一部 34話 作戦準備完了

「このときが来た。四日間にわたって繰り広げられてきた、魔王幹部バラモンドとの戦いも、今日で終わりだろう。この戦、勝つのはこの俺か!? バラモンドか!? 全ての決着は今日決まる!」


 冒険者達の前で演説をする。


「な、なあマサキ? 本気でやるのか?」

「このままいけば、あんな手を使わなくても、バラモンドを撃退できるんじゃないのか?」


 あまり乗り気のない様子の、冒険者や町の住民達。


「甘い! お前達は甘い! 昨日も俺が偵察に行ったが バラモンドの奴はやる気満々だったぞ! しかもだ! 今回はゾンビやスケルトンの類は連れてこないらしい! アンデッドナイトのみでこの街を攻撃する気だ! ついに向こうも本気のようだぞ!」


 言い返してくる彼らに説明した。


「あの大量のゾンビ共がいないとなると、こっちが有利じゃないか?」

「そうだぜ! これで兵力差はなくなったじゃねえか!」


 まだ反論してくる冒険者達に。


「やはり甘い! どこまでも甘いぞこの愚か者共が! アンデッドナイトは他の雑魚共と違い強靭だ! 今この町にいる冒険者でも、純粋に勝てるのは腕利きの一部だけだ! しかも浄化魔法は通用しない! 数が同じでも力の差が残っている! 今までは不意撃ちで運よく倒せたが、次はそうはいかないぞ!」


 さらに演説を続ける。


「だったらまたマサキがなんかやばい手段を思いつけばいいじゃねえか」

「そうだぜ! ゴーレムといい爆弾岩といい、お前のやる戦術には度肝を抜かれたわ! 少しバラモンドに同情するくらいな」


 また人任せかよ。っていうかもう爆弾岩は取り付くしたし、さすがの俺もネタギレだというのに。


「いいか! 仮にアンデッドナイトを全滅できたとしても、バラモンドが残っている! 奴の実力は脅威だ! 単体でもこの街の人間を皆殺しに出来るだろう! あいつを始末しない限り、この戦いは終わらない」


 更に続ける。


「俺の計画なら、こちらは怪我人も出ず、奴の首を取ることが出来る! どうした!? このチャンスをみすみす逃すのか!? 冒険者なら魔王幹部の首を取るのは夢ではないのか!? 国中にこの街の名を轟かせるぞ! 出来たばかりの街で! あの騎士団もどうしようもなかったバラモンドを倒したとなればな!」


 辺りざわりのいい事を並べていく。


「ああ! もうやればいいんだろやれば!」

「今頃止めてもやるんだろ? だったらやってやるさ!」

「これも街のため……国のため……俺達は悪くない……仕方なかった」


 やけくそ気味だが、冒険者、そして町の住民も無理やり納得したようだ。


「俺の計画が順調に進んだのは、冒険者は勿論、町の商店街の協力もあってこそだ。ここでお礼を言いたい」


 商人たちにも頭を下げるが。


「よくいうぜ。無理やり協力させたくせに」

「そうだ! もし協力すれば借金はチャラにしてやる! 勝手に逃げたら地の果てまで追いかけるとかいって脅されたから、仕方なくやったんだ!」


 不満たらたらで言い返す商店街の皆に。


「はっはっは! この街がなくなれば商売どころじゃないだろ? 俺だって私財をはたいたんだ。戦いが終わればまた始めればいいさ。奴の懸賞金は冒険者だけでなく、協力した住民にも分け与えると言っただろ? お前らにも渡すから我慢しな」


 悪びれもせずに答えた。金貸し業がこんなときにも役に立った。この事業はこの戦いでおじゃんになったが、まあいいだろう。


「歴史に名を残す覚悟はいいな! これより、バラモンドとの最終決戦に移行する! 全員戦闘配置に付け!」


 魔道具で街中に声を響き渡らせる。最後の決戦が幕を下ろした。







「今日でこの街のやつらを叩きのめしてくれるわ! 敗北は許されん! いいな! 散々苦渋をなめさせてもらったが、これで最後にするぞ! ってあれえー―!?」


 バラモンドは精鋭たちを揃え、アクセルへと進軍する。っといきなり素っ頓狂な声をあげた。

 面食らったのも無理はない。

 アクセルの街の様子が明らかにおかしかったからだ。

 城門は開きっぱなしになり、左右にはかがり火が焚いてある。今までの抵抗がウソのように、まるで魔王軍を迎え入れるかのように街内へと誘っている。


「き、気味が悪い……」

「これは間違いなく罠ですよ! やっぱ帰りましょう! 嫌な予感しかしないですよ!」


 アンデッドナイトたちが怯えて不満を述べているようだが。


「罠がどうした! このワシは『焦土のバラモンド』 はむかうものは全て皆殺しにする! この田舎者共に、ワシの力を思い知らせてやるわ! 付いて来い!」


 いつも部下達を先に行かせていたバラモンドだが、今日は自ら先頭に立って進軍している。


「いい調子だ。そのまま来い」


 千里眼で敵の様子をながめ、ニヤリと笑った。



「バラモンドが来たぞ!」

「情報どおり、アンデッドナイトのみを引き連れている! 本気みたいだ!」


 飛び交う怒鳴り声。


「全員配置に付いたか?」

「いつでも!」

「バラモンドの軍勢が街に侵入しました!」 

「予定通りなんだろ? そのまま待機してろ!」


 冒険者、そして町の住民はその様子を眺めた。




「本当に抵抗も無く入れましたね? 逃げたんでしょうか?」

「違う! 生命力を感じるぞ! 住民はまだいる!」


 恐る恐る町内に侵入するアンデッドナイト。普通ならすぐにでも襲い掛かるのだろうが、今までの経験でかなり警戒している。


「あ! 扉が!」


 アンデッドが全員入ったところで城門を封鎖した。




「よく来たな! 魔王幹部バラモンドよ! この俺はサトー・マサキ! お前は今まで卑劣な手段で町を壊滅してきたようだが、残念だったな。上には上がいる。お前はより卑劣な力で、無残に叩き潰されるのだ」


 城門の上に立ち、近くの魔術師にライトアップさせて目立たせ、バラモンドに語りかけた。


「き、貴様は! あの時の命乞いをしてきた! 嘘つきのクズ野郎!!」

「覚えていてくれて光栄だよ。その通り、あの時は世話になったな! あそこで帰ってくれれば、君も倒されることは無かったというのに。残念だな。ハッハッハッハ」


 笑いながら話しかける。


「何を抜かす。冒険者のクズめ! ワシらの軍勢に卑劣な手を使いおって! 貴様だけは生かしては置けん! ここで終わりにしてやる!」

「終わるのは貴様のほうだバラモンドよ。お前には俺の国に伝わる素晴らしい言葉を教えてやろう。『人は石垣、人は城』 意味を教えてやろう。つまり城なんかぶっ壊したっていい! 人がいれば問題ない! 破壊してもまた作ればいいんだよ!」

「絶対そういう意味じゃあないと思うんですが」


 得意げにバラモンドに語っていると、マリンが呟いた。


「なにをわけのわからんことを!」

「わかる必要は無い! レイ! 今だ! やれ!」


 俺の合図と共に、街の奥で大きな炸裂音が鳴り響いた。


「な、何の音だ? いったい何をした!?」

「教えてやろう。貴様が終わる音だ」


 バラモンドにそう答えると、同時に水源から大量の水が街中に押し寄せてきた。


「な、なんだと! なんて事だ!?」

  

「よくもこの街にきやがったな! ここは俺の街だ! 悪さをしていいのも俺だけだ! ようやくこの街を掌握できると思っていたら! わざわざ攻めてきやがって! 許さんのはこっちのセリフだ! このクソデュラハンめ!! 蛆虫のようなアンデッドが調子乗ってんじゃねえ! 何が魔王だ! 魔王幹部だ! この俺は誰にも止められない! 邪魔する奴は誰だろうがぶっ殺してやる!! このアクセルが奪われるくらいなら! こっちから壊してやるわ!」


 俺は怒りをぶちまけた。そう、こいつさえ来なければ……俺は街の名士で、裏では八咫烏としてワルどもを取り仕切り、いずれはこの街だけでなくこの国をも轟かす大権力を手に入れる予定が。こいつのせいで全部振り出しだ! 許してなるものか!


