雨の日の背伸び

6月になって、所謂梅雨と言われる季節になって。愚鈍な天気と低気圧に見舞われて。

それでため息なんかつく機会がほんの少し増えて、右手に持つ邪魔と呼ぶに呼べない傘を持ってく機会がそれとなく増えたそんな時の話。


僕はよく電車に乗る。

そこまで乗降者数の多い沿線でもないのでだいたい角に座る。

角に座って手すりに傘を掛ける。

傘を掛けたら本を開き着くまでの暫く物読みに耽る。

いつもの事だった。


ふと手すりを見た。

小学生の時は傘が床につかなかったのだが今は地面に付いていて、むしろグダーってなっている傘を見た。


最初は手すりが長くなったのかと思ったが、そんなことは無い。そう、自分の傘が長くなっただけだった。

そして無色透明な傘を見て少し寂しさを感じた。


今思えば小さい頃は、そんなに頻繁に使うことの無い傘を、一番カッコイイと思うものにし、雨が降ったらその傘を学校に持って行って、クルンッ、と回すのだ。


いつから無色透明を使うようになったかすら覚えていない。ただ心に少しの隙間ができただけだった。


この隙間を埋めよう。


帰り僕は友達と傘を買いに行くことにした。

年相応の、だけど僕が一番カッコイイと思うもの...鳥獣戯画かな。


え?ダサい?


うるせー


クルンッ


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