第28話 王女様、守られます

 

「なんだよ、俺達がどうにかするって」

 

「だってそうだろ。お前らが助けてくれるから、オレは『大切なものを守る』って選択肢を選べるんだから」

 

「……その考えはなかったよ」

 

 優斗が恐れ入った、とばかりに手を上げた。

 

「けど卓也らしいんじゃね」

 

 うんうん、と修が頷き和泉が面白そうな表情になる。

 

「ならば時が来た際には守って落として倒して殺してあげるとしよう」

 

 そんな状況を全員で想像して、大笑いした。

 

 

     ◇    ◇

 

 

 というわけで翌日、馬車に揺られて国境沿いに向かっているのが七人。

 リルを筆頭として優斗、修、卓也、和泉、アリー、レイナ。

 二台に分かれ、片方にはリル、レイナ、卓也、和泉。

 もう片方には優斗、修、アリーが乗っている。

 リルと同じ馬車にならなくて気が楽な優斗達だったが、そのせいか手綱さばきを失敗して車輪が歪んだ。

 リルがまた、あーだこーだと言いそうだったので和泉に先に行っておけと合図する。

 場所はアリーが知っていたので、残されたほうも問題はない。

 和泉が頷いて馬車を先に走らせる。

 そして20分後、リルが指定した国境にたどり着いた。

 何もない、どちらの国にも属さない草原に、栗色の髪をたなびかせたイケメンが立っている。

 リルは颯爽と馬車の扉を開けるとイケメンに飛びついた。

 

「お兄様!」

 

 飛びつかれたイケメンは最初こそ柔和な表情を浮かべたが、すぐに険しい表情になる。

 

「リル。悪いがまだ討伐はできていない」

 

「……っ! そ、そうですか……」

 

「三日前もリルがいないと見るや空に飛ばれてしまって、今は捜索隊が探しているところだ」

 

 二人して深刻そうな表情を浮かべているが、後ろにいる卓也達には何のことだかさっぱりわからない。

 イケメンの視線が卓也達に向いた。

 

「これは、リルの学友か」

 

 さわやかに笑顔を浮かべるイケメン。

 リルにそっくりな奴かと思えば予想外。

 兄妹でどうしてここまで違うのか、と卓也は問い詰めたくなる。

 

「私はリルの兄でイアンと言う。妹が迷惑をかけているとは思うが、よろしく頼む」

 

 王子だというのに頭を下げるイアン。

 

「ほん──」

 

 本当にな、と和泉が言おうとしたところでレイナが高速でわき腹に肘打ちを入れる。

 代わりに卓也が答えた。

 

「いえ。オレ達はリル様の護衛として来てますから、ご学友なんて大層なものじゃないです」

 

 謙遜しているように言っているが、つまりは友達なんかじゃないと暗に言っている。

 が、隠された意味に気付かないイアン。

 

「いや、そんなことはないはずだ。リルも皆と一緒にここまで来れて心強いと思っているはず」

 

 ニコっと笑うイアン。

 レイナが卓也に続き言葉を交わす。

 

「もうしばらくしたらアリシア様もいらっしゃいます。しばし、この場所で待とうと思うのですがよろしいでしょうか?」

 

 予想外な名前が挙がってイアンは驚くが、すぐに笑みに戻して、

 

「ああ。アリシア様にも少し話したいことが──」

 

 

『ここにいたか! 第1王子に第4王女ッ!!』

 

 

 イアンが穏やかに言葉を返そうとした瞬間。

 突如、空より声が振ってきた。

 卓也も和泉もレイナもイアンも全身が総毛立った。

 

「まさか!?」

 

 イアンが思わず叫び、全員が上を見た。

 漆黒の竜がものすごい勢いで地面に向かっている。

 

「ユウトはさすが、と言うべきなのかどう思うべきか」

 

「……嫌な予感が当たり、か。しかし早々に来るとは優斗も思ってなかっただろう」

 

 レイナと和泉が身を引き締めると、漆黒の竜が地面へと降り立つ。

 大きさとしては10メートルほどなのだが、威圧感は今まで見たことのある竜種とは比べ物にならない。

 レイナとイアンは前に出て剣を抜く。

 和泉は二人のフォローに回ろうと銃を抜き、卓也は震えているリルを後ろへと押しのける。

 

「……っ! な、何を──ッ!」

 

「黙ってろ!」

 

 押しのけられたリルが文句を言おうとするが、卓也が怒鳴った。

 冷や汗が出る。

 圧倒される。

 今まで卓也達が見てきた魔物よりも圧倒的に強い。

 しかも現状で一番の問題は最大の戦力というべき修と優斗がまだ、たどり着いてない。

 どれぐらいの時間で来れるのかも把握できていない。

 ならば、と。

 和泉がまずは口を開いた。

 

「おい、黒い竜」

 

 言葉を話せる魔物なら、少しの時間稼ぎくらいできるはずだ。

 

『なんだ?』

 

「悪いが、俺達はどうしてお前みたいな竜に王子と王女が襲われているのか知らない。よかったら理由を教えてくれ」

 

 黒い竜は少し思案する仕草を見せるが、揚々と語り始めた。

 どうやら自分の優位性を理解しているようだ。

 

『なに、簡単な理由だ。我に生贄を捧げるのはもうできないと言ってきたのだ。ならば王女を生贄にすれば数年はやめてやろうと言ってやり、こやつ等は納得した。そして第4王女を差し出してきた……ふりをして我を殺そうとしてきた。その筆頭だったのが第1王子、こやつだ』

 

「なぜ生贄が必要なんだ?」

 

『人間の肉、特に女の肉は美味い』

 

 つまりは……なんだ。

 女を食す竜を倒そうとしたのだが、イアン達は討伐に失敗した。

 イアンはリステルの勇者として討伐するため国に残り、リルは国外のリライト王国へと逃げていった。

 そして状況報告するために会った瞬間、めでたく襲撃されたというオチか。

 和泉は小さく舌打ちする。

 

 ──神がかり的な運の悪さだな。

 

 優斗達がいないのが、さらに拍車を掛ける。

 

『さあ、理由も分かったところで我を騙したのだ。貴様ら全員喰ってやろう』

 

 予想以上に時間稼ぎができなかったことに和泉が焦る。

 しかも標的はなぜか全員に摩り替わった。

 黒い竜の目つきが変わる。

 

『──死ね』

 

 黒い炎弾が竜の口から生まれる。

 

「全員、避けろ!!」

 

 レイナが声を張った。

 イアン、和泉が左右に避け卓也はリルを連れて下がる。

 

「イアン様! お一人なのですか!?」

 

 レイナも避けながら一縷の望みを求める。

 彼だけでこの魔物を倒せるわけもない。討伐隊は近くにいないのだろうか。

 

「……ああ。黒竜に悟られないためにも一人で来たのだが」

 

 イアンの返答にレイナは舌打ちする。

 狙われているのが分かっているのなら、どうして一人で来た。

 国境ならば安全だとでも思ったのか、この兄妹は。

 それに感覚で理解させられる。

 

 ──この魔物はSランクだ。

 

 Sランクの魔物は、上級魔法を十分に扱える熟練者が最低でも六人いなければならないレベル。

 最低でそのレベルなので、Sランクに数えられていても討伐必要人数が十人にも二十人にも跳ね上がる魔物だっている。

 少なくとも目の前の魔物は……六人程度じゃ倒せそうにない。

 

『王子と騎士は反応が良いようだが……』

 

 黒竜が翼を振るう。

 それだけで中級魔法規模の風が渦巻いた。

 狙いは……和泉。

 

「イズミ! 避けろッ!」

 

 レイナが気付くが遅い。

 

「……ぐっ!」

 

 和泉は直撃を受け、10メートルほど吹き飛ばされる。

 

「貴様! よくもリルの学友を!!」

 

 イアンが剣を神々しく光らせながら斬りつける。

 だが鱗に薄い傷をつけるのみで、致命傷にはならない。

 お返しとばかりに黒竜が左前足を振るい、イアンの右腕をへし折りながら身体ごと吹き飛ばす。

 

