花憐な金木犀。
翠己 月
第1話 一人の教師と一輪の花
薄暗い理科準備の中には、一人の男教師が一つの花を見つめながら微笑んでいる。
彼は、純粋に花というものを愛しているのだ。
それはいつからなのか、何故その対象が花なのかも既に忘れられられていた。
目にかかるほど長い前髪を気にもせず淡々と花を見つめ続ける。
薄暗さのせいなのか、それとも容姿のせいなのか、彼は妖艶に見える。
「あの、先生…??」
入り口から声が聞こえ、男教師は振り向いた。
そこには、美しい少女が立っていた。
胸の位置まで伸びた黒髪がサラサラと小さく揺れ動く。
「あなたは?僕は今忙しいんだ。
後にしてくれ」
「私、先生の授業が好きです!
他の生徒がなんて言おうと…」
彼女は眉を下げて微笑む。
「僕の、担当の生徒だったのか。
要件はそれだけかな?」
「先生は、花が好きですよね。
本当に、花が大好きなんですね…。」
自分自身を覚えてもらえてなかったショックなのか彼女は涙ぐむ瞳で男教師を見つめ続けるが、男教師の目線は既に花に移されていた。
「そうだよ。僕は花が好きなんだ。
純粋に花を愛しているんだ…。」
「私も花が好きです。
特に金木犀が…」
「僕も金木犀は好きだよ。
金木犀は死ぬまでずっと見ていたいほどだよ」
「それじゃあ、また後で…。
先生、さようなら。」
そう残すと、彼女は姿を消した。
再び静かな時が流れる。
男教師は目の前の一輪の花を手に取る艶やかな赤色のハイビスカスの花。
「一緒に帰ろうか。」
ハイビスカスの花を手に理科準備を後にした。
外は7月の下旬なのにも関わらず涼しい空気が漂っていた。
ここ最近帰宅途中になると後ろから誰かから見られているような気がしていた男教師。
少し足を早めて、帰宅する。
ベットの上に優しくハイビスカスを置く。
「少し出かけてくるよ。」
ハイビスカスにそう告げ、男教師は自宅を後にした。
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