第146話 才能の有無
才能がないことは知っている。
自分が師事している人にも断言された。
「才能はないよ」と。
けれど、そのことに落ち込むことはない。
昔は精霊術を使えたところで、そよ風程度だった。
昔は魔法だって、同じ魔法なのに皆より威力が低かった。
それでも『強くなりたい』と。
ずっと思ってきた。
もう“誰かに守られなくてもいい”ぐらいに。
頑張って。
努力して。
強くなると決めた。
だからこそ、あの人との出会いは幸いだった。
最初から舐めた口を利いて、喧嘩を売り、すぐにやられた。
そして押しかけるように勝負を挑んではやられていると、色々と教えてくれるようになった。
繰り返していると、気付けば弟子のようになっていた。
出会った頃は四代属性の中級魔法を使えていた自分は、師事している人のおかげで風の上級魔法を使えるようになり、もっと凄い魔法も教えてもらえた。
「才能なんてものは問題じゃない。自分は出来ると信じて、壁を乗り越えることだよ」
もちろん、ただ努力するだけは足りない。
才能ある人間と同じようにやっては、実力差がつく。
別のやり方で、才能者以上のことをやっていかなければならない。
もちろん自身が望むからといって、平然と限界まで追い詰める指導をすることは人によって最悪だと言うだろう。
――けれど自分にとっては。
◇ ◇
「おっ、へっぽこキリアじゃねーか」
放課後にギルドへと歩いている優斗とキリアに対して、とある男が馬鹿にするように声を掛けてきた。
だが二人は今、それどころではない。
「……あのね。無理をするのと、無茶をするのと、無謀をするのは違うっつってんでしょ。キリアがさっきから言ってるのは無謀。だから駄目だって言ってるんだよ」
「なんで無理するのと無茶するのはいいのに、無謀だけは駄目なの?」
「無理をするっていうのは、自分がきついと感じるぐらいまでやってるってこと。無茶をするっていうのは自分を度外視した行動を取るってこと。無謀っていうのは、ただの考え無しの馬鹿がやること。分かった?」
半眼で蔑むようにキリアを見る優斗。
「……要するにわたしのこと、馬鹿って言ってるのね?」
「要しなくても直球で馬鹿って言ってるんだよ、大馬鹿」
そして優斗はキリアの頭をチョップするが彼女は堪えない。
「とりあえず行ってみて、それから考えればいいじゃない」
「行かなくてもこれぐらいは最低限分かれ。上級魔法を使えようと何だろうと、キリアの場合はまだ死ぬ可能性が高いから駄目だって何度言ったら分かるのかね。考えて行動しろって口酸っぱく言ってるのに、未だに君の脳みそは僕の言葉が刻まれないのかな?」
近くで変な男があれこれ言っているような気もするが、どうでもいい。
キリアが優斗を睨み付ける。
「……相変わらずムカつくわね」
「馬鹿なことを言わなきゃ、こっちだって説教しない」
まるで一触即発のような雰囲気。
けれど先程から何かを言っている男が少しだけ、声を大きくした。
「お、おい! オレを無視す――」
「うるさい!」
「うるっさいわね!」
その瞬間、思い切り怒鳴られる。
思わずビクっとする男に対して、優斗は容赦なく問い詰める。
「さっきから何? 説教の邪魔なんだけど」
ごちゃごちゃ言っていたみたいだが、何なのだろうか。
「い、いや、その……へっぽこキリアがいるから」
ちらりと男がキリアを見る。
だが優斗には何一つ関係ない。
「いるから何なのかな? 早く言ってくれない?」
「だ、だから……」
優斗の迫力に押され、上手く言葉に出来ない男。
「こっちは何だって訊いてるんだよ。どもってる暇があったら早く言って、説教の時間が削れて時間の無駄。それともあれかな? へっぽこキリアがいるから馬鹿にしようと思って声を掛けたとか、そんな馬鹿なことを言うつもり?」
彼の言っている“へっぽこキリア”はよく理解できないが、少なくとも貶しているであろう言葉だ。
だからそう言ったのだが、どうやら当たっているらしい。
男が目を見開いた。
