第7話 犠牲
騎士団長の部屋から出た私達(アリア、トロン、カルマン、カナリア)は一旦少し話し合おうと騎士団内の食堂に来ていた。
「ようやく飯にありつけるぜぇ…… おばちゃん! B定食三人前くれ!」
「相変わらず馬鹿みたいに食べるんですのね…… 私はサンドイッチをくれないかしら」
「うるせぇ、俺はギガントだからなこんくらいくわないと生きていけないんだよ!」
今日は何にするかな…… Cランチは生姜焼きか…… いいな。
「私はCランチで頼みます」
「あ! じゃあ俺もそれにするわー」
「はいよっえーと…… B定食三人前とサンドイッチとCランチが二つだね、ちょっと待っておくれ」
各々メニューを言い、遅めの昼食であったために食堂には私達しかおらず、奥の入り口から離れたテーブル席に座る。
「とりあえず飯までまだ少しかかるからよ、さっきの話の対策を考えようぜぇ」
トリシアさんが言っていたことをまとめると……
「ああ、騎士団長の話をまとめると、戦争で有利になるために勇者召喚を行う、それが三日後、さらに他の大陸も同じく勇者召喚を行うつもりらしいが、もうすでに召喚されているのかどうかは不明。 勇者は騎士団の管轄で管理され勇者をサポートするために部隊編成を行う…… だったか」
「まあそういうことですわね」
「勇者は前に召喚されたときはいつだったか聞いているか?」
トロンは眉間を押さえ何かを思い出そうとしている。
「あー…… たしか前の魔王が現れて討伐されたのって五十年前とかだったって話だぞ」
「なんだ、じゃあ今はもう勇者自体はいない可能性が高けぇぞ…… あー子孫がいるんだっけか?」
「ええ、たしか都市の南の方に住んでるらしいですわ、あくまでも噂でしかないのですけど」
なぜこんな話をしているかというと子孫であれば能力を受け継いでいるかもしれないし、どのような能力だったのか詳しく子孫の方に話を聞く必要があるためだ。
そして今の話を聞くと南の方に家があるのだが、実は私はこの勇者の子孫を実は知っているし、何度かあったこともある。
「あー勇者の子孫に話を聞きに行くのは私にまかせてもらおう。 実は知り合いなんだ」
「そうなのか!? ならこの件はアリアに頼むわ!」
「あとは部隊編成のことですわね」
今ブレインガーディアンの部隊は七隊ある。 今回の編成はようは勇者に模擬戦をしてもらい実戦の経験を積んでもらうことなのだろう。前線で戦っているガルディアンナイトとは別にブレインガーディアンのメンバーで日替わりに訓練をするため偏った部隊をふりわけるのだ。
「俺の部隊は近接しかいねぇからな、丸々総入れ替えだろうよ」
カルマンさん率いる第三部隊のメンバーは完全に近接オンリーの警備担当である。
「日替わりで勇者の相手か…… あいつらだいじょぶかなぁ」
心配そうな顔でトロンは話している。 メンバーも確かに大事だがトロンは妹の心配をしてるんじゃないだろうか? ああ見えてなにかとパトラの事をトロンは気にかけている。
「っとこの話は一旦止めよう、料理が来たぞ」
おばちゃんが注文していた料理を運んでくる。
「あいよっお待ちどうさま!」
「やー今日もうまそうだな! おばちゃん!」
「うれしいねぇ! こいつはサービスだよ!」
ドンっとテーブルに置かれた山盛りのから揚げがサービスなんて…… 奮発しすぎじゃないだろうか?
ちなみにカルマンさんが頼んだBセットは、肉をこんがり焼いてピリ辛のガーリックソースをかけたステーキと呼ばれる料理で、あたりにガーリックソースの豊潤な香りが漂い、鉄板からはジュワアーという肉汁がはじける音が鳴り、非常に食欲をそそられるものだ。
まあそれが三人分あるのだが…… うっ…… それだけでお腹一杯になりそうなんだが……
「いつもありがとな! おばちゃん!」
「あっはっはっは、いいってことよー」
それぞれの料理が運ばれてくる、カナリアは見た目からわかるように小食であり、ゆで卵とハーブの入ったサンドイッチを両手で持ち、はむっと食べている。その姿は小動物のようで可愛らしい。
私とトロンが頼んだCランチは、肉を薄くスライスして特性のタレに絡めて焼いたなんでも生姜焼きと言われる異世界料理だそうで、ステーキとはまた違った香りとツヤ、添えてある大根おろしと呼ばれるさっぱりとした味わいの二つが楽しめるようになっており、これに季節の野菜を使ったスープにパンがついてくる。
これを考えた昔の異世界人は「なんでこの世界にはコメがないんだ!」と
運ばれてきた料理でテーブルはいっぱいいっぱいになってしまった。 主にカルマンさんのBランチが原因なんだが……
しっかり昼食を食べ終え、各々飲み物を飲み喉を潤してから先ほどの話をトロンからし始めた。
「さっきの話の続きなんだが、その勇者召喚ってのはなんでいままでやってこなかったんだ?」
決定的戦力になる勇者はなぜいままでの戦争で召喚されていないのか…… それは……
「それはねトロン…… 勇者召喚は巫女と呼ばれる召喚士の命を生贄として召喚するからですわ」
ガタっとトロンが動揺をみせる。
そう勇者召喚には代償として巫女の命を対価として行われる。 これは巫女の強い血の力で異世界への門を開き、選ばれた勇者の魂をこの世界に具現するための器となる。
「たしか近年の巫女は…… 王女だったわね…… まだ十二歳になったばかりだというのに……」
戦争が始まってほどなくして生まれた王女はすぐに巫女として血の反応をみせたらしい。
私達も聞いたのはあくまでも噂の範疇だが、カナリアが言うほどだ決定的なのだろう。
「あんまりじゃないか! 人の命をなんだと思ってる!! あんな…… あんな小さな子の犠牲で強力な兵器をうみだそうとしてるのかよ!!」
トロンが感情を
「落ち着け! トロン! まだこの話は他の民衆に知られるわけにはいかねぇんだぞ!」
カルマンさんが注意するがたしかにその通り、この話が外に漏れるのはよくないことだ。民衆が暴動で王城に乗り込みかねない。
この都市、ガルディア都市の王女は民衆に人気があり、演説の際などよく顔をだして、国王の後ろをあどけない足取りでついていっている姿から民衆からは「ガルディアの妖精」と可愛がられていた。
そんな王女が巫女で、勇者召喚の生贄となるのだ。 なんとも歯がゆく後味が悪い。 上層部が決定を出したという事はもう避けられようのない運命なのだ。 私達騎士団ごとき何を言おうと変わらず、誰も救えない事実は揺らがない。
犠牲の上に何を得るのだというんだ…… 複雑な感情が私の心を締め付ける。
「っつ…… 俺たち騎士は無力だな……」
「あぁ、せめて私達以外の者はこの話を聞かないほうがいいだろう」
「知らないことの方が幸せとはよくいったもんだぜ……」
この話が広まれば暴動もしくは内乱につながる。この戦争下で内乱が起きれば瞬く間に敵国に滅ぼされるだろう。それだけ重要な機密である。
「もうこの話は止めにしましょう。 三日後嫌でも見ることになるんですわ……」
私達騎士団は、勇者のサポートを一任されている。一般の騎士は参加しないが私達隊長はそうはいかない。勇者を見届ける必要があるのだ……
「一生のトラウマになるだろうな……」
「やめてくれ、考えたくない」
私たちは昼食を片付け陰鬱な気分で各隊の部署に戻ることになった。
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