三部 4話 秘密基地を守りぬけ!

 ここはノイズ前線基地。博士の秘密施設を中心に出来た拠点だ。通称:紅魔の里。

 現在、魔王軍の攻撃にさらされている。

 

「きりがないぞ! 『ライトニング・ストライク』!」

『インフェルノ』


 前の決戦で大敗した魔王軍は、紅魔族と正面からぶつかり合うのをやめ、ゲリラ的戦術を試みている。

 単体では紅魔族に敵わないが、日夜問わずの攻撃で流石の紅魔族も苦戦している。それも仕方ない。なにしろ紅魔族は9人、れいれいを含めても10人しかいないのだから。ひゅーこは戦えないし、追加の紅魔族がリリースされるのはもう少し先だと博士も言ってたし……。

 いくら一人一人がチートクラスでも、数で圧倒される。向こうは消耗戦に持ち込む気だ。

 立地もまずいな。紅魔の里は秘密施設を中心に作られている。博士はこの施設が見つかりにくいように、森の中に作った。それが災いし、木に阻まれているためどこから敵が飛び出してくるかわからない。

 

「もう我慢できません! 毎日毎日うざったいやつらですね! こうなったら一網打尽にしてあげます!」


 限界、と言った風に7番ことななっこが大きく杖を掲げ――


「ななっこ! ストップ! まだ森には仲間がいるんだぞ!?」

「私ここにいるんだけど! ねえ!」


 そんな抗議の言葉を無視し、魔力を込めて――


『ばっくはっつ! 魔法!!』

『リフレクト!』

『テレポート!』


 ドゴオン、と言う大きな音がし、森が炎に包まれる。


「ななっこ! 殺す気か! ふざけんなよ!」

「危なかった! 死ぬかと思った!」

 

 森に潜んでいた紅魔族たちは爆発魔法から何とか身を防げたようだ。


「私の爆発魔法の前には……敵は全て灰燼に……!」

「俺たちまで殺す気か? 心臓が止まるかと思ったぞ!」

「ぶっころすわよ!」

「優秀な仲間の事です。あれくらい対処できると思ってました! 信じてましたよ」


 ななっこに抗議する他の紅魔族たちだが、当のななっこは悪びれもなく言った。


「この爆発バカ! 仲間だったらなんでも許されると思うなよ!」

「そんなことよりモンスターが出てきましたよ! これも全て作戦通りです!」


 爆発魔法により森の一部がなくなったため、少しは見通しがよくなった。身を隠す場所がなくなり、あわてて出てきたモンスターに魔法を浴びせる紅魔族たち。

 その時、一人の少女が――

 

「みんなー! 私よ!」


 モンスターたちの群れに特攻するのはひゅーこだった。チッあいつらめ! 縛っとけと言ったのに!


「ねぇみんな! 私よ! ヒューレイアス・サルバトロニアよ! 今はこんな姿になってるけど! 魔王軍の幹部候補だった私よ! 私を魔王城に連れ帰って!」


 ひゅーこはモンスターに両手をあげて叫ぶが。


「誰だよテメー」

「なんだこいつ? 何言ってやがる。どう見ても人間じゃねえか!」

「しかもあいつらと同じ目をしてやがる! 仲間をたくさん殺しやがって! やっちまおうぜ!」


 ひゅーこの言葉を無視し、襲い掛かろうとするモンスターたち。


「ね、ねえちょっと! 私は人間にされたけど……まだ魔王軍に所属してるつもりなの……だから、お願い、話を――」

「死ね!」

『ファイヤーボール』


 そのモンスターを焼き払うななっこ。


「大丈夫ですかひゅーこ。私が来たからもう安心です!」

「た、助けてくれてありがと」


 ひゅーこはななっこにお礼を言うが。


「当然です。お礼はいりません。だってひゅーこは大切な紅魔族の一員ですからね!」

「う、うん。ありがと。ってなに言ってんの? ちょっとおかしくない? 私は魔王軍だったのよ? なんで私はモンスターに襲われてるの? なんで!? どうしてこんなことになってるの? ねぇおかしくない?」

「ひゅーこは改心して紅魔族になったんだから、襲われて当然です!」

「改心なんてしてないんだけど? 無理やりだったんだけど? ねぇ、あなたたちが私にやってたことって普通魔王軍のやり方じゃない? こんなの人間のやることじゃないって! ねぇ聞いてよ! 聞いてよおお!!」


