第47話 必然の強さ

 ベスト4が出そろった個人戦。

 準決勝2試合目では副長が現在、勝負をしているが分が悪い。

 一向に攻められず、反撃に出たとしても威力や攻め手に欠けている。

 

「ユウト!」

 

 優斗が副長の試合を観戦席で見ていると、声を掛けられた。

 呼ばれた方向を見てみれば、クリスとクレアが優斗に向かって歩いている。

 

「会えるとは思ってるけど、思ったより早く会えたね」

 

「リライトにある円形の闘技場とは形が違って、四角いリングに観戦場所が二ヶ所しかない珍しい形ですから。その分、幅が広いのが難点ですが制服を着て黒髪な人物を探していけば、思うほど手間は掛かりません」

 

「そっか」

 

 人数としては少ない部類なので、確かに黒髪は目立つ。

 

「他の方々は?」

 

「作戦会議中」

 

「ユウトはここにいてもいいのですか?」

 

「僕がいると作戦会議に参加しないのがいるからね」

 

「なるほど」

 

 言葉に秘められた人物を思って、クリスが苦笑する。

 

「一般の部はどうなってますか?」

 

「一応、今は準決勝。副長が闘ってるけど……」

 

 と、二人が視線をリングに向ければ、ちょうど副長の剣が弾かれた瞬間だった。

 ほどなくして審判から勝利選手の名前が告げられる。

 割れるような歓声が起こった。

 

「……負けてしまいましたね」

 

「善戦はしてたんだけど相手はギルドランクSの大物らしいからね」

 

 まともにやり合っただけでも十二分に凄いと言えるだろう。

 

「一般の部も次が決勝。ということは午後からユウト達の出番というわけですね。頑張って下さい」

 

 クリスの応援に、後ろにいたクレアもおっかなびっくり、

 

「お、応援しています!」

 

 優斗に言葉を掛けた。

 

「ありがとう」

 

 あまり回数をこなして会っていないせいか、未だに会った最初は緊張しているクレア。

 優斗は前々日に見た新聞を話の種にしてみる。

 

「二人とも、新聞特集のやつ見た?」

 

「いえ、自分は見ていませんが」

 

「わたくしもです」

 

「なんか僕の評価がゴシップ記事みたいになってたんだよ」

 

「どのように?」

 

 問いかけるクリスに優斗は苦笑する。

 

「関係筋より高評価……とか言われてた。あとはデータが少なくて未知数、とか」

 

「また信用性のない文章ですね」

 

 確かにゴシップのように感じられる。

 

「しかし事実はもっと酷いものですが」

 

「あの……それはもしかして、ユウト様は……」

 

 恐る恐る尋ねるクレアにクリスは軽く手を振る。

 

「逆ですよ、クレア。隣にいる化け物に勝てる人間なんて、自分が知る限りは一人しかいません」

 

「ユウト様は化け物なのですか!?」

 

「突っ込むところ、そこ!?」

 

 まさかのボケにツッコミを入れる優斗。

 クリスが笑って否定する。

 

「クレア、自分が言いたいのは『ユウトが強すぎるから高評価程度じゃ話にならない』ということです」

 

「そうなのですか」

 

 と、頷いたところでクレアが暗に込められた意味に気付く。

 

「あれ? 一人しかいない……ということはつまり、クリス様よりも強いということでしょうか?」

 

 クリスだって学生の中では相当な実力を持っているのはクレアも知っている。

 けれど優斗より強いのが一人しかいないということは、おそらくは優斗より上だと思われるのはレイナであり、つまるところクリスよりも強い……ということになる。

 

「自分とユウトを比べないでください。泣きますよ?」

 

「あ、あのあの、ご、ごめんなさいクリス様!」

 

 クリスの言葉を真正直に取って慌てるクレア。

 優斗もクリスも小さく笑う。

 

「冗談ですよ」

 

 クリスが告げると同時にアナウンスが流れる。

 決勝の時間と、午後から始まる学生の部の出場選手の集合。

 

「そろそろお時間のようですね」

 

「楽しみにしています」

 

 優斗の代わりに観客席に座った二人に優斗は軽い感じで、

 

「できるだけ、期待に添えようとは思うよ」

 

 

       ◇      ◇

 

 

 予選は完全なる抽選によって組み分けされる。

 つまりは高評価なところでも、組み合わせ次第でつぶし合いになる。

 ということは、

 

