後段
ひとしきり巡回を終えて守衛室へ戻って来ました。
「はい。今日も異常無し」
日報を書いて、さて……あとは朝まで仮眠を取るだけ。
守衛室の奥に小部屋があり、そこに簡易ベッドが置かれているんですよね。いつもそこで仮眠を取っているんです。
一応は引き戸もあって、守衛室と仕切る事は出来るんですが、何か非常の際には直ぐ動けるようにしたいですし、閉め切ってしまうと外部の音も聞き取り辛くなりますから、私はいつも引き戸を半開きにして寝ているんです。
横になって、徐々に微睡んで来る。
そんな中、突然——
トゥルルルルル トゥルルルル
守衛室のデスクに置いてある電話が鳴りました。
「何だぁ? こんな時間に……はいはい」
直ぐに起き上がって守衛室のデスクへ歩み寄ると、受話器に手をかけました。
ところが、受話器に手をかけて取ろうとした瞬間に、それはピタッと鳴り止む。
「何だ? 間違い電話かぁ? しょうがねぇなぁ……」
見れば午前一時を回ってます。
さすがに眠いので、再び小部屋の簡易ベッドに横たわるのですが、それから五分程してからですかねぇ……。
トゥルルルル トゥルルルル
また電話……。
「何だよ、もぉ〜!」
夜中なんで、こんな時間にかけて来るというのは尋常じゃありませんからね。急いで出ようとする……。でも……。
ピタッ——
また受話器に手をかけた瞬間に止まってしまったんです。
おかしい……。
まるで誰かに見られているかのように、全く同じ——受話器に手をかけた瞬間に鳴り止むんですよね。
かと言って、守衛室の窓は夜間という事もあってブラインドが下されていますから、外から中の様子なんて見えやしません。
近くの通用口からだって角度がある為に守衛室の中までは見えないんですよね。
だから外から誰かがイタズラで電話をかけているとは考えにくい訳です。
「おっかしいなぁ……」
首を傾げていたのですが、それだったら……と、しばらくデスクに座って待ってみようと思いました。
ほら……二度あることは三度あると言いますからね。
今度は鳴った瞬間に取ってやろうと考えた訳です。でないと、おちおち寝ていられませんからねぇ。
そうして椅子に腰を下ろした途端——
トゥルル トゥルル トゥルル
電話がかかって来たにはかかって来たのですが……音が違う……。
それ……内線なんですよ。
先程までの着信音は長い「トゥルルルル トゥルルルル」という音で外線でした。
しかし、今度は短い内線の着信音……。
(え……? 何だよ……これ……)
内線なんてかかって来る筈が無いんです。
だって、館内には私しか居ないんですからね。
急に鳥肌が立って来ました。
それでも……万が一、館内に誰か居て、自分が巡回の際に見落としたという可能性が無きにしもあらずですから、恐る恐る受話器に手をかけました。
すると……そこでまた、ピタッと鳴り止んでしまう……。
明らかにおかしい……。
訳が分からず、デスクに置かれた電話をじっと見つめていると、今度は——
トゥルル トゥルル トゥルル
また内線の着信音。
それもデスクに置かれた電話からじゃないんです。
私の座っている後方……仮眠を取る為の小部屋から音がしてるんです。
ゾクッとしましたねぇ。
確かに小部屋にも壁掛け電話が一台ありまして、それは外とは繋がっていない内線専用として使われていたんです……過去には……。
でもね……その電話機……今はもう線が繋がっていないんですよ。
私がここの博物館で勤めるようになる何年も前から使われなくなって、線そのものが既に無いんですよね。ただ昔使っていた名残りとでも言いますか、外すのが面倒だったのか……壁に張り付いたままにしてあるだけのシロモノ……。
その線も繋がっていない筈の電話機が鳴り出したんですよね。
(あ……これ、何かいるな……)
前述の通り、私は霊感がある訳じゃあないのですが、直感でわかりましたね。
すると、どういう訳か急に怖さが薄らいで来ました。
それに私も眠かったからなんでしょう。
厄祓いや悪鬼退散の利益がある一度だけ不動明王の真言を唱えてから、
「いい加減にしねぇと本気で祓うぞ!」
啖呵を切りました。
もっとも、口ではそう言いましたが、そんな修行を積んだ事も有りませんからね。実際にお祓いなんて出来やしません。
要はハッタリをかましたという訳です。
ですが、これが功を奏したのか、それ以来、私が夜勤の時には妙な電話がかかって来る事は無くなりました。
後日、古株の先輩から聞いた事なのですが、他の方も幾度となく、その博物館でそんな経験をしており「お化け電話」と呼ばれていたそうです。
そして原因と思われる事が一点……。
過去、収蔵庫の一つで館の職員が首を括って亡くなった事件があったとの事です。
自殺した元職員の念が、まだそこに残っているのかもしれませんねぇ……。
こんな体験をしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます