第239話 guard&wisdom:『異世界』とは、全てが同じではない

 

 翌朝。

 朝食は簡単なものを作り、全員で食べながら帰るまでの予定を話していたのだが、

 

「朝早くから、大変申し訳ありません。昨日皆様とお話しさせていただいた、側近のクロノと申します」

 

 昨日、レキータの異世界人の情報を教えてくれた側近が卓也達の前に現れた。

 彼は深々と頭を下げながら、若干悲壮な様子でお願いしたいことがあると伝えてくる。

 嫌な予感しかしない卓也達だが、無碍にあしらうのも可哀想だった。

 なのでお願いを受けるかどうするかは内容を知ってから、と踏まえた上で聞くことにする。

 側近は何度も感謝の意を述べてから、昨日から今日にかけて起こった出来事を話してきた。

 

「昨日、イズミ様より教えていただいたことを踏まえ、王はタイシ様にカツヤ様が異世界人であることを伝えました。また書かれてある内容はこちらにもある技術だ、と。ところがタイシ様は少し考える様子を見せたあとに“情報の口外及び無断使用しない為の誓約書”というものにサインをさせる必要がある、と言い出した次第で……。私も詳しくは理解できませんでしたが、迂闊に異世界の知識を使用してしまえば各国のバランスが崩れるらしいのです。さらにこちらにもある、とのように言ったのはカツヤ様方の策略だとも」

 

 開いた口が塞がらない、というのはこのことを言うのだろう。

 特に卓也と和泉はがっくりと項垂れた。

 

「……ぶっ飛んだ話がやって来たな」

 

「俺も教育はしたほうがいいと言ったが、これは想像すらしていなかった」

 

 まさか穿った理解のされ方をするとは思わず、ぐったりしてしまう。

 

「もちろんのこと王は皆様を信用なさっており必要ないと仰っているのですが、今朝もタイシ様に様々なことを言われ大変お困りの様子で……。故に独断ではありますが、リル様方にお力添えを願えないかと失礼を承知で伺った次第なのです」

 

 側近は話していくうちに悲壮感が増しすぎて、顔が青ざめている。

 身内の恥、というわけではないのだろうがレキータの恥には違いないのだろう。

 

「レキータ王が憐れすぎる」

 

 さすがの和泉も同情してしまった。

 修や優斗、正樹はある意味で酷いのであって、今まで知ってきた異世界人の中で飛び抜けて酷い。

 レイナは口元に手を当て考えながら、

 

「これは国を通したほうがいい話ではないか?」

 

「……こんな馬鹿なことで王様に迷惑を掛けたくないんだけど」

 

 卓也が未だげんなりしながら答える。

 側近がさらに青ざめたことに克也が気付き、慌てて話を変える。

 

「せ、誓約書とやらに署名するのは駄目なのか? どうせ意味がないのだから問題ないはずだろう?」

 

「少なくともオレ達としては、面倒くさいからって理由で勝手に署名するのは不味い」

 

 王様などの上にいる人間に確認か同意を得てから書く必要がある。

 和泉も卓也に同意した。

 

「個々人で片付くのであれば署名したところで問題ないが、レキータの異世界人は国としての立場を主張するだろうから面倒になるはずだ。加えて署名したことをリライト・リステルの両国に知られた場合、レキータ王国が大惨事になるからやめたほうがいい」

 

「えっ? どうしてなんだズミ先?」

 

 いきなり話の規模が大きくなったが、なぜそうなってしまうのだろうか。

 和泉は克也の問い掛けに対し、単純なことだと前置きしながら話す。

 

「今回の件はレキータ王国がイエラートに相談し、俺達はイエラートから情報の補強を頼まれた。そして相談内容については刹那が無意味だと説明したにも関わらず、レキータの異世界人は信じなかった。つまりこれは刹那どころかリライトの異世界人のことも信じていないことになる。それはそれで信じるも信じないも構わないんだが、俺達がふざけた誓約書に署名した場合はこいつらの周りに黙っていられない連中が多すぎる」

 

 卓也とリルを指差しながら和泉は淡々と説明する。

 

