24日目「魚」
「ねぇ、麻里さん」
「なに?」
「水族館行きたくない?」
彼女が作った朝食を口へ運んでいると、まるで些細な世間話のように莉緒は今日の一日を提案してきた。通りで今日はいつもは見ない小鉢が添えられている訳だ。そんな遠回りな媚び方をしなくても、言ってくれれば連れていくのに。
「べつにー」
でもここまでされたら一度は否定しておいた方がいいのかな、なんて思ったりして。
「私は行きたい」
「それ結局行くことになるじゃん」
「そんなことないです。ただの提案」
莉緒が白米を口に運ぶので私も一口。
「あー。そういえば昨日、夕方のニュースで特集されてたもんね。どっかの水族館」
「そう! そこの映像がすっごく綺麗で!」
「特集されてたの、どこの水族館だっけ?」
「海外」
「いや、行けるわけないから」
「そこに行きたいって言ってる訳じゃないことくらい分かってほしいんですけど?」
「分かってるけどさぁ。近くに水族館ないじゃん」
「まぁ、ちょっとした遠足ってことで。……駄目ですか?」
「別に、駄目じゃないけど……」
「やった」
私から無理やりその言葉を引き出した莉緒は満足げな顔をすると、急いで机の上に広がった朝食を口に詰めていく。それからほんの数秒で朝食を終えた彼女は、口を膨らませながら立ち上がり自分の分の皿をシンクへ運ぶ。
「麻里さん、急いでくださいね!」
「急かさないでよ」
「せっかくのデートですもん。少しでも長い方がいいじゃないですか」
「はいはい」
屈託ない彼女の目に頷き、私も食べるスピードを速める。
水族館に行くのも久しぶり。本当に、いい夏休みだ。
自分の中に生まれる少女のようなワクワクした感情も一緒にのみ込んで、私も食器を下げる。
弾む心を押さえつけ、一刻も早く玄関を出る為に、私は朝の支度を始めた。
電車に揺られて一時間。移動圏内で水族館と言えばここかなといった、大きくもなければ小さくもないほど良いサイズ感の水族館に到着する。
さすがは夏休みの真っ盛り。園内には多くの家族連れが歩き、あちらこちらに走り回る子供や親とはぐれて辺りを見回す子供が見て取れる。
「麻里さん、はぐれないでくださいね」
「私を何歳だと思ってるの」
「でも、私の方が保護者っぽいし」
「莉緒こそ。小学生に間違われないようにね」
「流石にそこまで小さくない」
「じゃあ、中学生?」
「それは、まぁ。あるかもしれないけど」
軽口を叩きながら入場口へ並ぶ。
「高校生から大人料金だってさ」
「だからなんです?」
「中学生って言えば安く入れるじゃん」
「そんなせこい真似しませんし」
莉緒はちょっと膨れて、大人の入園券を二枚購入する。
そのうち一枚を受け取り入場すると、すぐに視界が暗くなった。
水中生物の豆知識や様々な展示、ドクターフィッシュの体験コーナーに、小魚の水槽。
足を進めるごとに視界は暗くなり、照明は青みを増す。
足を進めるごとに水槽は大きくなり、期待感も膨らんでいく。
徐々に視界に入る魚は大きくなり、比例してフロアも広がる。水槽の上部から夏の日差しが入り込み、水とアクリル板で屈折を繰り返し、フロア内をキラキラと輝かせていた。
「ねぇ! 見て! これ凄い!」
隣にはその光を反射するように目を輝かせた莉緒がはしゃいでいる。
何かを見つけたのであろう彼女は大きな水槽に向かってトテトテと小走りで跳ねていく。その背中は周囲にいる小学生の子供たちと大差ない。
「ちょっと、走らないでー」
「麻里さん、早く!」
「館内は静かにお願いしまーす」
「ごめんってば。でも、ほら、見て!」
忙しなく動く彼女にはいつもの中途半端な敬語は見当たらない。
それが年の差とか立場とか、そんな様々な要因を忘れてくれているような気がして嬉しかった。
莉緒と本当の友達になれればよかったのに。
願ってもしょうがない、もしも、を思い描きながら、私も彼女の視線に合わせて顔を上げる。
「あぁ、イワシの群れ。莉緒、見るの初めて?」
「はい。動きがぴったりで、狂いがない。調教されたショーみたいです。どうやってコミュニケーション取ってるんだろ。仲間はずれがいないのが凄い」
小さな魚が寄り添って、一匹の大きな何かのように動き回る。そんな奇妙で神秘的な光景を目で追っていると、視界の端で別の魚を見つけた。
「あ、でも、あそこにいる」
「何がです?」
「仲間外れ」
指を刺すと、その先を莉緒が追う。
「あ、ほんとですね」
「本能に従ってる動きでも、やっぱり例外はいるんですね」
「大勢のところと合わなかったのかな」
「どうでしょう」
莉緒はその場でしゃがみ込み、大きな水槽にこつんと額をつける。
さっきまではダイナミックな魚群に目を奪われていたのに、今でははぐれた一匹を目で追っている。
「私達みたいですね」
ぼそっとそんなことを言うもんだから、私は彼女の隣にしゃがんで彼女の頭に手の平を乗せる。
「しかたないよ。溶け込むのは、難しいもん」
「そうですね」
社会に順応できない人間に、今の社会は生き抜き難い。
小学校では皆で同じことをする習慣を植え付ける。中学校、高校ではそれの延長を。大学では自由と言ってはいいもののグループに属さないものは淘汰されていく。
私は勉強に縋りついて、自分一人で何とか歩み続けた。辿り着いた場所が正解かは分からないが、まだ及第点。でも莉緒はどうなんだろうか。
「麻里さん、小学校の時、スイミーって話習いました?」
「もちろん。一応の教育者だったら誰でも知ってると思うし」
「あの話を最初に聞いた時、素敵だなって思ったんです。他人と違う個体はその個体の適材適所があって。あの話ではそれが魚群の目になることで。それって一番の花形じゃないですか」
「でも、実際は違う。って?」
「はい。実際、大多数からズレている個体があんな中心に迎え入れられることなんて、絶対に無いじゃないですか。グループに入れて貰えれば御の字で、良くて後を付いて回るだけです。それこそ魚の糞みたいに」
「それをどうにかしろって言われる教師側もまいっちゃうけどね。一人一人違う人間を平等に扱え、なんて無理」
「平等なんてこの世にないんですよ。生まれた時に決まってるんです」
「否定はできない」
「だったらせめて。……普通で生まれたかった」
「……莉緒は普通だよ。むしろ良くできてる方。こんなしっかりしてる高校生他にいない」
莉緒の頭をポンポンを撫でると、莉緒は弱々しく笑った。
「麻里さんが何も知らないだけ」
そしてゆっくりと首を振ると、子ども扱いしないで下さいと頭にのせられた手をそっと払った。
「だって莉緒が、何も教えてくれない」
莉緒は払った手をゆっくりと握る。私の左手を両の手で包みながら、願うように私を見る。
「何も知らないままの麻里さんでいてくださいよ」
「前も言われた」
「それを望んでるんです。知らなくていいことなんて、世界に山ほどあるんですから」
水槽に映る彼女の表情は暗い。
私はそんな彼女が見たくなくて、いつもより二割増しに明るい声を出してみる。
「次の水槽行こ? まだまだ水槽もあるんだし」
「……そうですね」
私は膝に手を置いて立ち上がる。んっと声を出してしまい、少し恥ずかしがりながら背後の莉緒に振り返る。
その時だった。
立ち上がろうとしていた莉緒の身体が平衡感覚を失ったように傾いた。
咄嗟に手を伸ばすも私の手は空を切り、莉緒はそのまま水槽の前に鈍い音を立てて転がった。
「大丈夫……?」
幸い床はカーペット生地で硬くない。お尻から落ちたから怪我はないだろう。
それでもひ弱な彼女の体が心配で、転んだ彼女に手を差し伸べる。その手を取りながら莉緒はいつもの軽い笑いを浮かべる。
