第12賞 卒業
第108話 前日
うーん。
だんだんと気温が上がり、春の陽気が心地よくなり始めてきた放課後。
いよいよ本番を明日に控えた『卒業生追い出し会』の準備のため、今日も生徒会のお手伝いにきていた。
というか、天体観測部三人娘も駆り出されているので、部室に行ったところでだれもいないんだけどね。
卒業式(追い出し会)前日、ということは、だ。
つまりは、バレンタインからもう1ヶ月以上が過ぎている、ということだ。
つい先日ホワイトデーも終わっている。
お互いにチョコを送り合った、ってことで、お返しはいらないって言われたけれど、あれ以来お菓子作りも楽しくなってきちゃったので、クッキーを作って渡したのだ。
先輩が美味しい、と言ってくれて、また泣きそうになったのはここだけの内緒。
ケイ先輩にはバッチリ見られたけど。
なんだかとってもいい雰囲、とはいえ、残念ながらこれといった進展はない。
世の中、そうそううまくはできていないらしい。
追い出し会の準備にてんてこ舞いだってのもあるしね。
ケイ先輩なんかは、本ちゃんの卒業式でも在校生代表で送辞を読まなきゃいけないもんだから、それの準備もあってさらに大変。
そんなこんなで。
ちょっぴり肩透かしをくらったような気分のまま、1ヶ月が過ぎていた。
いつまででも待つ、と言ったくせに、なんだか欲張りになってる気がするなぁ……。
少し落ち着かないと。
「おねぇ、ぼーっとしてると危ないよ」
「あ、ごめん」
ついつい考え込んで気が散ってしまうのは私の悪いくせだ。
しかも今は体育館で、並べられた椅子のチェックやら壁の幕のチェックやらで動き回ってる所だし。
うっかり転んだりしたら大変。
「なんかあったの?」
「ん? あーいや、なんもないよ」
「そう?」
「むしろなんにもなさすぎる、というか……」
「なるほど」
なんとも歯切れの悪い会話ではあるけど、なゆはそれだけでわかってくれたみたいだ。
ちょっぴり呆れ顔に見えたのは‥…多分気のせいではないはず。
バレンタインの時の話もしてるし(てか、ポーチを眺めてにへらっとしてたら即バレた)、その時にも、一歩前進ではあると思うけど焦らないようにね、って嗜めらたしね。
自分でもわかってはいるんだけどさー、恋する乙女は欲張りなのです。
……なんちゃって。
パンッ!
「ふぅ、一旦休憩しましょう!」
「はーい」
壇上で全体の流れを確認していた先輩が手を叩いて大きな声で言う。
気がつくと時計の針は16時を指していた。
「いよいよ、明日かぁ……」
「おねぇ……」
「あ、ごめん……」
なんとなく避けていた話題。
泣きそうになるから口に出さないようにしていたけれど。
そうだ。
明日、トラ先輩とステラ先輩が卒業してしまうのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます