猫のように静かに

 猫は、己の死期を悟ると姿を消すという。

 それが如何なる理由の元に成り立つのかはさておき、ミヤケは実際獣道すらないような藪の中で死んでいた。しかしその孤高を侵すように、死体は腐敗しつつあり、眼窩には蛆虫がうねっていた。

 本当に誰にも見つからずに死ぬなんて出来るのだろうか。死は孤独でいられるのだろうか。

 わたしは、きっといられないのだろう。

 じくじくと蝉時雨。汗ばんだ肌に吸い付く長袖のセーラー。青空を塞ぐ枝葉から、僅かに漏れる陽光。また一匹ミヤケにとまるアブ。

 それでいいのか。

 どこからか夏の幻聴。触れた唇は乾いている。

 それでいい。死後の安寧は遠けれど、ただ死までが孤独であればいい。考えうる未来とは決して訪れないもので、人生とはただ現在の連続ならば。

 力強く背を伸ばす木に背を預けて、ずるずると座り込む。

 このまま誰にも見つからず。

 腐敗した死体だけが蛆の床になって。

 猫のように静かに。

 ただまっすぐに死ねばいい。

 夏。

 その盛り。

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