第2話 魔王、転生する
――人間界と魔界との間では、100年戦争が続いていた。
二つの世界は隣り合わせであった。魔力の漂う魔界には魔族が住み、精霊力の漂う人間界には人間が住んでいた。二つの世界の境界はあいまいであったため、時々その境界を越えて隣の世界へ侵入する者もいたが、100年前まではお互いの領域に立ち入る者はほとんどいなかった。
しかしある時、境界を越え魔界に侵入した一人の人間が、魔界で採れる魔水晶に多くの魔力が含まれている事を発見した。精霊の力を借りねば大きな魔法を使えなかった彼らにとって、それは大発見だった。魔水晶を使えば魔力の弱いものでも強い魔法を使えるようになるだけでなく、それは人間界のエネルギーの革命を起こしうるものだった。欲の深い人間は考えた。それを奪えば一躍大きな力を手に入れることができると…。
かくして人間による魔界侵略戦争が始まった。
しかし魔族も黙ってはいなかった。魔族の男の肉体は屈強であり、彼らの全てが勇敢な戦士である。彼らは侵略してくる人間たちに対して抗戦した。
そして、人間界と魔界の争いは、し烈を極めた。
魔族は魔界の入り口に砦を建て、人間たちの侵入を防いだ。攻めて来る人間たちを返り討ちにする度、人間たちは次に来るときには新たな兵器を持ち出してきた。どんどん巨大化する投石機、砦の上部に侵入するための塔型の戦車、門を破壊するための大きな杭打ち戦車。人間たちの欲望と知恵は、次々と魔族を殺すために兵器を開発していった。
新たな兵器を導入する度に砦は打ち破られていった。人間族の攻勢が続き、魔族は少しずつ奥地に追われると、ついに魔族の最高戦力である魔王が前線へやってくることになった。
魔族の王『魔王』は、魔界の王であり魔界の最高戦力であった。魔王は
魔王の介入により、人間界の新兵器は、ことごとく灰にされた。そうして魔族は元の境界線辺りまで領地を取り戻すと、再び強固な砦を建てた。
それ以降はしばらく膠着状態が続いた。人間は圧倒的な魔王の力に適わなかったのである。
しかし一度でも魔界の一部を侵略した人間たちは、勝利の旨みが忘れられなかった。短い間であったが、魔界の一部をその支配下に置いた人間たちは、その間魔水晶の略奪を行った。略奪した魔水晶は非常に高価な価格で取引され、一部の権力者に莫大な富と権力をもたらした。失ったものも大きかったが、得たものはそれ以上に大きかったのだ。だから人間たちはいくら魔王に適わなくても、その後も魔界を攻め続けた。
魔王は魔王城と前線を行ったり来たりしていたのだが、魔王がいない間は人間は攻勢になり、しかしそうするとまもなく魔王がやってきて形勢を逆転する。そんな状態が100年近く続いていた。
なぜここまで長い間、争い続けることができたのか。その理由の一つは、お互いの外見の相違が挙げられると考えられる。
魔族と人間の違いを挙げるならば、まずその肌の色がある。人間の肌色に対し、魔族は褐色の肌の色をしている。そして魔族には人間にはない角がある。個人によって大小様々違いはあるが、基本的に側頭部に左右1本ずつの角が生えている。また顔には生まれた時から入れ墨のような模様がある。犬歯が伸びて牙となっている。瞳の色が赤い。などなど、魔族は人間とは明らかに違う外見をしている。
過去、二つの種族はほぼ交わることのなかったため、お互いの文化もほとんど知らない。そのため、外見も文化も違う種族の事を、お互いに野蛮な生き物だと認識しているのである。
人間界に住む人間は、一部の戦士や魔法使いを除き、脆弱な生き物である。だがある時人間界の中に突然変異で生まれてきた超人が現れた。人間たちはそれを『勇者』と呼んだ。勇者はその飛びぬけた身体能力の高さだけでなく、勇者にしか使えない特殊な魔法を使った。≪
勇者の出現により、また戦況が変わった。人間たちの勢いが強くなってきたのだ。再び人間たちの魔界侵略が始まった。
再び戦線の動きが活発となってきた頃、前線へ向かう魔王の乗った飛空艇に、突如勇者の襲撃があった。それは偶然なのか狙い打ちだったのかは分からないが、結果的に魔王と勇者の一騎打ちとなった。そして二人は相打ちとなる。重傷を負った勇者は転移魔法で逃げ、魔王は致命傷を負う。魔王は息絶える直前に、悲しむ部下に対し、転生の秘術により生まれ変わり再び戻ってくることを約束する。そして魔王の心臓が止まると同時に転生の秘術によってその肉体は光に包まれて消えたのだった。
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