カナシミ

@maruta2014

第1話

初めての報酬は、母が死んだ時…だったと思う。

記憶が曖昧なのは、仕方ない。


人の死は避けて通ることの出来ないもので、必ず誰もが直面する事柄。


分かってはいても、心が出来事に追い付かない、追い付けない。


そうやって、心の中で必死に母の死を整理整頓。


毎日、毎日、毎日。


いつしか、母の死を思い出す回数も減っていき、気が付けば思い出すのは、ふとした時と命日位になった。




働き初めて5年。今の会社にもスッカリ慣れ、と言うか、慣れすぎていた。


毎日同じことの繰り返し、いい加減飽き飽きだ。

同期のやつらは、出世コースをまっしぐら。

多分、あいつらは『社会』という場所に順応出来た完成度の高い人間なのだろう。


そして、こんな事を言っている俺は、出世コースから大きく外れ、更には荒れ狂う山あり谷ありな『リストラ候補コース』をまっしぐら!


何か良い収入源は無いものか、、、


あります!俺は知っている!


それは、、、


カナシミは国が運営している機関で、「悲しみ、哀しみ、愛しみ」という感情を買い取ってくれる所だ。

20歳以上なら誰でも使えるし、自らのカナシサ(悲しみ、哀しみ、愛しみ)を提供する事自体にはお金が発生しない。

査定の結果、税金が引かれた後、カナシミバンクの口座にお金が振り込まれる‼


今やカナシミを利用する人は全国民1億人中4千万人!

カナシミだけで、生計を立てている人もいるくらいだ。


まぁ、俺の場合は小遣い稼ぎ程度だが。

カナシミは、どんなカナシサも買い取ってくれる。

例えば。机の角に小指をぶつけた!とか、朝寝坊した!とかこの程度の下らない事でさえお金になるのだ。対したお金にはならないが。


とにかく、俺はカナシミを利用する事で自分に起きたカナシサをお金に変えて、マイナスをむしろプラスに変えながら生きている!

実に素晴らしい!



とりあえず、今日はさっき、上司に業績が悪いことで怒られたから、それにしよう!


プルルル、プルルル、ガチャ


「こちらは、カナシミでございます。

お電話ありがとうございます。ご用件をお伺い致します。」


「カナシサの査定をして欲しいんですけど。」


「承りました。それでは、査定員を向かわせますので、ご住所をお教え頂けますか。」


いつも通りの電話対応。相変わらず機械っぽいんだよな。

俺は、住所を伝え派遣員を待った。


ピンポーン♪

ガチャ!


「私はカナシミ査定員の者でございます。川井トオル様でいらっしゃいますか。」


うなずく。


「それでは、ご本人確認の為にカナシミバンクのお口座とご本人照合を致します。………………川井トオル様。確認が取れましたので、今回のカナシミをお聞かせください。」


俺は上司に怒られたこと、それによって受けた精神的なダメージと怒られたことによって、仕事に支障が出た事を派遣員に伝えた。


「確かに頂戴致しました。只今のお話は録音させて頂きましたので、これより査定に入らせて頂きます。査定完了後、お振り込みになりますが、川井トオル様は『準ソロスト』になりますので、3%の税金を差し引いた額が、翌日の午後8時に指定のお口座へ振り込まれます。」


いつもの流れ。これで、明日の午後8時にはお金が振り込まれることになる。


査定員は仕事を終えると直ぐに帰って行った。本当に人なのか怪しく成る程機械っぽいんだよな。電話対応も査定員も、気にする必要は全く無いが、、、気になる。


つづく

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