「まずタクヤのことを信じない上に二人へ無礼を働いたことでリステル王国の爆ギレが始まり、リライトにいる魔王と魔女がレキータ王国を虐める為に嬉々として勇者や六将魔法士、他国の王女など大物を巻き込んで大惨事に“する”ことは確定しているようなものだ。最後に世界中から王族貴族平民問わず非難がやってくるから、どうあがいても詰みになる」

 

 そうなってしまえば、レキータ王国は悲惨どころではない状況に追い込まれる。

 もちろん問題児はこちらではなくレキータの異世界人なので、遠慮する必要が一切ないことも拍車を掛けるだろう。

 

「ということで、とりあえず現状の問題をまとめたいところだが……」

 

 和泉は側近の方を向いて少し考える。

 

「確認しておいたほうが無難か」

 

 そして真っ正直に和泉は問い掛けた。

 

「俺と卓也について“どれくらい”まで知っている?」

 

 一体、どの程度まで卓也達の情報を知っているのか。

 和泉は前置きも何もせずに問う。

 側近は僅かに困惑した素振りを見せたものの、すぐに返答した。

 

「タクヤ様はリル様の婚約者であり、イズミ様はタクヤ様のご友人だということは知っています。ですが予想を言わせていただけるのであれば、お二方も異世界人なのではないかと考えております」

 

 そして的確に答えた側近に対して和泉はなるほど、と頷いた。

 彼の言っていることが事実なのか、それとも事実ではないのかはどうでもいい。

 情報を統合して考えれば和泉達が異世界人だと察するのは容易であり、例えレキータ王が与太話で口を滑らせたとしても目くじらを立てる必要もない。

 ただ和泉にとっては自分達が『異世界人であること』を知っているほうが、話がしやすかった。

 

「確かに俺も卓也も異世界人だから予想は合ってる。ただしこの話を広めようとした場合、うちの王様が許可を取って他国にも敷いている箝口令に引っ掛かり禁固となるから気を付けて欲しい」

 

 そもそも王様が卓也達に『普通の学生生活』をさせる為に秘匿しているのであって、何かしら厄介なことがあって問題解決の為に名乗るのは構わないと教わっている。

 伝えてくれた際、主な視線の先にいたのは優斗と修だったが。

 側近は和泉の説明にすぐ頷き、

 

「承知致しました。あとは皆様のご友人でいえば、ユウト様が大魔法士様ということも存じております。大魔法士様の情報は各国の王、または王へ近しい者達には開示することを許されていますので」

 

「把握した」

 

 加えて優斗が大魔法士だということを知っていれば、『瑠璃色の君へ』さえ読んでいれば容易に辿り着く。

 大魔法士ユウト=フィーア=ミヤガワとユウト・ミヤガワが同一人物である、と。

 であればさらに話がしやすくなった。

 和泉は問題点を幾つか挙げていく。

 

「まず一つ目。俺達はこんな残念なことで王様に迷惑を掛けたくない、ということ。基本的にリライトは異世界人が騒動に巻き込まれた場合、王様が責任を持って動いてくれるからだ」

 

 優斗の場合はとんでもない状況が多いが、一人で勝手に片付けて事後報告が多い。

 ダラダラと長引かせる理由もないのでちゃっちゃかやっているわけだが、それでも王様は最終的な責任は自分にあると言い切る。

 つまり今回の件も王様が責任を持って片付けてくれるだろうが、こんな馬鹿なことで迷惑は掛けたくない。

 

「二つ目。誓約書にサインをした場合、レキータ王国がボロクソに言われることが確定する。それはそっちとしても避けておきたいだろう?」

 

「ちなみに可能性はどれほどでしょうか?」

 

「卓也とリルに熱狂しているリステル王国、敵とみなせば六将魔法士や他国の勇者、王族さえも物理と精神を滅多打ちしてへし折る大魔法士と王女が俺達の仲間だ。可能性は高いと考えたほうがいい。それに例え俺達が止めたとしても大魔法士が水面下で動いた場合、俺達ではおそらく気付けない」

 

 無駄すぎるくらいに能力があるので、表向き平然を装っても裏で何かをやる可能性だってある。

 

「つまり俺達は理由が違えど、レキータの異世界人をどうにかしないといけないわけだ」

 

「そのようですね」

 

 意見が一致したところで、どうやって解決するのかを相談する。

 まずはレイナが最初に意見を出した。

 

「レキータの異世界人に直接言うのが一番手っ取り早いのではないか?」

 

