飴色

長い階段を君と上がる。

いつもよりずっと綺麗な君の横顔は、普段しないイヤリングを光らせて。

すっと目を奪われた唇は赤く。

ぐっと僕の心臓は君の心に奪われた。

赤いチークと赤い花柄の浴衣は、夜を照らす提灯を赤く染めたのか。

少なくとも僕の頬は赤く照らされてただろう。


下駄が鳴り止んだ。

代わりに祭囃子が耳を踊らせた。


3年ぶりの夏祭りは、現代の追われる時間を追いかける時間に変え、そこかしこに人の笑顔を咲かせていた。


「りんご飴!」

繋いだ手からは期待の感触が伝わった。

君の顔を見ればやっぱり期待の目。

左手にはもうすでに伸びた君の腕が。

引っ張られる僕。引っ張る君。


いつまでこの関係が続くのか、少し、少しだけ陰鬱になった。


「ねえ、いちご飴もあるよ!こっちがいい!」

おじさん!と声をかけると硬貨を1枚渡し、いちご飴と交換した。

交換したいちご飴は思ったよりも大きくて、赤かった。


ポリポリと食べ進める君。

時折目をくしゃっとさせると、どこから出たのか分からない音でキューっと声を出す。

と思ったらおもむろに

「ん」

とこちらに竹串を傾けた。


綺麗ないちごの上に透明でキラキラした飴がコーティングされていて、それが妙に可愛くて、なんか恥ずかしくて目を瞑って頬張った。


大きくて酸っぱくて、やっぱり甘かった。


目を開けると一段下のいちご飴にヒビを入れてその身を白く染めていた。


視線を上げると君は僕を見て笑っていた。


まるでガラスのような飴に君を重ねた。


夏夜の空は青を拒まない。


祭りの喧騒は赤を拒まない。


ヒビだらけで何も無い白い僕は、透明な君を拒めない。


ガラスのような君は僕を拒まない?


最後の一口を食べ終わった僕は立ち上がると君の腕を引っ張った。

「次行こ」

珍しいものを見たような顔で一瞬キョトンとした君は、

「行こっか」

なんて笑ってくれて左手はまた君と繋がった。


君に引っ張られてきたこの関係が少しくらい僕も引っ張れたような気がして、そんなこの心臓の高鳴りを夏の暑さのせいにした。


喧騒は僕を、夏は僕らを拒まなかった。


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