「大丈夫。大丈夫。ちょっとくらっとしただけです。立ち眩みです」
私の腕に彼女の軽すぎる体重がかかり、少し力を入れて引き、ひょいと立たせる。
莉緒は床に接した場所をパンパンと叩き、まいりましたねなんておどけている。
私は何の気なしにその行動を眺めていて、彼女の腕に違和感を覚えた。
「それ……痣?」
「え?」
「左の肘らへん。青くなってない?」
「どこですか?」
「ここ」
彼女の手を取り、指差すと先程と同じように彼女が私の指先に視線を合わせる。
左肘の下部。やはりそこが青紫色に染まっていた。
莉緒はその痣を視認すると、一度大きく目を見開き、細い呼吸を何度かした後、私の腕を振り払った。
「あ……。ほんとですね。今できちゃったのかな。もしかしたら最近どっかにぶつけたのかも」
「痛くない?」
「大丈夫ですよこんなの。なんてこったないです」
「だったらいいけど……。うちに湿布あったっけ」
「麻里さん心配し過ぎですよ。うちの親みたい」
それだけ言うと、ほら行きましょうと歩き始める。
温泉旅行の日から彼女の顔色は目に見えて悪い。そんな中でも、今の彼女の顔がいつにも増して青ざめて見えたのは、きっと照明のせいだと自分に言い聞かせて心配を頭の隅に寄せた。
大小の水槽を幾つか通り過ぎ、莉緒と幾つかの会話を交わした。
莉緒は今日のことをデートと言ったけれど、実際男と水族館に来たらこんな感じなのだろうか。それとも他の雑念が渦巻く一日になるんだろうか。それだったら純粋に水族館を楽しんだ方がいいかななんて思って、ゆっくりと静かな空間を歩く。
「そういえば麻里さん、いつ実家帰るんですか?」
お互いに水槽を見ながら適当な会話を始めては、泡のように会話が終わっていく。そんなキャッチボールの繰り返し。
莉緒が次に投げたのは数日前の花火大会で決意した実家への帰省の話。
「お盆中には帰りたかったんだけど、電車とか込むからさ。お盆終わってからかなって」
「せっかくいいタイミングでお盆だったのに」
「それくらいで怒る人達じゃないから大丈夫」
「それ墓参りする人間が言い始めたら終わりですよ」
実際、お盆の時期に私が帰っていいのかなんて考えてしまって、お盆は避けた。
パパも佳晴も私が帰ったらどんな顔をするんだろうか。こんな私を許してくれるんだろうか。
「でも、早く行かなきゃ決心が鈍っちゃうから、十六日には帰ろうかなって」
「明後日ですか。まぁ、盆明けですしね」
「うん。それだったら多分親戚に会うこともないと思うし」
「なるほど」
足を進めると私達を迎えるように大きな水槽にぶつかった。多種多様な魚が水槽内を泳ぎ、色鮮やかに視界を彩る。そんな水槽を二人で見上げていると、私の口から溜め息が漏れた。
美しい光景だ。水族館に来た記憶なんて遥か遠くで、いつの間にか色褪せて陳腐なイメージがついてしまっていた。
「水族館、いいですね」
「うん」
「来てよかったでしょ?」
「まぁ、そうだね」
「この夏の思い出の一つになりますね」
及第点くらいはあげてもいいかなと強がる私を莉緒はあしらって、きらきらした眼差しで水槽を見つめ直す。
「ねぇ、麻里さん」
「ん?」
「麻里さんが実家に帰る間、私も家に帰ろうかなって思います」
「――っ!」
想像もしていなかった彼女の言葉に私は驚き、横顔を見る。
「そんなに驚くことですか?」
「え……? だってあれだけ帰りたくないって。……それこそ死んだ方がマシだって」
「そうだったんですけど、まぁ、なんて言いますか。気が変わった、みたいな」
「なにそれ……」
私がここ数週間を彼女と共にして、必死に解決しようとして、それでもどうにもならなかった問題なのに。なのにそんな、気が変わった程度の言葉で片付いてしまうの? そんな簡単に終止符が打たれてしまうような問題だったの?
