三部 19話 ゲームオーバー

 散々な目に合った。

 ブチギレした魔王軍の残党に、死ぬほど追いかけられた。

 本来なら絶対に魔王城を離れないはずだったあの堕天使が先頭に立ち、思いっきり魔法を浴びせてきた。

 ゴーレムや<サトーズ・フィスト>を特攻させ、なんとか命がけで逃げ延びて、ようやく紅魔の里までたどり着いたのだが。


 自分の屋敷にたどり着き、作戦ルームにて全員を持ち場に付かせると、あることに気付く。


「無い!」


 俺のコレクションルームに仕舞っていた神器がなくなっている!

 部屋には紙が残されていた。

 手に取ると。


『闇に呑まれし神器を回収するために盗賊クリス、神に遣わされただ今参上!! 今宵もまやかしの美しさ、いただきました』


「あのアマアアアア!!」


 手紙を破きながら叫ぶ。


『……追伸。サトー・マサキはもっと勇者らしい戦い方をして下さい』

「余計なお世話だ! 覚えてろ! 今度会ったら元々ない胸をやすりで削ってやる!」


 クリスめ! あのエリス教徒の盗賊が! ドサクサに紛れて火事場泥棒とはやってくれる!


「ノイズとの交信が完全に途絶えています! 状況は不明! 王も住民もどうなったのか全くわかりません!」

「観測した限りでは、ノイズは完全に崩壊! 全ての建造物が粉砕され炎上しています」

「住民を確認できません。死体は現時点では目視できていませんが……」


 一方会議室では、困惑した部下達が右往左往し、怒号が飛び交っている。

 まさか戦闘の最中に国が滅びるとは。

 こんなの想定外すぎる。どうしろっていうんだ。


「隊長! 大変です! 魔王軍だけでなく、ベルゼルグ王国も、マサキ隊長の首に賞金をかけました!」

「そんな報告聞きたくない!」


 頭を抱えながら、部下に怒鳴り返す。

 なんでだ? なんでこうなった? 俺が賞金首だと? わけがわからない。


「いわくノイズを襲撃した原因は、マサキ隊長のクーデターだとか……?」

「ありえんわ! 魔王侵攻の真っ最中だったんだぞ! あのタイミングでクーデター起こすバカがどこにいるんだ! 魔王軍の反撃で我が軍は壊滅だぞ!? 堕天使はめっちゃ怖かったし! 実際に死ぬかと思ったわ!」


 報告者に必死で反論するが。


「我々に言われましても……。ベルゼルグ国に説明しなければ意味が……」

「わかってるよ畜生! でもベルゼルグの俺に対する評価は最悪なんだよ。かって俺がやったことは……、アクセルを水没させ、裁判を暴動でぶち壊し、アルカンレティアでも事件を起こして、仕舞いにゃ女騎士を人質に見舞金をふんだくった。これで説得が出来ると思う奴はバカだ! こんなことになるならもっとまともに生きればよかったよ!」


 困った顔の部下に、諦めの顔をしながら愚痴っていた。

 なんてこった。いままでやってきた悪事が全て自分に帰ってくる。

 そういえば誰かが言ってたな。いつか罰が当たるって。

 今がその時か。ついに幸運の女神に見放されたのか。


「やったことは仕方ない。仕方ないだろ!? 今は悪い事ばかりだ! いい報告はないのかよ! くっそう!」


 うなだれる俺を、部下が残念そうな顔で見ている。

 俺が今まで好き勝手してこれたのは、魔王退治という大義名分があったからだ。

 ノイズの援助が無くなったこの状況では、それはもはや不可能になった。

 

「あの蜘蛛の化け物……アレは一体なんなんですか!? ノイズが……俺たちの祖国が……」

「……母さんは無事だろうか?」

「ノイズには私の恋人が住んでいたのよ! 魔王軍を倒したら結婚しようって! それがどうしてこんな……」

「隊長が、いや誰が止めようと! 俺はノイズに行くぞ! みんなが無事か確かめるんだ」


 俺の部下、ブラックネス・スクワッドには悲壮感が漂っている。 

 無理もないだろう。こんな理不尽な目に合ったのだから。

 俺だって最悪だ。悪魔が夢で言ってた巨大な蜘蛛ってアレの事かよ!

 本当に最悪だ! 

 俺の綿密なプランをことごとく破壊してくれた。


「待て! まずは部隊を編成しなおす! 支援物資をなんとかかき集めるから、それまで少しの間だがこらえてくれ!」

 

 今にも飛び出していきそうな部下達を説得し、何か自分に出来ることはないか考え直す。

 彼らの悲しげで、暗い表情を見ていると冷静になってきた。

 そうだ、ここで部下に当たっても仕方ない。彼らの隊長として、やるべきことをするのだ。

 俺にはこの世界に故郷なんてない。だが彼らにはある。いやあったのだった。

 そんな彼らの故郷が破壊されたのだ。魔王でもなく、予想だにしなかった方向から。

 外道プレイはもう終わりにしよう。もう遅いかもしれないが、心を入れ替えて働こう。

 故郷をなくした、今まで俺なんかのために尽くしてきてくれた部下のために。

 それがノイズの大隊長として任命された俺の責任のはずだ。


 ――そう決心していると。



「何かあったのか?」


 家から出ると紅魔族が全員集合していた。


「マサキ、お前の野望はここで終わりだぜ。いい加減観念しな!」


 眼を赤く光らせて、いっくんを中心にした紅魔族が俺を取り囲む。


「どういうつもりだ?」

「賞金首を捕まえにきた。ただそれだけだよ」


 観念しろ、という風にいっくんは言った。


「マサキ様に手を出すなら、この私が全員つぶしてあげますよ!」

「やってみなさいプロトタイプ! いつまでもあなたが最強だと思ったら大間違いです!」


 睨みあうレイとななっこ。


「下がれレイ。こいつらの話を聞いてみよう」


 まずはいっくんに、何が目的か尋ねるとしよう。


「ノイズがこんな事になったというのに、なんのつもりだ!? 今こそ協力して救助に向かうときだぞ! ノイズが生んだ改造人間であるお前たちにも手伝ってもらう! 下らない事をしてないで準備をしろ!」


 怒って説教をすると。


「何を言っている? ノイズ? 改造人間? そんなの知らないな」

「我々は古より続く、伝統ある魔法使い魔法使いの一族!」

「厄災をもたらす者マサキよ! お前の封印こそが我が一族の宿命! 今日この時こそ、古代からの因果を断ち切る!」

「神話の時代から継承された聖なる魔法。その輝きを見よ」


 なにを言っているんだこいつらは。

 誰が厄災だ。なんだその設定。

 なにが古より続くだ。出来て一年もたってないだろ。

 絶対今考えただろ。

 つっこみたいことはたくさんあるのだが。


「で、なにが目的だ?」

「我が名は紅魔族のリーダー、いっくん! そして我が目の前にいるのは! 危険なテロリスト、サトー・マサキ! お前の身柄を拘束する!」

「……なるほどな。俺の首を差し出し、ベルゼルグに取り入る気か。貴様らほどの魔法使いなら、どこの国でも引く手あまただろうな。だがな! 貴様らを作ったのはノイズだ! 力を与えたのもノイズ! お前ら全員ノイズの所有物だ! 勝手な真似はさせん!」


 紅魔族がどこに所属しているか再確認させるが。


「何言ってんだ! ノイズは滅んだぞ!」

「まだだ。まだ滅んではいないとも。俺がいる。俺がノイズだ」

「お前が? ひゃはははは、笑わせんなよ! 誰もお前なんか認めねえ! もうノイズには縛られない! 紅魔族は自由だ!」


 無視して構わず独立宣言をするいっくん。


「俺は心を入れ替えた。目的も変わった。これからは魔王退治ではなく、ノイズのために尽くすつもりだ。そんな俺に逆らうと言うのか? これは反逆だぞ!」

「バカも休み休み言えよ! お前が今までなにをしたか忘れたのかよサトー隊長さんよ! 心を入れ替えただって!? 口ではなんとでも言えるさ。あんたはやりすぎたんだよ」


 ……言い返せん。

 なんというぐうの音も出ない正論。


「ともかく、俺たちはノイズなんかどうでもいい。紅魔族は紅魔族だけでやっていくさ。話し合って決めたんだ。そのためにまずはベルゼルグとの関係をよくしとかないとな。そのためにはマサキ、あんたは邪魔だ。安心しな、命までは取るつもりはない。向こうの牢屋でせいぜい改心するんだな」


