挨拶
池野向日葵
第1話
「おはよう。」
それは、ある日の朝のこと。一緒に通学している友達の言葉だ。
最初に言われた時は、朝だったこともあるせいか、何も言えずに、ただ、「うん。」としか言えなかった。そう言った後、私は、頭の中でずっと、ちゃんと彼女にあいさつすべきだったな。と、後悔していた。それに、何故、今になってあいさつをしてくるようになったのだろう。別に今までは、あいさつもせずに、昨日あったことや学校のことを話し出すかして会話が始まっていたはずだ。彼女は、なにかに備えているのだろうか。いや、もしくわ朝の眠気を取るためにやっているのだろう。と、何か考えがあってのことなのだろうと、思うことにした。
しかし、それは、あの日を境に毎日繰り返されていく。私は、彼女が何のためにあいさつをし始めているのかを聞くことにした。
一年間のうち三学期毎に学期が分かれていて、そのうちの二学期が始まろうとしていた。二学期の抱負を発表する人たちのために集会が開かれた。一つの学年から代表を一人ずつ出すことになっている。私の学年からの発表者は、成績もかなり優秀で、目立つ存在の人だった。その人は、目標として、学校全体の挨拶への関心を深めたいという内容を話していた。私のいる学校は、比較的、挨拶をする人が多いし、明るい学校だと思う。それでも、そんな学校の中にいる私は、人と挨拶をするのが苦手で、朝の昇降口に並んでいる先生や、生徒に挨拶をする時でさえ、少し頭を下げるか、下を向いたまま通り過ぎてしまうことがほとんどだ。彼女の発表内容にも、私のような人がいるということについても語っていた。多分、私以外にも、私のような、挨拶とは言い難い挨拶をする人達がいるのだろう。全員が全員、同じような挨拶をできる訳では無いのだから、仕方の無いことなのではないかと思う。しかし、人は皆、同じことをして生きているではないか、食べて、寝て、歩き、話すことが、形は異なるかもしれないが、出来ているのだ。必ずしも、限界というものがあるが、最低限のことは出来るだろう。そう思った私は、友人に理由を聞いた、すると、彼女は、その発表者の話を聞いていて、自分自身も挨拶が苦手だったのだと言う。挨拶が苦手という点では、私との共通点である。しかし、彼女はいつも、苦手なものを苦手じゃなくしようと、克服しようと、頑張っている。勉強や部活でもそうだ。苦手な科目や練習を率先してやっている。それだからこそ、彼女はすごく成長してきていると思う。つまり、努力家なのだ。それに対して、私は、楽天家であまり努力をしようとしない。だからか、何事も中途半端になってしまっている。そんな彼女に、私は、憧れていた。
そして、私は後日、彼女が毎朝言ってくる「おはよう。」に、勇気を振り
勇気を出して、放った「おはよう。」は、今の私にとっては、案外、簡単なことで、たった四文字の言葉を言うだけのことに過ぎないのだが、私が、今まで、難しいと思っていたことは、今になるとその難しさというのが、挨拶をした時にだけ得られる、感情の一つだったのだなと知った。
挨拶 池野向日葵 @baron2260
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