「もうどっちが悪役かわかんないな」

「マサキの方がクズだろ。つかなにが俺の街だ」


 安全な二階でぼやく冒険者たち。 



「み、水だあ! 逃げろ!」

「や、やばい! 流される!」


 大慌てで走り出すアンデッドナイトだが、この小さな町を飲み込む大量の水からは逃げる場所は無い。すぐに飲み込まれていく。いくら強いアンデッドナイトも、この水の勢いには逆らえないようで次々と溺れていく。っというよりどうやら本当に水が弱点のようだ。体からなにか汚れみたいなものが出てきて、どんどん弱っていく。

 キールのときに水攻めにした経験が役に立った。水量は桁違いだが、やったことは一緒だ。



「がああああああああ!!」


 体中から邪悪なオーラを漏らしていき、苦痛の叫びを上げるバラモンド。なんとか流されないように踏みとどまっているが、どんどん弱体化しているのは誰の目にも明らかだ。


「ハーハッハッハ! これがこの俺に逆らったものの末路だ! この俺を今日から提督! いや大提督とよべ! さあ準備はいいな! 『第七艦隊』出陣!」


 第七艦隊。

 それは艦隊というようなたいそうな代物ではなく、ただ小船を七隻つなげただけのものだ。

 上流からバラモンドの方に向かい小船を下ろしていく。


「オラアア! 待ってたぜ!! 夢のようだぜ! まさか幹部をぶっ殺せる日が来るなんてよう!!」


 そこに舞い降りるのは、最強の攻撃力を持つアルタリアだ。小船の上を八艘飛びで移りながら、弱ったデュラハンに止めの一撃を与えるために飛び掛る。


「ひゃはははははは!! 死ねえバラモンド!」

「く、馬鹿な! こんな所で……」


 苦悶の表情を上げるバラモンド。



「ぐえっ」


 その時、水に流された流木が飛んできて、アルタリアの後頭部に直撃した。

 えっ!?


「オイ! ちょっと! それはないだろアルタリア! 立ち上がれ! 敵は目の前だぞ!?」


 しかしアルタリアはピクリとも動かず、そのまま水で流されていった。


「ああ! クッソ! あの紙装甲! こんな所で! だれか代わりにあいつの首を取って来い! 相手めっちゃ弱ってるから! 誰でも倒せるから」


 予想外のアルタリアの退場で、他の奴らに怒鳴り散らす。 


「クックックック、グアッハッハッハ! 惜しかったな。このワシをここまで追い込んだのは貴様が初めてだ、サトー・マサキ。だが最後の最後で失敗したな! 次はこうは行かんぞ! 必ず息の根を止めてやる、また会おう!」


 水の勢いも弱まってきている。まずい、このままじゃあ逃げられる。せっかく街ごと水浸しにしたのに、敵に逃げられたんじゃあ割に合わん! 誰か近くにいないのか? バラモンドの鎧を壊せるような戦士が!

 クソッ! この戦いでおきた損害は、バラモンドの賞金で補う予定だったのに! 奴を逃がしたら懸賞金がパアだ! 

 うろたえていると、一つの小船がバラモンドの前に近づき、誰かが降り立った。


「俺を覚えているか?」


 そこに立っていたのは、鎧に身を包んだ一人の白い騎士だった。


「き、貴様は! あの城の騎士!」


 逃げようとしたところを回り込まれ、今度はバラモンドがうろたえる。


「俺の名はベルディア! アンナ家を守る騎士にして、その騎士団長!」


 ベルディアは剣を掲げ、バラモンドに詰め寄った。


「卑劣な男め! 使用人を人質に取り! こちらが動けない間に散々いたぶってくれたな! 守れなかった民達と、そして散っていった仲間の仇を取らせてもらう!」


 ベルディアたちが簡単にやられる筈が無いと思ってたら、そんな裏があったのか。


「貴様はデュラハンだろう? つまり元は騎士! こんな卑劣な真似を取るとはモンスターとなり、誇りまで捨てたか!?」

「くっ!」


 ベルディアに怒られ、悔しそうな顔をするデュラハン。


「一撃で葬ってくれる! 最後に言い残すことは無いか!?」


 ベルディアが剣を振り上げると、バラモンドは観念した顔で。


「騎士にやられるとはな。グアッハッハッハ! 殺すがいい! だがワシもかっては貴様と同じく騎士だった! 貴様もまた、いずれ裏切られる日が来る……。グオッホッホッホ!」


 ベルディアの剣が振り下ろされ、バラモンドの鎧が粉々になった。


「今です! 浄化魔法を!『セイクリッド・ターンアンデッド』!!」

『『『ターンアンデッド!!』』』


 もう光を吸収する忌々しい鎧はない。バラモンド目掛けてマリン、そしてエリス教のプリースト達がいっせいに浄化魔法を浴びせ続けた。


「グオオオオオオ!!」  


 バラモンドの体が白い光に包まれて、消えていく。 


「さすがはベルディアさんだ!」

「アルタリアが倒れたときは、もう終わったと思ったぜ」

「ありがとうベルディア!」


 冒険者から褒められるベルディア。肝心なところで何も出来ずに流れたアルタリアも誰かが拾っていた。


「礼をいうのはこっちの方だ。まさか本当に、冒険者だけであの悪名高いバラモンドをここまで追い詰めるとは、思ってもいなかったぞ!」


 ベルディアもそれに答えている。あいつはやったのだ。




 これでバラモンドは倒した。

 ように見えた。

 俺は小船の中に、小さな影が飛んでいくのを見逃さなかった。


「よう」


 俺は城壁から駆け下り、その小さな船に飛び乗って言った。


「ようやくデュラハンらしい姿を見せたな」

「お、お前は!?」


 小船の中に隠れていたのは、バラモンドの首だった。こいつは観念してやられたと見せかけ、自分の首だけ近くの船にほおり投げたのだ。


「お前に逃げられるわけにはいかない。さっきも言ったよな?」

「い、いや待ってくれ。マサキと言ったな! お前もワシも、同じ卑怯者同士、気が合うと思うんだが?」


 首だけになったデュラハンは必死でそんなことを言い始める。


「こんな状況、前にもあったな?」


 俺は初めてこのデュラハンと出会った時を思い出す。その時はコーディを逃がすため、俺が命乞いをした。今は立場が逆だが。


「そ、そうですね! あああの時は、本当は生かすつもりだったよ? あの時からマサキ、いやマサキさんには一目置いていてね。街を滅ぼしても、あんただけは助ける予定だったよ?」

「嘘つきめ! お前は俺と同じクズだ。クズならやることも一緒さ。あっちはお前を倒したと思って盛り上がってるんだ。こんな下らない幕引きなんて、恥ずかしいだろう? 終わらせよう」


 そう告げて、手に魔力を込める。


『くー!』


 かめ○め波の姿勢で呪文を唱える。


「ちょ! 待って! まだ話が!」


『りー!』

「魔王について喋るから! 情報をなんでも喋るから!」


『えー!』

「ワシを生かしておくと得だぞ? アンデッドに襲われることは無くなる!」

 

『いーとー!』

「そ、そうだ、ペット枠とかどうですか? 大物ならペットくらい飼っていても不思議じゃ」


「『ウォーター』!!!」

「ぎゃあああああ!!」


 下らない戯言は無視し、クリエイトウォーターを発射した。コロンと、空っぽの兜が転がった。どうやら今度こそ、本当に戦いは終わったようだ。

 決まり手:クリエイトウィーター


「どうしたんですか、マサキ? 何かありましたか」


 俺が空っぽの兜を拾っていると、マリンが声をかけてきた。


「なんでもない。ちょっと下らない雑魚がいたからな。水をぶっ掛けてやったのさ」


 そろそろ水も引いてきた。水浸しになったアクセルの街を歩いていく。俺がやったとはいえ、酷い被害だ。しかし必要な犠牲だったと思う。最後の戦いで負傷したのは誰もいない。


「はっ! そうだ! バラモンドはどこいった!?」


 全てが終わってから、目を覚ますアルタリア。

 そうだ、怪我人ならこいつがいた。流木にぶつかってそのまま気絶したこの女が。


「バラモンドなら、ベルディアが倒したよ」


 そう教えてやると。


「な! なんだって! ふざけんな! 私の獲物を!!」

「お前が勝手に気を失うのが悪いんだろうが! あの時はマジでびびったぞ!」


 ピン、とでこに指で突く。ヤレヤレ。


「マサキ様! どうやら上手くいったようですね!」


 水門で作業をしていたレイも駆けつけてきた。


「まぁな。おいしいところはベルディアに持ってかれたが。それもこのバカのせいで」

「そうだったんですか。でもいいんですか? マサキ様がどれだけ苦労したか! それをわからせなくて!」


 レイが悩ましそうに聞いてくるが。


「いいのさ。今回の戦いは邪道もいいとこだった。あまり明るみになっても困るしな。極悪非道なデュラハンは、正義の騎士によって倒された。それでいい」


 いつもの仲間と共に、バラモンド討伐の勝利に沸く冒険者達を眺めて告げた。


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