俺の友人達には問題がありすぎている件1

「はぁはぁはぁ......」


 危ないところだった。

 まさか......男から好かれていたなんて。

 

 楽斗は大野から告白された後、逃げに転じ、脱兎の如くその場から立ち去った。この場合逃げ去ったというのが正しい表現なのだろうか?


 まぁ、そんなこともどうでもいい。


 問題はこれからどうするかだ。


 『決闘』だと思っていたので荷物は邪魔になると考えていた楽斗は鞄等の荷物を教室のロッカーの中へとしまっていた。

 正直、荷物なんて要らないから一刻も家に帰りたいという気持ちは強い。しかし、それだと鞄の中に入っている今日の課題がやれなくなってしまう。普段なら課題忘れぐらいどうでもいいやって態度で帰れるのだが、今日の課題はそうはいかない。よりにもよってこんな時に限って、課題忘れに厳しい上原うえはら先生が教えている『数学』の課題が出されていた。楽斗は過去に一度『数学』の課題を忘れたことがあるが、上原は初回の忘れにも関わらず平然と、口はにこやかに罰を降してきた。......できればその時の事は思い出したくはない。


 正直もう二度と罰は食らいたくないため、今すぐにでも荷物を取りに行きたいとは思う。しかし、今取りに戻れば大野と鉢合わせになる危険性がある。可能性ではなく危険性だ。この意味をしっかりと捉えてくれ。


 では、もう八方塞がりなのか?と聞かれると実はそうでもない。方法はいくらでもある。友人達と連絡を取って来て荷物を持って来て貰うとかだ。今は放課後だが、誰よりも学校が好きなあいつらならまだ校舎にいるはずだ(ちなみに余談だが、友人達は全員楽斗と同じ部活動に所属している。

 帰宅部という名の部活動に......)。


 だが、それにはそれ相応なリスクがつく。

 例えば、友人の一人。おおとり宗吾そうごに、この事を話したとすればどうなるか。面白いことだけを求めるあいつの事だ。きっと面白がって大野に加担するに違いない。

 また、友人の一人。彗星ほうきぼし圭子けいこに、この事を話したとすればどうなるか。たちまち彼女は意気揚々と単身で放送室に乗り込み、占拠し、この事を全校生徒に知らせることだろう。


 まだまだ友人はいるのだが、その大半が『問題児』扱いされている者ばっかりで、まともに取り合ってくれそうな人なんていないのが現状だ。


 なんて使えない友人達だ!


 楽斗は本気で嘆いた。そして、それと同時にそんな個性的すぎるぶっ飛んだ人としか友達になれてない自分の不甲斐なさを悔やんだ。


 マジでどうしよう。


 とりあえず携帯を取り出し、登録されている連絡先を見る。


 大毅だいきは......断るだろうし。流音ねえさんは論外だしな。


 と、誰に連絡を取ろうかと携帯を触っていた楽斗の手がある人物の連絡先を見て、止まった。


 ......いるじゃないか!まともな友人が!!!


 謎の歓喜に打ち震えながら、楽斗は即座に友人の百々守もももり真愛まなへと電話を掛けた。


 Pi Pi Pi Pi Pi


『は~い。もしもしです!』

 携帯の向こうから元気の良い声が聞こえる。間違いない、真愛まな本人だ。

 楽斗はちゃんと本人が出てくれたことに喜びを覚えつつ、ホッと安堵の息を漏らした。


 ━━━何故安堵の息を漏らしたかというと、真愛に電話やメールを掛けると、真愛とよく行動を共にしている圭子けいこが真愛から携帯を取り上げて自分が出るということがよくあるからだ。


真愛まな、俺だ。楽斗だ!頼む助けてくれ!』

『ん~?がくちゃん、どうしたの?』

『教室にある俺のロッカーから鞄を持ってきてくれ!』

『ん。いいよ!どこに持ってけばいいかな?』

『屋上に頼む』


 そう。

 楽斗は色々なところを走り回った挙げ句、辿り着いた所は屋上だった。

 何故屋上かと言うと、屋上には普段、鍵が掛けられていて入ることができないからだ。そのため、大野にはおろか、一般生徒からも見つかる心配がないのだ。こんな都合のいい隠れ場所なんて他には無いだろう。

 鍵が掛けてあるなら楽斗も入れないのでは?と、思う人。その考えは間違いではない。事実、楽斗も半年前までは入ることが出来なかった。

 と言うのも、半年前に宗吾そうごが学校に忍び込んだ際に職員室に置いてあった全ての鍵の型を取り、合カギとして大量に複製し、それらを楽斗がくとに渡されるまではの話だが。

 本人いわく「学校に通っているのは先生だけではなく、俺たちもだ!なのに俺たちだけ教室が自由に使えないのはどう考えてもおかしい!」だ、そうだ。反省の色が見えない。将来が心配だ。


 だが、せっかく貰ったものを易々と手放すなんて勿体ない。その日以来、渡された鍵は先生には返さず、私用で使える空間を作るための物として使っていた。


『あれ?屋上って教室まで近くなかったっけ?私は今、音楽室だから楽ちゃんが行った方が早いと思うよ?』

『......実は教室に行けない理由があるんだよ』

『ふ~ん。それってどんな理由なのかな?あっ、別に話したくないなら話さなくてもいいよ』


 有り体に言うと、今日の事は誰にも話したくない黒歴史みたいなものだったが、流石に「教室から物を取ってこい」と、パシリのような扱いにも関わらず、協力してくれるという真愛には今日あったことを話すことにした。


『実は俺... 今日クラスの大野って奴に告られたんだ』


 ガチャン━━━。

 まるで携帯を落としたような音が通話越しに響いた。


『ま、真愛!?どうした!?』

『ご、ごめんね━━━━━━はっはっは!』

 小声で謝罪が聞こえたかと思うと、唐突に高笑いが耳に入った。

 嘘だろッ!この声は......!?

 いないと思ってたのに、まさか真愛の近くにいたとは......!


『いやはや、いい話を聞かせて貰ったぞ楽斗プリティーガール

『だから、その呼び方はやめろって言ってんだろ圭子!』

『はっはっは、そんなことはどうでも良いじゃないか!っと、こんなことをしている場合ではないな。早くこの素晴らしい出来事をを皆に伝えるべく武器を揃えて放送室に乗り込━━━』

 

 ピッッッ━━━。

 楽斗は即座に電話を切った。

 うん。ヤバイ。マジでヤバイ。死ぬ。絶対死ぬ。社会的に殺される。


 こうなったら最後、圭子は何が何でも放送室を占拠しに向かうだろう。

 そしたら色んな意味でゲームオーバーだ。必ずしも阻止しなければ!!!


 楽斗は即座に屋上から出て、施錠をし、放送室へ向かおうと階段を下りた。


 そして気づく。自らの過ちに。


 あはははは。スゴいな。


 人は死の恐怖を感じると他の物事がどうでも良くなる生き物らしい。


 おかげで大野と鉢合わせだよ。


(馬鹿か俺は!!!)


 だが、いくら気まずいとは言え、今は大野に構っている暇はない。即座に放送室へ行って圭子を止めなければ社会的に殺されるのだ。

 楽斗は何かを言いかけた大野を無視して廊下を全力で走り抜けた。

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