第10話 天体観測部

「天体観測部、ですか?

 あれ、でもそんな部活、案内に乗ってたかな……?」

 『作る』って考えた時、今どんな部活があるんだろう、ってじっくり読みなおしたから、見落としはないと思うんだけど。

 そんな部活あったら、星座部より先に見に行ってると思うし。

「実はね、天体観測部は載ってないのよ」

「載ってない??」

「ええ、ちょっと問題があってね。

 今は休部状態なのよ。

 部員は……私の名前があるだけ」

「な、なるほどー……」

 いや、全然なるほどじゃない。

 全くわかんない。

「ふふふ、混乱してるわね」

「うう、頭がついていってませんー」

「ふふふ」

 もー、ケイ先輩楽しそうにしてー。

「ごめんごめん、ちゃんと説明するからそんな可愛い顔して睨まないで」


 わざわざ部屋の中で立っているのもアレなので。

 ちょっと埃っぽいけど、部屋の隅から座布団を引っ張り出してきて座る。

 お掃除しないとだなぁ。

「ねぇ、すばるん。

 この学校ってどこに立ってるか知ってる?」

「え? どこ??」

って言われても、どういうことだろう?

 『住所』が聞きたいわけでもないだろうし、『街の北側』とかそういうこと??

「うーん、聞き方が悪かったわね。

 この学校、ちょっと周りより高いところにあるでしょう?」

「ああ、丘の上って感じですよね〜。

 おかげで、長い上り坂を登らないといけないですし」

 本当は自転車で通いたかったんだけど、あの坂を登りきれる自信がなくて歩きで通ってるくらいだし。

「そうそう。

 背の高いビルがないこの街の中では一番高い場所なのよ」

 確かに。

 帰り道とかすごく見晴らしがいいもんなー。

「学園長が小さい時にね。

 まだ何もなかったこの丘の上で、星を見たのが宇宙に興味を持った始まりなんだって」

「へーー!

 なんか、ステキですね」

「でしょう?

 それでね、学校を作った時に天体観測部を作ったらしいのよ。

 もちろん、初代の顧問は学園長!」

「あー、だからこんなに色々設備が整ってるんですね」

「そ、学園長の思いが強かったみたい」

 ちょっと小屋は古いけど、台所があったりあんな高そうな望遠鏡があったりしたのはそういうことだったのか。

 あ、小屋が古いのは開校時からずっとあるからか。

 って、あれ?

「ケイ先輩?

 天体観測部のことはわかりましたけど、部活案内に載ってない理由がわからないです」

「そう慌てないのよ、あわてんぼうすばるん」

 あぅ、また不名誉なあだ名が増えてしまった……。


「さっき、ちょっと問題があってね、って言ったでしょ?」

 言ってたけど。

「なんか、聞いちゃいけない気がして……」

「まぁ、ね。

 あまりおおっぴらに言う話ではないんだけど。

 すばるんが言いふらすようなことはしないだろうから……話すわね」

「はい」

 ちょっといつもと違う雰囲気を感じて、ついつい正座をしてしまう。

「といってもね、そんな大層な話でもないのよ。

 ほら、言っても私達って思春期真っ只中じゃない?

 だからね、ちょっと……そういうことがあったのよ」

 話すわ、と言いつつ言葉を濁す先輩。

 思春期……そういう……?

 ……あ!

 え!? ほんとに!?

「も、ももも、もしかして。

 ふ、不純異性交遊的な……アレ……ですか……??」

 言いながら、顔が赤くなってるのがわかった。

「ふじゅ……!?

 あ、あはははは。

 も、もう、すばるんたら!!」

 あ、あれぇ?

 なんかすごい勢いで笑われた。

 というか……ケイ先輩もこんな風に笑うこともあるんだ。

「すばるん、意外とえっちなのね~」

「えっ……そ、や、ち、違いますよ!!!

 そ、そ、そんなんじゃないです!!」

 ……これ、絶対わざとだ。

 わざと言葉を濁して、勘違いさせたんだ……。

「ほんっと、かわいい」

「か、かわいくないです!!」

 うう、恥ずかしくて顔が見られない……。

「ふふふ。

 まぁ、でも。当たらずとも遠からず、と言った所かしら。

 ……すばるんが想像してるようなことは起こってないけど?」

「し、してませんっ!」

 うう、顔熱い~~~。

「ほら、うちの学校って帰国子女とか留学生も多いでしょ?

 トラ先輩やステラ先輩みたいなご両親が外国の方、って人も多いしね。

 そうするとね、ちょっと、日本人とは違う親愛表現を表す人も多いのよ」

「日本人と、違う……」

 わからないでもないかも。

 トラ先輩とか距離が近い時が多いし、スキンシップも多い気がする。

 あの豪快な性格のせいで、そういう感じ・・・・・・はないんだけど。

 同じようにケイ先輩にされたら……あ、うん、これはやばい。

「すーばるん? 妄想から帰っておいでー?」

「も、妄想なんてしてません!」

「あらそう? ふふ。

 つまりは、そういうことよ。

 すばるんの想像通り」


 一旦言葉を区切る。

 どう言ったらいいか、言葉を探しているようだ。

「その先輩はね。

 ただ普通に、後輩を可愛がっていただけなんだけど。

 後輩の方がね……勘違いしちゃったのよ」

 ふ、っと一息入れて、少し寂しそうに続ける。

「どちらが悪い、というわけではないんだけどね。

 問題は、その後輩の方が逆恨みしちゃってね。

 先輩だけじゃなくて、天体観測部についての誹謗中傷を撒き散らしてしまったの」

 可愛さ余って憎さ100倍、だっけ。

 私はまだ恋愛とかしたことないけど……なんか、すごく悲しいな、と思ってしまった。

「最終的には、ちゃんと事実確認もされて。

 誰もお咎めなし、ってことになったんだけどね。

 というか、その吹聴して回った子だけ処分が下されそうだったのを先輩の方がかばって、その結果になったの。

 まぁ、それが却って怒らせることになっちゃったんだけど。

 そこまではいいでしょ」

「はい……」


「そんなわけで、その時にいた部員のほとんど全員やめることになって、今にいたる、と」

「そうなんですねぇ。

 あれ? それじゃ、『ケイ先輩が部員』っていうのは?」

「私は、生徒会の仕事が忙しくてね、幽霊部員状態だったから、その騒動には巻き込まれていないのよ。

 で、最初に説明したように、学園長の思い入れが強い、ってのもあって、小屋の管理を任されてるのよ」

「そういうことだっ……あ、いや、そうでなくて。

 先輩、『部活は免除』って言ってませんでしたっけ?」

「ああ、そのことね。

 免除だけど、『入ってない』とは言ってないわよ?」

「えー、それずるいですよー」

「ずるい、って、ふふ。

 一応、こんな事情があるから、あまりおおっぴらには言ってないのよ」

「あ、そうですね。

 すいません」

「ふふふ、すばるんはほんと、かわいいわね~」

 そういって頭を撫でてくれる。

 それにしても、なんだか今日はかわいいかわいい言われてる気がする……。

 嬉しくないわけじゃないけど、子供扱いされてる気がしてちょっと不満。


 ていうか、ケイ先輩?

 これ、勘違いしちゃいますよーー!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る