第99話 選択肢

更新間隔あいてしまってすみません!

諸々落ち着いてきたので、安定して更新できるようになると思います!


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「ごめんね、仔猫ちゃんたち。

 もう通話切らないとだから。

 来週には戻るから、またその時にお願いね」

 そう言ってスミカ先輩へのバレンタインチョコお渡し会が終わった。

 ううむ、ほんと芸能人みたいだなぁ……。


「なゆ、おつかれー」

「うん、疲れた。

 普段の姿を見慣れているせいでつい忘れちゃうけど。

 ほんとにモテモテだよね」

「だねぇ」

 ダンボールに積み上がったチョコを見てなんとも言えない気分になる。

「あれ、全部食べたら虫歯とか大変なんことになりそう……」

「その前に溶けないような所に置いておかないと」

「だね」

 二人で両側から抱えて……う、思ったより重い。

 少しよろよろしながらも、なんとか日の当たらない場所に寄せておく。

 暖房も直撃しない場所だし、多分大丈夫でしょ。


「よ、すばるちゃん、なゆたちゃん、おひさっ」

「二人ともこんにちは」

「あ、トラ先輩! ステラ先輩!

 お久しぶりです~」

 そうこうしているうちに、トラ先輩とステラ先輩がやってきた。

「お二人とも私服なんで、す……ね」

「3年はもう授業もないしね。

 放課後に限って、私服登校が許可されてるんだよ」

「許可されてるとはいえ、ちょっと変な気分だけれどもね」

 トラ先輩はダウンのジャケットを、ステラ先輩は少しもふもふした感じの暖かそうなコートをそれぞれ腕に持っていた。


 確かに、普段学校で私服を見ることはないのでちょっとびっくりはしたけれど。

 そんなことよりなにより。

 上着を持っていない方の手が、きっちりと繋がれていることに一番驚いた。

「あの……その手……」

「ん? ああ、これか」

 改めて確認するかのように目線を落とすトラ先輩。

「トラがね、別に恥ずかしいことしてるわけじゃないし、って」

 ステラ先輩は、少し顔を赤くして。

 でも、なんだかとっても嬉しそうだ。

「いいなぁ……」

 私もいつかはケイ先輩と!

「あはは、やっぱりすばるちゃんはすばるちゃんだなぁ」

「そうね、ふふ」

 なぜか二人から撫でられてしまった。

 どういうことだろう?


「で、もしかしなくても、あのダンボールはスミカ宛のチョコか?

 本人いないってのに、すげーな」

「わざわざTV電話にしてお礼言ってましたよ」

 先程の『お渡し会』の様子を話す。

「あの劇以降、すごいですからね」

「んだなぁ。

 あいつは、このまま芸能人にでもなる気かね」

「どうなんですかねー。

 演技するのは楽しかった、とは言ってましたけど」

 そういえばスミカ先輩が何になりたいか、みたいな話、聞いたことないなぁ。

 って、よく考えたら、ケイ先輩のすら知らない。

 それ以前に自分の将来も決まってない。

 ……私は何になりたいんだろう。

 入学する前になゆともそんな話したなぁ。

 ロケットとかの打ち上げが終わったあとに、管制室でハイタッチしてみたい、って。

 宇宙、と言われてそれしか出てこないのは、我ながら発想が貧困だなぁ、と思わなくもないけど。

 うーん、そもそも私は宇宙関連の仕事がしたいんだろうか……。


「トラ先輩とステラ先輩は、大学に進学するんですよね?

 将来、どういったお仕事したい、とかあるんですか?」

「お、どしたすばるちゃん。

 進路に悩んでるのか?」

「いえ、そういうわけではないんですけど。

 ……いや、そうかもしれないです。

 ふと聞いてみたくなって」

「そかそか。

 俺は『宇宙飛行士』になるよ」

 にか、っと笑って宣言するトラ先輩。

「『なるよ』、ですか」

「おう、なるよ。

 なりたい、とか曖昧なこと言っててもなれないからな」

「おお、なんかかっこいい……」

「すばるちゃん、トラのことカッコいいとか思ったらダメよ?

 これはただの自信過剰って言うんだから」

「おいおいステラ、ひでーな。

 今に見てろよー」

「はいはい、期待してるわよ」

 言葉は冷たいけど、ステラ先輩の目はすごく優しい。

 トラ先輩のこと信じてるんだろうなぁ。


「ステラ先輩も宇宙飛行士ですか?」

「私? 私は管制官を目指してるわ。

 うちの大学、そういう方面にもコネがあるし、専門的な勉強もできるからね」

「おおー! ハイタッチする人だ!」

「は、ハイタッチ???」

 もし、私がそっちの道を目指したら、トラ先輩の打ち上げを見守りながらステラ先輩とハイタッチをする日が来たりして。

「おねぇは映画の影響受けすぎ」

「……ああ、なるほど」

 もう、なゆったらひどいなー。


「そいえば、なゆは?」

「私? 私は……んー……まだ決まってない」

 一瞬何かを言いかけたように見えたけど……?。

「ええー?

 秘密にしないで教えてよー」

「いやいや、そういうんじゃないから。

 おねぇこそどうなの?」

「私もまだ決まってなーい」


「そいや、二人は理系か文系か決まってるのか?」

「ああそうね、そろそろ希望調査があるんじゃなかったかしら」

 う、そういえばこの間伊織音先生も言ってたな……。

「私は理系です」

 なゆが即答する。

 やっぱり、なにか目指すものがある気がする……けど、言わないってことはまだ自分の中でも悩んでるのかもしれないな。

 こういう時のなゆは、じっくり考えて、最後にちゃんと相談してくれるから。

 お姉ちゃんとしては、それをゆっくり待っていよう。

 なんて、なゆがやりたい、ってことなら全力で応援するだけだけどね!

「うーん、私は文系ですかねぇ。

 どうにも数学が苦手で……」

 なんとか平均点は取れているものの、どうも数字クンたちとは仲良くできる気がしない。

「ふむ……すばるちゃんさ。

 もしな、単に数学が苦手、ってだけで理系を選択肢から外そうってなら、俺はあんまりおすすめしないぞ?」

 けど、何気なく言ったことにトラ先輩からの返答はいつになく真剣なものだった。

「トラ先輩……?」

「ああ、んっとな。

 別に文系が悪い、てわけじゃないんだけどよ。

 本当にやりたことが見つかって、それが理系分野だったとしてだ。

 そんな理由で諦めちゃうのはもったいないんじゃねーかな、ってことよ」

「……でも、理系に進んでも、数学が苦手だったらどうにもならないような……」

「苦労はするかもしれないけどな。

 でもさ、諦める理由を最初から用意しちゃうのは違うんじゃねーかな」

「そうね。

 それに、最初から理系を選択肢から外しちゃうと、見つかるものも見つからなってしまうかもしれないわね」


 私が、理系……。

 確かに、ステラ先輩に言われるまでもなく、最初から考えてもいなかった。

 自分で可能性を狭めてたのかもしれないな。

「あの、ありがとうございます!!

 ちょっと考えてみます!」

「おう、相談だったらいつでも乗るから言ってくれな」

「数学教えて、って言うのでもいいわよ。

 みっちり、教えてあげるわ」

「ありがとうございます!!」

 ちょっとだけ『みっちり』が怖くもあるけれど、でもすごく心強い。


「あ!

 肝心なチョコを渡すのを忘れてました!」

 その後、色々な話をして帰り際。

 危うく本来の目的を忘れるところだったよ……。

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