 必死でななっこの肩を揺らすひゅーこだが、ななっこはどこ吹く風だ。


「それより私の爆発魔法、かっこよくないですか?」

「そんな話はどうでもいいのよ! 会話の流れがおかしくない? ちょっとおおおおお」

「どうでもいいとは言ってくれますね! この私は最強の爆発魔法使いになるために日々精進しているんですよ? 一に爆発、二に爆発! そうだ! もし私が爆発魔法で魔王を倒した際には、次の魔王になってひゅーこをまた魔王軍の部下に戻してあげます! これで解決ですね!」

「全然解決してないんだけど! なんであなたの部下にならないといけないの? っていうかなにさらっと次の魔王になろうとしてるの? それは人としていけないでしょ? 私が言うのもなんだけど!」


 二人がいちゃついているのはほおって置こう。


「それにしても、なんでこんな所を攻めてくるんだ? ここにあるのは博士の玩具箱だけだぞ。魔王城に近いっていっても大した設備ないし」


 激しい戦いを見て、アホらしくなって呟いていると、敵感知に反応が。


「れいれい。殺すなよ」

「わかりました。『ライトオブセーバー』(弱)」


 背後から飛び出してきたトカゲっぽいモンスターを、れいれいが切り裂く。


「グウッ!」


 死なない程度にいたぶって、倒れるモンスターの首を掴んで質問する。


「おい、なぜここを攻める? 来るならノイズに直接来いよ。ここにはおっかない紅魔族しかいないぞ?」

「はぁ、なぜだって? すっとぼけるのも大概にしな! ここには世界をも滅ぼせる兵器が眠っているんだろ? そんなものが使われちゃあ魔王にとって大打撃だ! 先にぶっ壊してやる!!」


 いや、ここにあるのはゲーム機とおもちゃなんですけど。

 ノイズのお偉いさんには兵器だとそう誤魔化したんだが、いつの間にかそれが魔王軍にまで流れたらしい。

 どっから漏れたんだ。まぁどこから漏れてもおかしくないが。兵器の護衛のために紅魔族をわざわざ駐屯させてるし……。王により、紅魔族にはなんとしてもこの地を守るように命令が下されている。

 ……紅魔族だな。多分ベラベラ喋ったな。


「マリン、こいつにヒールをかけて回復させてやれ」

「いいんですか? そんなことして?」

「いいからやれ」

 

 首を傾げるマリンに言う。そして怪我が治って動けるようになったモンスターに。


「おいお前。いいことを教えてやろう。あそこに眠っているのはな、うちの博士が暇つぶしに作った玩具だ。秘密兵器なんてあるわけないだろ」

「お、玩具だと?」

「そう、ただの玩具。欲しけりゃ今度あげるよ。だからもう来るなって仲間に伝えとけよ。命がけで玩具を取りに来るとかアホらしいだろ? 見逃してやるから、じゃあな!」


 モンスターに秘密をバラして解放した。



 ……。

 …………。

 それから数日たっても、魔王軍の攻撃は激しくなる一方だ。

 俺があえて逃がしてやっても、逆に本当は秘密兵器があるから誤魔化していると深読みしているみたいだ。

 ノイズのお偉いさんにも「なるほどな!」って褒められるし! いや正直に言っただけですよ?

 秘密兵器なんてそんなものないのに! あるのはゲーム機と玩具だけだぞ!


「これが本当のゲーム戦争か……?」


 激しくなる攻防戦を見て、馬鹿馬鹿しくなって呟いた。


「私は! 私は魔王軍の幹部候補! 助けて! ってなんで攻撃するの? やめてえええええ!!」

「死ね! 赤い眼の奴!」

「よくも仲間を! 殺してやる!」


 ひゅーこが魔王軍から問答無用で攻撃され、それを紅魔族が助けるのも日常茶飯事になった。


「ぐすん。なんでこんなことになったの。魔王軍に帰りたい……うわあああああん」


 誰からも魔王軍だと信じてもらえないひゅーこを紅魔族たちが慰めている。


「ひゅ-こには私達が付いているじゃないですか」

「そうだひゅーこ! お前も紅魔族の大切な仲間だ!」

「だからひゅーこって言うなあああ!! そうしてこんなことになっちゃったのよ! これも全部お前たちと! あのマサキとか言う人間のせい! ううっ……」


 ……ひゅーこはずっと泣いていた。

 魔王軍の猛攻! それに立ち向かう9人の紅魔族たち!

