一部 9話 パーティの地雷
「おい聞いたか!? 上級職ばかりのパーティで、女ばっか引き連れてハーレム気取りの冒険者がいるらしいぜ?」
朝、俺は早めにギルドに到着して仲間を待っていると、そんな話を耳にした。
「知ってるか? 聞いた話じゃ、そいつはろくに戦いもせず、賞金だけはちゃんと貰ってるらしいぜ」
言って、同じテーブルにいた他の仲間と笑い合う戦士風の男。
戦いもせずか。
確かにその通りかも知れない。この男の言うことにも一理ある。俺は昨日のクエストでモンスターを自分の手で倒さなかった。そのため冒険者カードには全く経験地が入っていない。
戦闘行為には直接参加してなかった。でも影で必死でみんなに指示を出していた。そんな縁の下の苦労は中々理解してもらえないものだ。
「どうせ荷物持ちかなんかだろ? いいよなあ。荷物持ってるだけで金が貰えるんだから。あやかりたいぜ!」
…………。
俺は怒らない。こんなことでいちいち腹を立てていたらネトゲのチャットでは生き残れない。特に中学生も遊んでいるような人気のネトゲならこんな煽り日常茶飯事だ。屁でもない。
「それは俺の事かな?」
俺は一つも怒りを見せずにその男に聞いた。
「ああ!? なんだてめえは?」
「君の言っていた男さ。ちなみに職業は最弱職の冒険者だ。俺は素晴らしいパーティに恵まれているんだ。上級職の彼女たちにおんぶで抱っこの面白おかしな毎日を過ごしている。なんなら代わってやっても構わないぞ? さあもう一度言ってくれないかな?」
俺は笑顔でそのチンピラに尋ねる。
「冒険者だって? ハハッ! 笑わせるぜ最弱職さんよう! 何度だって言ってやるよ。上級職が揃ったパーティでさぞかし楽チンだろうな。しかも全員女だって? いい身分じゃないか全くよう! どっかの貴族かよ! ああ? おい、俺と代わってくれよ兄ちゃんよ?」
「おはようございますマサキ。あれその人はお知り合いですか?」
俺が男に絡まれていると、ギルドにやってきたマリンが俺に尋ねる。
「やあマリン。朝から変なのに絡まれてね。全く厄介ごとは夜だけにして欲しいよ」
手を挙げてマリンに返事をする。彼女の後ろには同じく上級職のレイ、そしてアルタリアが歩いてきた。レイは恒例になった昨晩の戦いの結果、ボロボロになったローブを着込んでいる。
「……! まさか……お前の仲間って……! 偽預言者のマリンに! 呪縛女のレイ! そして殺戮鬼のアルタリアのことなのか!?」
俺が仲間を紹介したとたん、その冒険者が青ざめる。この三人の女たちは一体どれだけ恐れられてるんだ? っていうかマリンも結構ビビられてるな。まあ確かにたまに変な電波を受信してて怖いときあるけど。
「偽預言者とは言ってくれますね。私は本当にアクア様の声が聞こえるのです! お姿も見えます! たまにですが! 真のアクシズ教アークプリーストですよ!」
偽預言者と言われて反論するマリン。
「私の目には見えるのです! アクア様がこの街に降臨し、馬小屋で寝泊りしながら、スモークリザードのハンバーグを食べたり! それに加えキンキンに冷えたクリムゾンビアーをおいしく飲んでいる姿が!」
うんやっぱりこいつ偽預言者だな。どんな女神だよ。なんでそんなに庶民的なんだ? このプリーストは本当にあの女神を尊敬しているのか疑問に思う。
まぁマリンの妄言は一先ず置いとこう。目の前の男に用がある。
「おいどうした!? 代わりたいんじゃなかったのか? 羨ましいんだろ?」
「いえいえなんでもないです。私が間違っていました。あなたは立派な冒険者です」
急にかしこまって敬語になる冒険者の男。
「なんだとオイ! さっきまでの勢いはどうした! 代わりたいっていったよなあ! なんとか言ってみろよ!」
一方俺は強気でその男をガンガン責める。今こそ攻めの時。
「申し訳ありませんでした。あなたの事を誤解してたようです。さっきの言葉は全部撤回させてください! 頼むから!」
「謝ればすむと思ってんじゃねえよな! 俺は深く傷ついたぞ! こいつらの制御にどれだけ神経をすり減らしてると思ってんだ! ああ? 考えてみろ! このパーティでやっていくことを考えてみろ!」
「悪かった! 悪かった。どうやったら許してくれるんだ?」