「普通の事じゃないですか。家主がいない家に居座れませんよ」
「私は別に莉緒が居座ってたって……。本当に、帰れるの?」
「なんでそんなに心配してるんですか。ただ生まれ育った家に帰るだけですって。なんならノートを取りに一回帰ってますし」
なんで心配するかって。そんなの聞く方がおかしい。
あれだけ嫌がっていたものをすんなりと受け入れることが出来るはずない。
受け入れたとしてもこんなに些末な話題として出せる筈がない。
だって。莉緒は今、いつもみたいにへらへらと誤魔化すように笑ってる。
「だって莉緒。今、嘘ついてる」
「……麻里さんにしては鋭い。…………狡いなぁ」
莉緒は違う表情でへなっと笑う。
「そんなに優しい目で見られたら、笑えないじゃないですか」
「誤魔化さないで」
「もう、麻里さんは。……優しいんだから」
莉緒は私と視線を交えてからすぐに顔を逸らす。
そして私を追い越して水族館の順路を歩き始めた。
コツコツコツ。柔らかい床に二人の靴が鳴る。周囲には家族連れが溢れてきっと騒々しいはずなのに、私には彼女の足音と彼女の声だけが鮮明に聞こえた。
「本当は嫌ですよ。帰るの」
「じゃあ、帰らなくても――」
「私だってできるならそうしたいです」
「だったら!」
「麻里さん……」
莉緒は前を向き、歩き続ける。私の視界には彼女の小さな背中だけが揺れていた。
薄暗い道に深い青の証明。彼女の背中が悲しく見えて私は声を上げてしまう。
「だったらうちにいていいよ。まだ夏休みは終わってない! まだ約束は終わってない。……ううん。終わってからだって、帰らなくていい。ずっとうちに――」
「麻里さん」
「――っ……」
莉緒が振り返る。口に人差し指を立てて当て、ゆっくりと首を振る。
「それ以上は駄目です」
「だって……っ!」
彼女の目は赤く腫れていた。
「麻里さん。ここは水族館です。……館内は静かにしないと。ね?」
「……って」
周囲から多くの視線が私達に向けられていることに気が付いたけれど、そんなのどうでもよかった。周囲の目だけを気にして生きてきた私にとって、こんなことを思う日が来るなんて思わなかった。
私達の周りにいる人間なんて気にならない。今はただ、莉緒だけが私の視界の中にいた。
「家に帰る理由が出来ちゃったんです」
「……どんな」
「……それは、言えません」
「……」
「でも、これは親との約束です。私には麻里さんとの約束と同じくらい、あっちとの約束も守らなきゃいけないんですよ」
頭の中を駆けずり回っても、莉緒に返す言葉が見当たらなかった。
だって私は莉緒にとっての何でもない。親という単語を出されたら、私に勝てる手札は何もない。
沈黙のまま足だけを動かす。頭の中はごちゃごちゃと様々な感情が渦巻いていて。しかしそれは言葉にも思考にもならずに漂っている。
彼女の靴と私の靴だけがほのかな明かりに照らされる視界が途端に明るくなる。床は柔らかなマット生地からアクリル板に変わり、視界全体が晴れる。
顔を上げると私達は水族館の名物である水中トンネルに立っていた。
「やっと顔を上げてくれました」
「……ごめん」
「私こそ謝らなくちゃです。……ごめんなさい。言うタイミングを間違えちゃいました」
「……ううん。取り乱した私が悪い」
「大袈裟ですよ麻里さん。家に帰るだけです」
「……なんか、莉緒が遠くに行っちゃいそうで」
「何言ってるんですか。元はと言えば麻里さんが遠くに行ってしまうのが悪いんです」
「……ごめん」
「いや、言い返してくださいよ。麻里さんが帰省するのも私が背中押したんですよ?」
「……そうだったね」
さっき見た時は腫れていた莉緒の目は既に収まっている。
私を揶揄って笑う姿はいつもの彼女で少し安心する。
