第117話 お茶

「おねぇ、なんかあった?」

 ケイ先輩からの生徒会勧誘をお断りしてしまった、その夜。

 部屋でのんびりしていると、なゆがお茶をもって来てそういった。

「え? また顔に出てた!?」

「ううん、その逆」

 どうやらそうではないらしい。

 って、

「逆?」

「うん、なんにもなさそうだったから」

「へ??

 なんにもなさそうなら……何もないんじゃないの?」

 なんだか言ってるこっちも混乱してくる。

 どういうことだろう。

 ああでも、今日大変だったし、なゆも疲れてるのかな?

「おねぇ……別に疲れておかしくなったわけじゃないからね?」

 う、なんでわかったんだろう……。

「すぐに顔に出るからわかるよ」

 昼間もケイ先輩に似たような事言われたなぁ。


「で。

 私とスミカ先輩が帰ってくるまでケイ先輩と二人きり・・・・・・・・・だったのに顔の緩んでないおねぇ?

 なにかあったの?」

「……あー」

 なるほど。

 確かにそうだ。

 いつもなら『ケイ先輩がわざわざ私のために甘いカフェオレ買ってきてくれた』って、顔が緩んでてもおかしくはない。

「……ちょっと待って。

 別に私、いつも顔が緩んでるわけじゃないよね!?」

「え?」

「……え?」

 いや、ほんと、待って。

 顔に出ないように、って気をつけてるわけではないけれど。

 だからって、顔が緩んでる、って言われるほどじゃ――

「あー、うん、そうだね。

 自分じゃわからないよね」

「なゆ!?」

 っと、これじゃいつまで経っても話が進まない。

 一旦置いておこう(ものすごく気になるけど)。

「と、とりあえず、その話はまた今度、ってことにして。

 ちょっと、ね。

 と言っても、別に悩んでるわけじゃないんだけど……いや、悩んでる、のかなぁ?

 うーん」


「聞くから、ゆっくりでいいし話してみたら?」

「そう、だね。

 全然まとまってないけど、聞いてくれる?」

「うん」

「えっとね――」


 そうして。

 今日の放課後、夕日の差す生徒会でのことをぽつぽつと話し始めた。


 まとまらないながらも、話してて思ったのは、生徒会へのお誘いを断ったこと自体に後悔はない、ってことだ。

 今の所、やっぱりお誘いを受けます! って言うつもりもない。

 もちろん、ケイ先輩と一緒に生徒会、ってのはそれはそれで楽しいとは思うんだけどね。

 ただ、それだとケイ先輩にとって私といる時にも生徒会のお仕事のことが気になっちゃうんじゃないかな、って気がして。

 私と一緒にいるときは少しでも大変なことを忘れてゆっくりしてもらいたい、って思うし、愚痴をこぼすにしても少し別の所にいた方がいいんじゃないかな、とも思う。


 ただ。

 それは私のワガママで。

 ケイ先輩が求めているものとは違うんじゃないかな、とかも思ってしまうわけで。

 自分の中でもうまくまとまってないから、余計になんて言っていいかもわからなくて。

 だから、生徒会向きじゃないから、ってしか言えなかったんだけど。

 実際、向いてないと思うけどね。


「おねぇ、って」

「うん?」

 じっと話を聞いてくれていたなゆ。

 一通り話し終えた所で、少し考えるようにしてからこう言った。

「おねぇって、やっぱり面白い。

 話だけ聞いてると、三歩下がってついていく昔の奥さん、って感じだよね」

「なにそれー。

 私、亭主関白みたいなの嫌いだよ~」

「ふふふ、冗談だよ。

 おねぇがそんな大人しいわけないもんね」

「まぁね!」

 って、ここは胸を張っていいところ?


「で、結論出た?」

「んー、まだよくわからないけど。

 なんとなくまとまってきた気がする」

「そか」

「うん」


 それにしても。

「私って、ワガママだよねぇ」

「んー?」

 あ、つい口に出しちゃってた。

「私は恋愛ってよくわかんないけど。

 人を好きになるのって、それ自体がワガママみたいなもんなんじゃないの?」

「おお……なゆがなんかカッコいいこと言ってる」

「ふっふっふ。

 なんて、この間読んだ本の受け売りだけどね」

 いたずらっぽい顔でそう言うと、私の分のコップも持ってリビングに降りていったのだった。


 わざわざこのためにお茶を入れてきてくれたんだよね、きっと。

 ほんと、できた妹を持ったものだ。

 なゆのおかげで、私はいつも前を向いていられるんだよなぁ。


ピコンッ


 お?

 タイミングを見計らったかのようにスマホにメッセージが届く。

 こんな時間に誰だろう?


 えーっと……これって……

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