第19話 トムニ商会
訓練場から戻ったアリアは第一部隊を引き連れて昨日のトムニ商店の前に来ていた。
「カナンとジャスティンは入り口で周囲の警戒を頼むよ」
「「はい」っす」
今回は昨日の襲撃のことを考え、武装した状態で来ている。昨日起こった襲撃は私を狙ったものだった。ここのトムニ商会も昨日もらった資料によると商品の購入、販売としか明記されておらず、詳しいことはなにも書いてなかったのだ。
「失礼する」
昨日と同じ中年のエルフの男性が驚くように声をかけてきた。
「昨日の騎士の兄ちゃんじゃねぇか、他にも騎士の方を引き連れて今日はなんの御用で?」
「最近この辺りでの犯罪行為が多発していてね、店内視察に協力してもらいたいのだが」
「物騒な世の中だねぇ…いいよ見て回んな」
アリアは視察申請の書類を掲げ、話すと
「うひゃー…これ埃すごいよ…ゴホッ」
「あまり
「しかし仮にも商品を並べる店なのだから衛生環境はしっかりしてほしいものです。」
「こっちもあまり売れ行きがよくなくてね!もう十分だろう?」
しばらく店内を見て回ると中年のエルフはそう聞いてきた。
「ええ、ご協力感謝します。」
「なら仕事の邪魔だから早くか…」
「しかし、昨日はその棚はありませんでしたよね?」
昨日ここを訪れた時に壁際に無かった棚が増えている。こんな一日だけで棚など増えるだろうか?
「今朝入荷したんだよ!だから昨日は見なかったんだ!」
「今朝入荷したばかりの商品がこんなに埃をかぶりますか?」
そうこの棚は埃まみれなのだ、他の棚と同じように。
「し、しょうがないだろ、掃除しなかったら半日で溜まったんだよ」
「それもそうですね、しかしここは汚いのでお詫びに綺麗にさせてください。」
「え!?い、いや騎士の方々にそんなことしてもらわなくても…」
「セレス頼むよ!」
「はい、兄様!クリーン!」
辺りが一面綺麗になっていく。埃が渦を巻きセレスの杖に吸い込まれていく。
「おおーさっすがセレスだねぇピカピカだよ!ん?あれ?あの棚だけまだ埃まみれだよ。」
パトラが不思議そうにその棚を眺める。
「くそっ!このまま帰すと…くぎゅ…」
どさりとエルフの男が倒れた。中年のエルフが叫ぶよりも先に動いたアリアが手刀で気絶させたのだ。
「やはり何かあったなここは、パトラその男はロープで動かないように柱に
「はい、たいちょー」
「じゃあこの棚を調べるとするか…セレス何かわかるか?」
「幻術魔法がかけてありますわね、だからさっきの魔法で綺麗にできなかったのでしょう」
「なるほどちょっと動かしてみるか」
ガガガっと大きな音を立てて棚は動かされる。そこには人が一人通れるくらいの穴が開いており、どこかに続いているようだった。
「中を探ってみよう。カナン!ジャスティン!そのまま警戒して待っていてくれ、何かあったらシーレスを鳴らして教えてくれ!」
「「了解」っす」
薄暗い穴の中を慎重に進む。距離は結構あるらしく奥には光がさしているようで、それを目指して真っ直ぐ進んでいく、しばらく進むと
「ここは…」
「これは…」
「奴隷達ですわね…」
大きな檻がいくつもあるこの大きな建物は地下らしく、檻の中には痩せた子供や、体がボロボロになった他種族の奴隷が収監されていた。
「なんてひどい光景だ」
「こんなのあんまりですわ…」
「うっ…すみません…ちょっと…」
パトラが青い顔をして壁のほうに走っていく。無理もないそれだけひどい状態だ。
檻に収監されているのは生きている人間だけではなく、ほとんど腐っているのではないかと思われる遺体や、過剰な拷問を与えられた者や実験されていたのだろう人間と魔物の融合したキメラなんかもいたりしたのだ。
さらには四肢を切断された無残な遺体に噛り付く子供や、魔物と融合した元人間が檻の中の人間を食らっている姿も見られた。
ここは地獄だった。
「タ…ス…ケ…テ」
「ゥオガァアアアアアア!!」
檻の中から泣き叫ぶ声や獣の叫び声が飛び交う。
「うっ!?あ…頭が…」
「大丈夫か!?セレス!」
急に頭をかかえうずくまるセレス、パトラが青い顔をして戻ってきた。
「セレスも大丈夫?たいちょー…私もあまり大丈夫じゃないからカナンとジャスティンと見張り交代してくるよ…」
「ああ、気をつけてな」
「すみません兄様…」
しばらく待機するとカナンとジャスティンが合流してきた。
「うっ!?隊長…これは…」
「最悪っすね…これ…」
カナンもジャスティンもこの光景に悲壮感を漂わせ、さらに警戒した。
「おそらく奴隷商の倉庫なのだろう…だが…ここはその中でもより悪化した者を収監する場所のようだ…」
「これはパトラたちが青い顔して戻ってきたのにも納得っす」
「隊長これは倉庫にしてもおかしすぎませんか?こんな重要な情報をたった一人で隠してたなんてことあるわけがないです。ここにも見張りが一人もいないのはさすがに何かありますよ」
「ああ、見張りがいないのには驚いた。それに明らかに檻に入ってる奴隷達が興奮状態でいるのがこれが罠じゃないかと思うんだ」
「隊長…それ、多分あってますよ…」
「や…やだなーカナン!怖いこと言うなっすよ!」
「だって…檻今全部壊れたからさ」
ガシャーンという音とともに奴隷たちが入れられている檻の鍵が一斉に壊れ始める。
「構えろ!来るぞ!」
「ほんと勘弁してほしいっすよ!ディフェンド!!スピーダー!」
ドスドスと檻の中から興奮して我を失っている奴隷たちが一斉に飛び出してきた。
「ゥゴァアアアアアア!!!」
「クキャキャキャキャ!!」
一番早くアリアのところに到達したのは人と魔物を組み合わせたキメラであった。子供の顔に様々な魔物がくっついている姿は見るに
「なんて悪趣味な…クソっ!今楽にしてやるからな…」
ジャスティンは迫りくる腐敗した者どもを盾で吹き飛ばし、剣で薙ぎ払い、後ろにはいかせないように立ち回っている。
カナンは水魔法を駆使しキメラの動きを抑えながら戦っていた。
「キィシャアアアアア!!」
蛇型のキメラが口から溶解液を飛ばす、横にステップしてそれをかわすと地面からシュオオオという酸で溶けた音がする。その避けた場所に狙っていたかのように熊型のキメラが大きな左腕で地面を抉るように殴りつけるそれを持っていた盾で弾く、ギャアアアンという甲高い音を置き去りに仰け反った熊型キメラの腹に剣で逆袈裟切りをくらわす。
腹は大きく裂け、中からは臓物が飛び出ていた。
「グゥオオオ」
深い傷を負いながらも尚も止まらない熊型キメラはアリアを掴もうと両手を伸ばす。
次元収納からシルバーの両手長剣を取り出し、円を描くように熊型キメラの両手を切断する。その複数の腕は青い血しぶきをまき散らしあたりに転がる。
「グルゥウウウウオオオオオオ!!」
切断し終わってシルバーの両手長剣は再び次元収納へと戻した。アリアは両手が急に無くなって叫んでる熊型キメラの腹を蹴り飛ばし、蛇型キメラに詰め寄った。
子供の顔にある目が怪しく光る。滑り込んでがれきの陰に隠れるとさっきまでいたところが灰化していた。
「危ないな、あの目先に潰すか」
次元収納から投げナイフを取り出しすかさず2本投げる。蛇型キメラの二個の目を貫通し、蛇型キメラが苦悶の声を上げのたうち回る。
顔からボタボタと青黒い血を吹き出しながら蛇型キメラはアリアに飛び掛かってきた。
「クキャアアアアアアア!!」
次元収納からシルバーの槍を引き抜き槍投げの要領で投げると、蛇型キメラの頭を貫通しながら胴体へと突き刺さりそのまま近くの壁に大きな音を立てて突き刺さった。
ジャスティンは自分に強化魔法をかけながら、敵の攻撃を
「クッ!タフっすねキメラは…」
こちらにも強化キメラが一体来ていて苦戦を強いられていた。
「グゥルァアアアア!!!」
キメラが鉄の
「ぐぅうう」
ガツン!!ガツン!!と盾に衝撃がはしるがなんとか堪える。ジャスティンは体力には自信があったが、こうも連戦が続くとさすがのジャスティンでも疲れが見え始めてくる。
「うらぁああ!」
盾で弾いた鉄の瓦礫を掴み投げつけ、そのままキメラに突進する。
キメラは一瞬ひるんだが、すぐさま向き直り、反撃にうって出ていた。
「オーバーパワー!さらにオーバーパワー!!」
キメラはジャスティンに狙いを定めると、鎌のような大きな爪を振りかざしていた。
「gィやらラララr!!」
低く相手の懐に入り込んだジャスティンは攻撃を受けながらも一太刀浴びせる。鎌は至近距離だったので力が乗らなかったようで浅く刺さっただけにとどまった。
「ぐっ!!力なら負けないっすよ!」
肩に鋭い痛みが走るのを我慢して放つ渾身の斬撃はキメラの胴体を真っ二つに切断し、キメラは青黒い血をまき散らして絶命した。
「いっつつ、でもやったっすよ!」
カナンは遠距離戦闘を行っていた。
「アクアショット!!」
ガガガン!と水の弾丸が迫りくる者共を吹き飛ばし、小型のキメラを狙い打つも、小さいキメラは動きが早く当たらなかった。
「くそ!全く奴に当たらん!!」
「ヒャアアアア!!」
小型のキメラは攻撃しては離れる戦法で、なかなか距離をつかませてもらえていなかった。
そしてことあるごとに腐食した奴隷達が前を邪魔していて余計に当たらなくなった。
「くっ!邪魔だ!アクアネイル!」
槍を舞踊が如く操り、腐食した奴隷達を
「ぐっう!!」
攻撃後の隙を小型キメラに付かれ、切り傷が増えていく。
「くそ!焦っていてもしょうがないか!ウォタラ!!」
槍の先端に水を帯びた幕が形成されカナンはそれを横に一閃する。
水しぶきを上げ、横に伸びた水が小型キメラに迫るが、キメラはそれをよけ、踏み込んでくる。
「かかったな!」
足を踏み込んだキメラの足元は濡れていて、足に付着した水がどんどん小型キメラに付着していき、あっという間に小型キメラは大きな水球に閉じ込められた。
「これで終わりだ!アクアネイル!!」
槍の三連撃の水属性の斬撃は小型キメラの体を3つにスライスしていった。
「そっちは大丈夫か!カナン!ジャスティン!」
「なんとかなってるっす!」
「ああ、まだ戦える!」
合流し、キメラや奴隷を蹴散らしながら、その数を順調に減らしていると前から大きな拍手が響いてきた。
「ガハハハハ、随分とやるではないか、やはり奴隷やキメラ程度では相手にはならんか」
その大柄な男は黒いフルプレートメイルで大きな長剣を担いで現れた。
「暇つぶしだ、ちょっと遊んでやる、かかってこいガキ共」
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