 そうか。

 こいつらは改造で過去の記憶がないのだ。

 ノイズは彼らにとっても故郷だったはずだが、ほぼ覚えていないんだ。

 紅魔族にとって故郷は紅魔の里。ノイズではないのだ。


「いい話を聞いたぞ。そういう事か。もうお前たちにとってノイズは必要ないと? 本当にどうでもいのか?」


 これは失点だぞ紅魔族。目の前にいる赤い眼をした男を、心の中で嘲った。


「くどいなああんた。紅魔族は魔法のエキスパートだ。何だって出来るし作れる。ノイズなんて知るか。ま、俺たちが安定したら、ノイズの残党の世話をしてやってもいい。だがまずは自分達の生活基盤が先だ!」


 その言葉を聞き、にやりと笑う。


「……やはり、準備しておいて正解だったな。本来なら使いたくなかったが、引き金を引いたのは貴様らのほうだ。俺を捕まえるだって? やってみろ。出来るものならな。『対R戦術』発動!」


 俺を取り囲む紅魔族。その紅魔族をさらに取り囲む、ブラックネス・スクワッド。俺が会話しているあいだに密かに潜伏スキルで配置についていた。


「い、いつの間に! 『カースド……』」

「もう遅い! 『マジックキャンセラー』」


 紅魔族が魔法を唱えるが不発に終わった。


『マジックキャンセラー』

『バインド』

『バインド』

『マジックキャンセラー』

『バインド』

『バインド』


 あっという間に紅魔族を組み伏せる黒の部隊。どんなに強かろうと所詮は魔法使い。

 初手の魔法さえ封じることが出来れば、近づいて倒して終わりだ。


「制圧!」

「動くな!」

「よくも! よくも! 自分だけ! 助かろうと!」


 詠唱出来ないように口をふさがれ、激怒した黒の部隊に次々と確保されていく紅魔族。


「紹介が遅れたな。彼らはブラックネス・スクワッド。正式名称は紅魔族補助隊。だが真の目的は貴様らが反抗したとき、制圧するために鍛えた我が精鋭。あの倉庫にある誇り被った蛇の欠陥品ではない。彼らこそ本物の『魔術師殺し』だ」


 ブラックネス・スクワッドの活躍を見て満足して言い放つ。


「自分達の強さを過信したな? この俺がなんの備えもなく紅魔族を放置したと思っていたのか? 想像力が足りんな。知能の高さもそれでは持ち腐れだ」

「この程度で俺たちを止めたつもりかよ! 詠唱無しでもお前らなんて……!」


 辛うじて逃げたいっくんが、そこまで言いかけたところでピタリと言葉を止めた。



 俺の手あるのは禁断の毒ガス兵器。デッドリーポイズンスライムガスの容器。


 ――髑髏の描かれた無機質な容器を見て。


「…………なんて……いや、話の続きと行こうか、……サトー大隊長」


 いっくんは引きつった顔でゴクリと喉をならした。




「全員ガスマスクを装着せよ!」

「ストップ! 降伏! 降伏するから!」


 俺の号令を聞き、慌てて両手をあげるいっくん。


「毒ガス兵器は使用禁止だろ!? なんで持ってるんだよ!」

「禁止はされたさ。しかし生産は続けていた。いざという時の切り札にな。こういうときに使うのさ。なぁBCMW-001よ。フン」

 

 いっくんの背後に回り、槍を突きつけて言った。


「ま、待て! わかった。黒の部隊、ブラックネス・スクワッドよ! 悪いのはマサキだ! お前たちのことも助けてやる!」

「耳を貸すな! こいつは自分達だけ生き延びようとした男だぞ! どうせ用が済めば見捨てるに決まってる! 惑わされるな!」


 この男!

 力で勝てないとわかれば今度は俺の配下、ブラックネス・スクワッドを甘い言葉で懐柔する気か。


「俺たちの目的はマサキだけだ! そいつの首にかかった賞金を元手に、ノイズを復興させよう! 約束するから! 頼むから放してくれよ! 最強の紅魔族と組めばこの世界は手にしたも同然だぞ?」

「お前たちにあるのは魔法使いとしての強さだけだ。金も稼げば手に入るだろうが、すぐに用意は出来ん! 俺にはあるぞ! 金も食料もいざという時のために保存してある。救援を待つノイズには持って来いだ!」


 俺といっくんは互いに、どっちに付くのが得か全員の前で説明しあう。


「さっき言った事は、本当だぞ! ノイズを見捨てたわけじゃない。少し後回しにするつもりだっただけだ。だけどやっぱり、俺達は同じノイズの民だ! ノイズの救援を先にしよう! それにマサキさえ渡せばベルゼルグも満足するだろ? 援助だってくるかもしれない! 障害なのはどう考えても厄災マサキだ!」

「もういい! それ以上喋るなら……この場で始末してくれる! 俺がどういう人間か、よおく知っているだろう? 味わってみるか!?」


 槍で突き刺そうと狙いを付けると。


「よ、よせ! 悪かった! 悪かったって。冗談だよな?」

「俺は下らん冗談は嫌いだ! 特に笑えないのはな! こうなったらモンスターだろうが人間だろうが関係ない! ぶっ殺してやるわああああ!」

「や、やめろお! マジであぶねっ!」


 構わず命乞いをするいっくんに迫る。


「いっくん! 私たちに構わず逃げ――むぐぅ!」

「安心しなさい7番! 1番が死ねば、次は私があなたを始末してあげます。マサキ様にはむかった罪! 断じて見逃すことは出来ないですからねえ!」


 レイは紅い眼を光らせ、ななっこを地面に押さえつけている。


「た、隊長! やりすぎですよ!」

「な、なにも殺すことは……」

「見捨てようとしたのはムカつくけど、そこまでする?」


 紅魔族を捕らえてはいるものの、引き気味のブラックネス・スクワッド。


「こうなったらとことん堕ちてやるよ! さっきまでは真面目にやろうと思ってたのにヤメだヤメ! 人殺しだろうがなんだろうが知るか! 話を聞かない奴は処分してやる! 見せしめだ! 今日からより磨きのかかった正真正銘の悪党になってやるぜええええ!!」


 もはや全てどうでもいい。やけくそ気味に槍を振り回し、いっくんを追い立てていると。



「いい加減にしなさい! マサキ!!」

「ぐふっ」


 緊張した空気が張り詰める中、マリンが俺を殴った。


「ざまあみろ! 今すぐあの卑劣漢にやり返せ!」


 いっくんは倒れた俺に向けて魔法を唱え始め……。


「あなた達もです!」

「はい」


 マリンに睨まれ、しゅんとする紅魔族たちだった。



 ……そして俺は、いや俺達は、散々マリンに正論で説教されることになった。




「みんな落ち着きましたか!? 我らが反目しあってどうするのです! 一致団結し、あの暴れまわる怪物を止めるのです! それが我々ノイズ生き残りの使命じゃないのですか!?」


 俺といっくんの二人はマリンの前で正座している。後ろに同じく正座するそれぞれの仲間たち。


「こいつらが!」

「こいつが悪い!」


 罪を押し付けあっていると。


「まとめて『セイクリッド・ブロー』を食らわせますわよ?」

「「すいませんでした!」」


 マリンのひと睨みに怯え、二人で土下座した。


「マリン、マサキ様のやり方に口を出すのは――」

「お前は空気読め! いいから座ってろ! 座ってください!」


 この反省ムードの空気の中だろうが、お構いなしで立っていたレイを座らせる。


「私なにもしてねえよな? マジで私何もしてねえよな?」

「止めなかったから同罪ですわ!」

「ええー」


 アルタリアは納得いかないと言った顔でマリンにぶーぶー文句をたれていた。



「あの怪物を破壊するのも重要ですが、その前にノイズに向かい、住民の安否を確認するのが先ですわね! すぐに準備しましょう!」


 マリンがこれからの目標を告げる。


「俺が間違ってたよマリンさん! 自分達だけ助かろうなんて最低だよな」

「そうだマリンさん! みんなでノイズを助けに行こう!!」


 紅魔族が答える。


「マリン軍医! アークプリーストのあなたこそノイズには欠かせない人材です!」

「きっとノイズの国民はマリン軍医の助けを待っていますとも! 早く行きましょう!」


 ブラックネス・スクワッドも答える。


「手を合わせよう! 赤と黒の部隊が力を合わせれば、どんな困難も乗り越えれる!」

「勿論です。光栄ですよ。こんな日をずっと夢見ていました」


 いっくんと副隊長が硬い握手をする。

 いい光景だ。

 紅魔族もブラックネス・スクワッドも、この苦難の時に、互いに手を取り合って――



 ん……?

