第6話 ブレインガーディアン
ウルフベアーとは体長二メートルから二メートル三十センチの巨大な体を持ち、その巨大な腕から繰り出される攻撃は岩をも
巨体のわりに動きが早く、知能もそれなりに高い魔物である。
冒険者の賞金リストなんかにも乗ってる指定駆除魔物であり、冒険者ランクB相当である。
魔物には冒険者組合でランク付けがされており、S、A、B、C、D、Eと脅威度が分けられていて、このランクBの魔物は主に冒険者Bクラスの者なら倒せるというわけだ。
「という感じで、知能は高いけど自分の能力に絶対の自信を持ってるであろう最初が一番の狙いどころかな、攻撃も大振りだから比較的かわしやすいから」
槍をウルフベアーの顔から引き抜き、鎖鎌を回収してみんなの所に戻る。
「ちょちょ…… 冷静ですね隊長は……」
「たいちょーこの鎧重くないの? かなり跳躍してた気がするんだけど?」
「ん? この鎧はみんなのと同じくらいの重さだったはずだぞ?」
「さすがは兄様ですね」
「そういえばここにも規格外の存在がいたっす……」
各々が反応を示す。 そんな変な目で見るんじゃないよ…… まぁ、魔物の危険性は十分伝わったかな?
「よしっ! じゃあ少しだけ肉をはぎとって魔石を取り次第、都市にもどるからなー」
ウルフベアーの肉を持ち帰れる大きさに剣でカットしておく。
「隊長の剣に限らず武器はよく切れるみたいですけど特別制なんですか?」
「武器はちょっと知り合いのつてにいい武器をつくってるやつがいてね、ちょっとだけ特別かもな」
「瞬く間に肉が細切れに……」
パトラとカナンは私の武器に興味津々のようだ。帰ったらちょっと紹介でもしてあげるとするか。
■ ■ ■ ■ ■
時刻はお昼になろうとしていた。しばらく魔物らしい魔物は出てこず、なんとか無事に都市に戻ってきていた。
都市の入り口は三か所ほどあり、ここはさっきの森から一番近い南側の門である。
ガルディア都市は、都市の周囲をぐるっと黒の大理石の壁で覆われている。 都市自体も淡いオレンジ色の大理石と緑が絶妙な景観であり、戦争をする前は観光客であふれかえっていたそうだ。
ギガントの人達も暮らすこの都市は、他の街にくらべるととても巨大に見える。この目の前に見えている大理石の壁も四十メートルはあるくらいである。
なぜ今も都市に入らず壁を見上げてるのかといえば、検問である。
検問はどんな理由があるとしてもチェックをうけないといけない。ましてや現在我が国は戦争の真っただ中であり、警戒も厳重であったりするのでかならず長い列になっている。
「いつみてもこの黒大理石の壁は綺麗っすねー」
ジャスティンは上を見上げにかりと笑う。
「外部からの攻撃から守るために頑丈で魔法で強化されているんですよ」
「さすがセレスは物知りだねぇ!」
パトラがセレスへと抱き着こうとする。 もはや慣れ過ぎてしまって当たり前となってるがここは外だ。止めておきなさい。
パトラを元の位置へと戻し、前を見ればもう私達の番になろうとしていた。
「我が国最大の防御力を誇る最後の防衛ラインだからね、おっとそろそろ私たちの番みたいだよ」
長い列は終わりを迎え、顔見知りの門番さんに声をかけられた。
「やあ! アリア任務ご苦労さん! こうやってみると部隊長として頑張ってるみたいだな!」
「ええ! まだまだこれからですがね、何か騎士団から連絡はありましたか?」
「おお! そうだったな、報告会もかねて会議があるそうだ、アリアも戻ったら参加してくれとよ」
「ありがとうございます! では仕事の方頑張ってくださいね!」
「おう! お前らもな!」
門番の知人に別れを告げ、ガルディア都市にようやく入る。
街はお昼時だからであろう、たくさんの人々が賑わっていて、露店からはいい匂いが立ち込めている。
朝はあんなにも静かだった街が今はまるで別のようだ。
あちこちから聞こえる人々の声、出店のいい匂い。 歩道を歩く大勢の人々。 どれもこのガルディアを象徴する賑わいを見せている。
「では私は会議に参加しなくてはいけないから先に戻るが、お昼にしようじゃないか」
「色々あったからお腹減ってたっす!」
「あっ! 近くに美味しいご飯屋さんができていたのでそこにしましょうよ!」
「じゃあそこにしましょう、では兄様また後で」
「ああ、それじゃ」
みんなとはここで一旦解散し、一人騎士団本部に向かう。
「屋台からすっごくいい匂いがするけど、買ってから行くのだとまずいかな? まずいよなぁ…… ああぁ」
もはや声に出ていることなど気にしない。 気にしたら負けだ。
なるべく誘惑に負けないよう速足で歩く。
「そこの騎士の兄ちゃん! 買って行かないかー?」
「うっ、すみません! 急いでいますのでまた今度に!」
クッ! なんだあの見事に美味しそうな甘辛いタレがかかった串焼きは…… 香ばしい香りと焼いてる時の肉汁のジュワアアという音も今はここが地獄であるかのようだ! クソッ! 急いでいなければ味わえたというのに……
見てはいけないと思いつつも横目で確認。 実に美味しそうだッ!!