「予選1組。リライト、マルコス、サイタル、エンガルト」

 

 上位ランクに数えられたリライトとエンガルトが同じ組になることもある。

 

「さっそく因縁の対決が勃発って感じかな?」

 

 リライトメンバーと合流した優斗はしみじみと感想を言った。

 

「早いか遅いかの違いだ」

 

「……ものすごく楽しそうだね」

 

「つまらないと思っていた予選から、これだからな。思わず笑みも零れてしまうというものだ」

 

 そうこう話している間に抽選は続く。

 他の上位評価のチームは順当にバラけ、予選で一番の注目はおそらくリライトとエンガルトになるだろうと周囲も話している。

 

「予選1組の試合は30分後より始まります。それまでは各国は控え室を設置していますので、そこでお待ちください」

 

 運営者の言葉でそれぞれの国が、宛がわれた部屋へと向かう。

 部屋で待つこと数分、副長が入ってきた。

 

「おしかったですね」

 

「いえ、精進が足りませんでした」

 

 優斗が声を掛けると、落ち着いた返事がきた。

 どうやら負けた反省はすでに済ませているらしい。

 

「さて、一般の部は終わりました。ベスト4という結果には王も納得してくださるでしょう」

 

 副長は全員の前に立つと、今度は引率者としての役割をしっかり果たす。

 

「けれど私が貴方達に望む結果は一つです」

 

 レイナ、ラスター、優斗に視線を巡らせる。

 

「優勝。それが出来ると私は思っています」

 

 告げる言葉は、優勝に足るメンバーであると自信に満ちた言葉だった。

 

「ではブリーフィングを始めます」

 

 副長の宣言によって作戦会議が始まる。

 

「まず予選の国を確認すると、マルコス、サイタル、エンガルトの三国ですが……」

 

 つい先ほど決まった対戦国を副長は思い返す。

 

「正直に申し上げれば、リライトとエンガルトの一騎打ちになるでしょう」

 

 他は雑魚でしかない。

 

「邪魔なマルコスかサイタルの選手は秒殺してください。無駄に攻撃を喰らってはたまりません」

 

 中にはある程度の実力者も一人ぐらいはいるかもしれない。

 

「おそらくはエンガルトも同じ考えでしょう。相手の出方を見てから、対応すべきチームを見定めてください。二国を倒し、エンガルトと一騎打ちになった場合……」

 

「私の相手はマルチナでしょう」

 

 レイナが当然のように相手の名を告げた。

 

「倒しなさい」

 

「言われなくても」

 

 自信を持ってレイナが頷く。

 

「ユウト様は二番手と思われる相手を選んでください。誰かしらのフォローなどさせずに完封をお願いいたします」

 

「分かりました」

 

 優斗は課せられたことをしっかりと頭の中で反芻する。

 

「ラスター・オルグランスはまず、倒されないことを前提に勝負してください」

 

「な、なんでオレだけ!?」

 

「三番手と言えど、四大属性のうちの二つ――もしくは派生などの上級魔法を使える相手でしょう。さらに剣技も貴方と対等であると考えなさい」

 

「は、はい」

 

「レイナとユウト様は相手を倒した後、ラスター・オルグランスのフォロー。ラスター・オルグランスは何があっても倒されないこと」

 

 全てを言い切ってから、副長はもう一度視線を全員に巡らせる。

 

「以上です。質問は?」

 

「ありません」

 

「僕もありません」

 

「オレもないです」

 

 出る選手が全員、首を横に振る。

 無論、ラスターは優斗が二番手だということも、優斗より評価が低いことも気に食わないが、ここで食ってかかっても副長に黙殺されることは目に見えているので不満げな表情を浮かべるだけだ。

 

「分かりました。では――」

 

 と、続けたところで用意された部屋のドアが開いた。

 現れたのは、

 

「アリスト王、どうされましたか?」

 

 王様だった。

 

「なに、ユウトに話がある」

 

「僕にですか?」

 

 名前を呼ばれたところに驚く優斗。

 

「少し借りるぞ」

 

 副長が王様に頷くと、レイナ達とは少し離れたところ。

 小さな声で話せば内容が聞き取れない場所まで連れていかれる。

 

「王様。話とはいったいどのような?」

 

「何かあったら神話魔法を使っていい」

 

 優斗の眉がピクリと動いた。

 

「いいのですか?」

 

「あくまでも“何かあったら”だ。使うべき時を誤るな。お前やシュウが持っている力は強大だ。無用な誇示はいらぬ誤解を生む」

 

