ほたるのゆめ
柊 空音
EP1.始まりの朝と始業式
彼女の通夜は、今でもよく覚えている。
クラスメイト全員が出席し、皆泣いていた事を。
もちろんこれは、表面を良くして泣いている訳でも無い。
彼女は、皆に愛されていた。
もちろん僕も。
彼女の通夜の会場には、無数の蛍が飛んでいた気がした。
田舎だったのか、それとも幻だったのか、その点については今でも解らない。
でも、自然と笑みが浮かぶのを自分で感じた。
「あの日、君は幸せでしたか?」
「あの日、君の夢は叶いましたか?」
そう、口にして君に問おうとした。
ピピピッピピピッ
時計のアラームが鳴った。
僕は、寺川 夏樹(てらかわ なつき)
高校で国語の教師をしている。
今日から2学期。
自分も夏休みボケしない様頑張った結果、寝坊した。
アラームも、何度か鳴ってから気付いた為、慌てて出た。
僕の住んでいる所は田舎で、電車もそんなに無い。
でも、自転車通勤の僕にはそんな事気にもしていなかったけど。
この辺の学生も、社会人も、ほとんどが自転車で通っている事が多かった。
まれに車通勤もあるけど。
そんな訳で、学校に着いた。
僕が勤めてる学校は、自分も母校でもあった。
たまたま赴任した学校が母校であって、凄くやり易いという印象だった。
そんなフレッシュな気持ちも3年も勤めると薄っすらとなってきて、今朝の寝坊があったのかもしれない。
「皆、おはよう!!」
寝坊したせいか、変に元気になってしまい、生徒がびっくりしていた。
「先生~今日は元気だね~何か良い事あった?」
あはははという声が、教室中に響き渡り、僕は恥ずかしくなった。
「な、何もないよ?そんな事より、皆、夏休みの課題はしたか?」
唐突に課題の話をすると、生徒はふて腐れた顔でこっちを見ていた。
「先生には夢が無いね~課題なんて後にして、始業式行きましょうよ!!」
「そうですよ~課題は後~後~」
こういう意見は聞きたくなかったが、確かに始業式に行かないと間に合わない時間だった。
「よし、始業式行きますか」
僕がそう言うと、生徒達は嬉しそうに教室を出ていった。
校長先生の長い話が疲れたのか、始業式が終わる頃にはさっきまで元気だった生徒の表情はどこかに消えていた。
「いや~校長先生長過ぎ(笑)」
「今年は特に長かったってお姉ちゃん言ってた(笑)」
そんな話で盛り上がっているのを止めるのは、1人の人間としてしたくないものだが、今は教師として止めて、ある話をした。
「はいはい、話はその辺にして、先生の話を聞いて下さ~い」
えーという声が一斉にしたが、そのまま話を進めた。
「明日から授業だが、その前に先生が毎年している授業をします」
生徒達は、不思議そうな顔でこっちを見ていた。
「皆は今年新入生だから知らないと思うけど、僕が担当しているクラスでは毎年「命の授業」というものを受けてもらっています。大事な話をしたいと思うので面倒と思わずに聞いて欲しい」
僕が真剣に話していると生徒の1人が、
「先生が真剣に言ってる事だし、きっと大切な授業なんだね。私は受けます」
その生徒の一言で生徒たちは、私も僕もと言ってくれた。
「ありがとう!では、今日は午前で終わりだから気を付けて帰ってな!」
そう言って、ふと後ろの席の方を見ると、君が居た気がした。
何てね。
そんな事、あるはずがない。
明日、僕はまたあの日を思い出す。
to be continued…
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