「あのね、こっちは君が邪魔でうるさいって言ってるのが分からない?」
「わたしだって先輩をどうにか説得しないといけないんだから邪魔なのよ」
そこにキリアの追撃が入った。
だが、
「……へぇ。すっとぼけたことを言うね、キリア。僕に対して説得なんて出来ると思ってるの? 余計な邪魔まで入れといて、ふざけたことを抜かしてくれる」
「はあっ!? そっちこそふざけてるじゃない! そこの馬鹿がわたしに喧嘩売ってきてるだけでしょう!? っていうか普段は先輩のほうがよっぽど喧嘩売られてるし、どの口がほざくのよ!!」
さらに激しく口論する二人。
男は呆気に取られ……ついでに完全無視される。
というわけで、肩をがっくり落として去って行った。
◇ ◇
「っていうことが昨日、あったのよね」
学院の昼休み。
キリアはサンドイッチを片手に、中庭でラスターに昨日の出来事を話していた。
「……世の中、ミヤガワと言い合える奴なんてそうそういないぞ」
中身を知って尚、刃向かうなんて大したものだとラスターは思う。
「昨日は結局どうしたんだ?」
「言い合いに負けて、先輩に訓練でボッコボコにやられたわよ。それでね、倒れてる最中に言うのよ。『その程度でCランクの魔物を一人で倒すとか考え違いも甚だしいね』って」
昨日、言い合っていたのはキリアが『一人でCランクの魔物を倒したい』と言ったことから始まった。
それを優斗が否定し、キリアが反論し、言い合いへと発展。
しかし相手が弟子もどきとはいえ、言い負かした上にボコボコにするとは、
「……鬼だな、あいつ」
何一つ甘くしない。
彼女もそれは分かっているし、何よりも優斗が否定した理由も今は分かっている。
「とはいえね、先輩が許可しないってことはまだ無理なのよ」
「なんだ。案外落ち着いてるな」
ラスターが拍子抜けしたような表情になる。
「言い負かされてボコされた後には理解したわ。で、それを伝えたら『気付くのが遅い』って追加口撃。ヒートアップするのはわたしの欠点ね、ほんと」
前々から優斗に言われているが、未だに直りきってはいない。
しかし前よりは進歩はある。
「先輩に教えてもらってると、強くなっていく感じがよく分かるわ」
「……ボコされてるのにか?」
「そうよ。何か問題ある?」
「問題しかないように思えるが」
ラスターが呆れる。
と、そこに優斗がやって来た。
「ごめん、待たせたね二人共」
そして持ってきた弁当箱を開いて食べ始める。
「あれ? なんか中身が可愛らしいけど、それってフィオナ先輩が作ったの?」
「そうだよ。朝に渡されたんだ」
キリアの問いにニコニコと笑みが零れる優斗。
「じゃあ、その卵とウインナー貰ってもいい? こっちは卵サンドあげるから」
「はいはい。あとでフィオナに感想言ってあげてね」
早速、物々交換し始める二人。
昨日の遺恨など残っているわけもなかった。
「ラスター君はいいの? フィオナ先輩の作った料理よ、これ」
「いや、いい。フィオナ先輩は超絶に可愛いというのは変わらないが、それ以上に怖い。不用意な行動をするのはやめたほうがオレの身のためだ」
あの時のフィオナは本当に怖かった。
だから迂闊に行動はしたくない。
「そういえばマジギレされたって言ってたものね。嫌われてる……っていうわけじゃないでしょうけど、仕方ないわね」
「フィオナはもう大丈夫なんだけどね。ラスターはマリカに嫌われてるから」
「マリに? どうして?」
キリアも弟子もどきである以上、マリカとは普通に面識がある。
というより「りあ~」などと呼ばれて、抱きつかれたりもしてる。
そんなマリカが人を嫌うなど、そうそうあるとは思えなかった。
「家族団らん邪魔して、フィオナ不機嫌にして、マリカに無理矢理食べ物を押しつけたから」
「……ラスター君。マリに何やってるの?」
キリアが馬鹿にするような目つきになった。
「あ、あの時のオレは盲目だったんだ! 今となってはトラウマに近いんだぞ!」
フィオナにマジギレされるわ、赤ん坊からは嫌われるわ、優斗には色々言われるわ、良いことがなかった。
