事件対策マニュアル

寒い寒い冬の日。

風が吹く冬の日。

寒い体を震わせ、痛くなった耳を弄り、

感覚のない指をスマホに添わせる。


「着いたよ」


……


「ちょっと遅れる」


暗い暗い冬の日。

日の入りの早い冬の日。

赤と緑に彩られた街を見て、何か穴の開いた自分の胸を見て、

暖かい涙を頬に添わせる。


「まだ?」


……


「もうすぐ……見えたよ」


寒い寒い冬の日。

少し怒ってやろうと思った冬の日。

大きなクラクションと鈍い音がそこにいる人たちの目を、

愛する人に向けていた目を、


奪った。


奪ったそれ、つまるところの車は

煩い煩い音を立て、よりその手を赤く染めた。


先ほどまで怒っていた私は、

たった今赤く染められた彼をみて、

青くなった。


青くなった私は、白い息を、赤い血を吐いた彼に

寄り添うことしかできなかった。


幸せと絶望の紙一重。


神様、わざわざクリスマスに見せなくてもさあ――――。


――――――――――――――――――――――――――――――――

12月。

一年で事件の一番多い月。


冬を越せないために手を染める者

幸せを妬んで手を染める者


いろいろあるが許されることはない。


今年は金曜日がクリスマスイブ。

週に一番事件の多い曜日。


皆様、よいお年をお迎えください。

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