三部 6話 捕虜の価値

 ――尋問

 それは戦争において必要な仕事であり、必要な悪事でもある。素直に吐かせるためには強硬手段に出る事もある。

 経験値などに惑わされ、敵を全て殺してしまうのは愚か者のすることだ。

 情報収集は戦いの基本。情報を制するものが勝利へと近づくのだ。


「アルタリア、準備は出来てるか?」


 作らせた捕虜収容所には、囚えたモンスターが入っている。


「まかせろ」

「ブッ!」


 SM嬢のようなボンテージ姿で登場するアルタリアに、思わず吹いてしまった。


「おい! なんだその格好は! 別に今まで通りでいい!」

「ええ? 博士が拷問ならこの格好だって教えてくれたし」

「クソ、あのハゲ!」

 

 だめだ。エロ博士がこれ以上アルタリアに変な事を吹き込む前に引き離さないと。むちむちのおっぱいをたゆんたゆんさせて入ってくるこの女を見て思った。


「ああ! 昔を思い出すぜ! 私が騎士学校に行ってたとき、拷問に耐える授業があってだな……。まぁ私はすぐギブアップしたんだけど……」


 胸元やお腹が大きく開いた黒いラバー素材のコスチュームに身を包むオレンジ髪の美女。


「代わりに拷問を加える係になったとき、あれは最高だったぜ。クラスメイトの悲鳴が……私を興奮させて、はぁはぁ……」


 昔を思い出したのか、うっとりとした顔で続ける。


「私の攻めに耐えられたのは……ダグネスだけだったなあ。じゅるり」


 加虐的にニヤニヤと笑い、涎をたらしながら悪人そのものの表情で言った。

 見た目はともかく、彼女には期待できそうだ。


「マリンも準備はいいな」

「なんだか……マサキと過ごしていると色々と良識が試されます。これは人としてやっていい行為なのか? これは冒険者の行動なのか?」


 マリンにも用意を聞くと、嫌そうに口答えするが。


「いいに決まってるだろ! 戦争に正義もクソもあるか! 情報なしで魔王城に突撃とかしたら命がいくらあっても足りんわ! 敵戦力の把握は戦争の基本だろ!?」

「はいはいわかりましたよ。やればいいんですよね! やれば!」


 俺の言葉に、観念した表情で同意するマリン。


「ま、待てよ人間! 俺は男だぞ? 男なんていびって楽しいか? ホモなのか?」

「男女など関係ない。重要なのは君達の持つ情報だ。知っていることは全て話してもらおう!」


 檻の中で叫ぶ捕虜達に言い返す。


「こんなの人間のやることじゃねえ! やるとしても悪の帝国とかだろ? お前はそれでいいのか? これが勇者がやることか?」

「どうでもいい。敵を倒せれば手段など選ぶ関係ない。それにだな、お前たちは人間を捕まえたりしないのか?」

「え? そ、そりゃ捕まえた女騎士やらを、触手やスライムでいたぶったりはするけどよ……。魔族としてはそれぐらい普通のたしなみだろ?」

「そうだな。お前たちは人を捕まえて弄る。なら逆に捕まって弄られても文句は言えまい。平等だろ?」


 俺の言葉に怯むモンスターたち。


「尋問を始める前に言っておこう。俺はこう見えて心優しく、約束をきちんと守るタイプだ。もし情報を大人しく吐くなら、殺さないでやる」


 捕虜となったモンスターへ、改めてこれから行う尋問について説明を始めた。


「捕虜の施設をA~Dに分けることにした。より貴重な情報を教えてくれたものはAに案内する。Aは個室だ。三食食事も出るしトイレもある。Bは三人部屋だ。一日二食!」


 ただ痛めつけるだけでは意味が無い。きちんと褒美も用意しておかねば。


「Cはまとめてぶち込んでやる。食事は出す。仲良く分けるか……奪い取るか好きにしろ。Dは……いつ殺されても文句は言えない。アルタリアの気まぐれだな」

「ふっふっふ、じっくりいたぶってやる! 満足いくまで嬲ってやるから、簡単に情報を吐くんじゃねえぞ?」


 横を見ると、アルタリアが嬉しそうに剣を研いでいた。


「そしてEは……その辺で捕まえたファイヤードレイクが入っている。頑張って生き延びたまえ」


 火を吐くモンスターの入った牢獄を説明した。餌はやってない。


「じゃあまずは誰から行こうか……? ほう、可愛い奴もいるじゃないか」


 捕らえたモンスターを品定めしていると、女の小悪魔を発見して尋ねる。


「ふっふっふ、どうしたのお兄さん。もし私を見逃してくれたら、色んなことをしてあげるわ」


 挑発的な流し目で語りかけるロリに。


「いや、いいよ。欲しいのは情報だけだから。とっとと教えてくれ。そうしたら個室にしてやる」


 そっけなく返事をする。


「個室? ね、ねえもしだけど、もし私が黙ってたら、牢屋は男女で分けるよね?」

「俺は男女平等をモットーにしてる。もちろん一緒の部屋だが?」


 首を振って答えると、青ざめる小悪魔。


「あんな下等なやつらと一緒の牢に入れる気? ふざけるな! 私は将来を約束されたエリート悪魔だぞ!」


 年齢不詳の幼女は必死に俺に迫るが。


「なんだと! 調子にのんなよ」

「犯して回してやる!」

「あの女はちょいとばかし強くてもよ! 数は男の方が多い! やってやる!」

「ヒッ!」


 他のモンスターたちの怒号に、身の危険を感じた小悪魔は即刻魔王城の情報を全て喋った。


「テメー! よくも吐きやがったな!」

「この裏切り者!」

「ベー」

 

 舌を出して鬼達を挑発する小悪魔。


「彼女はAの部屋に案内しろ」


 最初のAルーム行きが決定した。

 彼女を筆頭に、身の危険を感じた女の捕虜は次々と情報を吐いていった。

 あとはメスは……言っちゃあなんだけどブサイクしか残ってないな。


「女性陣だけでも結構情報が入ったが、まだまだ足りないな。本格的に拷問を始めるか。やれ」

「どうりゃああ!!」


 アルタリアがさっそく鬼の頭に鉄槌を振り下ろす。


「ぐふっ!」


 モンスターは息絶えた。


「アルタリア! 誰が殺せって言った! ちゃんと半殺しにしろって言っただろ!」

「す、すまんつい力が入っちまって。楽しすぎてちょっと興奮しすぎたぜ」


 死骸の横で謝るアルタリア。


「ヒエッ」


 死んだ仲間を見てガタガタ震えだす捕虜達。


「剣はアレだな。手加減できそうにないな。これにしろ」


 アルタリアの剣を取り上げ、代わりに鞭を渡した。


「似合ってるぞ」

「そうか? ありがとよ」


 ボンテージ姿にガーターベルト、そして出るとこは出て引き締まった魅惑のボディ、そんな彼女が鞭を持つのは非常に似合っていた。この収容所の暗い地下室にも相応しい。

 うん、どう見てもいかがわしいお店だな。似合いすぎて困る。


「死なない程度に、慎重にやるんだぞ? 殺したら意味ないからな?」

「わかってる! わかったからみてろ! こうか! こうだな!」

「グホ! ガバッ!」


 吊るしたモンスターに鞭を振るうアルタリア。


「いいか貴様ら! ご覧の通り彼女は手加減が苦手だ! ちょっと間違えたら死ぬかもしれん! その前に情報を吐けよ!」

「くっ!」


 見た目はともかく順調に捕虜を締め上げていく彼女。


「これはこうやって使うんだな! なるほど!」


 アルタリアは慣れないハイヒールに最初は苦戦していたものの、ヒール部分で見事捕虜達を踏み潰しながらバランスを取っている。

 間違っているが、ある意味間違ってないな。


「さあ魔王軍について……知ってることを全て話して貰おうか」


 拷問を続ける俺とアルタリア。 


「オラア! 泣けえ!」

「このまま無残に死にたいか?」

「はぁ……、はぁ……、ハァハァ。なんか興奮する。これいい! 楽しい!」

「素直になれば、扱いを優遇してやろう。生きて帰りたくないのか?」 

「オラもっと! もっといくぜ! もっと泣き叫べ! 私を興奮させろ! このクズ! ブタ! 根性を見せろよ!」


 アルタリアが鞭を振るうたびに、そのでかいおっぱいがゆれて……、プルプル震えて、セクシーな服から色々ポロリしそうで。見事な曲線のラインが魅惑的で……全くもって。

 気が散る!


