祖母の人形

SIN

祖母の人形

 父と母がまだ結婚していなかった時、父は1人暮らしをしていた。

 祖父は父が成人を向かえる前に亡くなっていたので、祖母も1人暮らし。祖母は働きに出ていたがどうしても寂しさを感じ、人形を2体貰って来たそうだ。

 当時、祖母は人形の服を作る仕事をしていたらしいので、仕事場から貰ってきたんじゃないか?と父は言う。

 1つは茶色の髪に青い目をした洋風な人形で、赤色のオーバーオールを着ている。もう1体は褐色の肌で黒いボサボサの髪で裸の人形。

 クマとか犬とか猫とか、そう言った可愛らしいぬいぐるみではなく、50cmはあろうかと言う大きな、赤ちゃんの人形だ。

 褐色の人形は寝転がすと目を閉じ、起き上がると目を開けるという仕掛けがついていた。

 父と母が結婚をする時、祖母も一緒に同居する事になり2体の人形は洋服ダンスの上に飾られたままになった。

 子供の頃からなんとなく不気味に思っていたので、その人形で遊んだ記憶はほんの数回しかない。その数回だって可愛がって遊んだのではなく、足の裏に落書きをしたとか、そんな感じのイタズラだ。

 そんな事があり、祖母は人形を洋服タンスの上から下ろさなくなった。

 祖母自身も腰を悪くしてからは人形を手にする事も無くなり、そこから数年間タンスの上に放置されたまま埃を被っていた2体の人形。

 祖母が亡くなった後。

 風も無いのに時々洋服タンスの戸が開くようになった。

 きぃぃぃ。

 木の軋むような、嫌な音をたてながら、ゆっくりと。

 開いた戸の内側には酷く曇った鏡があって、戸が開くといちいち鏡に自分が映る。それがまた恐ろしく、ある時戸が開かないようにと取っ手にゴムで括って開かないようにした。

 これでもう大丈夫。

 しかし、視線を感じる。

 振り向くとタンスの上に置かれた2体に目がいってしまう。

 まさか?

 いや、人間は人の顔を察知する能力に長けているんだから、顔があれば目が行く事は自然だ。

 そうだ、普通の事。視線を感じるのだって、単なる気のせいだ。

 何度も自分に言い聞かせてみても、振り返るといる2体が気になってしょうがない。

 ある日、ついに決意する。

 人形を下ろそう。

 埃を吸い込まないようにマスクをして、直接触れないように軍手をして、何となく怖いので窓を全開にして、絶対にタンスが開かないように取っ手を厳重にゴムで括って。

 ゴクッ。

 ハァ、ハァ、ハァ。

 嫌な汗をかきながら手を人形に伸ばす。

 最初に掴んだのは褐色の人形で、黒くてボサボサの髪が埃で白くなっていた。それを空かさず45ℓのゴミ袋の中に入れて封をして、続けざまに洋風の人形の足を掴む。

 グッと引っ張るとゴロッとずり落ちて来た人形が、抱き付いてきたように感じて、思わず手を離してしまった。

 ドサリとうつ伏せに床に倒れた人形の首は、どうしてだろう、こっちを向いている。

 落ちた拍子に首が回っただけ?

 そうだ、そうに決まってるじゃないか。

 スーハー、スーハー。

 深呼吸を繰り返した後に息を止め、掴み上げた人形をゴミ袋の中につっこみ封をした。

 ゴミ袋に入れただけなのになんとなくホッとして、後はそのままクローゼットの奥に押し込んで戸を閉めた。

 そこからしばらく経った頃だろうか、夜になるとドンドン、バタン。と足を踏み鳴らしているような音と、戸を乱暴に開けているような音がするようになった。

 常に聞こえるのではなく、夜トイレに入った時にだけ聞こえてくる。だから始めは隣に住んでいる人の生活音だと思っていた。

 小さな子供がいるから、夜に起きて暴れているのだろう。と。

 けれど、それが間違いだと気が付いたのは、隣の家族が旅行かなにかで長期間留守にしていた時だった。

 隣の家は無人である筈なのに、それでもドンドン、バタン。と聞こえてきたのだ。

 何の音?

 何処から?

 その翌日、音の正体を確かめるように普段は何気なく通り過ぎていただけの階段や、父の部屋、弟の部屋も見て回った。

 結局音の正体は掴めなかったが、その代わり……人形をいれたクローゼットの戸が、中から蹴られでもしたかのような不自然な形に歪み、2つ付いている蝶番の下側が壊れて外れているのを見付けてしまった。

 流石に、クローゼットを開ける勇気は出なかった……。

 クローゼットの中には、今も2体の人形が入っている。

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祖母の人形 SIN @kiva

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