「そうかいー、仕事頑張んなぁー」
「ありがとうございます! では!」
思わず泣きそうになってしまったのをこらえ、騎士団本部に歩き出すのであった。
■ ■ ■ ■ ■
ブレインガーディアンの本部にもどると、入り口には同じ部隊長であるトロンとカルマンさんが話をしていた。
トロンは第四部隊の隊長でありパトラの兄である。 茶髪の短い髪のヒューマンで、お互い同じ年の妹がいることもあってかよく話をしたりすることが多い。
カルマンさんは第三部隊の隊長で、黒髪のギガントである。 身長は三メートルあり、とても筋肉質な戦士で近接戦闘が得意な隊長だ。
「お! アリア今日の任務は終わったのか? パトラが迷惑をかけなかったか?」
「朝は盛大に寝坊してきましたね、それ以外なら大丈夫ですよ」
「あちゃー、あいつ毎回朝起きれないんだなー」
あいたーと頭に手をあててトロンは笑う。
「二人も任務の報告に来た感じなのですか?」
「ああ、まあそんなところだ、それとなにか騎士団長から話があるみたいだから、アリアが来たらそれについて話すんだとよ」
カルマンさんが眠そうに口を開く。
「俺は訓練中だったんだがよ、今日の任務が都市内の巡回担当だったから呼ばれた感じだな! あとは都市内に残ってるカナリアももう少ししたら来るみたいだからよ、とりあえず受付に報告してから待ってようぜ」
「ああ、じゃあちょっと報告にいってきます。」
受付に今日の任務の報告と魔石を換金してもらい二人の元に戻ると、入り口の扉が大きく開く。
ピンクの髪をツインテールにし、黒いドレス姿で優雅に入ってくるエルフ。 まちがいないあれは…… 第六軍団隊長、カナリア=ファンネルであった。
カルマンさんは入ってくるカナリアの姿を見つけると手を上げ声を掛ける。
「お! ちいせぇの遅ぇぞ」
「時間どうりですわ! それとわたくしはちいさいのじゃありませんわ! あなたがでかすぎるだけでしょう!」
怒って答えるカナリアは身長が一メートル五十くらいだ。 他のエルフの中でも小さいほうだが、ギガントの人達に比べられると癪にさわるのだろう。
「これで今都市内にいる隊長は集まったみたいだな」
「ああ、騎士団長は部屋で待っている、行こうか」
■ ■ ■ ■ ■
騎士団長の部屋のドアを2回ノックする。
中から「入れ」と声をかけられ、部屋のドアノブを回し部屋に入る。
「失礼します! 第一部隊アリア、第三部隊カルマン、第四部隊トロン、第六部隊カナリア到着致しました」
「忙しいところ呼んでしまってすまないね」
部屋の椅子に座ってさっきまで書類を片付けていたのであろう、机の上には結構な量の書類が山積みになっている。疲れた顔をして笑いかける騎士団長、トリシア=カスタールは緑の髪をしたロングの髪に、黒い眼鏡をかけたエルフの女性である。
「とりあえずみな任務の方は順調だろうか? アリアとトロンの方は郊外任務だったようだね。 なにか変わった事とかはあっただろうか?」
「私の担当する第一部隊は森での訓練だったのですが、普段いない魔物がおり生態系が変化しておりました」
「ほう、報告書によるとウルフの群れやウルフベアーが現れたそうか、普段あの魔物はあの森にはいない魔物なのだが近いうちに調査する必要があるな。 そして君の妹の初郊外訓練だったみたいじゃないか天才といわれる実力は魔物相手にはどうだった?」
「ええ、下級魔法ライトニングが最上級魔法のトールサンガー並みの威力を持っていましたね」
「なっ!? まじかよ」
「ありえないくらいの魔力ですわね」
