チタン合金の徒花(短編集)
郡冷蔵
短編集
精選(☆☆☆)
猫のように静かに
猫は、己の死期を悟ると姿を消すという。
それが如何なる理由の元に成り立つのかはさておき、ミヤケは実際獣道すらないような藪の中で死んでいた。しかしその孤高を侵すように、死体は腐敗しつつあり、眼窩には蛆虫がうねっていた。
本当に誰にも見つからずに死ぬなんて出来るのだろうか。死は孤独でいられるのだろうか。
わたしは、きっといられないのだろう。
じくじくと蝉時雨。汗ばんだ肌に吸い付く長袖のセーラー。青空を塞ぐ枝葉から、僅かに漏れる陽光。また一匹ミヤケにとまるアブ。
それでいいのか。
どこからか夏の幻聴。触れた唇は乾いている。
それでいい。死後の安寧は遠けれど、ただ死までが孤独であればいい。考えうる未来とは決して訪れないもので、人生とはただ現在の連続ならば。
力強く背を伸ばす木に背を預けて、ずるずると座り込む。
このまま誰にも見つからず。
腐敗した死体だけが蛆の床になって。
猫のように静かに。
ただまっすぐに死ねばいい。
夏。
その盛り。
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