 セリアールで神話魔法を使えるのは把握されているだけで六人。

 そこに割って入ったのが優斗と修だ。

 しかも、使える六人は神話魔法一つしか使えないのに対し、優斗も修も多数使える。

 まさに一騎当千というべき存在。

 国に一人いれば危ういと思われるのに、二人いるともなれば危ういどころではない。

 

「お前ならば大丈夫だと思うがな。念のために伝えておこうと思ったまでだ」

 

「はい」

 

「とはいっても、何かやったところでどうにかしてやるから気楽に闘うがいい」

 

 豪快に笑う王様。

 

「ありがとうございます」

 

 頭を下げる優斗。

 しかし王様は笑った顔が一転させて真面目な表情を浮かべる。

 

「とりあえずは気をつけろ」

 

「なにがでしょうか?」

 

「どうにも気にくわん奴らがおる」

 

「……それは?」

 

「ライカール国。あそこは力こそが覇であると信じている実力主義の国だが……どうにも今回の選手は癖が強いらしい。現国王の娘も出場しており、昔から性格に難があるのも分かりきっておる」

 

「……そうですか」

 

「闘うことになれば、何が起こるかはわからん。用心だけは怠らないでくれ」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 王様の話も終わり、個人戦の決勝も終わる。

 予選1組、最初の出番である優斗たちは闘技場のリングに通じる通路で待機していた。

 続々と同組の対戦相手が現れる。

 エンガルト、サイタル、マルコス。

 そしてマルコスの選手を見た瞬間、ラスターが大声を発した。

 

「貴様ら! ここで会ったが100年目。切り刻んでくれる!」

 

 突然の言葉に誰しもがラスター達を注目した。

 当然、優斗も見る。

 

「あれ?」

 

 前日、見た姿があった。

 

 ――ナンパしてた連中だ。

 

 偶然というのは凄いものだと感心する。

 マルコスの三人はいきなり怒鳴ってきたラスターを睨み付けようとするが、彼の近くにいる優斗の姿が視界に入った。

 

「「「 あっ 」」」

 

 同時に顔が真っ青になっていく。

 

「昨日はどうも」

 

 とりあえず、差し障りない挨拶をする優斗。

 対してマルコス三人組は、

 

「い、いえいえ! 滅相もありません!」

 

 全力でヘコヘコしていた。

 これ以上、彼らに話しかけるのも可哀想だと思い、優斗は彼らから距離を置く。

 そこにレイナがやってきた。

 

「何をしたんだ?」

 

「フィオナにちょっかい出そうとしてたから脅した」

 

「どのレベルで?」

 

「キレレベル2くらい」

 

「あんな小物にお前のプレッシャーを耐えられるわけがないだろうが」

 

「……彼らの姿を見て、少し申し訳なく思ったよ」

 

 あくまで少しだけ、だが。

 

 

       ◇      ◇

 

 

 いざ、予選が始まるにあたって出場チームの紹介とアナウンスがされる。

 

『さあ、予選1組目。予選最大の激闘が起こるとしたらこの組だ!』

 

 順々にリングへと入場していく。

 

『まず最初にエンガルト! 優勝候補の一角にして打倒ライカールの一番手! 予選はスムーズに抜けたいところ……。だが、そこに待ったを掛けるのがレイナ=ヴァイ=アクライト率いるリライト! 学生最強と謳われる剣技と最高峰の実力。並のチームならば彼女一人に負けるであろう! さあ、彼女をエンガルトがどのように対処するのかが予選1組目の見所だ!』

 

 アナウンスを聞きながら優斗はレイナに話しかける。

 

「学生最強の剣技だってさ」

 

「父にも副長にも負けっ放しで、シュウにも余裕で負けるだろう剣技を最強だと言われてもな」

 

 納得はいかない。

 

「リライト最強レベルの騎士やチート勇者なんだから、負けたからって学生最強の名が無くなるわけじゃないでしょ」

 

「ふむ。それもそうか」

 

 話している最中にも入場は進み、四隅に各チームが散らばった。

 中央には審判。

 ぐっ、とリング上の選手全員が身構えた。

 

「それでは予選1組。試合開始!」

 

 審判の宣言と共に始まった。

 それと同時にエンガルトの炎、風、土の中級魔法が一瞬にしてサイタルのチーム目掛けて発動されている。

 