トロンとカナリアが驚いた顔で見てくるそれもそのはずだ。 下級魔法はどの魔法を扱うも下級でしかなく威力は低い。 セレスと同じくらいの威力をを持った魔導士は、おそらく歴代に伝説とうたわれた人達以外にいないだろう。
「さすが期待通りだな、実践をメインに鍛えたらすぐ隊長にできるな。 トロンのほうは特に報告するようなことはあったりしたか?」
すっとトロンは先ほどまでの雰囲気をがらりと変え、真面目な声音で話す。
「セーブザガーディアンの一部の騎士が不穏な動きをしているとみられるので、ちょっとこちらで調査しようかと思いまして」
セーブザガーディアンは商人をサポートする騎士団であり数はそれほど多くはないが、この戦争の真っただ中重要な役割をになっている。 この戦時中の各大陸でのやり取りは主にセーブザガーディアンの管轄となっており、冒険者を通じて大陸間での物資のやり取りを行っている。
「了解した。 私の方でも協力しよう、カルマン、カナリアは報告することとかはあるか?」
顎に手を当てカルマンさんは考え込む。
「こちらは今日は街を見回ったが、今日は特に暴動とかはおこってねぇな」
カナリアは凛とした口調で答える。
「わたくしのほうも我が隊の訓練には変わった事もありませんし、問題ありませんわ」
「そうか、今日集まってもらったのには戦争についての事だ。 隣のアルテア大陸とリーゼア大陸との戦争は
「なっ!? 勇者召喚を行うというのか、魔王も現れていないこの時代に戦争の道具として勇者を召喚するつもりなのか!?」
トロンが驚いて叫ぶがそれも無理はない、この世界には召喚術があり、異世界からきた人達もかつてはその当時
現在のこの文化も異世界人が色々なものを世界に広め伝えた結果、文明は
「まあ待て、話を最後まで聞け。 その勇者召喚は他の大陸の国も行うらしいと上層部からの情報だ、つまりだ、あちらの大陸も勇者召喚をしてこちらに侵攻してくる状態らしいのだ。」
召喚された異世界人はなにかしら魔法とは違った能力を持って召喚されてくる。それは軍を軽々と
「それはいよいよまずい事態になってきましたね、その勇者召喚はいつ頃行う予定なんですか?」
「三日後だ」
なんだって!? あまりにも早すぎる。 本会議で決定が行われたとしても最低でも一ヶ月はかかるというのに……
「三日後!? すぐじゃねぇか!!」
「このことは民衆は知っているのですか? 戦争状態が激化する兆候ですわよ」
「民衆はまだなにも知らない、ついさきほど決まってな、私も頭が痛いよ……」
ふぅーと目頭を押さえ眼鏡をはずし悩むトリシアさんは、その対応に追われているみたいだ。
いったいこの戦争はなにが目的の戦いなんだ…… 異世界から人を召喚してまで戦わなければいけない理由はあるのか、上層部はそのことに関しては完全に黙秘を貫いている。 こちらも色々と調べる必要があるな……
「まあそういう流れになってしまったからな。 郊外に出てるやつらも一旦戻らせ、新たに部隊を編制していくことになるからな。 それと召喚された勇者のバックアップも我々騎士団管轄ということになっている。 このままでは仕事が増えるいっぽうだ!! やめたぃ……」
つい本音がでてしまっているトリシアさんは、頭を抱えうーんとうなっている。
「……はぁ、とりあえず今日の報告は以上だ各々
ぶっきらぼうに終わらせたトリシアさんを攻めることなど誰ができようか…… お疲れ様です。
「「「「了解しました。」」」」
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