 いや、おいなんだこれ?

 リーダーシップがいつの間にか俺からマリンに移ってるんだけど。っていうかマリンが言った事って、俺が言った事と全く一緒じゃね?

 なんで紅魔族はマリンには素直に従うんだよ。


「おい隊長はこの俺だぞ! お前らいつの間に――」


 つい叫ぶが、みんなの冷たい目で見られてふと気付いてしまった。

 先ほど取り乱して大暴れしたことで、皆からの信頼を失ったことに。


「……でも今はマリンに権限を譲ります。俺は隊長らしく、食料物資でも運んできます。すいませんでした」


 仕方なく頭を下げて影に引っ込むことにした。



「やってらんねーぜ。まぁ今は俺よりマリンの方が適任か。俺がトップじゃ、色々角が立つだろうし……」

「マサキ様からリーダーの座を奪うとは。マリン、やはり我が宿敵!!」

「言うなよレイ。この状況でみんなが必要としているのは外道じゃない。正しい人間なんだ。俺たちの中で一番まともなのは……一応マリンだろ?」

「それは理解してますけど、妥協するのはやっぱり嫌いですよ」


 俺が悪いとわかっているのに苛立ってくれるレイ。でもキレずに愚痴るだけですむなんて丸くなったのかな。

 

「なぁ? やっぱり私悪くないよな?」

「そうかもね。でもその話はあとで。これから隠した物資を取ってくるから、手伝ってくれよ」

「勝ったほうが正しいはずだろ? あの紅いのを倒しちまったんだから、マサキが正しかったんじゃねーか?」

「お前はブレろ! いい加減、力以外の解決方法も学ぼうぜ? アルタリア」


 アルタリアは相変わらずだ。少しも成長してない。いや出会った時からすでに手遅れだったのかも。矯正不可だ。

 俺が言うのもなんだけど。


「滅んだも同然の国の職にこだわった所で何の価値もねえ。あとはマリンに任せるとするか。思えば隊長職も結構大変だったし、やめだやめ!」

 

 戦いは終わったのだ。俺の負けで。

 戦いが無いのなら、鬼畜外道のマサキ隊長はいらない。

 現状ノイズは戦いどころじゃない。

 俺も当分は大人しくして、賞金が取り消されるまで待つか。

 ノイズの後片付けが終わったら、もう野望も何もかも捨てて、どこか遠いところで面白おかしくニート生活も悪くない。


 ――ふとそんな事を思っていると。


「大変だ! あの怪物が! この紅魔の里に向かってるぞ!」


 紅魔の里にて、誰かが叫ぶ。

 千里眼スキルで見ると、その言葉通り、あの蜘蛛の怪物、機動要塞がこの紅魔の里目掛けて突撃してくるのがわかった。

 接近まであと数時間というところだろうか。


「……ではマリン隊長、指示をお願いします!」


 ビシッとマリンに敬礼すると。


「ふざけないで下さいマサキ! 隊長はあなたでしょう! 早く指揮を取ってください!」

「ええー」


 悲しいかな、マリンの天下はすぐ終わった。

 この世界は新たな戦いに飢えていた。

 戦いが始まれば必要になるのは真人間でなく狂人だ。敵に容赦せず、冷酷で合理的で、徹底した行動を起こせる狂人なのだ。

 先ほどあれだけ俺の事を敵視してきた紅魔族も、嫌そうな顔をしながらも期待の目で見てくる。


「しょうがねえなあ! やればいいんだろ!? やれば! 当分戦いはやめようと思った矢先にこれだ! 何もかも俺の思い通りにいかない! だがいいよ! やるよ! はいはい鬼畜外道のマサキ隊長が、いつもみたいに非道な手を使いますよ!? でもなんもねえからな! 策とかなんも用意してないから! 負けても文句言うなよ!」


 俺達の戦いはこれからだ!

 てか終わりたかったのにちくしょー!

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