◇ ◇
そしてくだらない話をしていると、目の前で歩いている少年を追いかけている少女の姿がある。
「ちょっと待ってください、ヒューズ君!」
「……ん? どうした、委員長」
名前を呼ばれて振り返る少年。
優斗はその光景を見て、
「ああいうのって、なんか青春って感じがするね」
ほのぼのした気持ちになる。
「声を掛けながら追いかけて、相手が振り向くっていうのが青春だよ」
「確かに分かる」
「そうかしら?」
頷いたラスターと首を捻ったキリア。
「二人も似たようなこと、やったことないの?」
優斗は話の流れで訊いてみる。
「…………」
「…………」
先程の光景を自分達に置き換えるキリアとラスター。
「わたし、ラスター君だったら振り向いた瞬間に魔法ぶち当てにいくわよ」
「オレもキリアだったら避ける準備を整えて振り向くな」
「……なんというライバル関係」
訊く相手を間違えた。
優斗と修のような関係とは違えど、この二人も間違いなくライバル関係。
色っぽい話など一切ない。
むしろ訊いたこと自体が馬鹿だった。
なので優斗は再び、先程の少年と少女に眼をやる。
すると少女のほうがヒートアップしていた。
「だから、なんでやる気がないんですか!?」
「つまらないんだよ」
「そんなことで才能を無為にするつもりですか!?」
気怠げな少年に向かってあれこれと言う少女。
だが、自分だけは埒があかないと思った瞬間に周囲を見回す。
そして先輩である優斗達を見つけた。
目つきは“味方になってくれるだろう”という期待を持った視線。
「突然申し訳ありませんが、先輩達からも言ってもらっていいでしょうか?」
いきなり話しかけられ、優斗達は顔を見合わせる。
「……どうしてこうなったのかな?」
「先輩の所為でしょ、どうせ」
「違うよ」
「だったらラスター君の所為ね」
「そうしようか」
「……おい」
流れるような優斗とキリアの会話に、最後ツッコミを入れるしかないラスター。
しかし頼りにされたのだからと、ラスターは話を聞く。
この中で一番律儀だった。
「それで、どういうことなんだ?」
「ヒューズ君は五年に一人の才能の持ち主って言われてるんです! それを『つまらない、やる気がない』と言って腐らせるなんてもったいないと思いませんか!?」
「……いや、思いませんかと言われてもな」
また厄介なことを言われた。
ラスターが難しい顔をしながら答える。
「ヒューズ君とやらの才能なのだろう? だったら彼の自由だと俺は思うんだが」
生かすも殺すも彼次第ではないのだろうか。
けれど少女はそう思っていないらしい。
「才能があるものは、それをやるべきです! 才能の無い者が嘆いているのに、それを尻目に才能のある者がやる気ないなど言語道断です! だから才能を持つ人は相応の責任があると思います!」
一息に力一杯言われた。
とりあえずキリアは優斗に尋ねる。
「先輩。そんなものあるの?」
「あるわけがない。才能なんて自分で決められないのに、他人が欲した才能を持っているだけで責任が発生する意味が分からない。それにやることが才能で決まる世の中だったら、僕だってキリアだって立つ瀬がないよ」
「特にわたしはそうよね」
鬼のような……もとい、鬼すら逃げるような訓練をしているキリアにしてみれば“才能”なんて言葉で全てを決めて欲しくない。
しかし少女にとっては想定外の反応。
「なっ!? なんでそんなことを言うんですか!?」
「この二人は君と真逆の人間だから意見を求めたら駄目だと思うぞ」
ラスター的には本当にそう思う。
才能に真っ向から勝負を挑んでいる二人だ。
「どういうことですか?」
少女が訊いてきた。
なので、優斗とキリアはとりあえず言ってあげる。
「才能という壁があるのなら」
「ぶん殴って」
「蹴り飛ばして」
「「 ぶっ壊す 」」
最後は揃った。
ラスターは相変わらずの二人に苦笑し、
「このような二人だ。才能なんてどうでもいいと思っている」