 こう見るとカッコいいんだけど、守ってるのが玩具部屋ってのがなあ……。


「はぁ、はぁ、今日も守りきったぞ!」

「ノイズに栄光あれ! 紅魔族万歳!」


 紅魔族は少し仮眠を取った後、すぐに突撃を繰り返し魔王軍を蹴散らしてはいるのだが……このまま戦いが続けばあいつらも限界が来るだろう。いくら強いと言っても9人ではなあ。

 こんな無駄な戦いで戦力を消費したくはないんだが。

 紅魔の里の様子を見た後、博士の研究所へと向かう。


「おいこら! もうバラしちまえよ! あの地下室には玩具しかないと! 兵器と言えるのは『魔術師殺し』だけだぞ? しかもアレもまともに動かないし! 正直ゴミだぞ!」


 博士に現在の紅魔の里の危機的状況を説明しすると。


「だめだよ! 何言ってるんだ佐藤君! もし俺が国家予算使ってゲーム作ってるのばれたら処刑されるわ! なんとしても誤魔化さないと!」

「あんなもん守るために命がけの戦いとか馬鹿馬鹿しいんだよ! 紅魔族は独立させたとはいえ形式的には俺の指揮下なんだぞ? 壊滅したら今度は俺の立場がやばくなるわ! なんとかしろ!」


 こっちも怒って言い返すが。


「うん、あそこには秘密兵器がある! 世界を滅ぼしかねない! そうだ! ないなら今から作ればいい! 決めた!」


 博士は勝手にそんな事を決意した。


「そういえば最近紅魔族の皆がさ、『魔術師殺し』に対抗できる兵器を作れってうるさいんだが? アレ別にあいつら対策に作ったわけじゃないんだけど。聞いてくれないし、反抗期かよ。そもそもなんであの存在を紅魔族が知ってるんだ?」

「あのゴミに何が出来るって言うんだ。すぐに動かなくなるポンコツじゃねーか。それが?」

「そうだよ、あの『魔術師殺し』に対抗できる兵器を作れってうるさいんだけど! くっそうめんどくさ!」


 うーむ。そういえば……あいつらが余りに言うことを聞かないんで、お前たち如き『魔術師殺し』があるから一たまりもない、アレはお前ら対策に作ったものだ! とかいって脅してたっけ?

と、いうことは紅魔族に魔術師殺しの情報を教えたのは…………。


 !! あっ俺じゃん。

 原因俺じゃん。すまんな博士。このことは黙っておこう。

 俺にとって都合の悪いことは置いておこう。


「このまま魔王軍の攻撃が続くようなら、紅魔の里が落ちるのも時間の問題だぞ? 9人と俺たちだけじゃ流石に無理だわ」

「よおし、いい機会だ! こうなったら作ってやるよ! 正真正銘の新兵器をね! 『魔術師殺し』をも破壊し……、本当に世界を滅ぼしかねないのを作ってやるから、国や紅魔族の奴らにみせてやるわ! 見てろよチクショウ!」


 博士が新兵器を作るとか言ってるけど、正直あまり期待はしてない。『魔術師殺し』みたいな欠陥品だったら終わりだし。不確定な要素は期待しない。

 うーん。現在ある戦力だけでここ最近仕掛けてくる魔王軍を対処するには……。

 そろそろ俺の黒の部隊を動かすときか……。

 訓練は終えているし、経験値も稼がせている。レベルも十分だが、あの数が相手だと正面からは辛いな。


「いや、戦術で数の差をひっくり返せば……だがそのために必要なのはなんだ……?」


 ……しばらく考え込んだ後。


「戦場構築。それしかないな。バラモンドの時のように地形をこちらの優位のように作り変えればいい」


 まずは下準備だ。シャベルと有刺鉄線を用意させよう。この紅魔の里を、本格的な軍事拠点へと作り変える時が来たか。紅魔族が揃うまで待とうと思っていたが、もはやそんな悠長なことは言ってられないな。


「今こそ俺の黒の部隊の出撃のとき! 俺の前には魔王だろうが紅魔族だろうが蹴散らしてやる。真の恐怖と絶望とは何か、魔王軍に刻み付けてやろうじゃないか」


 邪悪な作戦を思いつき、ほくそ笑んだ。

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