第110話 送る言葉 送られる言葉
「日差しの温かい、春のこの良き日。
桜の花と共に、先輩方をお送りすることができ、とても喜ばしく思います。
思い返すこと2年前。
右も左もわからない私達を、優しく導いてくださった先輩方。
部活動や委員会。
様々な行事、イベント。
先輩方の存在が、どれだけ心強かったかわかりません。
私達が大変だった時に差し伸ばされた手が、どれだけ頼もしかったかわかりません。
来年。
私は、その先輩方とおなじ、最終学年へ進みます。
この2年の間に、たくさんたくさん頂いたものを……」
一瞬、ケイ先輩の言葉が止まる。
緊張でもない。
間違えたわけでもない。
必死に。
涙をこらえているのだ。
けれど、それはほんの一瞬で、すぐに続きを読み上げる。
『涙はこぼさないでいよう』
そうやって、今朝も、昨日も、その前も、みんなで決めたんだ。
笑って送り出す。
先輩たちの門出には、笑顔を添えるんだ。
……まぁ、最初っから泣きそうな私がこんなこと言っても説得力ないんだけどね。
「先輩方から受け継いだものを、しっかりと心に刻み、後輩たちへ繋いでいきたいと思います。
本当に、本当にありがとうございました!
大きく羽ばたかれる先輩方に、大きな光が降り注ぐことを心より願っております。
ご卒業、おめでとうございます!!!」
パチパチパチパチパチ
先程の学園長挨拶にも負けない、大きな拍手が鳴り響く。
その中を、一礼をしてケイ先輩が降りていく。
席に戻っていく先輩の背中をじっと見送っていると、涙が溢れそうになって危なかった。
せっかく先輩がこらえたのに、その上司会で壇上にいる私が、ここで泣いてはいけない。
ああでも……この後は、耐えられるかなぁ……。
「答辞!
卒業生代表、根本エレクトラ」
「はいっ!!!」
ひときわ大きな声を響かせて、トラ先輩が立ち上がる。
2階の窓から差し込む光を浴びて、金色の髪がより一層輝いて見える。
入ってくる時もそうだったけど、ほんと絵になるなぁ。
タンタン、とした軽快なリズムは、ケイ先輩の時とは違っていて。
それがいつものトラ先輩って感じがして、なんだか安心する。
上がってくる時なんかは、こっちを見て、ニカッ、と笑っていった。
予め、ちょっと長くなるかも、とは聞いていたので、一旦裏に下がって先輩を見つめる。
演台の前に立つトラ先輩は、本当にかっこよくて、いつものように堂々としていた。
ああ、これが最後なのか……って、ダメだって! 泣かないって決めた……のに……
けれど一度せきを切った涙はそうそう簡単には止まらない。
よかった、下がった後で良かった。
先輩の答辞が終わる前に、なんとか止めないと……!!
「答辞!
えーっと……ちゃんとな、何話すかってのは考えてたんだけどな。
こう、実際にここに立つと色んなこと思い出しちまって……じゃ、なかった、思い出してしまって」
……ん? あれ?
なんか、流れがおかしいぞ??
「あー、ダメだ。
悪いみんな、俺どうにもこういう堅っ苦しい喋り方苦手でよ。
こんな感じで喋らせてもらうわ」
ちょ、ちょっと!?
トラ先輩!?!?
思わぬ展開に、零れだした涙がひゅっと引っ込んだのはよかったけれど。
状況に頭が全然ついていけない……。
演台を挟んで向かい側の裏には、ものすごい形相で怒っていると思われる教頭先生がいるし。
これ、普段だったら飛び出してきてお説教だよね、絶対。
来賓の方の手前、抑えてるんだろうなぁ……。
「つっても、俺の言いたいことは少ししかなくってよ。
ほんっと。
俺はこの学校に来てよかったな、って、そう思うわけよ。
そりゃよ、大変なこともいっぱいあったよ。
けどな、色んなヤツと出会って、色んなことをして。
きっとこの3年がなかったら、今の俺はなかったんだろうな、って思う。
さっき、送辞でケイが言ってたけどさ。
後輩たちがいたから、俺らも頑張れたんだよ。
心強かったとか、頼もしかったとか、言ってくれてたけど、それを聞くと、がんばってカッコつけてよかったな、って思う。
来年、また新しい1年生が入ってくるからさ。
頼むぜ? この学校の先輩が、どれだけかっこいいかを見せつけてやってくれよな!
3年間、ありがとう!!
またなっ!」
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