『入口』に立つ者

@FLAT-HEAD

第1話 火葬場下のトンネル

 これは20年ほど前、私がまだ高校生だった頃の話です。


 その日の私は、とてもイライラしていました。

 当時の私は片道十数キロの距離をバス通学していたのですが、その日の帰りは大雨による渋滞で、バスが大幅に遅延していたのです。

 そのバス停にはいくつもの路線バスが走っていましたが、1時間以上も待っているにもかかわらず、私が乗るはずのバスだけが一向にやって来ません。

 しびれを切らした私は、家まで歩いて帰ることにしました。

 当時の私はスポーツをやっていたためかなりの健脚で、そうしたほうが早いと思ったのです。


 家まで歩いて帰るには区を跨いで山を越える必要があり、そのためには山頂近くにあるトンネルを通らなければいけませんでした。

 山越えそのものは2車線ある国道に沿って真っ直ぐ歩くだけなのですが、そのトンネルは車やバイク専用で、自転車や歩行者は脇にある小さなトンネルを通らなければいけません。

 小さいほうのトンネルの存在自体は以前から知っていたもの、当時の私はそこが有名な心霊スポットだということは知りませんでした。ただ、そのトンネルのすぐ上を横切っている山道は火葬場に通じていて、昔からこの山自体が無縁仏の遺体を捨てる場所として有名だということだけは聞いていたのですが……。

 入口の前まで来てみると、そのトンネルは人が3人ほど通れる幅しかなく、しかも壁面は手作業で掘ったかのように岩肌がゴツゴツしていて、入る前から私は不気味なものを感じていました。

 ですが、家に帰るためにはここを通るしかありません。それに天井の電灯こそ古くて暗いものの、トンネルの出口はしっかりと見えています。

 私は意を決して、そのトンネルに入ることにしました。

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