第17話 私にはまだわからない

「ふぇーー、やっと終わった―――」

「ふふ、お疲れ様すばるん。ありがとね」

「はいー、いえいえー」

 ふぅ~。

 ケイ先輩が「ぐちゃぐちゃで……」って言っていた理由がよくわかった。

 トラ先輩とステラ先輩(終わり次第先に帰っちゃったけど)のお二人プラスなゆとスミカ先輩、の総勢6人がかりでも相当な時間かかってしまった。

 書類そのものの量もすごかったんだけど、うちの学校、やたらイベントが多いもんだから書類の『種類』がすごかった。

 100均で買ってきた紙のファイルが20冊分あったんだけど、それをほぼ使い切ったほど。


 ちなみに、私のお仕事は、


 ケイ先輩が仕分けした書類を受け取る

 →日付順に並び替える

  →パンチで穴を開けてファイリング

   →背表紙にラベルシールを貼る

 でした。


 疲れたけど……うん、とっても達成感。

「はい、すばるん、紅茶でいいかしら?」

「ありがとうございますうううう」

「スミカも紅茶でいいわよね?

 なゆちゃんはどうする?」

「おー、ボクはなんでもいいよー」

「あ、私も紅茶で大丈夫です」

 今日は、先輩に紅茶を淹れてもらう日だなぁ。

 ケイ先輩は優しいなー

 あちち……って!


ガタッ


「先輩! これ! 私がやらないといけないお仕事!」

 のんびりしてて、一番大変だった先輩にお茶を淹れさせてる場合じゃないよね!

「ぷっ、あははは。

 いいからいいから。

 今日は大変なお仕事手伝ってもらったんだもの、これくらいは私がするわよ」

「ううぅ、ありがとうございますー」

 頭脳労働でも、肉体労働でもなかったけど、普段しないお仕事だったのでなんかぐったり。

 お言葉に甘えてしまっちゃおう。


 それにしても、

「好き、ってなんなんだろう……」

 作業中は全然頭になかったけど、ふと思い出してしまった。

 うーん、私にはまだよくわからないなぁ……。

「お? なになにすばるちゃん?

 もしかして好きな人ができたの!?」

「ほほー、すばるんったら、いつの間に……ふふ」

 え? あれ?

「もしかして、声に出てました……?」

「うん、出てたよ~。

 あ、もしかしてボクのこと?!

 ごめんねすばるちゃん、ボクの愛はみんな仔猫ちゃんたちのものだから、すばるちゃんだけのものにはなってあげられないんだよ」

「あ、いえ、そんなことは全くこれっぽっちもないので大丈夫です」

「すばるん、容赦ないわね」

「もー、ひどいなーすばるちゃーん」

 ああもう、うっかり口走ったせいで大変なことになってしまった。


「そういえば、ケイ先輩とすみか先輩は、えっと……」

「ん? どうしたの?」

「その……トラ先輩とステラ先輩のこと……」

「ああ、な~るほっど。

 それでか。

 うん、知ってる。

 すばるちゃんも聞いたんだ」

「あ、いえ、いや、はい、えと、そうです」

 聞いたんじゃなくて、『見た』んだけど……さすがに言えない。

「なんか、すごくいいな~って思っちゃいました。

 あの、優しい空気は憧れちゃいます」

「『いいな~』になるのね、すばるんは。

 先輩たちが話すわけね」

「だな」

 褒められてる、でいいのかな?

「ステラ先輩にも同じこと言われました。

 なんか色々大変なんですね」

「まぁ、世の中色んな人がいるからね」

「悪い人も、ね」

「……ですね」

 難しいなぁ。

「おねぇ、その話って……私が聞いてて大丈夫?」

「あ、うん、先輩たちにはOKって言われてるし。

 詳しくはあとで話す」

「ん、わかった」

 言うとなゆはかばんから本を取り出して、ちょっと離れたところに座った。

 こういう気遣いのできる妹を持って、お姉ちゃんは嬉しいぞ。


「この際だから聞いてみちゃいますけど、スミカ先輩にとって『仔猫ちゃん』たち、ってどういう存在なんですか?」

「んー、改めて聞かれると難しいなー。

 みんなボクのことを慕ってくれてるし、それが嬉しくて……そうだなぁ、『愛おしい』って感じかな?」

「『愛おしい』ですか」

 また新しい言葉が出てきたぞ。

「ダメよすばるん、スミカの言うことは鵜呑みにしたら。

 甲斐性無しの浮気男と同じなんだから」

「おいおい、そんなのと一緒にしないでくれよー」

「あら、同じよ。

 特定の一人に絞れず、結局ふらふら愛想振りまいてるだけじゃない」

「おま! お前なー」

「なによ?」

 あ、あれ? なんか、急に険悪な空気に……??

「あ、あああ、あの!」

「……ごめんなさい、ちょっと言い過ぎたわ」

「いや、うん。

 ま、ケイの言うことも全くハズレてるわけでもないしなー」

「ごめんねすばるん、かっこ悪いところ見せちゃったわね」

「いえ! その、大丈夫です!」

 びっくりしたけど。

 いつもの茶化す感じとは違ったし、ちょっと怖かった、けど……。

 なんだろう、ちょっと寂しそうな、泣きそうな、そんな表情にも見えて。

 なんだか胸がきゅっとした。

「一人に絞れてない、ってわけでも、ないんだけどな……」

「ん? なにか言った?」

「スミカ先輩、なんですか?」

「いーや、なーんでもなーい」


 結局。

 好きってなんだろう、の疑問は解決しなかったけど。

 いつかわかる、って先輩方みんなに言われたし、焦ってもしょうがない。

 ……よね?

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