一部 36話 反逆罪
「……」
「……」
ここはアクセルの警察署。もちろん例外なく水害でボロボロなのだが。
その取調室のテーブルにて、俺と調査員のサナーが無言で向かい合っている。
あの後俺は逃げた。騎士から全力で逃げた。そして潜伏スキルで街の中に潜み、騒動が収まるのを待っていたのだが、サナーは俺の事を本気で探し回った。
最後には賞金までかけられ、街の人間までガチで俺の事を探しだしたため、捕まる前に仕方なく出頭することにした。
そして小さな小部屋で、まるで犯罪者を取り調べするかのような目で、こっちをにらんでいる。
どうしたもんかね。この状況。
「ではサトー・マサキさん。あなたの事は街の人間からよく聞かせてもらいました。バラモンドとの戦いで指揮をとっていたのは、コーディさんではなく、あなたですね? それは間違いないと」
「そーです」
仕方なく答えた。
「どうして嘘をついたのですか?」
「勝利が出来たのは俺だけの力じゃありません。この戦いはみんなの手柄という風にしたかったからです」
目を反らしながら言った。
「……」
「……」
無言のサナーさん。アンド俺。
少の間静寂に包まれた後、彼女はまた口を開いた。
「あなたが逃げている間、他の冒険者から詳しい話を聞くことが出来た。バラモンドがアンナ家の居城を落とし、そこを拠点としたと。そこであなた達は少数で城を奇襲。その夜バラモンド軍の襲撃は、落とし穴や油を投げつけて撃退した」
「はい、そーです」
彼女の言葉にうんうんと頷いた。
「次の日は野戦を挑み、ゴーレムを使って奇襲に成功。なるほど考えたものだ。アンデッドは生命力を目印にして襲ってくるが、ゴーレムには無防備。さらにその次の日には、爆弾岩を道路に設置して進軍を阻止、よくもまぁこんな手を次々と思いついたものですね!」
目の前の彼女の口調から感じ取れるのは、英雄への感謝の念や、勝利者への尊敬と言ったものではなかった。喩えるなら、重罪を犯した極悪人を見るかのような、軽蔑や恐怖を含んだ眼差し。
「ここまでの働きは、方法は人としてどうかと思うが……、圧倒的な兵力差であってバラモンドの軍勢を跳ね除けたのは賞賛に値するでしょう」
「ま、まぁこっちも必死だったからね……」
頭をポリポリとかきつつ、やはり目を反らしながら答えた。
「では問題なのは最後の戦い。あなたはあえてバラモンドたちを街内に誘き寄せ、その時を見計らって水源を破壊。バラモンド軍を街ごと崩壊させたと」
「……」
うん、やっぱそう来るよね。やはりつっこまれるか。
「つまり今の街の損害は、全てあなたのせいだと」
「……」
彼女の言う通りなんだが。どうしよう、なんて誤魔化せば。うーん……。
「だって仕方ないだろ! このまま戦いが長引けば! 間違いなくバラモンドにやられてたんだぞ! いくら小細工で時間を稼いでも! 最後にはどうせ負ける。だったらアクセルごとぶっ壊してやろうと思ったんだよ! 文句あるか!? 他になんかいい方法があったんなら教えてくれよ!」
無言のプレッシャーに耐え切れなくなり、逆ギレしてサナーに詰め寄った。
そんな俺の様子にも、彼女は動揺せずに、冷静に答えた。
「なにか誤解しているようですね、サトー・マサキさん。あなたのやり方は、あまり褒められる事ではありませんが、それでもあのバラモンドを倒したというのは事実です。王国を代表して、マサキさんにはお礼を言わせていただきます」
「ほ、本当か!? 修繕費請求とか無いよな? 俺もアクセルでは少しは金を稼いでたけど、街全体を修復するような大金は持ってねえぞ!? そもそも俺だってかなり損したんだからな!」
町の修繕費を請求されないか、そっちのほうも聞いてみた。
「今王国ではアクセルの次の領主を探しています。病床のアンナ卿では街管理の継続は不可能と判断されたためです。少し時間がかかると思いますが、領主が決まり次第、補填されるでしょう」
請求はされないようだ。これでよし。じゃあ最後に賞金について尋ねる。
「あと賞金を早く出してくれ。俺にじゃないぞ? 街の奴らにはこの補填は賞金で補うって約束してたんだ! もし金が出ないとなったら、俺が街の住民に殺される!」
