを叩き付けてあげますわ」
「……うわ~、それ王女のやることかよ。いくら愛奈を守るためだとしても、やり過ぎじゃね?」
「わたくしは清廉潔白な王女というわけではありません。何より――」
相手を潰すために必要ならば、例え何であれアリーは使う。
事実も真実も嘘もペテンも何もかも。
だから、
「――虚実を織りなし、絶対的優位を作る。それがわたくしとユウトさんの手の一つですわ」
逆転など必要ない。
劣勢からの挽回など、どこにも利点がない。
大切な人を守るためには徹頭徹尾、優位を持っていることこそ最重要だとアリーは考える。
「なので個人的な感情としては、最後までやりたかったのですが――」
優斗が登場したのであれば、彼に任せることが一番愛奈を守ることに繋がる。
というわけで、
「従兄様に委ねて、我々はアイナちゃんとほのぼのさせていただきましょうか」
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