「やめろ!!」


 アルタリアの拷問を中止させる。


「やっぱ着替えて来いよアルタリア。なんかその見た目、目に毒なんだけど……。いや悪くはないよ、悪くは。むしろ似合いすぎてダメだ! ちょっと気が散るって言うか……」

「ええー? いいじゃん。この服のままで。なんか目覚めそうなのに!」

「そうだぞ! このままの衣装でお願いします! 私はブタです! お願いします! 俺の番はまだですか?」


 アルタリアどころか捕らえたモンスターまで非難ごうごうだ。


「あ、あの? 拷問ならあんたより、あっちの姉ちゃんに変わってくれませんかね?」

「あんな美女に責められるんなら……ついつい情報を吐いてしまいそうだ。チラッ」

「長年モンスターとして生きてきて、最後は美女の手にかかって死にたい! それこそ俺の夢なんだ」


 モンスターの中にも変なのが沸いてきた。


「わかった。わかったよ。そのまま続けろ!」

 

 変態共め。なぜかアルタリアに魔物たちの行列が出来始めた。まぁこれはこれでいいかも知れない。魅惑されてつい情報を漏らしてくれるかも。

 一方、魔王への忠誠を忘れていないものも多い。


「こ、殺せ!」

「どうしても死にたいなら、全ての情報を吐いてからだ」

 

 大柄なオーガーの男は、この俺が直々に手を下す事にする。拷問台に乗せ、槍で体中を突き刺し続ける。


「話せ! 話して楽になろうか!? 見たところそれなりの地位にいるんだろ? お前の情報が欲しいんだ!」

「……ぐ! 人間風情が。貴様なんかに。あがっ!」


 いくら槍を突き刺しても答えないオーガー。限界になり意識を失ったが。


「チッ。しぶとい奴め。マリン、回復させてやれ。勝手に死ぬ事も許さん」

「ひどいですわね、マサキは。『ヒール』」


 体力の限界だったオーガーを回復させるマリン。まだまだ悪夢はこれからだ。死よりも恐ろしいものを教えてやる。


「休憩ターイム!」


 手をパンパンと叩き、捕虜への拷問を一時休止させた。


「はぁはぁはぁはぁ。なんだよマサキ、これからが盛り上がるところなのに」


 呼吸を荒くする変態に告げる。


「まぁ待てアルタリア。魔王軍の諸君に、特別なゲストを紹介しよう。連れて来い」

「んぐーーー! むぐぐ!」


 黒い兵が、後ろ手に手錠をはめられ、猿轡をしたひゅーこを連れてくる。


「フッフッフ。彼女は元魔王軍の魔族だ。だが我らによって人間へと改造されたのだ。お前たちも今まで見下していた人間にされるのは怖かろう? さあ怯えるがいい!」


「……」


「どうした? 恐怖で言葉も出まい」


 無言の魔王軍は、少し首をかしげながら、ボソッと言った。


「そいつ、だれ?」

「最初から人間だったんじゃないのか?」


 予想外の反応に、あわてて猿轡を外してひゅーこに聞きなおす。 


「おい、お前って魔王軍なんだよな? なんだよこいつらの反応は? 俺が滑ったみたいじゃん。なあ?」

「そうにきまってるでしょ! なにをふざけたことを! ねぇみんな!」


 ひゅーこがモンスターたちに問いかけるが。


「誰だあいつ?」

「お前知ってる……?」

「さぁ?」


 捕虜からは恐怖どころか疑問しかない。みんな?の顔をしてひゅーこのほうを見ている。


「ちょっとみんな! 私よ! 赤いドラゴンに乗って! 空から人間を震え上がらせた! この幹部候補の!」

「赤いドラゴンの事は知ってる」

「あれ? あのレッドドラゴンって、人乗ってたの?」


 魔王軍のモンスターからはそんな困惑の表情を浮かべて、ひゅーこを見つめている。


「なぁ、お前本当に魔王軍だったのか? 実はお前が勝手にそう思ってただけとか」

「そ、そんなわけないもん! そ、そうよ! 私は魔王軍のエリートだから……一般兵には知られてないだけだもん。……そうだもん」


 半泣きになりながらしょぼくれるするひゅーこに。


「もう行っていいよ。紅魔の里へ帰っていいから」


 手錠を解除したあと、部屋から出してやった。 


「コホン、時間を無駄にしたな。では拷問の続きだ」


 期待はずれだった元魔族にがっかりして言うと。


「もう見てられません!」


 拷問を再開しようとするのをマリンにとめられる。


「いくらモンスターといえ可愛そうです! マサキの所業は鬼畜外道のゲス野郎です! これ以上はこの私が許しません!」


 モンスターの前に立ち塞がるマリン。


「邪魔をする気か、マリン」

「当然です! 偉大なるアクア様はアクシズ教を創立するとき、こうおっしゃいました! 同性愛者であったりニートであったり人外獣耳少女愛好家であったりロリコンであったとしても、そこに愛があり犯罪でない限りすべてが赦されると! 勿論モンスターでも、改心の余地があるはずです!」