 主に優斗がよくやる方法だが、確かに解決手段としては単純明快で楽ではある。

 しかし優斗は煽ったり貶すだけなので、そもそも相手を説得するどころか理解を求めていない。

 ただ単純にへし折っていく方法だと現状では全く参考にならない。

 

「あたし、そもそもあいつと会いたくないわ」

 

「同じ」

 

 リルとミルが会うことすら嫌だと言う。

 確かに卓也をおろそかに扱い、男が苦手なのに不用意に近付いてくる相手ではそうなっても仕方ない。

 

「それに俺達が言うことを真っ当に聞くとは思えない。だとすればレキータ王に説明したほうが楽なはずだ。俺達が失敗したのはレキータ王に対して内容を詳しく説明しなかったことで、その程度で終わると楽観視していたのは問題だった」

 

「……いや、普通終わるだろ」

 

 現にレキータ王はそれで納得してくれたのだから。

 卓也の辟易したような言葉に和泉は肩を竦めた。

 

「残念ながらレキータの異世界人が普通じゃなかった、ということだ」

 

 そして絶対的に考えが足りていない点が一つある。

 

「何より技術はメリットだけではなく、デメリットもあることをレキータの異世界人は知らない」

 

 

        ◇      ◇

 

 

 話し合った結果、やはりレキータ王に説明するのが一番楽で問題が起こらないだろう、という結論に至った。

 特にリルとミルはレキータの異世界人とうっかり出会ったとしても、会話はしないことを取り決める。

 本来なら男共で行ければいいのだが、何かの拍子で誘拐される可能性を考慮したらレイナが離れることを不許可。

 なので結局、全員で王城へと向かうことにした。

 側近が謁見の間の状況を確認すると第一ラウンドは終わっていたらしく、妙に疲れていたレキータ王がいたらしい。

 けれど卓也達が話に来たと知るや、すぐに招き入れてくれた。

 そしてレキータの異世界人がやって来たとしても絶対に入室させないよう兵士に言付けて、レキータ王は卓也達から話を聞く体勢を取った。

 加えて問題児に後で何と言われようと構わないので、書記を呼んで説明したことを書いてもらうことにする。

 和泉を中心に解説はスムーズに行われ、内容は終盤に書かれている“レキータの異世界人的重要技術”に差し掛かる。

 

「次は蒸気機関についての説明なんだが……、技術自体は昔の技術を載せている本に記述されていた記憶がある。どうだ?」

 

「はい。過去に存在した技術の一つです」

 

 側近が頷いたのを見て、和泉も同様に頷いた。

 逆に卓也は少し驚いた様子を見せ、

 

「和泉、あったのか?」

 

「存在はしていたが、魔法科学の発展によって必要なくなった。重い物を運ぶ、持ち上げるにしても宝玉一つあれば片が着く」

 

 つまり必要とされていないから消えてしまった、というわけだ。

 魔法や精霊術がある以上、わざわざ発展させるメリットがなかったとも言える。

 

「……そういえばギルドで建築系の依頼といえば宝玉への魔力補充とか、重力系を使える魔法士や地系統に強い精霊術士募集とかだったな」

 

 卓也自身は依頼を受けたことはないが、そういったものが張り出されていたことは覚えている。

 そして精霊術士で戦闘に特化した者がほとんどいない理由もそこにあった。

 もちろん精霊術士に戦闘を好まない人物が多いのも確かだが、精霊術の利便性は魔法と比べて群を抜いている。

 特に生活基盤である家に関係することは基本的に精霊術士が関わっていた。

 材料一つとっても、地の精霊に作り方を教えてもらったり作ってもらったりと密接な関係であることに加え、世界の構成を担う精霊に訊いていることで無用に自然を傷つけることもない。

 故に精霊術士は戦闘とは別方面で重用されている、というわけだ。

 

「ズミ先、じゃあ知識チートで蒸気機関って造れないのか?」

 

 克也が訊いてみると、和泉は「セリアールでは難しい」と端的に答えた。

 

「一応は本に記載されているとはいえ誰一人専門知識がないというのに、絵と文章を見せただけで完成させるには膨大な時間が必要だ。これには重要どころである圧力負荷が缶体のどこに掛かるか計算されていないし、水処理をどうするのか書かれていない。現代知識を使ってチートをするにはあまりに手落ちだ」

 

 手に持った紙をひらひらとさせながら、和泉は問題点を述べていく。

 

「この装置は通常の何倍もの圧力を缶体に掛けるような代物だ。少しの傷があれば最悪の場合、亀裂が入り壊れる。かといって傷があっても問題ないように缶体自体を厚くすれば、次は熱が上手く伝わらない。これを言葉や絵だけで伝えてすぐに出来ると俺は思えない」

 

 しかもいきなり裂けた場合、周囲への被害が懸念される。

 少なくとも素人が気軽に手を出せるようなものではない。

 

「あとは水についてだが、蒸気機関の水にまつわる問題は単純に言って何だと思う?」

 

「えっと……何なんだ、ズミ先?」

 

 克也にはさすがに分からない。

 むしろ平然と答えられる和泉がおかしいのだが、彼は至極平然とした表情を答えた。

 

「蒸気機関の材質は伝熱を考えて大体が鋼か鋳鉄だ。要するに水に含まれる鉄分が錆の発生源となり、これが問題となる。これは傷がある場合、殊更に問題が酷くなるんだが今は置いておこう。もう一つは水を蒸気機関内で加熱し蒸発させた場合、不純物を“濃縮”させて物体にする」

 

「……濃縮? 水って気化して消えるだけじゃないのか?」

 

 影も形も無くなってしまう、と思っていた克也は驚きで目を見開いた。

 しかし和泉は首を振ってさらに解説を加えていく。

 

「水というものは大体がカルシウムや鉄分など水を構成する以外の成分も含んでいて、純然たる水というものは作らなければほぼ存在しない。海水を蒸発させると塩が出来るだろう? それと同じようなもので、水が蒸発すると不純物が固形化する。おそらくこの世界の水も場所によって様々だろうが、色々な成分が含まれているはずだ。各家庭で飲み水としても使用されている宝玉で作られた水――水魔法も同様で、これらも電気を通すことから不純物を交えていると推察できる」

 

 あくまで法則が地球と同じであれば、という仮定での話だ。

 しかし魔法という論外要素を除けば大凡は同じ法則であると和泉は思っている。

 

「つまり缶内で大量の水を蒸発させると水以外の成分が固形化し缶体底部に沈殿する。向こうの世界ではその面倒を減らすために超純水――不純物を取り除いた水を使っている場合もある。少なくとも水処理を行うことが普通だ」

 

 蒸気機関というのは圧力負荷による部品や缶体の故障。

 もしくは水によってスケールと呼ばれるゴミが蒸気機関内に発生し、能力低下してしまうことが一番の問題だ。

 密閉している蒸気機関を解放して清掃することは問わずとも必須となる。

 

「要するに造っただけで終わりと考えているのであれば、一年も持たずに壊れる。そもそもレキータの異世界人が書いたものは通常よりもサイズが大きく、日本でも法令点検が必要なものだ。ズブの素人が造るのだとしたら、それこそ飾りの知識だけで済むわけもなく精霊術士と打ち合わせを密に行って作る必要がある」

 

 精霊術士と相談し造れば、おそらく問題なく造れるだろう。

 求めている材料や構成などを伝えて精霊が応えてくれるのであれば、まず問題など起こらない。

 けれどそれが純然たる知識チートと呼べるのかどうかは難しいところだ。

 

「無論、蒸気を発生させる装置どころか蒸気を利用する先――ピストンなどについてもしっかりと書いている作品は山ほどある。だからレキータの異世界人がちゃんと書いてある作品を読んでいれば良かったんだが……。どうやら今までの情報を統合すると、そうじゃないことは明白だ」

 

 絵を描き、言葉として伝え、それで造れてしまうのであれば和泉とて今頃は億万長者になっている。

 けれど現実は未だにカメラを改良しており、知識チートとは掛け離れた状況でしかない。

 

「それに彼が好んで読んでいるであろう知識チートの蒸気機関開発において問題が起こらないのは、地球とは違う水質であったり技術者に知識は無かろうと精度の高い製造技術を持っている等の理由があるからこそ成功する。つまりレキータの異世界人は自分が読んだ小説の異世界とセリアールを『異世界』という単語で一纏めにしているわけだ」

 

 異世界は全てが同一の世界ではない。

 作品別に異なる世界設定があり、世界観がある。

 蒸気機関を発明して問題が起こらず成功するのは、日本ともセリアールとも違う世界だからだ。

 問題が起こらない材質や水質を最初から持っている異世界に対し、この世界は少なくとも問題になってしまう。

 だというのに同じ方法論を用いるのは悪手でしかない。

 

「お前のこういう系統に関する蘊蓄は優斗以上に凄まじいよな」

 

 卓也も呆れ半分に笑う。

 優斗でも理解していない領域に対して、平然と足を踏み入れるどころかどっぷりと浸かっているのが和泉だ。

 知識量という点において彼に勝る者はいない。

 

「俺も技術系の人間だ。だから高校一年の時に知識チート系の作品を読んでテンションが上がった結果、どこまで実際に出来るのかと調べたことがある。そして蒸気機関についても中世ヨーロッパ程度の技術力で地球と異世界が同等の材質や水質構成だと仮定した場合、深く調べれば調べるほど不可能に近いことが分かった。そこから導き出して検討した結果、材質も水質も地球とは違うのだろうという結論に至るしかなかった」

 

 和泉がここまで言えるのは、自分が過去に同様の失敗をしたからだ。

 知識チートであれば自分でも楽に妄想できるだろう、といった気軽な考えがあったから。

 そして凝り性なので地球と同一の材質や物質、水質であると一つの仮定を加えてしまった結果、どうあがいても難しいという結論を出すしかなかった。

 

「そもそも日本に近いトイレやシャワーがある時点で『圧力』というものをこの世界が知ってることは気付くべきなんだが……まあ、どうでもいいことだ。つまり魔法や精霊術があるから蒸気機関を発展させる必要性がない、ということだ」

 

 なので作ろうとしてところで無駄。

 他にもっと楽に扱える代替品があるというのに、わざわざ作るメリットはない。

 

「次に民主主義への転換についてだが……」

 

 和泉、卓也、克也は顔を見合わせる。

 

「二人は何か言えることはあるか? ちなみに俺は何もないからパスだ」

 

「政治とかよく分からないから、オレも何も言えない。パスだな」

 

「無茶を言うな、ズミ先。俺もパスさせてもらう」

 

 自国は何一つ問題ないので、やれ民主主義にしようとレキータの異世界人が言ったところで同意できない。

 そもそも他国の政治に首を突っ込む義理も覚悟も知識もない。

 

「これは勝手に身内で話し合ってくれ。以上だ」

 

 和泉が答えると同時、レキータ王と側近が眉ねを揉みほぐした。

 おそらく面倒過ぎて疲れたのだろう。

 けれどこちら側としてはさっさと終わらせたいので、最後に書かれてある文章を読み上げる。

 

「最後は工場を建設し大量生産によるコストカット……とあるんだが、そもそも今まで書かれてある物は全て潰していったので必要がない。加えてレキータの異世界人が想定している工場を建設した場合に起こる問題点を、大魔法士が回答したので渡しておこう」

 

 和泉がそう言うと、克也は紙を取り出してレキータ王に渡す。

 すると読んでいくうちに、レキータ王の顔が段々と蒼白くなっていった。

 

「……これは確かに不味いの」

 

「俺個人の推察を言わせてもらえば、大魔法士が提示した問題は起こると思っている。とはいえ大魔法士の回答だとしても、この国にいる精霊術士に確認しておいたほうがいい」

 

 優斗の回答にはそれほど面倒事になると書かれている。

 すると克也が和泉に声を掛けた。

 

「ズミ先、大精霊に確認するなら俺でも出来るぞ」

 

「いや、信用という点でこの国の精霊術士に訊くのが一番だろう」

 

 この件については、やはりレキータ王が信用できる者に託したほうがいい。

 迂闊に踏み込んでこれ以上、余計な問題に首を突っ込みたくはないからだ。

 と、ここで和泉は大きく息を吐く。

 伝えるべきことは伝え、やれることはやったからだ。

 

「俺達が出来るのはここまでになる。リライト王に迷惑を掛けず、レキータ王国にも被害が及ばない方法はこれぐらいしか思い付かない。だからこれ以上のことになればリライト、リステル、イエラートの王達に話を通さざるを得ないからやめてほしい、というのが俺達の総意だ」

 

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