「お兄様っ!!」

 

「バカ、お前は逃げるんだよ!」

 

 リルが吹き飛ばされたイアンの下へと向かおうとして、卓也が必死に止める。

 

「タクヤ! リル様をそのまま逃が──」

 

 直後、今度は黒竜の尻尾がレイナに飛んでいく。

 ギリギリで剣を腕との間に挟み、威力を軽減させたが膂力が人間とは明らかに違う。

 純粋な力のみで剣を折られ、レイナも20メートルは吹き飛ばされる。

 

「……くそっ!」

 

 空中で体制を立て直し着地をするが、吹き飛ばされるほどの衝撃を受けているせいか迂闊にもよろけて膝を着く。

 しかしその数秒が命取りになる。

 黒竜はすでに卓也達を向いていた。

 口には何かが渦巻いている。

 

「ドラゴン……ブレス?」

 

 竜族が使える風の魔法。

 衝撃波がそのまま敵へと向かう技だが、Sクラスの竜が使うとなれば上級魔法の中でも高威力の魔法に匹敵するのは必然だ。

 レイナは撃たせまいと身体に鞭を入れて駆け出すが……遅い。

 

 ──間に合わないっ!

 

 和泉を吹き飛ばし、イアンを吹き飛ばし、レイナをも吹き飛ばす。

 全てはこの一撃をリルに見舞うために行ったことだ。

 護衛で来たのに守りきれない自分が腹立たしくなるが、それでも叫ばずにはいられなかった。

 たとえ間に合わないものだとしても。

 

「逃げてくれ、タクヤ!!」

 

 

       ◇      ◇

 

 

 黒竜が吼えたと同時、イアンに向かおうとしていたリルが恐怖を浮かばせた。

 

「逃げてくれ、タクヤ!!」

 

 レイナが叫ぶ。

 卓也の腕を引き離そうと暴れていたリルが突如として静かになるが、彼女を引っ張って逃げるには時間がなかった。

 

 ──どうする。

 

 黒竜が何か魔法を放とうとしている。

 何をどうしたって喰らう。

 じゃあ、何もせずに黙って喰らえばいいのか?

 

「……ざけんな」

 

 ふざけるな。

 足掻かずに諦められるわけもない。

 

 ──オレは修や優斗じゃないけど。

 

 チート性能ではない。

 馬鹿げた努力もしてない。

 

 ――だけどな。

 

 同じように異世界に来たんだから。

 守られるだけの、あいつらのお荷物になるのはごめんだ。

 

「求めるは──」

 

 別にリルのことが大切ってわけじゃない。

 出会ってから一週間しか経ってない。

 

 ──なんだけどな。

 

 けれども一週間も従者の真似事をしていたからだろうか。

 こんな状況だからだろうか。

 彼女を守らないといけないと思った。

 

 ──あの時、笑い話になって終わった話のように。

 

 卓也は右手を前に突き出しながら、卓也はもう一つの昔話を思い出す。

 以前、優斗が言っていた。

 自分が出来るのは当然。

 けれど、出来ると信じているから頑張れると。

 だから自分も信じようと思う。

 修ほどの才能はなくとも。

 優斗ほど努力はしていないけれど。

 使えると思え。

 今は発動できると信じぬけ。

 これ以上、あいつらに心配かけさせないためにも、

 

 

「求めるは聖衣、絶対の守護ッ!!」

 

 

 卓也が唱えた瞬間、彼の目の前には白く光り輝く防護壁が生まれる。

 光――聖属性の上級防御魔法。

 使えるかもと思われ続けて、ずっと使えなかった魔法が卓也の眼前に輝く。

 直後、衝撃波が守護の壁が衝突する。

 衝突の重みが卓也の右腕に圧し掛かる。

 

「……この……ッ!」

 

 気合で耐える。

 後ろにはリルがいる。

 耐え切れなかったら死ぬのは自分だけじゃない。

 卓也は右腕を力の限りに突き出す。

 その姿を見て、リルは怯え困った表情を浮かべながらも弱々しく悪態をついた。

 

「あ、あたしは守ってくれなんて言った覚えない」

 

「お前の都合なんて知るか!! オレが守りたいんだよ!!」

 

 叫ぶ。

 馬鹿みたいなやり取りでさえ、今は自分を発奮させる材料だ。

 

「オレは絶対に守るって決めたんだ!」

 

 しかし、向こうの威力が強まる。

 圧迫された結果なのか、右の腕には裂傷が走り爪先からは血が溢れた。

 痛みで悲鳴をあげそうになるが耐えて左手を添える。

 

「……ねえ、もうやめてよ。死んじゃうよ」

 

 泣きそうな表情をリルが浮かべた。

 こんな顔もするのかと、卓也は驚く。

 

「お前も一緒に死ぬから絶対にやめない。それに似合わないぞ、泣きそうな顔」

 

 言って笑う。

 虚勢だろうがなんだろうが、今は笑みを浮かべる時だ。

 

「あと、ちょっとだから」

 

「……何が?」

 

「あとちょっとで……修達が来る」

 

 親友がやってくる。

 

「き、来たってどうしようもないじゃない! お兄様でもやられてしまうのよ!」

 

 イアンとてリステル王国の勇者だ。

 実力はある。

 けれども、

 

「残念ながらうちの勇者と一般人、二人の親友は規格外でね。黒竜ぐらいでもサクッと勝っちゃうんだよ」

 

 裂傷が肩まで届く。

 それが何だ。

 自分が限界まで頑張るんだ。

 

「嘘とか思うかもしれないけど」

 

 ドラマのように。

 

「本当なんだ」

 

 アニメのように。

 

「きっと、あいつらがどうにかするから」

 

 なんとでもしてくれる。

 

「…………ったく」

 

 直後、傍らを走りすぎていく姿が見えた。

 見慣れている影が一つ、二つ、三つ。

 

「……ホントにさ」

 

 ベストなタイミングというものを弁えてる。

 謀ったかのように来るのはもはや、一種の天命だろう。

 呆れるように笑う。

 

「最高だよ」

 

 一番、カッコいい瞬間に。

 一番、やって来てほしい瞬間に。

 

「最高だよ、お前らは!」

 

 あいつらは颯爽と。

 

 

「「「  求めるは風切、神の息吹!!  」」」

 

 

 やって来るんだ。

 

 

     ◇    ◇

 

 

 優斗と修とアリーが三人同時に風の上級魔法を放つ。

 三人分の威力を喰らえば、黒竜といえども50メートルは飛ばされる。

 その隙にアリーは和泉とイアンの様子を見に行き、優斗と修は卓也達に近付く。

 ポン、と卓也の肩を優斗と修が叩いた。

 

「よく頑張ったね、卓也」

 

「さすが守りに関してはお前が一番だわ」

 

「遅いんだよ、バカ」

 

 卓也が軽口で返す。

 

「ごめんね。道が混んでたんだ」

 

「ヒーローは遅れてくるもんだろ?」

 

「バーカ」

 

 笑い合う。

 が、修が不意に真面目な表情を浮かべた。

 

「全員、無事か?」

 

 ぐるりと見回す。

 まずは遅れてレイナが合流した。

 

「私はまだ戦える」

 

「アリー、他はどうだ?」

 

「イズミさんは特に外傷ありません。ノビてただけなのでビンタしたら起きられました。イアン様はすぐに治療が必要ですわ」

 

 和泉が頭を振りながらやって来る。

 イアンはアリーに支えられながら優斗達のところまでたどり着いた。

 

「とりあえず事情は分からんが、あの竜をぶっ飛ばせばいいんだよな?」

 

「そうだな」

 

 簡潔に述べれば修の言ったことで合っている。

 卓也が頷いた。

 

「まだ戦えそうなのはレイナさんと和泉だけど……どうする? 別に僕と修だけでやってもいいけど」

 

 むしろ一人で相手をしたとしても圧倒的なまでに余裕はある。

 