 そして菩薩のような笑顔で、にこやかに捕虜に語りかける。


「あ! 悪魔とアンデッドは別よ」


 ふと思い出し、マリンは冷たい目でその中の悪魔を睨みつけた。


「上手くいかなくてもそれはあなたのせいじゃない。上手くいかないのは世間が悪い! そして魔王しばくべし! つまりモンスターのみなさん、あなた達がこんな理不尽な目に合うのは! 全て魔王のせいなのです!」

「「「な、なんだってー!!」」」


 マリンが適当な理論を言って、驚くモンスターたち。


「そう、あなた達もアクシズ教徒になりましょう! もしアクシズ教徒になるなら、この私がアクア様に誓って! 身の安全を保障します!」


 唐突に勧誘を始めるマリン。


「アクシズ教徒だってよ?」

「ええ、あの? やっべえ、アクシズ教徒と口聞いちまったよ」

「あの青い髪……気持ち悪い」


 アクシズ教徒と聞き気味悪がるモンスターたち。


「は?」


 その言葉を聞き、青い目を危険に光らせ、今まで見たこともない殺意を向けて睨みつけるマリンに。


「「「「すいませんでした!!」」」


 モンスターたちは怯んで土下座をした。


「私やマサキの事はともかく、アクア様の作ったアクシズ教徒のことを悪く言うのは許しません! では気を取り直して……。アクシズ教は素晴らしい教えです。自分を抑えて真面目に生きても頑張らないまま生きても明日は何が起こるか分らない。なら、分らない明日の事より、確かな今を楽に行きなさい。そう自分に素直になるのです。自由こそアクシズ教の教えの根本にあります」


 なんかモンスターの前で語り始めたぞ。


「汝、何かの事で悩むなら、今を楽しくいきなさい。楽な方へと流されなさい。自分を抑えず、本能のおもむくままに進みなさい」

「な、なあどうする?」

「なんか聞いてると楽しそうだな。アクシズ教徒になったらこんな拷問室からもおさらばなんだろ?」

「このままだとどうせ殺されちまうし……」


 マリンの演説を聞き、少しずつ元気を取り戻すモンスターたち。


「汝、我慢することなかれ!」

「「汝、我慢することなかれ!!」」

「犯罪でなければ何をやったって良い!」

「「「犯罪でなければ何をやったって良い!!」」」


 段々と狂った教えに染められていくモンスターたち。 

 ……うーん。

 肉体的にも精神的にも弱ったところを宗教勧誘とか、マリン、お前が一番やばくないか?


「復唱! 魔王しばくべし!」

「「「「魔王しばくべし!!!」」」」」


 大声で拳を振り上げるマリンに続く元魔王軍たち。


「というわけでマサキ、彼らへの虐待は許しませんからね!」

「あ、ああ。好きにしろ」


 結果、アクシズ教徒に改宗したモンスターたちは、持ちうる全部の情報を喋ってくれた。


「じゃあ全員Aクラスのお部屋にご案内。って部屋数が足りないな。じゃんけんで負けた奴はBな。にしてもここまで喋ってくれるとは思っていなかったぞ。マリンも中々やるな」


 マリン、こいつは本当は俺が思ってた以上に危険な奴かも。俺のパーティーでは常識人かと思っていたが、敵兵を改宗させるとは。これって洗脳じゃね?


「あ、あの! 俺達はDクラスの部屋でいいです!」

「アルタリア様の部屋で、物として扱ってくれれば!」


 一方でアルタリアのファンたちは告げる。なんだか真面目にやるのが馬鹿らしくなってきた。

 とりあえず魔族の女たちに、アルタリアのファンに、アクシズ教徒に改心した奴、それを除いてもまだまだ捕虜は残っている。

 未だ反抗的な者達への拷問は続いたが、俺も早く寝たいため、夜中は早めに切り上げた。

 ただ代わりに、紅魔族たちが貴重な魔導ビデオを使って製作した自己PRビデオ、延々と紅魔族が自分の名乗りを上げる練習をし、魔法で目に付くものを破壊していくていくだけという、素人の作った痛い映像を流しっぱなしにしている。

 紅魔族のビデオはもはや立派な拷問器具の一つだった。

 俺もこれを見るとなんか中二時代を思い出したりと色々と心が痛くなったり、ちょっと恥ずかしくなる。そんなものを永久ループで見せられるときつい。


「頭がおかしくなる……」

「魔王軍に帰りたい……」


 マリンに歌わせるのも考えたが、アレは破壊力が高すぎて調整できないので断念した。

 肉体的にも精神的にもボロボロになった魔王のしもべたちは、死んだ目をしながら諦めのムードで呟いている。

 こうして魔王城の見取り図や、どんな敵がいるのか、ボスがどこにいるのか、罠の場所などがほぼ明るみになった。この先模様替えがあるかもしれないが、とりあえず現時点での魔王城のマッピングは完成した。


