秘密のマイカちゃん

鈴波 潤

第1話 ■プロローグ■

「照屋くん、牛丼行こか?」

「給料日でもないのに豪勢ですね。いいことあったんすか?」

「いやー例のクーポンが貯まってね。奢るぜ」

「本当っすか!?」

給料日が近づくと、照屋くんは昼飯を抜く事がある。


結構な大都市なのだが、

俺が勤めている会社も高層ビルの36階にあるのだが、

ビルの地下には上等な食堂街があるのだが、

俺たちは、汚ったないガードをくぐって牛丼屋に昼飯に出かけた。

色々あって、前の会社を40代半ばで辞めた俺は、就活誌を必死で漁って、ようやく派遣の仕事にありついていた。

たかが牛丼なんだが、俺たちには贅沢な食事だ。いつもはデパ地下の大きさで定評のある、105円のおにぎり一個で昼をすます俺だが、

「牛丼5杯食べると1杯ただクーポン」

キャンペーンの時だけは燃える。しかも先日上司と牛丼を食った時に、財布にしまい込んでたクーポンを3枚もくれたのだ。

「君も集めてるだろう。照屋に飯喰わしてやってくれ」

上司も部下に昼飯奢れる程の高給取りではない。いい人だ。


照屋くんは、沖縄の高校を出て、この町の大企業に就職。たちまち

「都会の絵の具に染まって…」

しまい、キャバ嬢に突っ込んで、300万程借金を作って、その後色々あってこの会社で派遣をやっている。


しょぼくれた中年オヤジと濃い顔立ちの青年の二人連れは、牛丼並ですっかり満足して店を出た。ガード前の交差点で、照屋くんがガムを呉れた。

「牛丼後のガムって最高っすよね」

それは普通焼き肉じゃないか?

「このガム新製品っすよ。いいでしょ?」

「そうだね」

まあ貰えるもんはなんでも旨い俺。

「先輩は、一番旨かったガムはなんですか?」

「そうだなあ…。高校の時彼女に貰ったガムかな?」

「へー。どんな…」

「口移しで」

照屋くんの口からガムが落ちた。

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