DOGEZAをする冒険者に向かって。俺はスッと手でお金のマークを作った。
というわけで臨時収入で千エリスをゲットすることになった。これは決してカツアゲではない。先に絡んできたのは向こうの方だ。それを撃退して得た賞金だ。
「それカツアゲですわよね」
「否! 断じて違う! これは慰謝料だ! 正当な報酬だ!」
つっこみを入れてくるマリンに首を振る。
「おーい知ってる? この街になんもせずに報酬だけ奪う最弱冒険者がいるらしいぞ?」
「マジかよコーディ! どこのどいつだよ。そのうらやましい奴は!」
また誰かが俺の話をしている。先ほど金を巻き上げた冒険者とは別の人物のようだ。
「なんてこと! 許せませんね。全くこの街の冒険者と来たら。私の愛しのマサキ様がいかに素晴らしいか――」
スッ。
レイが怒ってその冒険者に食って掛かろうとするのを俺は制止する。
「レイ。いい。もう少し待て。お前は何もしなくていい」
俺はレイを引きとめ、その別の冒険者が俺の悪口を喋りまくるのを静観していた。
「そろそろいいだろう」
散々馬鹿にされた後、俺は席を立ってそのグループに向かおうとする。
「マサキ、あなたまさか? あえて放置してたのです?」
「なんのことかなマリン。言われっぱなしは悔しいだろ? 少しガツンと言って来るのさ。当然の行動だろ?」
俺の思惑に気付いたマリンが聞いてくるが、軽く流して進む。
「俺はマサキ。サトー・マサキだ! 上級職パーティのお荷物さ! 変わりたい人間はいつでもいいぞ! そう俺の仲間はとても優秀でね。アークプリーストのマリン! アーウウィザードのレイ! そしてクルセイダーのアルタリアだ! 最高の三人だぜ?」
「「「すいませんでした!!」」」
俺のパーティ構成を聞くや否や、すぐさま頭を下げるチンピラ冒険者たち。すごいなこの三人の破壊力は。名前を出しただけで全員震えあがったぞ。にしても全く散々叩いてくれたもんだなあ。ヤレヤレ。
「俺は傷ついた! 心にグサっときたぜ! ああここまで言われたら最弱職の俺だって悔しいよ。そこまで言うなら変わってくれよ! 大丈夫、彼女たちは信頼できる優秀な冒険者だ。君達の言うとおり、なんの心配もないぞ!?」
「クエスト真っ最中に意味のわからないことを言って拝みだすマリンは嫌だ!」
「レイは怖い! マジで怖い! 見るだけでも怖い!」
「アルタリアは危険すぎる! 勝手にヤバイモンスターを連れてくるし! 言うこと聞かないし」
想像以上に悪名高いなこの三人。なんなんだあいつら。どうやったらここまで同業に恐れられるんだ? そこだけは素直に関心する。
「まぁ今回は、若気の至りと言うことで許してあげてもいいんだけどね。でも何もなしでって訳にはいかないねえ。お詫びがいるだろ? 俺の心がまだ痛いしねえ。ほらなんだっけ? ただ乗り野郎だっけ? ずいぶんと言いたい放題だったね君たち」
俺は手でお金をジェスチャーしながら高圧的に尋ねる。顔を見合わせる冒険者たち。
「フッフッフ、不思議だなあ。クエストも何もしてないのにお金が増えているぞ? なんでかなー?」
俺は冒険者達から巻き上げたエリス金貨を手にして言った。
「ねえマサキ、やっぱりそれカツアゲですよね?」
「違いますー。慰謝料ですー」
しつこく聞いてくるマリンをスルーして俺は金貨を眺める。
「あなたは最低です! 最低の男です!きっとアクア様の罰が当たります!」
「あの女神なら今頃寝ながら漫画でも読んでるさ。多分」
マリンが俺を非難するが気にしない。
「知ってるか!? ハーレム冒険者野郎の噂を!」
またカモがやってきた。俺はニヤリと笑みを浮かべる。先ほど俺からカツアゲ、もとい慰謝料を奪われた冒険者たちは、自分達だけ損をしたのが面白くないのか、止めもせずにスルーしている。
「よし! そろそろ狩り時だな!」
「いい加減にしなさいマサキ! それはまともな冒険者のやることではありません!」
俺の悪口を言ってる奴らへまた金をせびりに行こうとしたのだが、マリンが掴んで放さない。
「放せマリン! カモが! カモネギが行ってしまう!」
「あの方たちは高経験値のモンスターではありません! それでもアクア様に選ばれた勇者ですか! おやめなさい!」