「エンガルトはサイタルを狙うらしいな。私たちはマルコスを狙うか」

 

 鞘より剣を抜いて構えるレイナ。

 しかし、すぐに困惑した。

 

「……いない!?」

 

 最初に指定されていた場所にマルコスの選手が存在しなかった。

 想定外なことに焦るレイナ。

 だが、

 

「待った待った。意識をリングの外に向けて」

 

 隣で呆れたような声をさせた優斗。

 言われたようにリング外に意識を向けると、

 

「……リングアウト?」

 

 すでに彼らがリングの外にいた。

 さすがにそこまでは意識を向けていなかった。

 

「ユウト、何かしたのか?」

 

「いや。僕がする前に自ら降りていったよ」

 

 魔法も精霊術も威圧もしていない。

 しかし、だ。

 

「……きっとお前に殺されると思ったのだろうな」

 

「たぶんね」

 

 などと話しているうちに、エンガルトがサイタル全員をリングアウトにしていた。

 

「まあいい。これからが本番だ」

 

 改めて構え直すレイナ。

 視線はマルチナに固定され、互いに見合っている。

 優斗も二番手と思われる相手から視線を向けられた。

 

「頼んだぞ、ユウト」

 

「了解」

 

「ラスター。気張ってこい」

 

「分かってます」

 

 ラスターがロングソードを抜く。

 

「行くぞ!」

 

 三人が同時に散らばった。

 

 

       ◇      ◇

 

 

「マルコスの奴ら、何だあれは?」

 

「おそらくは昨日に優斗さんの威圧を受けたのが問題だったのかと……」

 

 フィオナ、和泉、副長はクリス達と合流して試合を観戦していた。

 

「確かに逃げても仕方ないですね」

 

「クリス様、そうなのですか?」

 

「ええ。前にフィオナさんが傷ついたとき、40人50人を殺気一つで震え上がらせたと聞きましたから」

 

 学生では逃げたくなるほどの恐怖心を抱いても仕方ないだろう。

 と、リング上いたもう一チームもリングアウトした。

 

「……エンガルトも相手を倒し終わったということは、ここからが本番です」

 

 副長の手に力が入る。

 

「相手も優斗さん達も同時に散りましたね。一対一の状況が三つ。どの対戦が一番最初に終わるかが問題ですね」

 

「……判断が難しいです。ラスター・オルグランスがどれほど粘れるのかが鍵になるとは思いますが」

 

「大丈夫だろう。会長か優斗のどちらかが先に勝負をつける」

 

「……どうしてその考えを?」

 

「副長。簡単な考えだ。優斗は実力を制限していようと鬼畜だし、会長は優斗達と対等に闘うために鍛錬を行っている。実力の伸びが想像以上にハンパない」

 

 闘技場ではすでにレイナとマルチナが激しく斬り結んでいる。

 だが必至なマルチナとは違い、レイナは余裕があるような表情を浮かべていた。

 一方で優斗は、

 

「ほう、優斗はショートソードを抜いたな」

 

「相手も大変ですね。ユウトはあれで平然と魔法を切りますから」

 

「本気を出せばあれだけで地系統の上級魔法以外は全部叩き切るから相手もやりにくいだろう」

 

 見れば、いくつも迫り来る中級の炎玉を冷静に一つ残らず切り裂いている。

 

「自分も最初に見たときは驚きましたが、さすがに相手も唖然としていますね」

 

 会場全体も拍手が生まれていた。

 この時、一つの予感が和泉とクリスに生まれる。

 

「前に見たな。この光景」

 

「リライトの闘技大会の1回戦ですね」

 

「ということは、前と同様に決めに行きそうな気がするな」

 

「自分もそう思います」

 

 

       ◇      ◇

 

 

 優斗の狙いは相手が上級魔法を使おうとする瞬間。

 それまでは迫り来る魔法を全て斬って捨てる。

 

「…………っ!」

 

 相手が業を煮やして上級魔法を紡ごうとする。

 

 ――来た!

 

 優斗は全力で前へと駆ける。

 しかし相手も反応した。

 詠唱をすぐに止めてロングソードを構える。

 やはり優勝候補のチーム、反応は早い。

 

 ――だったら……。

 

 風の魔法をショートソードに纏わせて、投擲。

 そしてほぼ同時に地の精霊術を使う。

 瞬間、地面から一本の石柱が相手の真下からせり上がった。

 

「――ッ!」

 

 地面の異変を感じた相手が左へ飛び退くが、避けた先にはあらかじめ投擲していたショートソードが向かっている。

 

「うわっ!」

 

 相手が不格好になりながらも避ける。

 けれど体制を崩した場所に、優斗が全力で駆けてきた。

 

「せー……のっ!」

 

 立て直す時間など与えない。

 ジャンプして、相手の顎に膝蹴りを見舞う。

 さらに着地すると同時に相手の服を掴み、風の中級魔法を使ってリング外まで投げ捨てる。

 

「よし」

 

 相手がリングアウトするのを確認する。

 

「これで次は彼の手伝いだね」

 

 

       ◇      ◇

 

 

 呆れた表情をクリスが浮かべる。

 

「……えげつないですね」

 

 和泉はさすがだ、と言わんばかりの表情。

 

「走り込みながらの膝蹴りを顎に的中させただけでも、すでに失神ものだろう」

 

 副長は無表情のまま。

 

「あげくに相手が地面に倒れきる前に服を掴んで投げ捨てましたから。ダメージを回復させる間も与えていませんね」

 

 フィオナは安心したように。

 

「とりあえず怪我しなくてよかったです」

 

 最後にクレアが、

 

「………………」

 

 放心していた。

 

「クレア。大丈夫ですか?」

 

 クリスに名前を呼ばれてはっ、と意識を取り戻す。

 

「え、あ、はい。ユウト様の予想外な戦いに驚いてしまって……」

 

 なんというか雰囲気と合わない戦闘スタイルだった。

 

「ユウトは魔法や精霊術の制限をしていますから、ああいったスタイルのほうが勝ちやすいのでしょうね」

 

 前回も似たようなスタイルで勝ち上がっていた。

 

「制限……ですか?」

 

「ええ。少しは相手に会わせないと、ただの蹂躙になってしまいますから」

 

 本当はその他諸々の事情が相俟っているのだが、この場で話すことでもない。

 

「優斗はラスターのフォローに向かったな。会長は……ふむ、そろそろ終わりそうだ」

 

 

       ◇      ◇

 

 

 一撃、二撃、三撃、五撃、十撃、二十撃と撃ち交わしていれば、自ずと相手の実力は計れる。

 

「はぁっ!」

 

 まさか、ではあった。

 これほどまで実力の差が生まれるとは思ってもいなかった。

 

「――シッ!」

 

 レイナは横に剣を薙ぐ。

 相手の剣が弾かれると同時に前に出る。

 意のままだった。

 相手を自由にコントロールできる。

 昨年から比べて、あり得ないくらいの余裕があった。

 

「このっ!」

 

 慌てて弾かれた先から剣を振るうマルチナの剣をレイナは、

 

「――ンっ!」

 

 上段から振りかざして叩き折った。

 そして剣をマルチナの首元に突きつける。

 

「どうだ?」

 

「……参ったわ」

 

 マルチナが両手を挙げて降参した。

 レイナはちらりと横を見ると、すでに優斗がラスターのフォローに回っていた。

 急いで向こうに行く必要はない。

 

「この一年間で、とんでもない化け物になったものね。想像以上の実力じゃない」

 

「私がか?」

 

「他に誰がいるのよ」

 

 マルチナの悔しそうな表情にレイナは苦笑する。

 

「いや、同年代に私よりもとんでもない奴が少なくとも二人、いるからな。そいつらに比べたら私は圧倒的に可愛いほうだ」

 

「本当に?」

 

「ああ。今の私では手も足も出ない」

 

 冗談無く言うレイナにマルチナは、参ったと言わんばかりに額に手を当てる。

 

「……あなたが強くなった理由、分かった気がするわ」

 

 

       ◇      ◇

 

 

「レイナも勝ちましたね」

 

「これで3対1だ」

 

 和泉たちの視界には、たった一人を三人で追い詰めていく状況が映っている。

 

「ラスターさんが斬りかかり、レイナさんがフォローし、ユウトが……止めとばかりに風の上級魔法を放ちましたね」

 

「これでリライト以外の全員がリングアウト。我々の勝ちです」

 

 副長が安心したように大きく息を吐いた。

 

「終わってみれば完勝ですか」

 

「凄いですね」

 

 観戦していたクリスとクレアがそれぞれ感想を述べる。

 和泉とフィオナは立ち上がった。

 

「さて、あいつらをねぎらいに行くとするか」

 

「優斗さんも少しは疲れたでしょうからね」

 

 

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