第190話 話袋:とあるファンクラブの一日・フルボッコ編
「さて、皆さん。今回は特別顧問にも来ていただきました」
大きな丸いテーブルを囲む姿は、まるで円卓会議のよう。
その中で最初に会長が一人の女性を示す。
「大魔法士の第一人者にして、ユウト様へ聖剣を渡すという偉業を成し遂げた方です」
紹介され、齢70は超えていそうな年輩の女性が笑みを零した。
「先日、会長さんからお手紙が届いてね。面白そうだから参加させてもらおうと思ったの」
◇ ◇
「では、各々報告を」
いつものように会議が始まった。
続々と手が上がっていく。
「先日、レアルードの戦いにおいて俺はユウトと一緒に戦うことが出来た。普段のユウトじゃなくて、大魔法士としてのユウトとな」
口火を切ったのは近衛騎士の一人。
「神話魔法を操り、シュウと共に魔物を滅していく姿は驚嘆の一言だったな」
目の前で行われたお伽噺。
誰もが憧れるほどの光景だった。
だが、
「あれ? あんた、謁見の間でのユウト様を知らないの?」
女性の近衛騎士が残念そうに言う。
「フィンドの勇者の従者もシュウ様も良かったけど、やっぱり一番はユウト様よ。友を助けるべく告げた言葉――『今、ここで行かなきゃ僕は……友達だなんて言えないから』。そして惹き込まれるような笑顔で『彼と同じ異世界人にして大魔法士“宮川優斗”が絶対にフィンドの勇者を救ってみせる』って告げた時は、その場にいた誰もが“助けに行こう”と思うに十分だったわ」
一連の流れが本当に素晴らしいものだった。
「後の我が王の言葉によって生まれた空間に居ることが出来たのは、本当に近衛騎士でよかったと思った瞬間だったわ」
「……俺、途中合流だったから知らないんだよなぁ、それ」
「いいだろ。俺なんて兵士だから何も知らないうちに終わってたんだぞ」
優斗達が国を救ったことも、何もかもを終わった後に教えてもらった。
兵士という立場上、知っていることだけでも珍しいのだが、悔しいものは悔しい。
「会長なんて一緒に名乗り上げてるんだから、ずるいってもんじゃないですよ」
「私ならではの特権というものです」
自慢げな会長。
この人もこの人で、世界的有名人なので出来るのも納得するところではあるが、それでも羨ましい。
「馬車で空を飛ぶ経験っていうのも、二度とないとは思うが……窓から見えた光景はとんでもなかったな」
「確かに。白竜がシュウの友達ってのは知っていたが、あれほど気軽にお願いできる関係というのは、羨ましいものがあるな」
「レアルードに着いた時、ユウト様が使った精霊術もまさしく真髄って感じでしたよね」
一緒に行った近衛騎士達が遠くを見ながら会話を弾ませると、精霊術士が首を捻った。
「どういうことですか?」
「大精霊一体で魔物一万匹以上、全て吹き飛ばしたんだよ」
耳に入ってくる言葉に精霊術士数人がざわついた。
「ほ、本当ですか?」
「嘘は言ってない」
「……さ、さすがはミヤガワさんです」
呆れるというか、問答無用でおかしなことをやってる。
とはいえ驚きはしない。
「えっと……普通は無理なのか?」
「私達が知る限り、大精霊の攻撃力は最大で上級魔法と同じくらいです」
精霊術士の自分達とて魔法も精霊術も最大の威力は似たようなものだ、と。
何となくで思っていた。
ふと、全員の視線が会長に向く。
「私も同様の疑問を持ちました。しかしシルフを従えて事を行ったユウト様曰く、世界の風精霊を統括しているのだから、これぐらい出来るのは当然だ、と」
「……言われてみれば、確かにそうですね」
統括しているレベルと威力が合っていない。
要するに、魔法と似たような威力に落ち着くのではなく、同じようなレベルの実力だからこそ、似たような威力になるのだ。
「神話魔法といい、精霊術といい、我々はまだまだ精進が足りないようですな」
◇ ◇
さらに会話を花咲かせる集団。
話題は特別顧問へと移っていく。
「特別顧問は何かありますか?」
「私? 私は……そうねぇ」
少し考えると側にある鞄から一つの本を取り出す。
「これなんか、どうかしら? ユウト君公認の絵本」
表紙は子供向けの絵が描いてある。
が、問題はそこではない。
「サインが……あります」
「公認の印ってことで、書いてもらったの」
ついこの間、来てくれた時にやってくれた。
「結構気軽にやってくれるのね、ユウト君。『これぐらいいいですよ』って」
さらっと言ったことに特別顧問以外の全員が項垂れる。
いきなり負けた気分になった。
「あら、どうしたの?」
のほほんとした感じの特別顧問だが、それがどれだけ難関なことなのかを知らない。
会長とて必死にお願いした末に得た物なのだから。
「……わ、私が……あれだけ苦労したものを…………。な、何が特別顧問と私達で違うというのでしょうか!?」
「何って、ファン歴じゃないかしら? 私はこれでも大魔法士様のファン歴60年以上だもの」
いくら会長が優斗のファンとはいえ、特別顧問は破格のファン歴。
宮川優斗が大魔法士である以前から大魔法士のファンである。
「し、しかし我々はユウト様のファンである以上、出会った日々からいって差異は――」
「私の“夢”である大魔法士様はユウト君よ。つまりファン歴継続なの」
にこやかに語る特別顧問。
「だからこそ私は聖剣のレプリカをユウト君に渡した。“夢”を求めて“夢”を追い続けて“夢”に出会ったから。そして私達の“夢”を叶える為にね」
圧倒的なファン。
優斗が凄いから、憧れたから大魔法士である彼のファンになったのとはレベルが違う。
会員の一人が呟いた。
「……か、格が違いすぎる」
まさしく完全勝利だった。
◇ ◇
若干、気落ちしたまま副長が執務室へと戻ると、補佐官とビスがいた……のだが、
「俺が気付かないとでも思ったか?」
開口一番、ツッコミを入れた。
ドキっとしたエルはどもりながらも言葉を返す。
「な、何のことでしょう?」
「ほう。しらを切るつもりなのか」
フェイルは自分の前に上司を座らせる。
「近衛騎士団副長自らが出る会議だ。さぞ重要な会議だったのだろうな?」
「そ、それはもちろん」
「では議事録は存在するのか?」
「……えっ?」
「もちろん、あるのだろうな?」
「え、えっと、それは……」
助けを求めるが如く、周囲に視線を巡らせるエル。
ビスと目が合ったのだが、彼はどうしようもないとばかりに首を横に振る。
すると盛大な溜息をフェイルが零した。
「いいか、エル殿。やるなとは言わない。偶には勤務中の息抜きも必要だろう。そのことに関して咎めるつもりはない。だが会議という名目はいただけないな。なぜお茶会という形にしない。であれば騎士団としても経費を出すし、集まっているメンバーも騎士から精霊術士、貴族、平民に国外の有名人と多種多様でリライトの好ましい一面にもなろう。なのにも関わらず隠れてやろうとする事がいけない」
「し、しかし、こういうことは会議という名目上で隠れてやってこそ――」
「何か言ったか? エル殿」
鋭い視線が副長を貫く。
さらに彼女が縮こまった。
「……いえ。何も言ってません」
「反省文400字詰めで20枚、明日までに提出するように」
まるで学校の先生みたいなことを言うフェイル。
というか量が多い上に明日までとか酷すぎる。
「な、なぜですか!?」
「会議という名目上、議事録を出せと言う部下よりは優しいと俺は思っているが?」
「うぐっ」
真っ当な所を突かれて、思わず副長が呻く。
「……どうしてエル殿はユウト達が絡むと、頭のネジを何本も抜いてポンコツになるのだろうか」
呆れて物も言えない……いや、もの凄く言ってはいるのだが気分的にはそうだ。
さらにフェイルはもう一人に視線を向ける。
「ビス、お前もいけない」
「じ、自分もですか!?」
思わぬ矛先にビスもビックリする。
「お前はエル殿を甘やかしすぎだ。今後、上司に対してどう対応していくかを書類にして提出しろ」
「し、しかし……」
「普段のエル殿について書け、と言っているわけじゃない。ユウトが絡んでポンコツ化した際、どう対応すべきかを考えておくことが重要なんだ」
圧倒的なまでの正当性にビスも言葉が出ず、ただ頷く。
「エル殿も分かったな? 反省文は明日の朝10時厳守だ」
「せ、せめて18時に!!」
今現在、時刻は15時。
もう20時間を切っている。
「近衛騎士団の副長ともあろう者が部下に反省文を書かされる状況にさせたんだ。10時厳守は譲らない」
問答無用のフェイルにエルはぐったりと項垂れた。
「……今日は厄日です」
特別顧問には格の違いを見せつけられた上、部下に反省文を書かされるのだから、確かにそう言っても過言では無い。
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