俺の勝手に金が増えていく計画を邪魔するマリン。くっ! 普段非常識なやつなくせしてこんなときだけまともなことを言ってくる。
「あーあ。貴重な金づるが行ってしまったじゃないか! なんで邪魔をするんだ!」
「邪魔しますよ! アクア様に選ばれし勇者がカツアゲなんてしてたら止めますよ!」
獲物を逃して悔しがる俺は、引き止めたマリンと口論になる。
「あの女神はチラッと会っただけだが、たぶんあいつも地上に降りたら似たようなことするぞ。だってあいつ結構俗っぽかったし。小銭欲しさに自分が送り出した勇者に集ったり、信者使ってマルチ詐欺とかやりそうだぞ」
「なにを言うんです! 神への冒涜ですよ! アクア様はそんなことしません! そんな犯罪まがいの事! ぜったい……するはずが……? アレッ? なんででしょう? やりかねない気がします? アレッ?」
最初は俺を非難していたマリンなのだが、なぜか女神の話になると急に頭を抱え込んだ。
「…………。冗談だったんだが。お前のとこの神様もヤベーな。これで神公認と言うことで、俺は間違ってないでいいな?」
なぜか急に劣勢になったマリンに俺は首を傾げつつ言ったが。
「アクア様は神様ですから! なにをしても許されます! ですがあなたは人間です! そのような悪事を見逃しはしませんから! このアクシズ教のプリースト! マリンの前では!」
「とんだダブスタかよ。いいじゃないか少しくらい。人間だって必死で生きてるんだ。少しくらい見逃してくれよ」
「いけません! 許しません!」
結局は彼女に押し切られてしまった。これだから頭が固い聖職者は。こうして“なぜか懐が豊かになる作戦”はマリンの手によって中止させられた。
「それにしてもマサキ様、昨日は燃え上がりましたね。あんな凄い夜、あなたが初めてですよ」
レイが昨晩の事を思い出し、そんな誤解を招くようなことを言ってくる。
キャッと顔を赤らめるマリン。また下らない勘違いを。残念だがこのヤンデレ女とじゃあそんな雰囲気にはなれない。本当に誰かと代わって欲しい。
「レイとは何もなかった。そういう方面ではな。だれが見えてる地雷に手を出すか!」
昨晩、俺はまた別の宿に密かに泊まっていたが、前回の反省を生かし、もし見つけられてもたやすく進入されないように色々と備えをしていた。部屋の鍵は解除されるから当てにせず家具を移動して塞ぐ。それに加えて様々な対抗策を準備していたのだ。
「そんな! あんなに激しい夜を共に過ごしたと言うのに」
「確かに激しかったね。あらかじめ部屋に持ち込んだ石をぶつけまくったからね」
「熱い夜でしたね!」
「ああ、熱湯を浴びせかけたからね」
「最後は強く抱きついてきましたね!」
「『バインド』でね」
もはやホラー系のサバイバルゲームだった。このヤンデレ女はドアが開かないと気付くや、窓から進入を試みてきた。三階だというのに虫のようにカサカサと登ってきやがって。このゴキブリ女。まじで怖いよ。おかしいな。この世界では魔王を倒すために送られてきたはずなのに。JRPG系じゃなかったっけ? どこでジャンルが変わったのだろう。
「はぁー。レイ、頼むからゆっくり寝かせてくれよ。だったらあんな上から石を投げつける真似はしなくてすむんだから」
俺は自覚している。レイに対して到底許されない行為を行ったことを。年頃の女の子に許されない暴力を振るうような奴はクズだ。それでもだ。夜のモードのレイは女の子じゃない。っていうか人間じゃない。モンスターだ。昨日も後一歩のところで部屋への侵入を許すところだった。
「これからもガンガンいきます」
「まじやめて」
……俺が安心して眠れる日は来るのだろうか。
「へえお前たちは夜も戦ってたのか! 羨ましいな! 夜戦かあ」
「そうだ。文字通り夜戦だった。アルタリア、珍しくお前が正しい」
アルタリアに肯定する。このクルセイダーの言うとおり宿に篭城し、悪霊女の猛攻を防ぐ、そんな夜だった。
「そんな……二人とも……。まだ出会って間もないのにそんな激しいことを……。私はこれからあなた達にどう接すればいいのでしょう?」
耳まで顔を赤くさせ口をパクパクしている偽預言の方は放置しておくことにした。
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