第3話.A パート [ 休息の朝 ]

 昨晩、わたしは疲れが重かったせいか、浴室から出て1時間、

自分の部屋でのんびりして眠ってしまった。

 なんとなく気力がなかった。

 布団の中から薄い掛け布団を退け、立ち上がった。

 デスクトップパソコンの電源をつけて、少しして画面の右端に表示されている時刻を確認した。

[7時27分]と、そう見れた。

外から猫の声がしたように聴こえた。

 窓辺に1度寄り添って、寝巻きのラフなTシャツのまま自分の部屋を出て、廊下を歩いた。

 天窓から差す日の光が階段を照らし、わたしは右側の階段から踊り場へ下って1階へ降りた。

早朝の静かな家の中の雰囲気を感じ取り、1階のリビングの部屋へ向かうと同じ空間にあるキッチンでママが調理している。


 ママの長く綺麗なピンクの髪は地毛で、魔力が世界に復活してから最初に治療魔法を得てからその副作用、エンハンスと言われているものでピンク色の髪になったと、そう聞いている。

 その頃はママは、マヤはイスラエル国防軍に所属していて、2年間の兵役任務の真っ最中だった。


 ママの横に立ち、わたしは

「ボケル トーヴ(おはよう)」

とヘブライ語で挨拶をした。

「おはようマキナ、日曜日にしては早いけど、今日は何か予定があるの?」

とママはフライパンの上で卵焼きを焦げないように滑らせながら聞いてきた。

「そうなんだ、昼に水絵と出かけしてくる」

とわたしはそう言って、冷蔵庫から口の開いた缶を取ってサイダーを半分飲んだ。

「あっ、そうだ!お母さん、まだ寝てるかな?」

とリビングをチラッと見ながら訊ねた。

「いや、まだよ。それに昨日は遅く帰ってきたし・・・書斎で寝てるかも。新型の人造人間レプリカントみたいなのを会社で設計するとか言っていたわ」

と昨日のことを思い出しながらそう言った。

「今日は休みなの?」

と聞くと

「ママも母さんもそうよ」

とママは言った。

「朝食は起きたらでいいんじゃない?寝かせてあげたら」

とクスっと笑い

「そうね、とりあえず作っておくね。あとりらもまだ寝てるの?」

とママが笑いながら2皿目のベーコンチーズエッグを平皿に乗っけた。

「リラはまだ起きてなかったよ、テレビ見てていい?」

と食器棚の中にある細長い箸入れから、まず4人分の箸を取った。

 その次に茶碗を人数分を台所の炊飯器の横に置いて、リビングに向かい、

リビングに行くといつもの食卓となる4つの椅子と程よい大きさのテーブルがある。

 そのテーブルの上に間隔を空けてこっちに2膳、反対側に2膳置いた。

茶碗に炊きたての白米をよそうのとか、料理の盛り付けはママに任せて、テレビの前のソファーに座り、特撮モノの『ライダーアトミック』というおよそ30分の番組を観始める。


 この特撮の設定は、公安局に勤めている女性捜査官モトコが、偶然会った死にかけの友人から謎の装着型アイテム"アトミックガントレット80"を託されて、

刀とレーザー銃を使う戦士"フラッシュ・ダンサー"に変身して、

テープイーターという化け物と戦うことになる。

 そして、<VHSモッド>というビデオのような変身アイテムを集めて様々な戦士に変身したり、同じようなガントレットを持つ仲間と共に狂った人工知能との陰謀に立ち向かうという内容だ。

 わたしも小学生まではこの番組のあとに放送される『キュアシリーズ』を見るついでに見始めたが、高校2年生辺りに再び見るようになった。

 改めて見ると面白いなと思うのは、観点が違くとも視聴者の興味を惹かせるネタや脚本もあるのだろうか。

 今回は冒頭から敵と戦っているという設定のシーンだ。

 朝の8時からやる特撮とはいえ、洋画並みに戦闘シーンが生々しく、最近のアクション映画のようだ・・・とは言え、朝8時なので暴力的でもなく過激でもない、カッコいい、アツい、ヒロインは優しい、1人以上はやけに面白い人物がいることだ、そして胸糞悪くないこと。