「賞金はすでに手配済みです。すぐにでもアクセルの冒険者、そして住民に渡されるでしょう。街の損害に比べれば僅かですがね」
彼女の説明に、少しホッとした。
「それを聞いて安心したよ。俺はてっきり街を破壊した罪でしょっ引かれると思ってたよ。サナーさんが話がわかる人で助かったよ」
「王国はアクセルの事を諦めていました。また新しい都市開発計画を一からやり直すつもりだったのですが、あなた達の活躍でその必要がなくなりました。街全体の損害は困りましたが、最初から作るよりはマシです。最後に確認しましょう。あなたはバラモンドを倒した英雄ですが、賞金は受け取らない。これが街を破壊したペナルティーです」
「ああいいよ。俺も最初から貰うつもりは無かった。あの方法を取った時点でな。今回はボランティアだと思っておくよ」
ただ働きになったが、まぁ仕方ないだろう。あの方法は多用できるようなものじゃない。このアクセルがまだ小さい町で、比較的重要な拠点でもなかったから出来たことだ。魔王軍が攻め込むたびに街ごと破壊すれば、金がいくらあっても足りない。
「これで話は終わりです。協力ありがとうございました。もう帰ってもらって構いません」
サナーは一礼し、俺に背を向けた。
「そういえばベルディアはどうしたんだ? 街中逃げ回ってたときも、全然見かけなかったんだが。あいつも中々活躍してくれたぞ。うん。感謝してやったほうが――」
「ベルディアですか。あの男は反逆罪の容疑で牢屋に繋がれています」
「ぶっ! なんだって!?」
信じられない言葉を聞き、思わず噴き出す。
「主君であるアンナ家を守れなかった、いやそれどころか自分の騎士団を危険な目にさらし、いいえ、こちらとしては元々ベルディアが領主に対し、反逆を企んでいたと思っています」
「なんでそんなことになってるんだ!?」
怒涛の展開に困惑し、サナーに詰め寄ると。
「また話ではバラモンドを倒したのはベルディアだと誰もが言っていたのですが、彼の冒険者カードを確認した結果、全く経験値が入っていませんでした。あれほどの強敵を倒したなら間違いなく記載されるはずです。本当にベルディアが倒したのかどうかも怪しいものです。本当は倒したふりをして、バラモンドを逃がすつもりだったのでは? そんな疑惑もあります」
「なんだと? 確かにベルディアが倒したはず……」
そこまで言いかけて、ふと思い出してみる。あの戦いの結末を――
「『ウォーター』!!!」
「ぎゃあああああ!!」
「あっ」
……そういえば、最後のバラモンドに止めを刺したのは俺だった。あいつは死んだ振りをして首だけ逃げてたのを、水をぶっ掛けてやったんだった。ポケットから冒険者カードを取り出して見るとかってないほどごっそりと経験値が入っていた。
「私がやりました」
罪を告白するかのように頭を下げ、冒険者カードをサナーに差し出した。
彼女も俺のカードを見て驚き。
「あなたは城壁の上から指揮を取っていたんでしょう!? どうやってバラモンドに止めをさせたんですか!?」
「いやベルディアが倒したのは体だけで、あいつ死んだ振りして首だけで逃げ出したんだよ! それをこの俺がこっそり仕留めたんだ。だから別にベルディアは見逃したわけじゃ」
そう言ってフォローするも。
「ますます怪しいですね! やはりベルディアは最初からバラモンドを逃がすつもりだったんでは? マサキさんが捕まえなければ、バラモンドは首だけで魔王城に戻り、また復活していた可能性がある」
この目の前の調査員は、何が何でもベルディアを疑っているようだ。でもなんでだ? あいつ、そんな変な真似してたっけ? そういうタイプじゃないと思うんだが。
「全ては裁判で明らかになるでしょう。今回は最近新しく開発された、嘘を見抜く魔道具を持ってきています。このアクセルでは始めての事例になるしょう。それでは」
嘘を見抜く魔道具……もしそれが本当なら危険だ。だがベルディアは反逆を起こすような人間ではない。俺はともかく彼なら問題ない筈だ。
なにか釈然としないものを感じながらも、取調室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます