第3話 騎士団

「「おはようございます。 隊長」」


「ああ!  おはよう っとやはりパトラはまだ来ていないか……」



 部屋に入り声をかけてきたのは、ブレインガーディアン第一部隊のメンバーであるカナンとジャスティンだ。

 カナンとジャスティンは二人ともエルフである。 カナンの方は紫の髪の長髪で、いつも冷静な判断をしてくれる男性隊員だ。 今もおそらく手にしているのは今回向かう場所の資料だろう。 入念な下準備はカナンらしいと言える。 


 ジャスティンは灰色の短髪で元気があり、行動的な性格。 カナンと同じ時期に入った男性隊員である。 手にしてるのは回復薬だろうか、備品の確認だな……

ジャスティンはとにかく頑丈だ。 セレスの無茶な魔法攻撃にも耐えるのはなかなかいないだろう。



 二人とも騎士団のシルバーと赤いラインの入った鎧を身にまとっていて、今日の任務を今か今かと待っていたようであった。



「そうなんすよ。 パトラはいつも朝起きれないからいっそのことここで寝泊まりすればいいのにと毎回思うっス」



 ジャスティンはややため息交じりに話し、カナンは冷めた声で言う。



「早く起こしてきなよ、 セレス」


「私が毎回起しにいってるんですから、たまには変わってもらいたいです」



 セレスはやや不機嫌そうな顔をカナンに向ける。



「同じ同期どうしなんすから起しに行くのは当たり前っすよ」


「それに同じ女性同士だろう。 俺ら男は部屋にすら入れないからな」


「むー……  わかりました」



 二人に反論され、少しむくれたセレスであったがしぶしぶ了承りょうしょうして部屋から出て行った。


 パトラが住んでいる所は、このブレインガーディアンの建物のすぐ近くにあるのでそんなに時間はかからないだろう。 まあ女性特有の身だしなみを整える時間とかは、それなりにかかってしまうのだが、魔法の扱いが極めて高いセレスがついているならそれも心配はないだろう。


 魔法とは便利なものだ。



「隊長、 今日の実地訓練の内容は郊外で行うんですよね?」


「ああ、 だがそんなに都市から遠くない場所で魔物相手に戦闘するだけだ」



 この世界グランディアには魔物が存在する。 


 動物とはまた違った生態系で自然に生まれてくるタイプと、魔物同士の交配によって生まれるものと様々いる。

 なんでも自然界のエネルギーがあふれている場所から生まれているらしく、世界中に魔物は存在しているし、数も増えてきているみたいなのだ。


 その魔物を狙い、賞金を得る冒険者もこの世界には多い。 魔物も強さがありそのエネルギーのあふれる場から遠ければ弱く近ければ強い生態になっている。



 ここガルディア都市はそんな場所から比較的離れた場所にあるため、付近の魔物はそんなに強いわけではない。 だが油断をしていれば足元をすくわれかねないのでこういった実地訓練が行われる。


 装備をある程度そろえていればよほどのイレギュラーがない限り、安全に撃破することができるだろう。

 普段はこの施設の訓練場で訓練してるため郊外にでることはあまり多くないのだが、それが楽しみらしい二人はこうも浮足だっているわけだ。



「都市付近の魔物がいくら弱いからといってナメてかかると痛い目をみるからな。 気を引き締めていくようにな」


「「はい!」」


「あと各自にこれを渡しておくよ。 セレスとパトラにはあとで同じものを渡すからちゃんと身に着けておくように」



 懐から袋を取り出し腕時計のようなものを二つ、二人にそれぞれ渡す。



「これは、 アルタナ測定器 といい自分の現在の体力と魔法力残数を測定する機械だ」



 この世界には様々な機械やアイテムがある。 このアルタナ測定器も昔やって来た異世界からの住人が作りあげたものを加工して量産したものだ。


 ちなみに自分の体力と残りの魔力量を常に測るためのものであり、残量は目視で確認するほか電気信号で自分だけがあとどれくらい残っているかわかるようになっている。


 このアルタナ測定器のおかげで多くの冒険者や騎士が救われているので、これを開発した方はとても偉大なかたであったと、多くの文献がでているのである。


 私も現在身に着けているので表記データを目で確認する。



 アリア=シュタイン


 HP 3500/3500

 MP    0/   0


 HPというのは体力を表し、MPというのは魔法力残数を表す値である。

 なんでもこれを考えた偉大なる方は「やっぱりこれだな」といって作ったらしいのだが、やはりそこまで偉大なる人の考えまで理解するのはとても難しい事だったようだ。


 毎回見ていて悲しくなるくらいMPの値が0である。体力は比較的多いほうではあるが同じ部隊長でもある、ギガントのカルマンさんに比べれば低い値なのだろう。

 ちなみに相手や敵のHPやMPの値は見ることができない。 教えられでもしないかぎりか特殊なアイテムを使うかしないとわからないらしい。


 カルマンさんは酔った勢いで笑いながら話してくれたが、私はそれを聞いて落ち込んだりもした。

 防具装備や強化アイテムなどで増やすことや減りにくくすることもできるが、基本のパラメーターはこんな感じである。



「おお! すげぇっす! 自分の体力と魔力量がわかるっす!」


「これで危なくなった時の判断がよくわかりますね。 ありがとうございます」


「っと! ありがとうございます! 隊長!」


「くれぐれも自分の力を過信しすぎないようにね、それと深追いはダメだよ、特にジャスティンは熱くなりやすいんだから覚えておくように」


「は…… はいっす。 気を付けるっす。」



 バツが悪そうにうつむくジャスティンをはげましながら今日の内容について二人と話をして数分後。



「す、す、 すみませーん!! 寝坊してしまいましたぁあああ」



 勢いよくバンっと扉が空き、茶髪のセミロングのヒューマンの女性が、お馴染みのシルバーと赤のラインの鎧を身にまとい、ガッシャガッシャと音を立てて入ってくる。



「いつものことで慣れてはいるが遅いぞ、パトラ」


「そうっす。 今日は郊外訓練だから早くくるように昨日も言われてたじゃないっすか」


「ううぅ、二人ともごめんよー」


「おはようパトラ。 それにしてもパトラは朝に本当に弱いな、寝坊して遅刻した分今日は働いてもらうからなー」


「た、た、たいちょーごめんなさいー」



 一人慌てて走ってきたのか少し遅れてセレスも顔を出す。



「本当に足は速いのに朝だけが弱点だなんて、そして私を置いてなんで先に行っちゃうんですか! せっかく起こしにきた同期にたいしてあんまりですよ」



 少しあきれ気味なセレスがパトラにため息を吐きながらも話すが、その顔は不機嫌そうに見えても笑顔である。



「セレスもごめんね」


「それじゃあ二人も来たことだしこれを渡してさっそく郊外に向かうとしようか」



 二人にさっき渡していたアルタナ測定器を渡し、パトラは「おおーすごいです」とジャスティンと一緒に盛り上がっていた。

 セレスはアルタナ測定器をつけたところ、少しびっくりしてからパトラに話しかけていた。 おそらくセレスの持つ魔力残量がとてつもなく多いのだろう。

 魔法の天才として満点を取り入隊したセレスだ、過去に名をはせた魔導士も一万を軽く超えた魔力量だったらしいからセレスが驚くのも無理はない話だ。

 準備を整え私達は郊外にある森へと向かった。




 ■ ■ ■ ■ ■



「よし、着いたぞ」



 ここが今日行われる郊外訓練の場所だ。 都市からそんなに離れていない森の入り口付近に私たちは来ている。 この森は魔物のランクは比較的低いものしか集まらない。 訓練にはもってこいの場所だ。



「今日の内容はさっきも話した通りだが、魔物の討伐と連携の実践訓練だ。 今日は私は見ているだけなのでお前達に討伐と連携をやってもらいたい」



 ちなみにカナンは槍と魔法を駆使した戦闘が得意であり、ジャスティンは剣と盾と魔法を使った接近タイプ、パトラは弓と魔法を使い、セレスは攻撃魔法と回復魔法担当だ。



「まずは近くにいるゴブリン二体を連携して倒してくれ」


「「「「はい!」」」」



 ゴブリンはこの世界ではよくみる比較的弱い魔物だ。 知能は高くなくこん棒を使って攻撃してくる。

 数がとてつもなく多いので駆除依頼が絶えないのだ。 私達の隊は対人戦こそしているもののこういった魔物との戦いはあまり経験が少ない。



「ファイアーエレメントっす」



 ジャスティンの持つ剣が赤く熱を帯びていく。


 ファイアーエレメントは武器に炎属性を付加する魔法だ。ただこの森の中なのに炎属性とは他に燃え移ったらどうするつもりなのだろうか。 あとで反省会だな。


 そんなことを考えつつ、まっすぐ二体のゴブリンに向かって突っ込んでいくジャスティン。

 カナンはその後ろについていき、すかさずジャスティンのフォローに向かっている。


 走り出してすぐにこちらに気づいたゴブリン二体が奇声をあげながら迎撃態勢に入る。

 まずは接近戦同士の戦いか。


 パトラとセレスはやや離れた位置から周囲を警戒している。 ゴブリンは弱いが数が多く存在する。 この森も例外ではなくゴブリンの生息は多い。

 さっきのゴブリンの奇声に気づいた近くのゴブリンが寄ってくる可能性があるため警戒しなくてはならない。


 案の定近くにいたであろうゴブリン二体がこちらに向かってくるのが見えた。



「はぁっ!」「やぁっ!」



 二人で同時に2体のゴブリンの左右に分かれ、ジャスティンは炎をまとった剣での切り払い、カナンは安全なこん棒の届かない位置からの突き刺しでゴブリンを倒していた。



「コンセントレイトっ!」


「ホークアイっ」



 パトラが遠くに見えたゴブリンに対して魔法を唱える。


 コンセントレイトは集中力を上げる魔法で、ホークアイは遠くの物をよりクリアに見え命中率をあげる魔法だ。

 ゴブリンたちまでまだだいぶ距離があるが、パトラは背負っていた弓を取り出し構えて放つ。

 ヒュンという風切り音とともに一体のゴブリンの眉間に命中する。 おそらく一発で絶命させたのだろうドサッと一体のゴブリンが地に倒れ、二投目を続けて放ったパトラはまたも隣のゴブリンの眉間みけんをぶち抜く。



 近くにいたゴブリンはこれで倒したことだろう。 四人がこちらに戻ってくる。



「ふぅー初めてゴブリン倒したっスけどあっけなかったすね」


「ジャスティンは何も考えず突っ込みすぎだぞ後ろから追う俺の身にもなってくれ」


「カナンすまないっす! 次からは考えるっスよ」


「私なんか二体倒しましたよー二体ですよー、ふふん」



 上機嫌で話すパトラに悔しそうな顔をする二人。



「ずるいっすねー遠隔武器は」


「ふふん、離れていても安全に戦えるし、お得だよ」


「まあまだ入り口付近の弱めのゴブリンだからな慢心はよくないぞパトラ」


「は…… はーいたいちょー」


「そしてジャスティンはもうちょっと考えて魔法を使うように、ファイアーエレメントなんて森で使ったら燃え移ったりしてさらに危険だからな! 気を付けるように!」


「は…… はいっす隊長」


「まあ最初の戦闘にしては上出来だ、もう少しだけ奥に進むぞ」


「「「「はいっ」」」」



 そして倒した魔物の魔石を取ることも忘れない、この魔石は魔物のエネルギーでありアイテムなどに加工できたりするので倒したら拾うのが基本だ。 そんなに大きくはなく比較的軽いので結構な量は持ち歩けるはずだ。


 魔石を拾いつつ森の奥へと一同は進む……

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