けれど少女は納得がいかないらしい。
「努力したところで、真に才能ある人には届きません」
いわゆる天才と呼ばれる人種には努力などしたところで敵わず、無意味。
少女はそう言っている。
だが優斗は首を捻った。
「どうにも考えが平行線を辿っちゃうね。こっちは才能関係ないと思ってるから」
優斗としては“才能”なんてものは問題にならない。
当人が本当に欲しているのならば、才能なんてものは蹴散らすべきだと考えている。
「努力は必ず報われるなんて、甘いことを言うつもりですか?」
胡散臭げな目つきになる少女。
だが優斗は首を振った。
「それこそ甘いことを言ってるね。頑張ってるから報われる……なんて本当に甘い。死ぬ気でやってるんだから報わせるんだよ」
なぜ“報われる”なんて他人任せな出来事のように言うのだろうか。
「偶然だのタイミングだの、その程度のものに左右される努力はやらないほうがいい。後悔にしかならないよ」
「そ、それこそ甘い考えです! 死ぬ気でなんて誰だって――」
「やってないし、出来るわけがないよ」
反論しようとした少女に優斗は優しい口調で言葉を被せた。
「誰だって出来るような努力を『死ぬ気』とは言わないかな」
なぜそう言うのか、彼の意図をラスターは理解できる。
優斗自身がそうだったのだろうし、現在においてはキリアもヤバい領域に入っている。
「……ミヤガワ。言いたいことは理解できるが、お前がキリアにやってることはありえない」
「かもしれないね。ほとんどの人は一日で逃げ出すレベルだし」
「この前、最悪レベルのやつを見たが俺は絶対に逃げ出す。あれは女の子に対してやることじゃない」
時たま見ていた訓練は温かった。
普通の人なら心が折れそうなぐらいの駄目出しをしているというのに、全力でキリアを潰している訓練は想像以上だった。
あれはもう訓練に見えない。
立ち上がらなければ絶対に死ぬという状況で、優斗は躊躇なく魔法を放つ。
キリアは立つことすら困難な状況なのに、だ。
僅かでも間違えれば確実に殺している。
あまりにも恐ろしい光景にラスターが口を出すと、
「キリアの目が死んでいない以上、余計な世話だ」
「…………邪……魔よ」
冷酷な言葉と共に、息も絶え絶えでかろうじて聞こえる言葉がラスターに届いてきた。
彼だってキリアが望む場所は知っている。
けれど、だ。
ここまでやらねばならないのかと痛感させられるほどの光景だった。
そんなありえないものを脳裏に思い浮かべているラスターの前には、
「これでもちゃんと傷を残さないようにしてるよ。仮にも女の子だし」
「そうなのよね。だからわたしの身体、傷一つ残ってないの」
のほほんとした様子の師弟もどき。
「そういう問題じゃない。常識がおかしい、お前らは」
ラスターが言うと、優斗とキリアは揃って同じ言葉を返した。
「「 常識なんて投げ捨ててるけど 」」
「ハモるな!」
「いや、だって才能無い人が常識持ってどうするの?」
同じ事をしたところで“才能”という絶対的な壁があるのだから、勝てる訳がない。
だから優斗は平然と常識を無視し、キリアに無理をさせるし無茶もさせる。
「そうよ。わたしみたいのが常識に沿ったら駄目だって、最近実感してるんだから」
「……キリアも少し前までは常識的だったんだが」
人より自身を追い詰めているキリアだったが、それでも常識の範疇だった。
しかし今の彼女はラスターが絶句するほどのことをやっている。
「誰がわたしを指導してると思ってるのよ。普通に常識ぶっ壊れるわ」
キリアが隣の常識外を示す。
「…………そうだよな。ミヤガワなんだよなぁ」
「先輩ってだけで頭おかしいって分かるじゃない」
どうしようもないと思ったラスターと、優斗だからこそ当然だとばかりのキリア。
何にしろ、かなり失礼なことを言っている。
と、ここで委員長と呼ばれた少女を無視してしまったことを思い出す。
「すまないな。少し内輪で話した」
ラスターが謝るが、少女は優斗達の会話に困惑した様子だった。
平然と才能という言葉を無視するのだから、意味が分からない。
狼狽えたような表情の少女にその時、少年が声を掛けた。
「委員長、その、大丈夫か?」
展開の意味は分からないが、とりあえず少女が可哀想だと思ったので話しかけたようだ。
確かに少女が助けを求めた相手は大いに間違っていると言っていい。
「えっと……すんません。変なことに巻き込んじまって申し訳ないっす」
優斗達に頭を下げた。
しかしラスターが軽く手を振り、
「いや、気にしないほうがいい。この二人は論外だからな。さらには口も達者で詐欺師のような奴がいるのだから、断言されても無視するぐらいが丁度良い」
言葉の応酬に関して言えば学院で一、二を争うほどの奴だ。
ミエスタ女王とも冗談とはいえ、ラスターが冷や汗出そうなほどのやり取りをしていた。
「だが彼女のように心配してくれる同級生がいるというのは良いことだと思うぞ」
ラスターは少女を見ながら、うんうんと頷く。
けれど少年は先程の会話を聞いて、気になったことを尋ねる。
「ちょっと訊きたいんすけど……俺って結構どうでもいいんすか?」
視線の先にいるのは最上級生。
才能などどうでもいいと言い放った人物。
「えっと……ヒューズ君だったよね」
「はい」
頷く少年に優斗は逆に問いかける。
「それってどういう意味?」
「……俺、リライトには絶対に必要になるとか、色々と言われてるから……その、ええと、俺って必要とされてるんじゃないかと思ったんす」
彼の言葉に優斗はふむ、と腕を組む。
「やる気ない奴が“どこ”で必要になるのか、ちょっと分からないかな」
今のところ、リライトが人員不足で困る状況はない。
むしろ続々と洒落にならない連中が集合している。
「ヒューズ君はどうしてやる気がないの?」
「なんていうか、つまらないんす。今んとこ、全力出さなくても同学年で俺に敵う奴はいないっすから。だから授業出る意味があんのかなって」
「けれど上級生だったら君を倒せる人が結構いると思うよ」
「……えっ?」
本当にビックリした顔になるヒューズ。
確かに気持ちは分からなくもない。
才能があり、同学年で誰も敵わないのであれば自分が一番強いと思っても仕方ない。
「この学院ってね、とんでもない人が多いんだ」
「筆頭が何言ってるのよ」
キリアが冗談交じりに言葉を挟む。
なので優斗も同じように冗談を交え、
「それにね、どこかの馬鹿な先輩も『わたしが一番強い!』とか言って、ボコされた経緯があるんだよ」
後ろからボコされた奴の睨み付けるような視線を感じるが、ボコした奴は軽く受け流す。
そんな馬鹿なやり取りの最中、ヒューズは若干信じ切れていないような感じで優斗に尋ねる。
「……本当に俺、勝てないんすか?」
「勝てないよ」
断言した。
「だったら、その……俺より強い人と戦ってみたいっす」
ヒューズが右手を軽く握りしめながら言った。
興味を示した瞳が優斗達を見据える。
実感してみたいのだろう。
自分より強い人間がいることを。
だからこそ身構えたのが一人いる。
「先輩、これってわたしがやるのよね?」
「別にキリアでもいいんだけど……今日は僕が相手をしようかな」
師匠もどきの発言に弟子もどきがきょとん、とした。
「あれ? 珍しいわね。絶対わたしに投げられると思ってた」
「彼が敵わない存在を証明するわけだしね。キリアだったら微妙にどうなるか分からないし、分かり易いほうがいいと思って」
確かに、とラスターが頷いた。
「貴様ほど適任はいないな」
「というわけで僕が相手をするよ」
剣も持たず、弁当箱を片手に持ってヒューズの前へと立つ優斗。
あまりにも戦おうとする出で立ちではないため、ヒューズが少し狼狽えた。
「えっと、その……本当にいいんすか? 俺、強いんすけど」
少なくとも武器か何かは持ったほうがいいと思う。
けれど優斗はにっこり笑って告げた。
「大丈夫だよ。先輩だからね」
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