私の作品を書き直してみませんか(3):僕たちの恋物語
ゆきんこさんの自主企画:私の作品を書き直してみませんか の参加作品です。
お題
「僕たちの恋物語:https://kakuyomu.jp/works/1177354054885460276」
がんばるぞい☆
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三日目:終わりの始まり
「ハナイカリ」の彼女と話したあと、僕は真美に思いを伝えるべく家路を
急いだ。あのときの少女は真美だった。どうして今までわからなかったんだろう。
あの子に告白されて断って、橘さんのこと好きなの?って聞かれてやっと自分の思いに気付いたんだ。
僕は、真美が好きだ。
この思いを一刻も早く彼女に伝えたかった。
もう十分ぐらいは走っただろうか。僕はだいぶ息が上がってフラフラしてきたので一旦で立ち止まり、呼吸を整えていた。何か後ろに視線を感じる。憂いを秘めたあのときの少女と同じ感じ、この視線の主を僕は知っている。真美だ。
僕は何のためらいもなく振り返った。
そこにはいつもの笑っている真美がいた。
思いを伝えようとしている相手が今、目の前にいるのだ。突然の出来事に僕の心臓は更に早く動いた。おまけにずっと走っていたせいで、動悸が止まらない。
息を整えてから僕は彼女に向かって喋りだす。
「どうしてそこにいるの?」
気のせいだろうか、真美は一瞬、曖昧な笑顔を僕に見せた。
「なんで走ってたのかよく分からないけどさ、とりあえずこっちにきて!」
と言い、僕の手を引っ張って走り出した。
「はあはあはあ。あのさ!どこに向かってるの!」
「えっとね、ついてからの秘密!」
彼女の笑顔は無垢な少女のように見えて眩しかった。
それからまた十分ほど走ったところで、杜が見えてきた。
「高見神社に向かってるの?」
「そうだよ。じゃあ、そろそろ歩こっか。」
真美は走る速度をだんだんと緩めていき、僕たちは高見神社の鳥居の前に着いた。
「ぜぇぜぇ。全然息切れしてないね。もしかして陸上部?」
「うん。これぐらいならいつもやってるから…小浮気(こぶき)、飲む?」
真美は自分の鞄からペットボトルを取り出し、僕の頬につけた。
貰った麦茶は帰り際に買ったばかりなのか、水滴だらけで冷たくて気持ちいい。
「ふぅ…生き返ったよ、ありがとう。」
「私にも飲ませて。」
真美は僕の手からペットボトルをさっと奪い取ると、勢いよく飲み始めた。
「暑いから生き返るねー。」
「橘、それ…間接キスだよ…」
俯きながら真っ赤になって言った僕の言葉は、彼女には聞こえていないようだった。
一息入れたところで鳥居をくぐり参道を歩く。入口から賽銭箱の間ぐらいまで歩いた時のことだ。真美は小走りをして僕の少し前へと進んでから踵を返し、こちらに体を向けた。それと同時に僕も足を止める。
「さっき、小浮気の両親から電話がかかってきてさ、明日には帰ってくるらしいってさ。」どこか気持ちを隠しているような、平淡な口調だった。
「うん…。あのさ、言いたいことがあるんだけど話してもいい?」
「うん。いいよ。」
これも同じように平淡な口調だった。
「六年前にさ、とある少女が崖から飛び降りようとしてたのを助けたんだよ。そしてその少女に僕は恋をした。初恋だった。」
真美の方を見ると先程とは一変し、泣き出しそうな顔をしていた。
「その子って実は橘なんだよね。」
「…うん。知ってる。」彼女は静かに泣きながらぽつりとつぶやいた。
今だ。僕は頭を下げて左手を前に突き出してこう言った。
「あのときからずっと好きです。僕と付き合ってください!!」
「ごめんなさい…。でも、私も小浮気のことはずっと好きだったし、
今も変わらず好きでいるの。」彼女は急にハッキリとした口調で言った。
「そうか…。じゃあ、なんでダメなんだ?」
僕は動揺とショックのせいで声が震えていた。
「私は、『空』に帰らなきゃいけないの…。」
真美も同じように声を震わせながら、顔を下に向け俯いた。
えっ?空?何?ちょっと意味がわからない。
けれど、真美のこの様子からは嘘は言っているようには到底思えない。
「本当、なんだよね?…信じられないような話だけど、僕は信じるよ。」
彼女が安堵したような表情をしたのを見て、僕は話を続けた。
「あと、それじゃ理由になってないと思うよ。」
「やっぱり信じていないんでしょ?…嘘つき。」
真美は目を涙でいっぱいにしながら僕を睨んだ。
「嘘じゃない。橘は僕をからかいはしたけれど、こういう真剣な時に嘘はつかないだろ。」
「じゃあ…。」
「それでも、理由になってない。」
「それはおかしいよ!だって、空に帰ったらもう永遠に会えないんだよ!!」
真美は声を荒げた。悲痛な叫びのようだった。
「確かに空に帰ったらもう永遠に会えないかもしれないけどさ!」
僕も声を荒げた。
「僕と橘との恋って、そんな小さな障壁も越えられないような程度の恋だったのかよ!!」彼女よりも力強くはっきりと言い切った。
そうでも言わないと、一瞬でも叶った両想いを失ってしまうんじゃないかって咄嗟に出た言葉だ。
真美は目を大きくして僕の方を見たあと、泣き出しそうな顔で笑った。
「そうだね、そうだったよ。うん、そうだったね。」
僕は目から溢れた彼女の涙をそっと指で拭った。
真美は泣き止むと、少し照れた顔をした。
「私たちの恋物語はそんな小さな障壁なんて軽々跳び越せるような、壮大な恋物語だったよね!」彼女は自分に言い聞かせるように言った。最高の笑顔だった。
しばらく見つめ合ったあと、彼女が切り出した。
「じゃあ……私はもう空に帰るね。空からずっとずっと小浮気のことを見守っているからね! それと、ちょっと目を瞑ってて。」
僕は言われるがままに目を瞑る。
唇に何かやわらかい感触を感じた。初めてのキスは、涙の味がした。
僕は思わず真美を抱きしめた。
真美は僕の胸の中に顔を埋め嗚咽した。互いの体温だけで、言葉はいらなかった。
僕は泣きじゃくる彼女をただ静かに、子供を寝かすように優しく背中を叩いていた。
ひとしきり泣いてスッキリしたのか、彼女は僕から離れた。
「じゃあもう行くね。あと永遠に私のことを好きでい続けてね!」
「もちろん。僕も永遠に好きでい続けるよ。」
「あ、信じてないでしょう?私は永遠に好きでい続けるよ。信じなかったら今度は本当に朝食に針を入れるからね」
「はは。そうだね。」
僕たちは昔のように、子供じみた約束を交わした。
「さようなら、小浮気。」
そう言うと、真美の背中から羽が現れ空へと飛んでいった。
真美が消えていった空は、どこまでも高い夏の色をしていた。
その色を写真に収めようかと思いスマホを取り出すと、携帯の日付が七月十九日を指していた。
後から聞いたのだが、この日は真美の命日だった。
これが、『僕たちの恋物語』だ。
今はもう悲しくはない。
ただ、今日のような突き抜けるように高い夏の青空を見上げると、僕は今でも真美の声が聞こえる気がするんだ。
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無事に完走しました!
ふぅ…。(以下略)
やばい、ポテンシャルが高すぎる…。
企画に参加を決めた時、初見で心がポキっといいかけました。
素の文がストロングスタイルすぎてどうしていいかわからなくなり何度、最後を「ハッ…夢か。」で締めようと思ったことか。
某ね〇とん紅鯨団のような告白シーンとか、割と世代を感じさせる描写があるので、本気でこれを書いたのか…?号泣しながら嗚咽とか、いやいやいやいや。もしや私はゆきんこさんの壮大な釣りに引っかかっているのではないのだろうかと疑心暗鬼になりながらリライトを進めていました。
本気でもネタでもこのクオリティはなかなかに出せませんよ!
なんというか、逸材の片鱗を見た気がします。
釣られついでにマジレスすると、もしかして立ち絵(スチル)ありきで文章を書いているんじゃないのか?と感じました。絵があれば原作の行間でも確かに話はわかるような気がします。が、ここには絵はありません。状況をもっと細かく読者に伝えるといいんじゃないかなぁ…うん。
企画おつかれさまでした!
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