「さあもう用はねえだろ? ぶっ殺そうぜ?」

「相変わらずバカだなアルタリア。いいか、殺せばそれで終わりだ。死体に金を払う奴はいない! だがこいつらを材料にすれば、魔王軍に条件を出せる!」


 鞭を捨てて、剣を舐めずりするアリタリアに告げる。


「馬鹿な人間め! 魔王軍は捕虜は見捨てる! 弱肉強食がモットーだ! そんなものが魔王様に通用するか」

「そうか? やってみなければわからないだろう? 何事も最初の一歩が肝心だ」


 言い返す捕虜に嘲笑気味に言い放つ。 


「おいお前、お前は魔王軍へのメッセンジャーになってもらう。この水晶を持って魔王に渡せ。貴様の肩に、残った捕虜達の命がかかってると思え!」


 足の速そうなトカゲの捕虜を開放し、アイテムを渡して魔王城へと帰らせた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




『私は魔王代理の者だ。人間風情がなんの用だ!』


 白い仮面を付けた魔法使いが水晶玉に表示される。


「単純な話だ。こちらは魔王軍を大量に捕まえた。そちらにも捕らえた人間がいるだろう? 交換と行こうじゃないか? 平和的にな」 

『愚か者が。我らがそんな脅しに乗ると? 魔王軍を舐めるのも大概にしろ?』


「奴らは魔王のため、命がけで戦った。俺が大事な仲間の命が惜しくないのか? 救える命を見捨てる気か? 部下への情けはないのか?」

『……いったはずだ。魔王軍は敗者は必要ない』


「そうか。魔王のために戦った大勢の兵が、ただ殺されていくのを無視するのか! 冷酷な魔王らしいな。まぁいい。我らノイズに歯向かったものがどうなるか! そこでゆっくりと見ているがいい!!」

「ギャアアア!!」


 そう言って槍を捕虜に突き刺すと絶叫した。治ってない傷口目掛けて刃物を突き刺し、中を穿るようにねじ回していく。


「まだまだこれからだ。れいれい! アレを用意しろ!」

「はいマサキ様」


 合図と共に、れいれいが蓄電器を運んできた。この蓄電器自体はノイズではそれほど珍しいものではないが、拷問用に特別に改造してある。ケーブルの先を槍に装着する事で、電気槍の完成だ。

 スイッチオン。


「お次はこれと行くか」

「あばばばばばばばばばばば!!」


 電気ショックを受けてモンスターが悲鳴を上げる。


「魔王が部下を簡単に切り捨てることを! 世界中に広めてやる! 魔王に従うのがいかに無意味か! モンスター共に教えてやる! 無様に無く殺されていくモンスターの屍を魔王城のふもとにでも並べてやろう! 見せしめだ!」

「がばばばばばばば!」


 俺は次々とモンスターを感電させていく。

 魔王軍にも情けはあるはずだ。その優しい心に呼びかけるのだ。


「この男は拷問にも屈せず、秘密を守りぬいた優秀な戦士だ。その忠誠心は見上げたもの! だが行く末はこれだ!」

「俺の事は気にしなくていい!! 魔王様にお伝えください! あなたの部下で光栄でし、ぎゃあああああああああ!!」


 魔族の男に突き刺し、電圧を最大限まで上げる。


「……」


 高圧電流を流されつづけ、その大柄なオーガーの男は事切れた。


『くうっ!!』

『なんて奴だ! なんて奴だ!』

『おのれ……なんて邪道な!』


 俺の処刑を見ていた、水晶の向こうからどよめきの声が聞こえる。


「次は誰といこうか? 次に死ぬのは誰がいい?」


 物言わぬ黒コゲになった魔族を拘束台から外し、電気槍をくるっと回して次の犠牲者を選んで引きずり出す。


「アルタリア、今度はお前がやっていいぞ」

「ひゃはははアハハ! ぶった切る!」


 血しぶきが水晶玉に浴びせられる。


『ヒイッ』

『こんなのあんまりだ!』


 向こうも血なまぐさい映像に困惑しているようだ。


『わかった! わかった! 交渉に応じよう!』


 根負けした魔王の代理が叫んだ。


「それはいい判断だ。俺の気が代わらないうちに早くするんだな! さもなければここにいる全員を黒コゲの死体にして送り返してやる! わかったか!?」

「ぐぼぼぼぼぼぼぼぼ!!」


 捕虜に電流を流しながら魔王代理に言い放った。


「あ、あの……どっちが魔王軍なのかわからなくなってきたんですが」


 俺の姿を見て、マリンはボソっと呟いた。

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