でも同時に、そんな風にすぐに通常通りになってしまう彼女がとても怖かった。
「ほんとに麻里さんは……」
莉緒が溜息を一つ吐いた時、私達に影が落ちる。見上げると大きな魚が頭上を通り過ぎて行った。
「せっかくのデートなんですから。笑ってくださいよ。麻里さん」
「……そうだね」
「そんなくしゃくしゃな顔、麻里さんには似合いませんよ」
「なにそれ」
「それに、アイラインもぐっちゃぐちゃですし」
「それは困るな」
目元を触ると涙で濡れた黒が指に乗る。
「まぁ、水族館は暗いし、大丈夫ですって」
「そうだといいけど」
正面を向くと、遠くに白い光が見える。この水族館ももう出口だ。
私は流れた涙の残りが零れないように目元に力を入れて、莉緒に向かって不格好に笑う。
「いいですね。私は笑ってる麻里さんが好きですよ」
「なにそれ」
私の笑顔は綻び、柔らかい物になる。
そうして順路終盤の小さな水槽を見ながら、ゆっくりと光の方へ歩く。
「あ、水族館ってエビいるんですね」
「伊勢海老の生きてるのなんて私も初めて見た」
いつしかさっきまでの空気感は無くなり、水族館を楽しむ二人が戻ってきている。
「そういえば麻里さん。今日の夕飯てどうします?」
「どこかで食べて帰ってもいいけど?」
「私、お寿司食べたい」
「莉緒が食べたい物いうなんて珍しい」
「そうですか?」
「あまり聞いてない気がするから」
「それはいつも私が料理をしているからじゃないですか?」
「あー。そうかも」
くすくすと笑いながら伊勢海老の前を離れる。隣の水槽にはカラフルに光るクラゲが漂っていた。
「水族館に来て、寿司が食べたいと思ったことなんてなかった」
「なんでです?」
「だって目の前で生きた状態で泳いでる魚見ちゃったらさ」
「麻里さん、目の前で魚捌かれるの駄目なタイプ?」
「たぶん。莉緒は? そんな店は入ったことあるの?」
「全然ないです。そもそも私、生の魚って食べた記憶殆どないんですよ」
「は?」
「だから勿論目の前で捌かれるなんて体験ないです」
「いや、そっちじゃなくて。生魚食べられないの?」
「いや、食べられるとは思うんですけどね。ちょっと親から禁止されてて」
「寿司も、刺身も?」
「はい」
「なんでまた、禁止なんて」
「古い考えを持ってるんですよ。よくわかんないですけど」
ヴィーガンとか、そういう事だろうか。親の考え方は子にも影響を及ぼすものだから仕方ないと言ってしまえば、仕方ないけど。それでも、寿司を食べられないなんて可哀想に。
「アレルギーとかじゃないんだよね?」
「はい。多分」
「気持ち悪くなったら言うんだよ?」
「だから心配し過ぎですって。自分の体は自分が一番分かるんですから」
出口が目の前に現れ、外へ踏み出すと世界が真白に染まる。
「眩し」
莉緒が光によろめくので、吸血鬼みたいなんて揶揄う。
「血なんて吸いたくないですよ」
「そう? 莉緒、似合いそう」
「コスプレとかですか?」
「肌白いし」
「嫌ですよ。恥ずかしい」
水族館の外は夏の日差しが傾き始めている。彼女の真白な肌が日差しに焼かれる様は見ていて痛々しい。そんな綺麗な肌に一ヶ所だけ異質な青い痣。この痣がどうしても私に胸騒ぎを起こす。
「ほら、早く行きましょ? 私お腹すきました」
「私もお腹すいた。何食べよ」
「私、イワシ食べたいです」
「えぇ。流石にさっきの流れでそれは……」
「普段から命に感謝していればそんなこと思わないんじゃないですか。中途半端な感謝をしているから生きてるのを見たら食べられなくなっちゃうんですよ」
「普通の人は普段からそんな命と向き合ってないの」
「はいはい。どうせ私は普通の人じゃないですよ」
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