「借りは返す主義だ、私は」

 

「さすがに今回は俺も同意見だ」

 

 レイナは当然のように、そして和泉は珍しく瞳をギラつかせた。

 関係ないのに巻き込まれたのだ。

 やり返すに決まっている。

 

「分かった。んじゃ、アリーはそいつらの子守を頼む。卓也はアリーのフォロー。怪我してやばいだろうけど、卓也だったら気合でなんとかできんだろ」

 

 修に名指しされた二人は頷く。

 しかし、さすがに黙っていられない御仁がいた。

 イアンだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! リステルの問題を君たちにやらせてしまうわけにはいかない。それに黒竜の強さを見ただろう!? 逃げてくれ!」

 

 レイナ達に同意を求める。

 さきほど、手も足も出なかったのだ。

 彼らが来たところで状況が変わるとも思えなかった。

 けれどもアリーが絶対の意思を込めて告げる。

 

「イアン様。わたくし達に手を出した以上、わたくし達の問題にもなっているのです」

 

 大切な友人たちに攻撃をしかけた魔物なのだ。

 国という問題で考える必要もない。

 

「悪いんだけどよ、俺らの仲間に手を出した時点であいつは敵だ」

 

「しかしっ!」

 

 修の言葉にもイアンは引き下がらない。

 だからアリーは申し訳ないと思いながらも、

 

「シュウ様はリライトの勇者なのですから平気ですわ」

 

 口にしたと同時に遠くで黒竜が動き出すのが視界の端に映る。

 修はイアンの腰にある剣に目をやった。

 

「けどアンタの俺達を想う気持ちを貰っとくよ。剣、借りていいか? 同じ勇者だから使えるだろ?」

 

「あ、ああ」

 

「この剣の名前は?」

 

 鞘ごと剣を受け取って腰に据える。

 

「聖剣、エクスカリバー」

 

「おお。カッケー名前じゃん」

 

 自分達の世界にある剣と同じ名前だ。

 修は嬉しそうに頷き、三人を連れて歩き出す。

 

「……む、そういえば先ほど剣が折れてしまったな」

 

 レイナが剣の入っていない鞘に手を当てた。

 魔法を使えばいいが、騎士を目指す者として剣がないのは不安でもあった。

 

「簡単に折られるの?」

 

「力だけで持っていかれた」

 

「レイナさんって刀を使ったことある?」

 

「剣の形をしているものは、大抵触っている」

 

「なるほどね。だったら修、武器出して」


「はいよ」


 気軽いやり取りをしながら修は魔法陣を生み出し、折りたたみ、新たな武器を創り出す。

 

「布都御魂。普通のより長いけどよ、レイナなら問題ねーだろ」

 

 修はレイナに手渡す。

 

「属性付与として雷。一応は神剣って呼ばれるっぽいやつだから、折れたりはしないはずだ」

 

 魔法陣から武器が生まれるのを見たのは二回目だから、レイナも平然と受け取る。

 そしてレイナは後ろを見ずとも、イアンとリルが驚愕の表情を浮かべているのが手に取るように分かる。

 だから苦笑しながら前方を見据えた。

 優斗達が来たからだろうか。神剣を手にしたからだろうか。

 先ほどまでは恐ろしかった相手だが、今はもう恐怖を感じる必要性がない。

 むしろ早く倒したいとさえ思う。

 それは和泉も同じであり、二人は視線を交わして頷く。

 

「さて、と。一応は言っとこうぜ、優斗」

 

「そうだね。せっかく揃って大物と戦うことだし」

 

 大技を使っている最中にカウンターで喰らった魔法のダメージが抜けず、未だふらついている黒竜の前まで来ると修と優斗が一歩前に出る。

 そして修は預かった聖剣を黒竜に向けて突き出して愉快そうに笑みを浮かべ、もう片方は冷酷なまでの視線を向けた。

 

「俺達の親友を傷つけてくれた礼だ」

 

「問答無用」

 

「絶対的に」

 

「完膚なきまで」

 

 

 

 

「倒してやるよ」

「殺してやるよ」

 

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