 しばらくするとママが

「ご飯できたよ」と笑顔で料理の乗った皿を食卓に置いた。

食卓を見ると、朝食の準備はできていた。

「お姉ちゃんいる~?」

と起床して2階から降りてきたりらがあくび混じりにふわわと言った。

「おや、今日はベーコンエッグかな?」

と母さんも3階から降りてきたようだ。

「たまにはいいかと思って。卵だけに」

とママはシャレを掛ける。

「いただきます」

 塩と胡椒の効いた卵焼きとベーコン、その間にある微量のマヨネーズがこれまた美味しい。

 レタスをメインとしたサラダの上にはシーザードレッシングがかかっている。

葉物の野菜はドレッシングの味によって変わってくる、こういったところが野菜を食べる楽しみだと私は思っている、全身生身の時は。

 あの時のテロに巻き込まれて、瀕死の末にオーグメンテーション化をしなければならなかったわたしは

 全身義体化サイボーグになり、食制限をせざるおえない。

 義体は現段階で食べて良いものは、サイボーグ食に飲料水と、溶けやすく水に流しやすい食べ物だ。薄く溶け気味のチョコとかチーズとか、飴にエネルギーゼリーとか・・・。

 目の前に用意したオレンジゼリーを1口食べても、ご飯を1杯を食べたような感覚を覚える。

 オレンジゼリーをもう一口と缶の中に残っているサイダーを飲み干す。

 そしてテレビに、キュアシリーズの最新作『キュアファンタジア・レディ』が放送されていた。

 このシリーズも現在で30年以上は続いているようだ。

 ふむふむと関心しながら、匙をまた進めてゼリーを食べる。


「ごちそうさま」

 と、食べ終わった後の食器と自分の茶碗、匙を上手く両手に持って退席した。

生身の胃袋であればカロリーの低いとされている溶けやすい食べ物だけでは、物足りないものだけど、人工の胃袋だとゼリーやもう少し何か食べただけでも満腹になる。

 脳が紛らわされているのだろうか?

と考えて両手に持った食器類を台所のシンクに置き、テレビ前のソファーに行った。

食卓の横を通ったわたしの声を座りながら聞いてりらは

「お姉ちゃんご機嫌だね~」

とティッシュペーパーで口の汚れ拭き取りながら言った。

「今日、お出掛けするんだ」

と返事してテレビ前のソファーに座った

「いいなぁ、わたしもついてっていい?」

りらがそう目を輝かせるように

「りらの予定が何も無かったらね、10時半には出掛けるよ」

「はーい」

 りらは食べ終わった後の食器と茶碗を持って席を離れ、キッチンに向かった。

充電していたアームストロング端末『タイプ・エロクトマン』を腕に装着し、

携帯端末の少し小さい画面に表示された時刻を確認した。

 それでまたテレビの画面に映るアニメを見ていた。

まだBパートが始まったばかりかと、ワクワクしてきた。

「お姉ちゃん、まだキュアオーロラ負けてない?」

とりらがソファーへ戻ってきた

「あっ、負けそう」

と"イシュダル"という悪女と、"オーロラ"というやや緑みの明るい青の色の女性戦士が街で戦うシーンが映っている。

「えっ!?嘘・・・おっ、立ち上がった」

推しのヒロインがふんばっている姿を見て、りらがホッとする。

 番組自体が残り10分ほどで終了するアニメ観賞を姉妹で楽しんでいる。


 そして1時間は自分の部屋の掃除や整理整頓し直している間にあっという間に過ぎ、

出掛ける支度をしていた。

 車の鍵、免許証、護身用のハドソンH9とその他の持ち物を、愛用の黒と水色のショルダーバッグのチャックをスーッと開けて、中に入れた。

 バッグを机の上に一旦置き、頭部のウィッグのパーツをパーツ専用のクローゼットから取り出す。

 とりあえずブロンド色か水色の髪か、あるいは今着けている黒い髪のパーツにしておくか迷ったが無意識に水色のウィッグパーツを選択するという答えが出ていたようだ。

ウィッグパーツを水色のウィッグへ取り替えて黒髪ウィックをクローゼットへ戻した。

 鏡の前に立って、着けた水色のただ長い髪をハーフアップの髪型に整える。

 ショルダーバッグを肩に掛けて、扉を開けて、階段の前で待っていたりらに

「おまたせ」

と一声掛けて一緒に1階へ降りた。

 わたしとりらは、リビングにいた両親に

「いってきます」と言うと

「"事故らないように"、気をつけてね」

「何かあったら電話入れて」

と両親から言われた。

 玄関で靴を履き、ドアを開けた。そして玄関を出てすぐ右手の駐車場に停めてある、最新型のシボレーのドアの鍵をリモートキーで開けて、運転席についてエンジンをかけた。

 2人がシートベルトをしたのと、自動運転モードにはしてあるのを確認し、街まで走らせた・・・。

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